去る2011年11月18日、元ゆらゆら帝国のギター&ボーカル、坂本慎太郎が初のソロアルバム「幻とのつきあい方」をドロップ。ゆらゆら帝国時代からは想像もつかなかったそのサウンドは、現在進行形で日々音楽好き、カルチャー好きの間の大きなトピックとなっています。
そこで、当Clusterではこのアルバムに秘められた想いとその源流を探るべく、坂本慎太郎本人へのインタビューを敢行。国内外から日夜多くの注目を浴びる彼が今、描く“音楽”のかたち、そして自身の考える“幻とのつきあい方”についてたっぷりとお話を伺って参りました。
「結局、(音楽を)やるんだな」って感じですかね。
―2010年の3月にゆらゆら帝国が解散したわけですが、その時点で次はこれをしようというアイデアはお持ちでしたか?
坂本:まったくなかったですね。何もやる気がしなくて。無理に動こうするのも嫌だったんで、自然にやりたくなるまで放っておこうと。それでやる気が起きなければ、音楽をやらなくてもいいかなって気持ちで、ぼーっとしてました。しばらく人前に出たくなくて……本当は誰もいない世界に行きたかったんですけど。思いもよらなかった第二の人生、みたいな。でも、そうもいかず。
―結果的に、新しいプロジェクトをやるわけではなく、今回のようなソロの形態で動き出した、と。
坂本:引き籠ってる状況で、唯一やってたのがコンガの練習だったんですよ。ヒマだし、前からやりたかったのもあって。コンガを叩いてるなかで“幽霊の気分で”ができた。コンガが入ってて、ベースを自分で弾いて……って、作りたい音のイメージが急に湧いてきたんです。それでやる気が出てきて。
―バンド時代は毎週スタジオに入って練習してたとおっしゃってましたし、そのなかで曲が生まれることも多かったと思うんです。でも、ひとりだとそういうきっかけもないですよね。
坂本:そうですね。締め切りもないし、誰かから強制されるわけでもない。そういう状況だったら、自分は音楽を作らないんじゃないかとも思ってたんです。でもしばらくすると、自然にギターを触ってたり、曲を考えてたりする自分を発見したりして。
―なんとなくできていった?
坂本:「結局、(音楽を)やるんだな」って感じですかね。ただ、目的みたいなものは必要なのかもしれない。コンガの練習もそうなんですけど、今まで弾いたことがない楽器を練習するのがすごい楽しくて、初めてギターを買って練習してた中学生の頃のような気分になれた。それが精神的にはすごくよかった気がしますね。
―本当に振り出しに戻ったところから、楽器に触発されて動き始めた、と。
坂本:1年くらいギターをほとんど触ってなかったんですよね。コンガとベースだけ。
―そのコンガとベースが、まさにアルバム全編で印象的に鳴ってますよね。最初に湧いた作りたい音楽のイメージはどういうものだったんでしょうか。
坂本:本当にそのまんまなんですけど、コンガが入ってて、すごく軽くてちょっと跳ねてるベースが入ってて、ヴォーカルとベースが対になってて……それだけで成立しているようなもの。ポップで軽い音楽がやりたいと思ったんです。
―何故コンガだったんでしょう?
坂本:好きな音楽って、だいたいコンガが入ってるなと思って。ディスコもそうだし、T.Rexもそうだし、Curtis Mayfieldとか、70年代の歌謡曲とかもバンドにコンガが入ってたり。ラテンっぽい感じじゃなくて、“歌ものでコンガ”ってのに、なぜか惹かれちゃったんですよ。
―そうやって作られたアルバムは、ざっくりと言えば、まったくロック的ではないですよね。「空洞です」もリリースされた時は、ロック的な感覚がない音楽だと感じましたが、今回のアルバムを聴いた上で「空洞です」を聴くと、すごくロックだなと。
坂本:やっぱり、あれはバンドなんでしょうね。今回は全然ロックじゃない。ただ「空洞です」みたいに意識して違うことをやろうという感じでもないんですけど。
― 一方で、「空洞です」のAORとかソウルっぽい要素は今回のソロにも濃厚に入ってますよね。今回は世間的にAORと言われているような音にそのまま向かいたかった?
坂本:いや、それをやるんだったら、ちゃんとスタジオ・ミュージシャンを呼んで、洗練されたアレンジにしますね。そういう音楽ではないです。そんなにアーバンな感じでもなくて、宅録じゃないんですけど、宅録っぽい空気感というか。人が集まってやってる感じを出したくなかった。
―確かに、モコモコしててすごく宅録っぽい音ですよね。
坂本:ドラムの音がすごいミュートしてあって、部屋鳴りがまったく入ってない。部屋で叩いている姿が見えない感じだと思うんです。そういう質感がいいなと思って。そういう風に、こだわっているポイントがすごく微妙な所なんです。サスティーン(伸び)がない音でグルーヴを出す。で、空間を埋めるような音は入れない。そういう肌触りの音楽にしたかったんですよ。
―今回の録音やミックス、マスタリングは、ゆら帝時代から引き続いて中村宗一郎さんが手掛けてます。それは最初から決めていたことですか?
坂本:そうですね。このアルバムは作っていることも途中まで内緒にしていて。とにかくあまり表に出たくなかったんです。だけど、いい曲ができて録音したいなって欲求が出てきて……それで中村さんとドラムの菅沼(雄太)さんと、3人でこっそりやってたんですよ。
―「なるべく外に出たくない」みたいな気持ちから始まったということですけど、全体的にはほんのりとした明るさを感じるアルバムですよね。
坂本:自分としてはむしろ、本当に明るくて軽快で楽しいアルバムを作りたかったし、そのつもりで完成させたんですよ。でも出来上がってみたら、自分の根底にある重い部分が出ていて。やっぱり手放しで明るくて楽しいものはなかなか作れないなと思いましたね。資質なのかなんなのか。
―歌詞も、最終的になんとなく前を向いたものになってますよね。
坂本:虚無感は基本的にあるんですけど、それを敢えて言うんじゃなくて、そこを前提に何をやるか、みたいな気持ちがあるのかもしれませんね。いまの状況の閉塞感、絶望感を歌うんじゃなくて、そこを踏まえたうえで、ギリギリでポジティヴになるようなものにしたかった。
―こういう状況のなかで癒しを与える音楽というよりも、こういう状況でも音楽に向かわせてくれる作品だと感じました。
坂本:それが癒やす音楽じゃないですかね。「元気を出して頑張ろう」みたいな音楽はいっぱいありますけど、それを聴かされても余計落ち込むタイプもいるわけで。僕がまさにそうですけど。そういうことじゃなくて、やっぱり「これはなんなんだ」って驚きを与えてくれる音楽の方が元気が出ますから。
―「音楽聴きたい欲」を駆り立ててくれる音楽。
坂本:こういう状況のなかで、自分が聴きたい音楽を作りましたから。だから、完全に外界を遮断して作ったものなんだけど、いまの社会の空気感はやっぱり入り込んでますよね。
― 最後にうちはファッションの媒体なので、音楽以外のことについても少し伺いたいと思います。今日はレザーのジャケットを着ていらっしゃいますが、普段はどんな洋服を着ているんでしょうか?
坂本:うーん、何も着てないです…
(一同笑)
坂本:あっいやいや、服を何も着ていないという訳では無くて、買わないんですよ。ずっと同じものを着てる。何処で買えば良いのかわからないっていうのと、なんか意欲が無いんですねよ。色んな服を探したり、選んだりとか。
― ライブの衣装についても同じでしょうか?
坂本:そうですね、いつも決まったのを着てるだけで。
― なるほど。最近、音楽以外で興味のある事は何かありますか?
坂本:音楽以外で…、うーん、なんですかね。あっ、今アニメを作ってるんですよ。プロモーションビデオ用に。本当にそれしかやってなくて、起きてる時間ずっと描いてるんですけど。描きすぎて頭がおかしくなってきてる状態。もうそれしか興味が無いって感じです。
― 全部ご自分でやられてるんですか?
坂本:全部iPadで、手作業で。iPadを使うと簡単に出来るって言われて、最初はコレならたしかに簡単に出来るなと思ってやり始めたんですけど、実際は結構大変で。ここ1ヶ月くらいずっとやってるんですよ。今、やっとエンディングの少し前まで来ていて。
― 何かストーリーのある作品なんですか?
坂本:ストーリーは無いです。ただ絵が、際限なく動いてくだけ。今、そういうのにはまっていて。かなりすごいのが完成しつつあるんです。楽しみにしていてください。
坂本慎太郎『幻とのつきあい方』
発売中
zel-002 / 2,625円
(zelone records)