既にニュースとしてもお伝えしたとおり、去る6月20日(水)、当サイトでもおなじみの4人組ポストロックバンド、toeが新作EP『THE FUTURE IS NOW EP』をドロップ。約2年半ぶりのリリースということもあり、早くも各所で大きな話題を呼んでいる同作ですが、今回Masteredではこのリリースに際してバンドのギタリストであり、数々のショップの内装を手掛けることでもしられるMetronome Inc.の代表でもある山嵜廣和氏にインタビューを敢行。新作の製作秘話から、今後の活動に至るまでたっぷりとお話を伺って参りました。
未来はたった1日でガラッと変わってしまうから。そんな意味合いも込めて『THE FUTURE IS NOW EP』というタイトルを付けました。
— 音源としては前作の『For Long Tomorrow』以来、約2年半ぶりのリリースとなる訳ですが、作品の制作自体はいつ頃からスタートしたのでしょうか?
山嵜:録ったのは2010年の5月か、6月ぐらいですね。色々とあってしばらく手が付けられなかったんですが、今年に入ってから「さすがにそろそろ出そうか」という話になりまして。それで改めてミックスとかを始めて、発売までこぎつけたという感じです。
— 制作期間全体として見ると、結構長い時間が掛かっているんですね。
山嵜:そうですね、点々だけど細く、長くという感じで(笑)。
— toeの楽曲はかなりこだわりの強いものが多いかと思いますが、いつも1曲を作るのにどのくらいの時間が掛かるものなんですか?
山嵜:一概には言えないですが、大抵は誰かが最初にデモテープを作ってきて、とりあえずそれをみんなで演奏してみるんです。その中で「ここをこう変えよう」とか色々なアイデアが出てきて、結果思っていた以上に時間が掛かる時もあるし、とんとん拍子に進んでポコッと1曲出来てしまうこともあります。
— なるほど。メンバーで集まる期間や時期というのは決まっているんですか?
山嵜:いえ、基本的には何も決まりが無いので、録りたい時に録るって感じでしたね。特に前回と変わったという点も無く、「今ある曲を録音しよう」っていういつものスタイルで。こんな風に言うと2年半遊んでいたように思われてしまうかもしれないですが、ずっとライブはやり続けてたんですよ(笑)。
— 今回の作品には何かテーマのようなものはあるんですか?
山嵜:僕らは毎回決まったテーマは設けないんですよね。4曲入りのEPを作ろうって決めたら、とにかく4曲、何のテーマも持たずに揃えて録音するって感じで。
— EPというのは初めから決まっていたんですか?
山嵜:そうですね。アルバムだと、集中力が絶対続かないと思ったので。
一同笑
山嵜:いや、でもアルバムって本当に時間も掛かるし、何かと大変なんですよ。なので、4曲ぐらいだったら、軽い気持ちでスタート出来るかなと思って(笑)。
— でもEPを切ったということは次のアルバムの予定も頭の中にはあるのでは?
山嵜:正直に言うと、何も無いですね。アルバムはしばらく録りたくないです(笑)。
— 作品の内容についてお話を伺いたいと思いますが、収録曲である“月、欠け”ではACOさんをゲストヴォーカルとして起用していますよね。これはどういった理由からの人選でしょうか?
山嵜:もともと僕はリスナーとしてACOちゃんのことが好きだったんですが、直接的に何か繋がりがあった訳では無いんです。でも2、3年前から友人がACOちゃんのバンドでベースを弾くようになって、それをキッカケにライブにもちょくちょく足を運ぶようになりまして。ライブがすごく格好良いんですよね。それで、その友人を通して紹介してもらって、「タイミングが合えばいつかお願いします」という話は前々からしていて、今回、それがようやく実現したという感じですかね。
— リスナーとして好きだったとのことですが、実際一緒にやってみていかがでしたか?
山嵜:やっぱりすごいですよね。声が独特で、不思議な響きの声を持っている人じゃないですか。この曲には僕も仮歌を入れたりしたんですけど、ACOちゃんが歌うと全然別物って感じで。
— “グッドバイ”のようにライブでも一緒にやる予定はあるのでしょうか?
山嵜:今のところ具体的には決まっていないんですが、ワンマンとか、何か機会があればやりたいですね。
— 楽しみにしています。少し話は変わりますが、そもそもtoeはどうしてインストで曲を作ろうと思ったのでしょうか? 今でこそ日本人のインストバンドというのは珍しく無くなりましたが、当時は状況も違ったかと思います。
山嵜:元々僕はいわゆるエモとか激っぽい感じのバンドをやっていたんですが、それとは別に自分で作曲したギターの曲を、今のメンバーである美濃君と遊び半分で一緒に弾いたりしていたんです。丁度それぐらいの時期にGHOST AND VODKAっていうバンドが出てきて、7インチを1枚最初に出したんですけど、それが最高に格好良くて。インストなんだけど、ボーカルの無いエモみたいな感じで。直感的にこういうのをやりたいなと思って、美濃君に相談したら「じゃあ、バンドにしようか」ってことになりまして。それでバンド形態で再スタートを切った感じですね。
— 結果的にインストバンドになっただけであって、最初からそれを目指してバンドを作った訳では無かったんですね。
山嵜:そうですね。基本的に僕はバンドがやりたかっただけで、たまたまその時影響されたのがインストのバンドだったというだけの事です。
— 新作に話が戻りますが、制作作業の中で何か特別に意識したことはありますか?
山嵜:僕らの場合は結構いつも時間が無くて、ほんとはプリプロなりデモでやっておかないといけないことを、ある程度見切りでレコーディングに入ったりしてしまうんですが、その辺について少しは意識するようになりましたね。もう少し時間をかけてやりたいなというか(笑)。
— 差し支えなければ、山嵜さんの言葉で今回のEPを1曲ずつ説明して頂けますか。
山嵜:もちろん。1曲目の“Run For Word”は元々CM用に頼まれて作った短い曲だったんですが、それをきちんと曲として成立させた感じですね。シンプルな作りで、僕らが初期にやっていた曲に近いかなと思います。2曲目はさっきも話した“月、欠け”。これはリフが先にあって、それをどう“歌モノ”に落とし込むかってことを考えて作りました。3曲目の“Ordinaly Days”は前に作った曲ですが、それを再録したもの。アレンジも少し変えています。最後の“The Future Is Now”はドラムの柏倉君がデモを作ってきて、それをみんなでアレンジした感じですね。
— 個人的にはその4曲の中でどの曲が好きですか?
山嵜:それぞれなんですけどね、当然ですが4曲とも良いと思うんですよ(笑)。
あとはライブをやっていくうちに「これ良いな」とか逆に「これはやりにくいな」って曲が出てくるとは思うんですけど。
— ライブでどう見せていこうっていう所まで既に考えてらっしゃるんですか?
山嵜:いえ、まだそこまでは。曲によってはやり始めている曲もありますけど、まだまだ全然。レコーディングで録ったやつをエディットして組み合わせたりしてるから、まだ1回も通して弾いたことが無いんですよね。メンバーみんなが同じように忘れてるから、毎回「このギター、誰が弾く?」とかそんな感じですよ(笑)。
— となるとパッケージにするのと、ライブで演奏するのにはかなり大きな違いがあるんですね。
山嵜:もう別物って感じですね。レコーディングする時にも僕らはあまり楽器の制限を付けたりしていなくて、誰が何の楽器をやるとか、一切考えずに楽曲としてやりたいことを詰め込んでいるんです。それをライブだと限られた人数で再現しないといけない訳だから、どうアレンジするかが重要になってきますよね。
— ところで、今回の『THE FUTURE IS NOW EP』というタイトルにはどういった意味合いが込められているのでしょうか?
山嵜:コーエン兄弟の映画で「未来は今(原題: The Hudsucker Proxy)」っていう作品があるんですよ。原題は全然違う意味なんですが、僕はその映画が邦題のタイトルも含めて、昔から好きで。それで邦題をそのまま直訳したのが“THE FUTURE IS NOW”(笑)。
でも意味を考えてみても良い言葉だなと思っていて、自分が小さい時に考えていた未来と今の自分も違うし、去年とか、例えば昨日でもいいですけど、その時に考えていた“今日”はやっぱり違うじゃないですか?
震災の前後で考えると顕著ですけど、未来はたった1日でガラッと変わってしまうから。そういう部分で思うところはあったので、そんな意味合いも込めて『THE FUTURE IS NOW EP』というタイトルを付けました。
— なるほど。今回のリリースに合わせてツアーをやる予定はあるんですか?
山嵜:予定はまだ全然無いですね。9月ぐらいに海外ツアーがあったりもするので、なかなか難しくて。今回はヨーロッパを中心に回ろうと思っているんですけどね。
— 海外ではやはり日本と受け止められ方が違うんでしょうか?
山嵜:実際にまだヨーロッパでライブをやったことは無いんですが、Facebookとかでは本当に色々な国の方からメッセージをもらったりしています。向こうに住んでいる友人に聞くと、僕らのことを知ってくれている人が意外と多いみたいで、まぁ何となくですが、ライブが出来る人数くらいは集まってくれるんじゃないかと勝手に思ってますね(笑)。
— それは楽しみですね。具体的にライブをする国は決まっているんですか?
山嵜:候補はフランス、ドイツ、ベルギー、イギリス。あとはロシアかな。1週間ぐらいしか滞在出来ないので、すぐに移動できる距離でやろうと思ってます。
— 海外でやりたいという想いは昔からあったのでしょうか?
山嵜:そうですね。基本的には出来るだけ色々な場所でやりたいと思っているし、作品を発表するからには、より多くの人に聴いてもらいたいし、見てもらいたいです。幸いなことに色々な国の方から「ライブをしに来てくれ」って話は頂くので、今後も色々な国でやってみたいなと思っています。先ほども話しましたが、9月にヨーロッパツアーがあるし、リリースに関しても今知り合いが間に入って、実現に向けて動いてくれているので、早ければ今年中には出せるかなと。昔の音源や今回のEPも含めてリリース出来れば良いなと思っています。それが実現したら、アメリカも行きたいですね。
— そういった今後の目標が他に何かあれば教えてください。
山嵜:特に目標を立てている訳では無いですが、なんかそういう海外での展開も良い感じで出来たら良いですよね。バンドやってる身としては演奏をして、それでお客さんが来てくれるのが1番嬉しいので、1人でも多くのお客さんが見に来てくれるように、なんか良い感じで出来たらなと。