2012年最初にして最高の話題作『ヒミズ』公開直前! 監督 園子温 単独インタビュー

by Mastered編集部

当サイトで以前に行った試写会プレゼントでも大きな反響を獲得し、改めてその注目度の高さを示した2012年最初にして最高の話題作『ヒミズ』。漫画家・古谷実の“終わりなき日常”を生きる若者の閉塞感を容赦なく描ききった独自の世界観を、『男の花道』、『自転車吐息』、『愛のむきだし』といった作品で知られる映画監督、園子温が実写化したこの衝撃作はジャンルを問わず、様々なメディアで公開前から絶賛されています。
そして、遂に今週末、1月14日(土)より同作品の一般公開がスタート。そこで今回、Masteredではこの公開を記念して、前代未聞の問題作を生み出した張本人である園監督の単独インタビューを掲載。『EYESCREAM 2011年12月号』で掲載した主演の染谷将太、二階堂ふみへのインタビュー記事とあわせて見るもよし、劇場で作品を鑑賞した後、答え合わせ的に眺めるもよし。それでは早速ですが、ゆっくりとお楽しみくださいませ。

『ヒミズ』は希望に負けた少年の話なんです。

―東日本大震災があって脚本を書き直されたんですよね?

:どんな映画を撮っていても、脚本を変えていたと思います。震災以降、何事もなかったかのように撮り続けることができませんでした。山田洋次監督の場合は、撮影を延期していましたが、それも真摯な取り組み方だと思います。同じように何事もなかったようにすることができなかったという言い方もありますし。僕の場合は、昔からのめり込んで、スピードでやっていくスタイルだったので、止めるより素早くそれに対応して乗り越えました。

―震災によって変えた部分とは?

園子温
1987年、『男の花道』でPFFグランプリを受賞。ぴあスカラシップ作品として制作された『自転車吐息』(90)は、ベルリン映画祭正式招待のほか、30を超える映画祭で上映。以後、『自殺サークル』(02)、『奇妙なサーカス』(05)、『夢の中へ』(05)、『紀子の食卓』(06)、『HAZARD』(06)、『エクステ』(07)、『ちゃんと伝える』(09)など衝撃作を続々と誕生させ、各国での受賞作多数。09年『愛のむきだし』で、第59回ベルリン映画祭「カリガリ賞」「国際批評家連盟賞」、第9回東京フィルメックス「アニエスベー・アワード」を受賞。2011年『冷たい熱帯魚』では、第67回ヴェネチア国際映画祭、第35回トロント国際映画祭や各国の映画際でも正式出品。またテアトル新宿の公開では動員数を塗りかえる記録を樹立。2011年11月には『恋の罪』の公開が控え、同作が第64回カンヌ国際映画祭で上映されるなど、新作を発表するごとに絶賛され話題を呼んでいる。

:まず、夜野の設定です。原作は同級生なのですが、映画にするにあたって、二人を中心に描こうとしているのに、さらにもう一人悩みを抱えた中学生は、2時間の映画にはいらないと思ったんです。実際には、最後までギリギリ悩んでいたんですが、東日本大震災があってこれは被災地から逃れてきた内の一人だという方が映画を活かせると思いました。映画では被災地を限定していないんです。もしかしたら被災地近辺かもしれない、被災地のど真ん中にいるのかもしれない、というような設定はしました。大枠のストーリーは変えていません。ただ、大枠のストーリーの色枠を変えていきました。すごく内容に左右することだと思いますが。

―ラストシーンを変えたのは東日本大震災があったからですか?

:ラストシーンは東日本大震災があったからですね。震災がなければ原作に忠実だったかもしれません。

―古谷実さんの漫画『ヒミズ』を映画化しようと思った理由は何だったのでしょうか?

:オリジナルでなく、初めて原作がある映画を撮るので、自分に嘘をつかず気に入ったものでいこうと思いました。『ヒミズ』は僕自身、10年前に読んで感銘をうけた漫画でもあるし、繰り返し読んでいたので、チャレンジしたいなという気持ちにさせてくれました。古谷実さんの漫画が好きだったんですよね。他も悩みましたが、現代の青春像を描きたかったことと自分と関係のない主人公を描きたかったんです。僕は客観的な立場で見る、どちらかというと夜野みたいな立ち位置ですから。

―原作『ヒミズ』をどう捉えましたか?

:日常であり、男の子と女の子の物語。そして、過去に執着するのではなく、未来に向けての物語と捉えました。

―近年の園監督の作品になかったテイストの作品だと感じましたが。

:『ヒミズ』は青春映画ですね。自分の今までの作品だと、ちょっと『自転車吐息』ぽいのかもしれません。それくらい昔に遡ったのかもしれませんね。別に意識したわけではないですけれど。だから現場でも少し照れくさいものがありましたね。特に『恋の罪』のようなハードな作品の後だったので、余計にそう感じたのかもしれません。この作品は普通のレベルで言うと結構重い映画なのだろうけれど、前作がずっと重かったので、どちらかというと、とても爽やかな気分で撮影できました。

― 園監督にとっては初めての原作ものということで、今までの現場との違いもあったかと思いますが。

: 普段、オリジナル作品の時は登場人物の名前を自分に親しみのある名前にするんです。ただ、今回は人が付けた名前なので、進めていくうちに『誰だよ、住田って?』と思ったりしました(笑)。台詞に関しては、原作に忠実にしましたね。シーンによっては、漫画そのままにしたので、現場でも時折、不思議な気分になりましたよ。『あれ、これ誰の現場だったっけ』と思ったこともありました。

―苦労したことはあったんですか?

: 毎回苦労してますが(笑)。苦労とは違うかもしれませんが、震災を取り込むことがどんな結果になるのか、それがセンセーショナルすぎるというような結果になると残念だなと思っていました。でもやらざるをえないと思ったので、現場に挑みました。海外の映画だと今起きている状況をすぐに映画にすることが当たり前ですが、日本人はセンシティブで今起きていることに対する扱いを怖がるじゃないですか。10年後ぐらいにそっと映画化するべきじゃないかみたいな。だからこそ周りが気を遣っているのは分かったのですが、気を遣っていると本心にたどり着けないんで。結果的に観客にどう見えようが、やらなきゃいけないことをやったという感じです。苦労したというよりは不安でしたね。

―被災地で撮影するということもやらなければならなかったことだったんでしょうか?

: はい。撮り方も映画的にとって、被災地の方の理解を得てもらう必要がありました。実は被災したスタッフがいて、映画の被災地シーンはそのスタッフの家の近辺や実家なんです。彼に導かれて、被災地の方に承諾を得て少人数で撮影しました。被災地の方に、忘れされれる前に記録に残すという意味で映画は有効だと言われてホッとしました。

―2001年の原作を、現代の物語として更新していますが、どういう気持ちで撮られたのですか?

: 原作が描かれた2001年当時の日本は、平和とは言い難かったかもしれませんが、安定したムードがまだありました。でも、東日本大震災以降の日本は、不安定であることを前提にしなければなりません。実感しているのは、僕たちはもはや『ブレードランナー』のようなSFの世界に住んでいるということなんです。1990年代以降の日本を“終わりなき日常”と表現する人たちがいますが、そのような“日常”は終わり、“終わりなき非日常”に突入したんだと思います。

―監督の中で、「若者の葛藤」という部分はテーマの一つとして描きたいものだったのでしょうか?

:現代の青春像を描きたいという思いだけでした。それを意識していると、こういった作品に仕上がりました。僕は中学生って本当に良いなって思うんですよ。漫画の中だと、主人公たちはセックスとかにも目覚めていくのだけれど、この映画の中では、それ以前の性的目覚めの前の段階として、純粋に人生を悩んでいるだけの二人にしたかったんです。彼らは、大人と違う悩み方をする子供なんです。もともと日本しか青春映画なんて括りはないので、大人になろうとしている子供たちの話を描きたかったんです。

―染谷さんと二階堂さんをキャスティングした理由は?

:まず、中学生に見えるという点です。そうすると限られていくのですが、その中で二人が一番良かったですね。オーディションでは脚本を渡してお芝居も見せてもらった上で選びました。二人とも若いから引き出しをたくさん持っているわけではないので、こちらから色づけて演技の幅をもたせました。例えば、原作にない顔が絵具や泥で汚れていくところなど外部からの着色を加算することで染谷くんが思っていない演技の深みをもたせました。

―二人の演技は本当に素晴らしいですね。

:ある意味芝居慣れしていてこうやればいいというところがあって、それはすべて却下しました。今までやったことのない芝居をしなければいけないので、それが新鮮な芝居になるんだと思います。特に、二階堂さんは『ヒミズ』をやって芝居の質が変わったのではないかなと思います。

―監督の作品に出演する役者さんはどの方も個性的に見えますが。

:選んだ人の輪郭線をはっきり見極めてジグゾーパズルのように綺麗にはまるように背景をつくっていくからですかね。枠にはめて雁字搦めにするのではなく、選んだ役者の形に周りを変えていくことが大切だと思っています。今回は、染谷くんだから絵具や泥だらけのシーンが思いつきましたし、他の役者だったら入れ込まなかったかもしれません。自由に演じてもらってそこから僕が考えていく感じです。

―『ヒミズ』は監督の今までの作品に出演した役者さんも大勢出演されているのは意図があるのでしょうか?

: そろそろ新しい人をどんどん取り入れることはいらないんじゃないかと思いました。昔だったら悪役もいい役も同じ人が演じていますし。古い映画のスタイルでいいんじゃないかなと。

―これまでの監督作品と『ヒミズ』での共通項は”家族”と思ったのですが。

: 今まで家族問題を取り上げていましたが、『恋の罪』から食卓がないんです。家族問題は解体しつくしているので、自分の中では終わったんだなと思います。今までの作品で家族問題は過去にこだわっていました。『ヒミズ』は絶望の中で考えうる希望の未来を考えていました。『ヒミズ』では家族問題はあまり重要ではないのですが、原作にもある住田と茶沢が理想の家族を話すシーンがそれにあたります。

―やはり東日本大震災が起こって考え方が変わったのでしょうか?

: 3.11以降、考え方を改めました。『恋の罪』と『ヒミズ』の時では違うんです。『ヒミズ』は希望に負けた少年の話なんです。その住田と同じで絶望に勝ったのではなく、希望に負けたんです。

『ヒミズ』

2012年1月14日(土)新宿バルト9、シネクイント他全国ロードショー
製作・配給:ギャガ
©2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ
http://himizu.gaga.ne.jp