Interview:Christopher Raeburn – 世界中の注目を浴びる天才デザイナーが[Victorinox]とのカプセルコレクションで見せたデザイン哲学。

by Mastered編集部

2011年、スイスアーミーナイフをはじめとした数々の良質なプロダクトを生み出す[ビクトリノックス(Victorinox)]と、ヴィンテージのミリタリー生地をリメイクしたアイテムで知られるデザイナー、クリストファー レイバーン(Christopher Raeburn)によるコラボレーションライン「Remade in Switzerland」が限定発売され、大きな話題となりました。
それから約1年振りに、「PROTECT」と名付けれられたカプセルコレクションがピッティ・ウオモにて発表。2012年秋冬シーズンに展開される同コレクションを記念して来日したクリストファー・レイバーンにMasteredがインタビューを敢行し、カプセルコレクションをはじめ、自身のブランドや趣味、そして日本についてなど話を聞いてきました。
加えて本コレクションのプロダクトも発売に先駆け一足お先に掲載しておりますので、インタビューはもちろん、そちらもお見逃しなく。それではじっくりとお楽しみください。

Photo:SATORU KOYAMA (ECOS)
Interview&Text:Mastered

リメイクという手法自体よりも生地にこだわっているんです。

— まずはデザイナーを志すことになったきっかけから教えて頂いてもよろしいでしょうか?

レイバーン:イギリスでは高校卒業後に短大で1年間基本的なことを学ぶのですが、元々ファッションが好きだったので、その時にファッションの課程を選んだことがきっかけですね。

— 若いころはどんなファッションが好きだったんですか?

レイバーン:僕は現在29歳なので、“若い頃”といってもそんなに昔の話ではないですが、当時はヴィンテージショップやチャリティショップで良くスーツを買ったりしていました。クラシックなものを組み合わせて、コンテンポラリーなイメージを表現するのが昔から好きだったんです。

— 今でもご自身の好きなものに変化はないですか?

レイバーン:そうですね。もちろん、若い頃からファッションデザイナーになろうと思っていたわけではないのですが、子どもの頃に好きだったものからは今でも大きな影響を受けていると思います。最近はスポーツウェアが少し気になっているのですが、昔からミリタリーものがとても好きで、それは現在も変わらずですね。

— ビクトリノックスとのコラボレーションに話を移しますが、初のコレクション「リメイド・イン・スイス」はどのような経緯でスタートしたのでしょうか?

レイバーン:ビクトリノックスには3年程前からアプローチを頂いていて、同時にいくつか他のブランドからもオファーを受けていたのですが、様々な理由からビクトリノックスとコラボレーションをする事に決めました。ビクトリノックスがアパレルラインにおいて、デザイナーとコラボレーションするのは私が初めての事らしく、とても良いチャンスを与えて頂いたと思っています。

— 様々な理由という部分を具体的に教えて頂いてもよろしいですか?

レイバーン:一言で言うならば、私にとって、長い歴史を持つ親しみのあるブランドであり、高いクオリティを保ちながらスイスという同じ場所で、変わらずにアーミーナイフを作っていることなど、会社としての価値観が自分自身のやりたい事とリンクしていると感じたからですね。

— コラボレーション以前、ビクトリノックスのアイテムに初めて触れたのはいつ頃だったのでしょうか? またその時にはどのような印象を持ちましたか?

レイバーン:ビクトリノックスを代表するプロダクトの1つであるスイスアーミーナイフを子供の頃に親からもらった思い出があります。その時はなぜかノスタルジーを感じましたね。ブランドとして非常に面白く、どことなく自分に近いブランドという印象を受けました。

— カプセルコレクション「PROTECT」をスタートさせたきっかけは?

レイバーン:昨年、初めてビクトリノックスと仕事をした時に、まわりの評判も良く、本当に満足のいく仕事が出来たんだと改めて実感しました。だからこそ、再度コラボレーションを行う際には、「せっかくの機会だから新しい事をやろう」と思いついて。ビクトリノックスのデザインコンサルタントに就任し、より多くの人たちを対象としたコレクション、つまりは今回のカプセルコレクションをビクトリノックスのデザインチームと立ち上げたんです。

— かなり手の込んだアイテムが多いような印象を受けましたが、製作期間はどのくらい掛かったのでしょうか?

レイバーン:2011年の6月からスタートしたプロジェクトですので約9ヶ月ですね。今年の9月上旬、世界中で発売されることになっています。

— ビクトリノックスとは継続してコラボレーションを行っていますが、これまでやってきての率直な感想を教えて頂けますか?

レイバーン:これまではビクトリノックスと言えばアーミーナイフと言った印象だったかとは思いますが、一般にはあまり知られていないビクトリノックスの作りだすファッションの魅力をより多くの人に伝えることが出来ましたし、それによって私自身のブランドもこれまで以上に紹介していただく機会が増えました。お互いにとってメリットのある素晴らしいコラボレーションだと思っています。

— 「Remade in Switzerland」は今回よりもコレクションの数が多かったですよね?

レイバーン:ビクトリノックスの初代会長であるカール・エルズナーのラッキーナンバーが“7”ということもあり、 前回は全部で7ルックにしました(笑)。
今回の 「PROTECT」も実は7点あるのですが、日本での展示はアウターにフォーカスしたので全部で5点となりました。

— あなたは軍物のコレクターとしても有名ですが、今でも継続的に収集を続けていらっしゃいますか?

レイバーン:もちろん。リメイド出来るアイテム、リサイクル出来る生地、イギリス生産の新しい生地という3つをポイントにコレクションしています。

— なぜリメイクという手法でプロダクトをつくり続けているのしょうか?

レイバーン:リメイクという手法自体よりも、どちらかというと生地にこだわっているんです。50年前や60年前の生地は、仮に今欲しいと思っても、なかなか見つけるのが難しいですよね。でも、ミリタリーのアイテムに使われている生地はそういったものが多いんです。例えば、ウールなら現代のものは軽くて空気がよく入るようになっていますが、軍物に使用されるような昔のウールは今より分厚く、撥水加工が施されていたりと利便性よりも機能性が重視されているんです。そういった部分が私にとっては非常に魅力的なんですよね。
ですからリメイクが好きというよりは、昔の生地を使いたいがために、リメイクする習慣が生まれたようにも思います。

— 最近注目している最新の軍のプロダクトや素材があれば教えてください。

レイバーン:パラシュートの生地は非常に興味深いですね。撥水加工が施されているのに、軽く、パッキングもしやすい。冬だったらもう少し重い、レザーやウール素材にも注目しています。

— コレクションを製作する際にはどういった点を重視していますか?

レイバーン:色々な場合がありますね。自分のコレクションの際は、まずショーで何を見せるのか、という全体図を想像してから製作に取り掛かったりもします。今回のカプセルコレクションの場合は、インスピレーションの元となる1枚のジャケットがあり、そこから全てが始まりました。そのジャケットはスイス軍のものなんですが、沢山の機能がついていて、インスピレーション元にしやすいアイテムでした。

— 今回のコレクションではカモフラージュ柄が多用されていますが、これはどういった理由から?

レイバーン:カモフラージュには色々なパターンがあるんですが、私が使うならば普通のカモフラージュをそのまま使いたくないと以前から思っていました。今回使用したカモフラージュのデザインは、本来は戦闘を想定した柄であるカモフラージュを如何にピースなイメージに出来るかということを考え、みんなが大好きなビクトリノックスのアイコンであるクロスアンドシールドのロゴを入れたんです。

— 今回で4度目の来日だとお聞きしましたが、日本はいかがですか?

レイバーン:インスピレーションを多く得られる場所だという印象がありますね。これまで滞在している場所が東京ばかりだったので、今度は違うところに行ってみたいと思っていたんです。結果として、今回の来日では富士と箱根に足を運んだんですが、あいにくの大雨で富士山も見えなかった(笑)。
でも、新幹線に乗ったのは本当にファンタスティックな体験でした。

— ショッピングには出かけなかったんですか?

レイバーン:今回はあまり時間が無かったので、あまり色々な場所には行けていないんですが、東急ハンズで見つけた針を使用しないホチキスには感動しましたね(笑)。友達へのお土産にと、数個余分に購入しました。

— 東急ハンズはエキサイティングでしたか?

レイバーン:僕はステーショナリーが大好きですからね。紙もペンも好きだけど、やっぱりホチキスが1番かな(笑)。

— ファッション以外にどんな趣味をお持ちなんですか?

レイバーン:建築や歴史の本を読む事。それに自転車や登山も好きです。今度日本に来た時には富士山にも登ってみたいですね。ファッション以外の趣味から影響を受けることも良くあります。

— サイクリングや登山が趣味ということですが、例えばゴアテックスを使用する、もっと機能によった洋服づくりに興味は無いのでしょうか?

レイバーン:そうですね。自分はファッションと機能のバランスを上手くとっていきたいと思っているので、 ゴアテックス素材を使用するといったような安易な方法ではなく、クラシックなものや過去のアーカイブをうまく入れ込んだ上で服づくりをしていきたいんです。
ただ、[ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)]のように、これまではアウトドアブランドとして認知されていたブランドが、昨今ではメンズファッションブランドとして認められている事について、個人的にはとても興味深く思っています。

— 多くのファッションブランドが環境に対する問題意識を持ち始め、現在ではファッションと環境保護は切っても切りはなせないものになっていますが、いつ頃から環境について意識をしはじめたのですか?

Christopher Raeburn
ミリタリー ファブリック(軍装品)から、高い倫理観を取り入れた革新的なメンズおよびウィメンズウェアコレクションを生み出す英国の若きファッションデザイナー。2006 年にロイヤル・カレッジ・オブ・アートの修士課程を修了し、 2008年に自身のブランドを立ち上げた。「リメイド・イン・イングランド」をうたっており、プロダクトは全てイーストロンドンにある小さな工房で作られている。レイバーンのデザインは、知的な美しさ、飛び抜けた品質、細部へのこだわりにより大きな称賛を受けている。2009年9月と2010年2月、ロンドン・ファッション ウィーク「エステティカ」プロジェクトのプロデューサーに選ばれ、 2010年2月にはブリティッシュ・ファッション・カウンシル(BFC)のプログラム「ニュージェン」のスポンサーシップも同時に獲得し、コレクションを発表 。また、英国ファッション界のメンズウェア部門で2011年に最も活躍したデザイナーとして受賞しており、最もこれからの活躍を期待されているデザイナーとして注目を集めている。

レイバーン:学生の頃、デザインを始めたときから、既に当たり前に考えるべき事だと思っていたので、約10年くらい前からですね。今回のカプセルコレクションのテーマである「PROTECT」も自分の身体を守るという意味だけではなく、環境を守るという意味も込められているんですよ。
ただ、当たり前だと思っているからといって、決して簡単な事では無いので、シーズンを重ね、試行錯誤をした上で徐々に拡大していければ良いなと思っています。

— 今回のコレクションで気に入っているアイテムがあれば教えてください。

レイバーン:クラシックなレインコートもいいんですが、個人的に1番気に入っているのは、リバーシブルのブルゾンですね。このカプセルコレクションのためだけに作ったカモフラージュパターンとキルティングのリバーシブルになっていて、オフィスにも着ていけるし、仕事が終わったらカモフラージュを表にして気分を変えることが出来ます。ベースにはファッションと機能の両立というテーマがあるので、それを軸にこれからもコレクションを重ねていきたいと思っています。

— カプセルコレクションではなく、1つの独立したコレクションをビクトリノックスと共に今後展開して行く予定はありますか?

レイバーン:コレクション全部となると私1人では到底デザインしきれないですね。ただ、将来的に僕がファッションコンサルタントとしてコーチのような存在となって、アイディアやコンセプトを考え、ビクトリノックスの才能をもったデザインチームと一緒に仕事ができたらいいなとは思いますね。

— 最後に今後の展望について決まっている事があれば教えてください。

レイバーン:ビクトリノックスとのコラボレーションにおいては、ファッションだけでなくスイスアーミーナイフやトラベルギア、時計など、各カテゴリーのプロダクトを組み合わせ、トータルなコーディネートとして、カプセルコレクションを展開していきたいと思っています。
自身のブランドに関しては、「リメイド」というコンセプトでいつかスタジオをつくりたいと考えています。工場やデザインスタジオでもあり、ショップとしても機能するような場所ですね。スペースを“リメイド”してみたいんです。
 

 

クリストファーレイバーン×
ビクトリノックスによる
「PROTECT」の
INSULATED PARKA BAG
79,800円
(ビクトリノックス・ジャパン)

内側にはカモフラージュが。

折り畳むとバックパックになる
パッカブル仕様。

クリストファーレイバーン×
ビクトリノックスによる
「PROTECT」の
PACKABLE VEST
39,900円
(ビクトリノックス・ジャパン)

切り返しもポイント。

折り畳むとショルダーバッグに。

クリストファーレイバーン×
ビクトリノックスによる
「PROTECT」の
WATER REPELLENT BLAZER
49,350円
(ビクトリノックス・ジャパン)

クリストファーレイバーン×
ビクトリノックスによる
「PROTECT」の
INSULATED REVERSIBLE LINER
47,250円
(ビクトリノックス・ジャパン)

裏返すとキルティングが表になる
リバーシブル仕様。

お問い合わせ先
ビクトリノックス・ジャパン株式会社
Tel:03-3796-0953
http://www.victorinox.com/jp