2011年秋冬シーズンに初登場となった[ノンネイティブ(nonnative)]とカナダのカットソーファクトリー、CYC Design Corporationが発信する高品質スウェットブランド[レイニングチャンプ(REIGNING CHAMP)]によるコラボレーションプロダクト。その待望の第2弾として2011年11月、新たにカーディガンとパンツ1型ずつが登場したことは皆様も記憶に新しいところかと思います。
そして今回、EYESCREAM.jpでは前述したCYC Design Corporationの代表であるクレイグ・アトキンソン(Craig Atkinson)氏の来日に際して、言わずと知れたノンネイティブのデザイナー藤井隆行氏とのスペシャル対談を企画。活動する場所こそ違えど、生地や着心地に対するこだわり等、様々な共通点を感じずにはいられないこのコラボレーションの誕生秘話から、コンセプト、製作過程での裏話に至るまでたっぷりとお話を伺って参りました。
前回もそうなんですけど、これは日本では作ることが出来ないし、クレイグさんのところとのコラボレーションでしか実現出来ないプロダクトなんです。(藤井隆行)
―ノンネイティブとレイニングチャンプのコラボレーションは今回で2回目になりますが、まずはこのコラボレーションがどのような経緯でスタートしたのか、というところから伺ってもよろしいでしょうか?
クレイグ:うーん…なんですかね。単純にお互い好きだからかな。
―個人として元々お二人は面識があったんでしょうか?
藤井:このプロジェクトがスタートした時、2年位前ですかね、その時に初めてお会いしました。当時、レイニングチャンプはまだ日本でそこまで知られていないタイミングだったんですが、僕も海外のブランドと一緒にもの作りをしてみたいと思っていたので、何か出来ませんかね、という感じで声を掛けさせて頂いて。
―ブランドとしてはお互い認知されていたんですか?
藤井:もちろん。[ウィングス アンド ホーンズ(wings + horns)]もあるし、背景は充分分かっていました。
―コラボレーションする前はお互い、ブランドとしてどんな印象をお持ちでしたか?
クレイグ:僕は日本のブランドの中でもノンネイティブをすごく尊敬しています。ここまで1つ1つのディティールを細かくデザインするのは本当にすごいことだと思う。だから藤井さんが1人でデザインしてるって聞いた時はちょっとびっくり知っちゃったかな(笑)。
覚えてる?
藤井:驚いてましたよね、嘘でしょ!?って。
―藤井さんはいかがでしたか?
藤井:元々ウィングス アンド ホーンズを知っていたので、どんなものを作るのか興味がありました。でも最初はカットソーのイメージが強かったかな。僕もまだそんなにブランドのことを知らない時期だったので。だから、カットソーを使って何かやれないかなとは思っていました。
クレイグ:最初は結構、生地のことを中心に話しましたよね。
―今回は生地にPolartec® Thermal Pro®という機能素材を使ってらっしゃいますよね。GORE-TEX®をはじめ、様々な機能素材の中からこの素材を選んだ決め手は何だったんでしょうか?
藤井:まぁ、一番は風合いですよね。僕、フリースが好きなんですけど、一言に“フリース”っていっても[ユニクロ(UNIQLO)]から[パタゴニア(patagonia)]まで選択肢が色々あるじゃないですか。
そんな中で、クレイグさんがウィングス アンド ホーンズで使っていたフリースの生地を見せてもらってこれは面白いなと。それにこの生地は代理店関係がしっかりしてないので、日本では使えないんですよ。そういった部分も含めて、まさにカナダじゃないと作れないプロダクトだなと思いましたね。あと、今日かぶっているビーニーもパタゴニアで同じ生地だし。
クレイグ:僕は機能素材を使って、普通のアウトドアものじゃないプロダクトを作りたかった。だから、逆にこっちからこの生地で何か良いアイデアはないかと、藤井さんにお願したような感じです。藤井さんに頼めば、何か面白いものが出来るはずだと思って。
―なるほど。では生地をレイニングチャンプが提供して、デザインはノンネイティブが手掛けたと
藤井:そうですね。インラインでやってるパターンを渡して仕上げてもらったんですが、縫製仕様とかもそっくりそのまま再現してくれて。やっぱり、1つ1つがすごく細かいんですよ。
クレイグ:うちは自社で工場を持っているから。でも本当にノンネイティブのデザインは“やり過ぎない”絶妙なさじ加減でした。
―お互いの思うPolartec® Thermal Pro®の魅力を教えて頂けますか。
クレイグ:さっき言った様な風合いと、あとは暖かさですね。機能素材を普段着にするということに僕は凄く興味があるので、その点に関しては非常に魅力的でした。
藤井:アウトドアブランドのデザインのベクトルとファッションブランドのそれって全然違うじゃないですか。それこそ、どちらも機能とか動きやすさを重視したとしても、山を登ったりするものとタウンユースのものでは“動き”自体が根本的に違う。
でも生地の機能っていうのはどちらにもあって良いものですよね。暖かいとか軽いとか、気持ち良いとか。今回はその部分を上手く取り上げて、お互いが納得する形で出来た。前回もそうなんですけど、これは日本では作ることが出来ないし、クレイグさんのところとのコラボレーションでしか実現出来ないプロダクトなんです。
―お互いのブランドのコレクションの中で機能素材というのはどういう役割を果たしていますか?
クレイグ:僕はやっぱりバンクーバーに住んでるから、普段の生活の中での必需品という面が大きいですね。バンクーバーは雨が多いので。そもそも、バンクーバーってファッションの街では無いんですよ。藤井さんは行った事無いんでしたっけ?
藤井:1回行った事ありますね。
クレイグ:でもやっぱり、機能素材は素材自体が凄く良いので、他の部分でも良い素材を使わないと商品としてあまり長くは持たない。僕らは生地をベースにしてやっているので、そういう事を真っ先に考えてもの作りをしています。
藤井:インラインでは他にもGORE-TEX®とかを使ってるんですけど、一番に考えるのは使い方。アウトドアのモノの様にというか、機能素材だからといってスペシャルな使い方はしたくないので、普通の素材、例えばコットンと同じ様な扱いで使うように心がけています。もちろん、製法に支障があるので全く同じ扱いは出来ないですけれど。全ては快適の為に。
―前回のコラボレーションの際にはパーカーを製作されていましたが、今回はカーディガンとパンツ。この辺のアイテムのセレクトには何か特別な理由があったのでしょうか?
藤井:んー、トップスとパンツを1型ずつってことで決まってはいたんですが、上物はレイヤードできる様に襟が無いものを作りたかったんです。あと、カーディガンってアウトドアブランドには絶対に無いアイテムじゃないですか? その辺りも理由の1つではありますね。
―毎回、型は藤井さんの案で?
藤井:そうそう。だからまずは生地を見せてもらって、クレイグさんにこういうものが作りたいって伝える感じですね。
―製作していく上でお互いの考えの違いから意見が分かれるというようなことはあったのでしょうか?
藤井:いや、そんなに張り詰めた雰囲気では無いんですよ。軽い感じという訳じゃ無いですけど、なんというかこう、丁度良い距離感でやれています。
―パターンもディティールも凝っている洋服じゃないですか? そういった細かい点にはやはり苦労しましたか?
藤井:まぁ、1回インラインで別の生地を使って作っているものなので、苦労というほどでは無いですけど、クレイグさんも決して雑では無いから。大体どんな要望にも応えてくれて、むしろここはこうした方が良いっていうような提案までしてくれて。サイズ感とかも全然ぶれないんですよ。
―ノンネイティブでは定番商品に“DWELLER”の名を冠していますが、このコレクションが“DWELLER”入りする可能性はあるのでしょうか?
藤井:定番にはならないし、次はまた違う事をやりたいです。次はナイロンかもしれないし、いきなり靴をやるかもしれない。あまり形を決めないでやっていきたいですね。同じカットソーでも全然違う方向性というか。ブランド自体もレイニングチャンプはレイニングチャンプで、もしかしたら今後方向性が変わっていくかもしれないですし。こうじゃなきゃいけないというのは今のところ特に無いです。
クレイグ:そうだね。毎回形は全然決まってないよね。
―クレイグさんは日本のブランドに限らず、これまでにもいくつかのブランドやショップとコラボレーションを経験されて来たと思いますが、ノンネイティブとやってみての感想はいかがでしょうか?
クレイグ:ノンネイティブの特徴は本当にデザイン性。うちに限らずこういったコラボレーションだと、あまり新たなチャレンジをしようとはしませんが、ノンネイティブとのコラボレーションではいつも新しい“何か”が産まれる。それはブランドとしても非常に嬉しいことですね。
―ちなみに、他に日本のブランドで気になっているところはありますか?
クレイグ:最近はちょっと、物を見すぎてね。なんだろう、インターネットのせいかな?(笑)
この1年間はあまり新しいモノを感じないですね。でも全体的に日本のメンズマーケットが世界でも良いポジションになってきていることは事実です。
―先ほど、バンクーバーはファッションの街じゃないっておっしゃっていましたが、最近のカナダのファッション事情はいかがですか?
クレイグ:うーん、前よりはずいぶん良くなってきたかな。僕らもやっとカナダ国内で売りたいという気持ちになってきました。生地とかディティールにこだわっても、以前はあんまり分かってくれなかったから。そうなると自然に海外に目が向いてしまうじゃないですか? 日本、アメリカ、ヨーロッパとか。
―なるほど。それでは最後の質問になりますが、お二人で今後こんなことをやりたいという目標は具体的に何かありますか?
藤井:とりあえずは、僕が(バンクーバーに)行かないとダメですよね(笑)。
クレイグ:そうだね。
藤井:別に無理して何かをやらなきゃっていうよりは、思いついた時にやるっていうスタンスの方がいいかな。
クレイグ:うん。後はもっとカナダとアメリカでも成功してほしいね、ノンネイティブが。
藤井:アメリカではまだ取り扱いが無いですからね。
クレイグ:為替の問題もあるしね。でも、バンクーバーでは凄く売れてるって言ってましたよ。僕もオフィスに行くときには、必ずノンネイティブを着てる。実は今日もアウターはノンネイティブのアイテムなんです。
―今後のコラボレーションも楽しみですね。本日はありがとうございました。