“from Paris to New York”-[MAISON KITSUNÉ]の考える新たな世界戦略に迫る

by Mastered編集部

去る2001年、あのDaft Punkのマネージメントを務めていたジルダ・ロアエック(Gildas Loaec)と当時建築事務所で働いていたマサヤ クロキ(Masaya Kuroki)がスタートさせた音楽/ファッション・レーベル、KITSUNÉ。異なる分野で活躍を続けてきた両者による不思議なケミストリーは瞬く間に人々を虜にし、今やここ日本でも音楽、ファッション、双方の面で大きな知名度を誇る存在となりました。
そしてこの度、そんな彼らがニューヨークにアメリカ初の直営店をオープン。これに際して敢行した今回のインタビューでは、ブロードウェイ 28番街の新名所、The NoMad Hotelの中という特殊な立地も相まってオープン前から多くの注目が集まった同店舗のオープンに込められた思惑と、その先にあるKITSUNÉの世界戦略について、ジルダ・ロアエックにたっぷりと話を伺って参りました。
ちなみに、気になる内装については後日、ジルダ本人から届くオフィシャル写真と共にたっぷりとご紹介する予定となっていますので、そちらの方もお楽しみに!

Photo:SATORU KOYAMA (ECOS)
Interview&Text:Mastered

正直なところ、アメリカは全く視野に入っていなかったんです。

— まずはニューヨークの直営店に関してお話を伺いたいと思います。ニューヨークにお店を出すこと自体は以前から決まっていたことなのでしょうか?

ジルダ:きっかけは2年前にアメリカでAce HotelThe Standard Hotelを展開している不動産グループから話をもらったんです。彼らは新たなホテルブランドをアメリカで展開したいと考えていて、『Ace Hotelからワンブロックぐらい離れたところにフランスをテーマにしたホテルを作る予定なんだけど、そこで何か一緒に出来ないか?』という風に話を持ちかけられました。彼らにはアメリカで誰もが知っている老舗のブランドではなく、まだアメリカのマーケットで知られていないような新しいブランドをそのホテルに入れたいという思いがあったので、僕らを選んでくれたようです。そこから話を進めていくと『ホテルの周辺地域をノマドなものにしたい』っていう話が先方から出てきました。丁度その周辺地域だけ、まだ名前がついてないような状態だったので、これは盛り上がるんじゃないかなと思って。今回はそういった期待も込めて、ニューヨークに出店をすることを決めました。

— なるほど。今現在アメリカにも取引先はあると思うのですが、[メゾン キツネ(MAISON KITSUNÉ)]はアメリカでどういった受け止められ方をされていますか?

ジルダ:バーニーズ ニューヨーク(Barneys New York)やオープニングセレモニー(Opening Ceremony)といったセレクトショップで取り扱いがありますが、正直、アメリカではまだそこまで洋服のブランドとしての認知度は高く無いですね。今回のお店は200スクウェアフィートぐらいの広大な店舗面積があるので、そういう意味ではブランドの認知度の向上にも繋がるのではないかと期待しています。

— そもそもジルダさんはメゾン キツネというブランドの中でどのような役割を担っているのでしょうか?

ジルダ:基本的にはマサヤ(Masaya/メゾンキツネ デザイナー)と2人の会社なので、メインとして音楽分野の担当ではあるのですが、それ以外の部分ではいわゆる、社長業のようなことを僕がやっています。メゾンキツネに関してはビジョンを見ていく、例えば2、3年後にどこのテリトリーに進出していくだとか、ブランドをどういう位置づけに置くか、というようなゴールや目標を作ったりするのが僕の役割ですね。もちろんそのゴールや目標にはビジネス的な側面も含まれています。

— 今回の話がある前から、ジルダさんの考えるビジョンには“アメリカ進出”が組み込まれていたのでしょうか?


ジルダ:いや、それが正直なところ、アメリカは全く視野に入っていなかったんです。全く考えていなかったから、少し言い方は悪いですが、本当に“棚ぼた”というか、今回に関しては偶然の要素が大きいのもしれませんね。そもそも東京の方がマーケットも大きいし、僕らのフォロワーが多いというのもわかっていたので、元々は東京にお店をオープンしたいと思っていたんです。今も東京への出店はずっと頭の中にあって、2013年くらいにはお店を出せるようにいろいろと尽力しています。

— 東京にお店を出すとしたらどの辺りに?

ジルダ:今までは漠然と『青山かな』なんて思ったりもしていたのですが、最近は何となく流れが銀座になっているような気もするので…。現時点では何とも言えませんね。

— ニューヨークの話に戻りますが、ジルダさんの個人的なニューヨークの印象というとどういったものになるのでしょうか。

ジルダ:すごく高い建物と、摩天楼。とにかくランドスケープがすごいなぁと何回行っても思います。街並みが美しいし、パリや東京のように歩いて移動ができる点もすごく良いですね。でも同時にすごくタフであり、全ての物事が速いスピードで動いていく街だなという印象もあります。ファッションに関しては、子供たちがまるでミュージックビデオから出てきたみたい。ポップアイコンの影響力が強いんでしょうね。

— 今回の出店に併せて『Kitsune AMERICA』というコンピレーションアルバムもリリースすると伺いました。このアルバムは全曲、アメリカのアーティストの楽曲を使用しているそうですが、ファッションの分野でもアメリカのブランドと今後コラボレーションしていくような予定は何かありますか?

5月9日にリリースされるKitsuneの
最新コンピレーションアルバム
『Kitsune America』


ジルダ:現在進行形で話が進んでいるものは特にありませんが、アメリカ発祥の好きなブランドはたくさんあるので、今後はそういうところに声を掛けていきたいなと思っています。[モスコット(MOSCOT)]や[オールデン(Alden)]といった老舗のブランドはもちろん、[シュプリーム(Supreme)]とかと何かをやれたら面白いのかなと思っています。

先ほどアメリカの印象についての話をしましたが、アメリカに行くことを僕らが何故考えていなかったかというと、アメリカは非常に大きい国なので、例えばはじめはイーストサイドからいくのか、ウエストサイドからいくのかとか、そういった具体的なイメージが浮かばなかったというのが大きな理由の1つなんです。

でも、実際に一度中に入ってみるとたしかに大きな国だけど、FacebookやYoutube、Style.comPitchfolkなど、自分が普段触れているものにはアメリカ発信のものがすごく多いことに気付きました。フランスと比べるとショービジネスの規模もすごく大規模なので、そういうところから自分達が体験してこなかったカルチャーを知って、僅かながらもそこに関わることが出来ていると考えるとすごく楽しいですね。

— 今、例としてイーストサイドからいくのか、ウエストサイドからいくのかというお話がありましたが、アメリカ初の出店場所としてニューヨークを選んだのは正解でしたか?

ジルダ:そうですね、結果的にはニューヨークから始められてすごく良かったと思っています。ニューヨークで何かをやった時に世界がこんなに騒ぐんだということをすごく実感しているというか。例えば日本で雑誌の表紙になってもパリの人は何も言わないけれど、アメリカの雑誌のちょっとしたコーナーに出ただけでパリではみんなが騒ぐんです。そういう意味では、アメリカのメディアの持つ影響力を最大限に活かせる立地ではあるのかなと思いますね。やっぱりみんなロサンゼルスよりもニューヨークの方を見てるんです。

— アメリカの音楽や映画など、ファッション以外のカルチャーで特に印象に残っていたり、影響を受けたものはありますか?

ジルダ:僕はウェス・アンダーソン(Wesley Anderson)のファンで、彼の映画は全部好きですね。あとはライアン・ゴズリング(Ryan Gosling)の『Drive』という映画も最高です。劇中に登場するスタイルや音楽といった部分も含めて、パッケージとして素晴らしい映画なんです。音楽に関してはここでは挙げきれないほどたくさんのアーティストから影響を受けていますね。

— 日本のブランドでも海外で作品を発表しているブランドはたくさんありますが、やはりニューヨーク、パリ、日本とそれぞれの地域で反応の良いものは異なるかと思います。そういった地域差について、何か特別な対策はしているのでしょうか?

ジルダ:たしかに地域差はありますが、やってみなければわからない部分も多いので…。お店に商品を出して、実際にお客さんの反応を見ながら柔軟に対応していければと思っています。でも、それよりも今1番の問題はサイズなんですよね。アメリカ人に合わせたサイズの服を作る、ということにとても苦戦しています。

— たしかにサイズの問題はありそうですね。次のシーズンのお話も少し伺えたらと思うのですが、次回のコレクションはジルダさんの言葉で説明して頂くと、どのようなコレクションになっていますか?

ジルダ:一言で言えば、パリの自転車のライフスタイルを取り入れたコレクションです。自転車に乗るようなアウトドアなシーンと、インドアでのクラシックなものとの両方を兼ね備えたコレクションを作りたいと思っていたんです。そこにメゾン キツネらしいテクニカルなディティールであったり、生地や素材を足していって、ファッションとして成立するプロダクトを作ったのが次回のコレクションです。

— 来期のコレクションの中で個人的に特に気に入ってるアイテムがあれば教えてください。

ジルダ:オイルコーティングを施したジャケットはすごく気に入っていますね。ジャケットなんですけど、襟にフードが入っていて、すごくスコティッシュな雰囲気。微妙に見えるか見えないかぐらいのチェックがさり気ない感じで好きです。

— メゾン キツネではルックブックの他にもムービーなども製作していますよね。以前YouTubeで見た早着替えのムービーがすごく印象的でした。

ジルダ:友人でディレクターであるJean-Luc Godardが製作したものなんです。彼は他のメゾンブランドでもファションドキュメンタリーのようなものを手掛けているんですが、良いアイディアですよね。

— 今後もルックブックとは異なるアプローチをしていきたいと考えていらっしゃいますか?

ジルダ:そうですね、他のブランドのプレゼンテーションやフランスのファッションカレンダーに併せて発表を行なって、ファッションのシーンでももっと存在感を出していけるようにしたいと考えています。

— 存在感を出すことを考えるとランウェイショーは効果的だと思いますが、ランウェイに興味はありますか?

ジルダ:うーん…ランウェイショーが開催されるようなオフィシャルなファッションカレンダーに時期をあわせることは非常に重要だと思っているのですが、ショーとなると話は別ですね。経済的な面も考えると今のところランウェイを実施する予定はありません。

— なるほど。では続いてはキツネのもう1つの顔である音楽面についてお話を伺えればと思います。レーベルとしてのキツネは非常に新人アーティストのピックアップが早いですが、ああいった才能豊かな新人アーティストというのはいつもどこから発掘してくるのですか?

Gildas Loaec/KITSUNÉ Creative Director
ユースカルチャーの新し いタイラントとなったKitsuneブランドのミュージック・マスターマインドであるGildas Loaecは、Daft Punkのマネージメントを10年以上にわたり務めていた2001年に、当時建築事務所で働いていた黒木理也とそのサイドプロジェクトとして音楽/ファッション・レーベルであるKITSUNÉを発足させた。 その嗅覚の鋭さはそれぞれのアーティストのその後のキャリアで、すでに実証済みであり、Digitalism、Autokratz、Two Door Cinema Clubなどのアーティストを次々に排出している。彼のプロデュースするコンピレーション「キツネ・メゾン」シリーズや、アルバムのリリースは、シーンから高い評価を得ている。


ジルダ:色々なパターンがありますが、僕は基本的にレーベルに送られて来るデモテープはあまり聴かないんです。音楽業界には長くいるので、これまでに培ってきたネットワークの力というのは当然あるんですが、不思議なもので優秀なアーティストには必ず優秀なエージェントが付いているんです。そういう優秀なエージェントがプロモーションを行う訳ですから、当然耳には入ってくる訳で。優秀なアーティストが六畳一間にこもっていて未だ誰にも知られていないなんてケースは少ないように思うし、そういったアーティストを探せと言われている訳では無いのでそんなに難しいことではありませんよ(笑)。

— 昨年末、僕らのサイトの“レコード大賞”というディスクレビュー企画に出て頂きましたが、その中でジルダさんはThe Weekndのアルバムをチョイスしていましたよね。最近はThe Weekndのようなインターネットを媒介して世に出てくるアーティストが増えてきたように思うのですが、インターネットでアーティストを探したりもするのでしょうか?

ジルダ:そうですね、結構使う頻度は多いです。BandcampSoundCloudは面白いサービスですよね。まず友達がいて、その友達が偶然にもまた友達でといった横の繋がりがあるし、結局良い音楽を作っているアーティストの友達は、必ず良い音楽を作っている訳で。そういったところから良い音楽にめぐり合うことも多々あります。ただ、アーティストを探すというよりは、僕らの場合、様々なアーティストの楽曲からどの曲を選ぶのかという作業が1番難しいんです。何が今のマーケットに合っていて、みんながどんな曲を聴きたいのか、それを毎回決めていくのはすごく大変な作業ですね。

— それでは最後の質問になりますが、今はCDが売れない時代と言われており、世界中がいわゆる“音楽不況”と言われるような状況です。ジルダさんは今後も音楽がビジネスとして成り立つと考えていますか?

ジルダ:もちろん。音楽は人間の生活の一部に間違いなくなっているので、今後も何らかの形で残っていくと思います。ただ、それがどういう形で残っていくのか、という答えは僕にも分かりませんし、それは音楽に関わっている人、全員が探している答えだとも思います。“音楽=無料”というイメージが先行している以上、誰かが対策を考えるとは思いますが、今後自分としては音楽に何かしらの付加価値を付けるということを積極的にやっていきたいと考えています。

【BOUTIQUE MAISON KITSUNE AT NOMAD HOTEL】
1170 BROADWAY – NEW YORK
www.kitsune.fr