インタビュー:ILL-BOSSTINO~最新作『PRAYERS』に込められたTHA BLUE HERBの”音”と”言葉”。

by Mastered編集部

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2011年3月11日の東日本大震災後から制作を開始。個と向き合い、社会と対峙するなかで生まれた言葉とビートを一枚に凝縮した4作目のアルバム『TOTAL』を昨年5月にリリースしたTHA BLUE HERB。その後、長い全国ツアーに出た彼らは、今年3月、その途上で東北の被災地にあるライヴハウス3箇所を回る「CAN’T STOP TALKING TOUR」を行った。リリースされたばかりのDVD『PRAYERS』は川口潤監督のもとで撮影されたそのツアーのドキュメンタリー映像とライヴ映像、そして、新曲”PRAYERS”からなる重厚な作品だ。徹底的に研ぎ澄まされた言葉とビートを携え、東北の地へ分け入ったBOSS THE MCは果たしてそこで何を見、何を思ったのか?

Photo:SATORU KOYAMA(ECOS)
Interview & Text:Yu Onoda
Edit:Keita Miki

選挙フェスに立つよりも石巻でライヴをするほうが、俺にとってはメインラインだなって。

— アルバム『TOTAL』リリース以降、昨年6月から今年7月20日の江ノ島OPPA-LAまで、一年以上に渡ってライヴ・ツアーを行われましたよね。

THA BLUE HERBの4thアルバム『TOTAL』

THA BLUE HERBの4thアルバム
『TOTAL』

ILL-BOSSTINO(以下、BOSS):はい、全部で93本。自分達でブッキングして自分の首を絞めるっていう(笑)。まぁ、ツアーに出ている時はしんどいけど、振り返るとあっという間だったし、幸せな日々だったなと思うね。

— THA BLUE HERBのライヴは頭から尻まで張り詰めたなかでの真剣勝負じゃないですか。BOSSさんがライヴをやっていて、幸せを感じる瞬間というのは?

BOSS:お客の心が開かれてて、俺の心も開かれてて、お互いアガれている時かな。93本とも全部そこまで辿り着くことが出来たと思えるLIVEだったから良かったよ。

— 会場の大小にかかわらず、MCのBOSSさんとDJ DYEさんに加えて、PAと照明も帯同するTHA BLUE HERBのライヴは異例な形態だと思うんですよ。

BOSS:ギター・ソロで聞かせるわけでもなく、俺が扱ってるのは言葉だから。言葉が聞き取れなければ意味ないし、聞き取れない状況下ではライヴをやる意味すら無いからね。言葉が聞き取れたうえで、初めてそこでお客がYESかNOかチョイス出来るわけじゃない? 俺とDYEの2人だけで回ってた時もそこは常に意識してたけど、ちゃんとしたPAさんがいれば、もっと言葉がクリアになると思ってからは、PAさんと一緒に回っているのが現状ですね。

— 震災を受けて、レコーディングされた最新作『TOTAL』は実際にライヴでやってみて手応えはいかがですか?

BOSS:そもそも、震災が起こった後、1年間かけてアルバムを作っていた時もライヴで鳴らすことを念頭に置いていたんだけど、実際、ライヴでその感情をシェア出来るかどうかというのはふたを開けてみないと分からないんだよね。でも、最近の俺らのライヴというのは、「俺のスタイルがどうだ」っていうヒップホップ的なところは早々に終わらせちゃって、簡単に言ってしまえば、「一つになってアガっていこうぜ」ってことなんだけど、そうやってどんどん解放に向かっていくっていう。

— 解放と呼んでいいのかは分かりませんが、それまで挑んでいたヒップホップ・ゲームから2007年のアルバム『LIFE STORY』では枠組みが日常や人生に広がって、さらに最新作『TOTAL』は震災を経験したことで社会とも対峙するようになりましたよね。

THA BLUE HERBの3rdアルバム『LIFE STORY』

THA BLUE HERBの3rdアルバム
『LIFE STORY』

BOSS:『LIFE STORY』は僕も結婚したり、周りの友達に子供が生まれたり、そういう肯定的な変化が起こった頃に作ったアルバムだったのに対して、『TOTAL』は作り始めようと思った一番最初にデカい挫折が来て。その挫折というのは、自分だけじゃなく、全国民に共通する挫折で。そこからもう一回、言葉だけで気持ちをアゲるにはどうすればいいかというのが『TOTAL』の出発点だったから、そこまで行っちゃうとヒップホップ・ゲームの入る余地なんて、どこにもないよね。だってそうでしょう? とてつもない挫折……あれだけの人が亡くなって、復興に加えて、原発の問題が今も続いてるわけで、そうなった時、音楽ジャンルだけで繋がってるようなやつは俺の周りには一人もいないよ。それに今、俺が念頭に置いてるライヴの会場もヒップホップの人たちだけがいる会場ではないし、俺がよく現場で会う、リスペクトする同世代のミュージシャンにしても、誰もジャンルなんて気にしちゃいないし、もっと大きくて、自由だよね。

— そして、ヒップホップのルールから解き放たれて、社会と向き合った時、何をどう言葉にするのか。その言葉を受け取るリスナーの解釈も幅が広がるからこそ、難しさもそこにはあるように思います。

BOSS:ヒップホップのフィールドからどんどん離れていってるのも理由はそこにあって。というのも、ヒップホップのフィールドにいると震災や原発の問題について話せる人となかなか会わなくて。ヒップホップなんて、このタイミングで自分の意思をハッキリさせないで、いつ言うの?っていう音楽だと俺は思っているんだけど、実際に身体を動かして、矢面に立って発言している人間はホント少ないし、かつ、ただ言うんじゃなく、音楽的でなければダメだからね。今はその2つを両立させている人と話している方が面白いし、そうなってくると自ずと進むべき道は出来てくる。難ちゃん(難波章浩:Hi-STANDARD)にしても、BRAHMANのTOSHI-LOWにしても、KOちゃん(SLANG)にしても、やっぱり、勉強してるし、自分の意見に対して身体張ってるからさ。そういう人と相対してる方が自分も勉強出来ると思ってる。

— あの、根本的な話で恐縮なんですが、そもそも、音楽と政治、その付き合い方についてはどう思われますか?

BOSS:参院選で(三宅)洋平のYouTube動画を観てて、あいつも俺もマイク一本、ビートこそ違えど、言ってる内容もそんなに変わらない。世代も、集まってる人もほぼ同じだし、周りのミュージシャンもみんな友達。でも、ネガティヴな意味ではなく、俺がやってることとの違和感を感じていて、「何が違うんだろう?」って考えたんだよね。そこで思ったのは、洋平は有権者に自分の主張を投げかけて、それを実現する為の一票を得るために活動していて、それは金が介在しない無償の世界であるのに対して、俺の活動はさ、お客から金を払ってもらってるんだよ。どっちが良くて、どっちが悪いって話ではなく、そこが決定的に違うんだなって。まして、選挙というのは3年に一回、選挙期間中、言葉を発せられるのは2週間。その間にどうやって有権者に自分を信じてもらって票を得るかっていう世界。それに対して、俺はさ、その日の入場料を等しく払ってもらって、3年に1回ではなく、この一年で言えば一年に93回ライヴをやってるわけさ。しかも、その93回は全部初めてのお客ではなく、2回、3回目の人もいる。そういう人たちが払ってくれたその日のチケット代よりもっと価値の高い言葉を投げかけて、お客がチケット代以上の価値があると思わなければ、次は来てくれない。そういう活動を、俺はやってる。

— はい。

BOSS:で、もっと踏み込んでいくと、俺も確かに色んな場面で政治を語っているんですよ。「選挙行こうぜ」ってことから、「原発反対」ってことから、「霞ヶ関、永田町、どうなってるんだよ!」ってことまで、3.11以降、政治というものに対して、言いたいことが増えて、色々言ってるんだけど、洋平は言葉の矛先であったり、実際の歩みが中央に向かっていったのに対して、俺はね、そこからはどんどん遠ざかっていこうとする。同じ政治を語っているのに、個人の生活に俺の足取りは向いている。そういう違いを最近になってようやく見出した。今回の映像作品に収められている東北ツアー、そのステージ3箇所に立ってみると、東京って、めちゃめちゃ遠く感じるんだよね。同じ国のなかで同じ言葉をしゃべって、同じ通貨を使って、リアルタイムで進行しているとは思えないくらい。でも、俺の足はそういう個人の生活に向かっていく。選挙フェスに立つよりも石巻でライヴをするほうが、俺にとってはメインラインだなって。今回のツアー最終日、江ノ島のOPPA-LAでライヴをやった時に気づくことが出来たんだよね。

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