Photo:Kenta Sawada | Interview&Text:Yu Onoda | Edit:Keita Miki
— 2015年のtha BOSS名義のソロアルバム『IN THE NAME OF HIPHOP』、台風が直撃した2017年のTHA BLUE HERB結成20周年を記念した日比谷野音ライヴを挟みつつ、前作『TOTAL』以来となる新作アルバム『THA BLUE HERB』は実に7年ぶりとなる作品ですが、まずは長きに渡るTHA BLUE HERBの不在期間を振り返っていただけますか?
ILL-BOSSTINO:僕ら2人とも札幌ですごい近くにずっと住んでいるんですよ。だから、地元を歩いているとすれ違うこともあるし、O.N.Oのスタジオの下を通りかかると音が聞こえてきたり、クラブへ遊びに行くと「さっきまで来てたよ」って言われたり。O.N.Oの身にもその逆のことが同じようにあったんだろうし、2015年に出した僕のソロアルバム『IN THE NAME OF HIPHOP』で色んなプロデューサーと曲を作るにあたって、「O.N.Oのトラックにもう一度戻るために、このタイミングでソロを作りたい」という話も勿論しているので、7年ぶりといってもそこまで離れていた感覚はなかったですね。
O.N.O:俺も俺でソロとして動いていて、現場で活動していたから、久しぶりのリユニオンという感じは全くないですね。トラックメイカーによっては、ビートをストックしておく人もいるんでしょうけど、僕らの場合はその時のフレッシュなものを出したいから、作り貯めておくこともなくて、アルバムに向けて本格的なトラック制作に入ったのは2017年10月の日比谷野音でのライブが終わった後からですね。
— 今回のアルバムはそれぞれのディスクに15曲ずつ収録した2枚組の大作になり、活動22年目にして、まさか、このほどのボリュームになるとは全く予想していなかったんですが、これは制作を進めていくなかで膨らんでいったのか、それとも制作に取り掛かった段階から大作をイメージしていたのか。
ILL-BOSSTINO:アルバムを作ることは決めていて、「じゃあ、どんなアルバムを作るのか?」という話になった時、僕らはその時々で今までやってなかったことは何か?って考えて、それを実現しながらここまで来ているので、「次も今までやったことないことをやろうぜ」って。そこで考えてみたんですけど、2枚組のアルバムは、アメリカのヒップホップに憧れていた時にWu-Tang ClanとかBIGGIE(The Notorious B.I.G.)とかが出してた凄い作品もあったから、いつかは俺らもそういう圧倒的なものを作ってみたかったんです。そして、そういうものを作るのなら、2人とも47歳になり、心技体が整った今しかないなって。だから、制作に着手した段階から2枚組アルバムを作ろうってところから始めたんですよね。ただ、未知の領域ではありましたね。
— その圧倒的なボリュームで何を歌うのか。かつてのTHA BLUE HERBはアルバム制作前に長い旅に出て、その旅先での思索がリリックに反映されていましたが、今回もディスク1の”SUVARNABHUMI TRANSIT”ではタイのスワンナプーム国際空港で録音したとおぼしきSEが使われていたり、リリックにも旅した痕跡がそこここにありますよね。
ILL-BOSSTINO:そうですね。去年1年間、僕は国内外を行ったり来たり、旅してました。その旅というのは何か目的やテーマがあったわけではなく、単純に自分の行きたいところに行っていただけですね。現地の人と交流して深く入り込んだりするような旅でもなくて、その街に訪れて、土地土地の生活を観察したり、この人はどういう人間なのか、あの2人はどういう関係なのか。そういうことを想像しながら自分のなかのイマジネーションを育てるというか、無意識下に色んなものが蓄積されるような感じで毎日を過ごしていて。それは国内外の旅に限らず、日常生活で触れる色んな話ですよね。ドラマティックな話もあればうだつの上がらない愚痴もある、でもそれを格好良く曲に出来るのもヒップホップだからね。そういう意味でインスピレーションは日常の至る所にあるし、今回のリリックは旅で得たものというよりも日常のそういう無意識的な蓄積をもとに書いたものが多いですね。