toeライブDVD第2弾『CUT_DVD』発売記念 山嵜廣和×サーフェン智 クロスインタビュー

by Mastered編集部

音楽シーンだけでなく、映像やデザイン・アートの分野でも注目を集めている4人組インストゥルメンタル・バンド、toe。インディペンデントなスタンスからクリエイティヴな活動を行っている彼らがライヴDVD『CUT_DVD』をリリース。2010年2月15日に渋谷O-Eastで行ったワンマンライヴを完全収録したこの映像作品を前に、クロス・インタビューを敢行した。

インタビューに答えてくれたのは、バンドのギタリストにして、店舗デザイナーとしてベンダーのリニューアルや移転オープンしたレコード・ショップ「JAZZY SPORT MUSIC SHOP」の内装を手がけたMetronome Inc.の山嵜廣和氏。そして、『ノンネイティブ(nonnative)』やベンダーの運営母体であるTNP代表にして、今回のDVDの監督撮影を手がけた映像制作集団、euphoria FACTORYのサーフェン智氏。プライベートでも親交が厚い彼らの交わした言葉が描くものとは?

インタビュー・文:小野田 雄
写真:高木 康行
撮影協力:JAZZY SPORT

すぐそこで鳴ってる楽器が直接聞こえる方がかっこいい

— お二人が最初に会ったのは?

サーフェン智(以下智、敬称略):仲良くなったのは10年以上前ですね。その時の山ちゃんはギタリストっていう認識で、その後から内装デザイナーとして、うちのベランダを作ってもらったんですよ。あと、山ちゃんは料理が上手くて、家へ遊びに行くと、美味いものと酒が出てくるわ、娘たち同士も大親友っていう。そうやって、付き合いを重ねてきた仲間なんですよ。

山嵜廣和(以下山嵜、敬称略):そんな感じでお互いのプライベートや好みも知ってるからこそ、毎回、「toeを素材として、自分のやりたい映像を作ってよ」ってお願い出来るというか。もちろん、俺が好きなものと智が好きなものとの食い違いはあるかもしれないけど、それはそれで面白いし、そこで化学変化が起きたら、作品としていいものが出来るんじゃないかなって。

— 智さんはTNPの代表という立場であるわけですが、短編映画『remholic』を監督されたほか、映像制作も行われているんですよね?

:そうですね。音楽の映像ってことでいえば、27、8歳くらいの時はMUSIC-ON! TVで海外アーティストのライヴを撮ってた時代もあって、フェスの3時間番組で監督をやったり、ジャック・ジョンソンとかトミー・ゲレロの来日公演を撮ったりしてましたね。ただ、僕、映像はあまり見ないんですよ。テレビもまず付けないし、映像も全然見なくなっちゃったので、世の中でどんな映像が流行ってるのかよく分からないんですね。もちろん、一緒に手を組んでやってる連中は映像を仕事にしてて、最先端のところにいるから、そういう僕の発想を面白がってくれて協力してくれているんですけどね。

— その発想という点で、今回の作品は一つの画面上で、異なる位置や角度で撮られた映像が6分割で同時に流れるという、非常に画期的な作りになっていますよね。

:今回の撮影は6台以上のカメラを使ったんですけど、編集段階ではその6つの映像を同時に流して、そこからいいところだけを抜き出して一つにまとめるつもりだったんです。でも、その映像を見ているうちに「編集しないで、そのまま6つの画面が同時に流れる作品にしよう」と思ったんですね。というのも、前回のライヴDVDを撮らせてもらった時は4台のカメラを使ったんですけど、編集段階で気をつけないと、消去法で格好いいものだけが残ってしまうなって。もちろん、その消去法のセンスの違いが映像の個性になるんですけど、今回のライヴDVDはその消去法で映像をまとめてしまったら、変に美化したり、見落としたりして、ライヴ当日の雰囲気が表現出来ない気がしたんですね。それにライヴに来たお客さんの目線って、常にあちこち動いているじゃないですか。ライヴの楽しさって、そういう、どこを見てもいいっていう自由度の高さにもあると思うんですね。でも、その目線が編集した映像だと固定されてしまう。もちろん、そういうオーソドックスな手法もありだと思うんですけど、今回はルールを壊してみたかったんです。

— さらに今回の撮影では、デジタル一眼レフカメラで、ティルトシフト・レンズという特殊なレンズを使われたんですよね。

toeの映像作品を一手に手がける
サーフェン智氏。

:はい。そのレンズはもっぱら建築用に使われているんですけど、ピントの合う部分が狭くて、その周りはぼやけるので、一画面あたりの情報が絞り込めるんですよ。だから、結果的には6画面を同時に流すっていう情報量の多さと、1画面あたりの情報の少なさが混在する面白い作品になっているんです。

山嵜:そのティルトシフト・レンズを使ったカメラで、お客さんが吸い込まれていく開演前の会場入口を高い位置から撮影してもらったんですけど、渋谷O-EASTって、1200人くらいのお客さんが入るから、それだけの人が集まることって実はすごいコトじゃないですか。だから、その映像は残しておきたいよねって話にもなったんですよ。

— それから、映像の被写体であるtoeのパフォーマンスも、ステージではなく、フロアに楽器やアンプを置いて、お客さんが周りを360度取り囲んで観るという特殊なスタイルですよね。そういうスタイルでライヴをやるようになったきっかけというのは?

山嵜:僕らはもともと90年代のハードコア・パンクとかエモとかが好きで、海外のライヴ映像を見ると、何でもない体育館でそういうライヴをやってて、バンドとお客さんが一体になってる感じが凄く良くいいなと思ったんですね。あと、自分が観に行った経験上、そういうライヴだと、スピーカーを通してではなく、すぐそこで鳴ってる楽器が直接聞こえて、「バンド」というもの自体の格好良さが伝わりやすい気がしたんですよ。まぁ、実際にそのスタイルでライヴをやってみたら、観にくいとか、御指摘をいただくんですが(笑)、後に『RGBDVD』っていうライヴDVDになった2005年11月のUNITライヴを手始めに、自分たちの企画ライヴでは出来る限りそのスタイルでやるようにしているんです。

:出来る環境さえあれば、地方でのライヴもあのスタイルなの?

山嵜:今まではやってなかったんだけど、『For Long Tomorrow』リリース・ツアーは初めて東京以外でもあのスタイルでやった。ある程度のスペースが必要なので、会場によってはダメってこともあるし、なかなか難しかったりはするんだけどね。

:撮影する側からすれば、普段のライヴだとどうしても似たり寄ったりの映像になってしまうんですけど、toeのライヴでは普段なかなか立つことが出来ないドラムの後に立って、普通だったら撮れない絵を提供出来たり、表現の可能性が高まるんですよね。

— そんな2時間半のライヴで智さんがグッとくるポイントは?

:全部ですね。最初から一気に引き込まれるし、後半は後半でホーン・セクションとかゲストが入ってきて、普段とは違うtoeが観られる。だから、色んな角度から楽しめるんじゃないですかね。ちなみに山ちゃん的に盛り上がったポイントってどこら辺なの?

山嵜:俺、いつも盛り上がってるよ(笑)。まぁ、ゲストが入った曲ではいつもと違う感じで面白かったし、ゲストがいなくなってまた4人に戻って、またきゅっとまとまる感じも演奏する側としては味わい深いんだけどね。

— 味わい深いといえば、山嵜さんのMCが違った意味で味わい深いですよね(笑)。普通、MCってカットするところだと思うんですけど、この作品はあえて残してますし。

toe 山嵜氏。
出演するフジロックも目前。

山嵜:それは「MCも全部残そうよ」っていう智の提案なんですよ(笑)。でも、美濃くんがミックスする段階でその話は聞いてなかったので、MCの部分は当然切るものだと思ってミックスしなかったんですね。だから、後でまたミックスしなおす羽目になったっていう(笑)。「もう、先に言ってよ!」って感じですよ。

:でも、今回の映像は6画面で編集してないのに、音を切るのはどうなのって思ったし、買った人にはフルで味わってもらわなきゃダメでしょってことで、余計な出費が発生してしまったというわけです(笑)。

山嵜:だから、全く編集されていない今回の作品にあえて『CUT_DVD』っていうタイトルを付けたんですよ。

:前作はモノクロに近い映像だったのに『RGBDVD』っていうタイトルを付けたし、今回もそうやってひねりを加えたつもりなんですけどね。

— そして、今回のDVDには智さんが監督されたミュージック・ビデオ2作品が収録されていますけど、「グッドバイ」はフィルム・カメラの写真を細かくつないで、恐ろしく手間がかかってる作品ですよね。

:作ったのは3、4年前か。撮影は丸2日かかったのかな。あれは勢いで作りましたね。

山嵜:コマ割りも計算して、音と絵も同期させてるんだよね。あれはスゴいよ。

:35mmのフィルム・カメラで1コマ撮っては5メートルずつ撮影位置を移動させていったんですけど、移動前と後でポーズが一緒じゃないといけないから、その場でポーズを確認するためにデジカメでも撮影していたんですけど、最初の5メートルを撮った時点でカメラマンがデジカメを落として壊しちゃったんですよ(笑)。だから、「移動前のポーズを頭で覚えとけ」ってことで、「う〜ん、さっきはこんな感じだったかな」って、記憶を頼りに丸2日(笑)。あれは大変だったなー。

— それからもう1本の「After Image」には生きたウナギが出てきますよね?

:あの作品はスーパースローモーションが撮れるPhantomっていう高速度カメラを使って、普通は撮らないものを撮りたかったんですね。それで動きが速い対象を探してて、当初のアイディアでは、縁日の帰りに金魚の入ったビニール袋を持った着物の女の子が階段の上から下に転がり落ちるっていう映像で3分引っ張ろうと思ってたんです。それで鳥居がきれいに並んでる稲荷神社に企画書を持っていって撮影許可を取ろうと思ったら、神社で転ぶ映像は縁起が悪いからダメって言われたんですよ(笑)。それで頭が真っ白になっちゃったんですけど、あの作品では魚の映像をメインに考えてたから、魚っていうことで連想していったら、最終的にはウナギにたどり着いたっていう。

山嵜:それで朝、築地へ買いに行ったんだよね?

:そう。ウナギとアナゴね。でも、アナゴは死んじゃって(笑)。

山嵜:ウナギは撮影後、友達のバーに無理矢理押しつけて(笑)。

— (笑)映像のアイディアは、新しい機材にインスパイアされることが多いんですか?

:僕は映像が本職でもなければ、色んな映像をあれこれ見ているわけでもないので、普通のことをやれって言われても出来ないし、自信もないので、変なことをする以外、方法がないんですよ。だから、ライヴDVDではティルトシフト・レンズを使ったし、「グッドバイ」では「スチール・カメラで実写アニメーションを作ろう」とか、「After Image」では「Phantomってカメラを中心にものを考えよう」とか、そういうテクニカルなギミックから考えることは多いですね。

山嵜:音楽もそんな感じだよ。エフェクター買って、そのループから曲が出来たり、機材ありきで曲が出来ることはよくあるし。

— さて、今回のようにカメラ越しに見ることが多いと思うんですけど、智さんにとって、toeとはどんなバンドですか?

:どうだろうなー。山ちゃんを知りすぎてるし、居酒屋でトークしてる姿を想像しちゃいがちなんだけど、冷静に見たtoeとは……ギャップがすごいですね。居酒屋にいる山ちゃんとステージで没入している時の山ちゃんは別人ですよ。ただ、toeは山ちゃんだけでなく、他のメンバーやゲストを交えて成立しているわけで、バンドとしてのtoeには感情をどこかの方向に持っていってくれることを期待してますね。普通のバンドだったら、感情を表現した歌詞に共感したり、一緒に歌ったりすると思うんですけど、toeは基本的に言葉がないインストゥルメンタルのバンドじゃないですか。だから、言葉以外のところで、たとえば、一晩ゆっくり時間をかけたり、サウンドや楽器を通じて、感情を誘ってくれるところが好きなんですよ。

— 逆に山嵜さんから見た智さんの映像世界についてはいかがですか?

山嵜:出来上がるものに関しては、確実にいいものが出来てくるっていう確信はあって、だからこそお願いしているんですけど。そのうえで、先にコンセプトだったり、取りかかるポイントを決めて、そこから広げたり、膨らませていくっていうモノ作りの考え方がお互い似てるのかもしれないですね。俺の場合、曲のイメージだけが先にあって、そのイメージへ近づけるためにリフをあてはめて考えていくんですけど、智もシフトレンズを使うことで今回のDVDを完成させたじゃないですか。そう、だから、共通する部分は大いにあると思いますよ。

— そのスタンスは、山嵜さんが内装デザイナーとして関わったベンダーのお仕事とも共通するものなんですか?

:似たようなテンションですよ。ベンダーの内装は「やっと、いい物件を見つけたんだけど、山ちゃん、どうする?」って感じでやり取りをはじめて、「この箱はおいしいから、出来るだけ残そう」ってことをテーマに進めていきましたからね。

山嵜:売り上げ先行でモノを作る会社という組織としては、そういうやり方ってNGだと思うんですけど、音楽やファッション、アートなんかは逆に売り上げを意識して作ったものが一番つまらないと思うんですよ。そういうスタンスって、昔は情報がなかったからごまかせたかもしれないけど、今はすぐにバレちゃうんではないかな(笑)。何かを作る、表現するということに限って言えば「自分達のやりたいこと」を最優先にしたい。というかしなきゃいけないと思うし。それに後から利益がついてきたら美しいんですが…難しいですけどね(笑)

toe『CUT_DVD ~ For Long Tomorrow Tour 2010 02 15』

発売中

XQIF-2001 / 2,940円
(Machupicchu Industrias)

http://www.toe.st/
http://www.myspace.com/toemusic