遂に本日、1月26日(木)、『EYESCREAM』が不定期で発刊する別冊『SPADE』の第2弾が発売。第1弾となった[N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)]のブランド10周年記念特集号以来、約1年ぶりの刊行となる第2号では当サイトでもおなじみの[タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATheSoloIst.)]を大特集しています。
そして今回、Masteredではこの発売を記念して本誌の大きな目玉企画の1つである[アンダーカバー(UNDERCOVER)]のデザイナー、高橋盾氏と、タカヒロミヤシタザソロイスト.のデザイナーである宮下貴裕氏による対談を抜粋して掲載。2011年10月22日22時22分、オンライン上で発表されたアンダーカバーの2012年春夏コレクション“OPENSTRINGS”において、「デザイナーが他のブランドのショー映像ために音楽をプレイする」という異例のコラボレーションを披露した両名に、その真相を伺った貴重な対談記録となっています。
なお、現在、Masteredではアンダーカバーとタカヒロミヤシタザソロイスト.によるコラボレーションTシャツを含む、『TAKAHIROMIYASHITATheSoloIst.×SPADE』のスペシャルコラボプロダクト、全16点を限定販売中。まずはそちらの方をチェックしたうえで、まるで“開放弦”のようにオープンマインドなこの二人のデザイナーの会話にゆっくりと耳を傾けてみてはいかがでしょうか。
→『TAKAHIROMIYASHITATheSoloIst.×SPADE』のスペシャルコラボプロダクトを今すぐチェックする
「途切れちゃったら面白くないと思うんで、なるべく繋いでいきたいって意識はしてます」(高橋盾)
— アンダーカバーの2012年春夏コレクションOPENSTRINGSのショー映像でセッションをされたっていうのが最近の大きなトピックですが、ああいうコラボっていうのは初めてですよね?
高橋:コラボっていうか、友達なんで頼んだみたいな。
宮下:たまたまあそこにいた、みたいな。
— あれは試みとしてすごく新しかったですね。オンラインで一回のみ流すというのも含め。
高橋:新しいかどうかわからないけど、他の場所でやるよりはここ(アンダーカバーのアトリエ)でやって友達や周りの人と一緒に作るっていうような感じが欲しかった。音をどうしようかっていう時に、若槻(善雄/演出家)さんが「宮下君達は?」って提案してくれて。宮下がすごいちょうどいいかもって。
— 宮下さんには最初どんなアプローチだったんですか?
宮下:Facebookで、ちょっと頼みたいことがあるんですよって。「内容言う前に返事だけくれ」ってことだったんで、返事は先にしておいて。断る理由もないのでいつもの口癖で、「はいはい〜了解です」みたいな。
— っていう感じだったんですね。じゃあそこからはコレクションの準備を進めるかたわら、「音楽どうしようか?」みたいな話を、ここで夜な夜な?
宮下:夜な夜なスタッフの方がビールを用意してくれて。
— (笑)楽しそうですね。
宮下:楽しかったですよ。良い経験でした。
— 飲みながらギターを?
宮下:勝手な妄想は最初から入ってて。頭の中に少しだけ鳴ってる音はあったんだけど、もっちー(望月唯)のギターとどのように絡んでいくかっていうのに結構考え込んじゃって。どこまでインタープレイでいくかとか。基本のフォーマットは最初から解放、解放、みたいな。服も見てなかったのに、解放かなって。好きな音色だけピックアップして、それを繋ぎ合わせたっていう感じです。
— じゃあOPENSTRINGSっていう名前って?
高橋:解放弦っていう話をしていて。解放弦を使って音を出してっていうのが全体のやろうとしてる内容とも合っていた。じゃあそれをテーマっていうかタイトルにしようかなと思ったんで、宮下に言って。
宮下:解放だったっていう。
— そこもピタッとハマった感じなんですね。面白いなって思うのは、影響を与え合ってますよね。宮下さんとジョニオさん然り、きっと尾花(大輔/N.ハリウッド)さんや相澤(陽介/[ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)])さんとかもそうでしょうし。
宮下:みんなそれぞれ違うから面白いんですよ。
高橋:で、仲もいいんで。
— それはすごいレアケースですよね。
高橋:でも業界の人ってみんな仲良いじゃないですか。
— 意味がある壁と意味がない壁があって、そういうのが……。
高橋:あんまりなくなってきてるよね。集まってもいい感じですよ。前はそういうのはなかったけど、ここ最近みんな仲がいいんじゃないですか。
— 自然とそうなっていったんですか?
高橋:うん。特に俺は、カメラマンとかスタイリストの人とあまり繋がりがなかったので。どっちかって言ったら原宿系の、アクの強い人達とが多くて(笑)。あんまりメインストリームな人達とは関わってなかったから。それはクアドロを経て、ノブさん(北村信彦/[ヒステリックグラマー(HYSTERIC GLAMOUR)])がいて、っていう流れがあるんで。宮下は前からですけど、そういうのが無かったら尾花とか相澤とかもつきあいが無かったかもしれない。
— 色々フラットになっていったっていう感じなんですかね?
高橋:そうだろうね。
— 宮下さんも人付き合いについての意識が変わっていったことはありました?
宮下:随分変わったと思います。
— タカヒロミヤシタザソロイスト.になって、二年ちょうどくらいですか。どうですか、ジョニオさんから見てこの2年って。
高橋:クアドロが始まってからですけど、みんなで会う機会が増えたので。いいんじゃないですか、緩くて。それぞれの年代で横の繋がりがあるじゃないですか。お互いの横同士も繋がっていくんで、既に輪がでかいんですよね。ちょっとずつ集まる場所が増えていってるのと、横も入れての集まりみたいなのも若干あったりするから、それもまた良いですよね。下の子達から見たら、年も離れてるとわれわれのこと怖いとかはあると思うんだけど、実際に会うとそんなこともないってわかったりする。われわれが「お前面白いね」みたいな感じで接するのと同じく下も思ってくれたら、それはそれでまた広がっていって、また良い輪になる気がするんだけどね。
— 宮下さんもそれで色々と繋がった人もいるわけですよね?
宮下:相澤の友達とか。
— そういう出会いっていうのは普通に飲んでる流れで、別にかしこまって紹介する感じじゃないですよね?
高橋:そんなに頻繁にはないけどね。そういう打ち上げとか忘年会みたいなのも大事じゃないですか。でもそんなにみんなでしょっちゅう飲んでるわけではないんですけど、前より多いかもしれないな。繋いでいかないと途切れちゃうっていうか、面白くないと思うんで。なるべく繋いでいきたいなって、俺の場合は意識的にはしてますけどね。
— 下の子もそれは嬉しいんじゃないんですか。
高橋:うちらが面倒くさいのが好きじゃないから、特に楽かもしれないですね。
— 4、5年前だとお話しできないなっていうのはあったかもしれないですけど(笑)。でも今はそういうのが良い意味で自然になってきてるっていうのは面白いですね。
宮下:自然です、本当に。
— Facebookのおかげ? でもジョニオさんは辞めたんですよね。
高橋:辞めたけど、でかいんじゃないですかね。あれはすごく良かったですよね。半年ぐらいですけど。
— 2011年を振り返るとFacebookの年なんじゃないですか?(笑)
高橋:作業中にもチェックできちゃうから、やりすぎだなって感じになって。
— でもそういう時代なんですね。人との繋がりがいい具合に広がっていて。それをベースにしてまた何かが生まれるのかもしれないですね。そうやって楽しく繋がりながら、フリーマインドでお互い影響与え合いながら、でも自分の表現をする。これって理想的ですよね。
宮下:と思います。
— それぞれの作業をやってると孤独になりがちじゃないですか。そんなことないですか?
高橋:会社では結局、上の立場だったら孤独ですけど、でもそういう横の繋がりがあるんで。みんなちょっとずつ立場は違うけど、近いもんがあるじゃないですか。だから共感し合えるし、仕事の話はしなくても繋がってるから安心できるので、すごく良いですよね。
— どっちみち一人の仕事では追い込んでいかなきゃいけない部分もあるんでしょうけど。突き詰めるときに突き詰めて、気を緩めるときに仲間がいて、みたいなメリハリがあったら、クリエイティブとプライベートの両方にとって良いでしょうし。そういう意味で宮下さんもこの2年とかはすごくフリーマインドだし、とってもクリエティブだしポジティブだし。
宮下:あんまり悪い方向に考えなくなったかもしれないですね。少しだけ前が見えるようになったっていうか。
高橋:大分良いんじゃないですか。
— 良い方向に変わってますよね。
高橋:だってそんなグチグチしててもしょうがないし別にいいじゃん、みたいな感じにみんななってますよね。楽しまないと損でしょっていうか。無理して楽しむこともないんですけど、緩くていいよね。
「“少し足す”っていう作業をしてる人が多くなってるような気が全体的にします」(宮下貴裕)
— 自然体でいることによって生まれてくるものもあるわけじゃないですか。それをみんな自然と見てるのかなっていう感じがします。OPENSTRINGS然り。
宮下:やりたいことはやっとこう、みたいな。
高橋:うん、やった方がいいよ。
宮下:(OPENSTRINGSが)すごい大きなきっかけにはなりましたよね。無理してやるのもあれなんで。そんなこんなでたぶん今まで使ってたギターにも飽きてたんですね。マスタングとかそういうのにも。だからSGを買ったんです。
高橋:あ、SG買ったんだ。
宮下:73年のを買って。チェリーレッドなんだけど、もはや原形を留めてなくて、ただの汚い茶色っていう。
高橋:やっぱりSGだよね。
宮下:ですね。フライングVと悩んだけど。
高橋:両方いいね。
宮下:色んな意味で、やっぱりSGなのかなって。たぶん洋服とかデザインとか、ファッションの考え方も、そういうものにいってるような気がするんですよね。だから今SGがいいんですよ。
— 洋服の方向もそういう感じに向かってるんですか?
宮下:なんとなくそうだと思うんですよ。あれって拒絶されてたギターじゃないですか。でも色んな人が使ってる。よくよく考えてみたらデザインもそんなに悪くないんだなっていう。カブト虫みたいで嫌いっていう人もいるけど。あれを背負ってると「いいじゃない」っていう。
高橋:SGはいいよ。
— そういう感じっていうのが自分のやってる洋服にも入ってきたりするんですか?
宮下:たぶんそうだと思うんですよ。みんなそうだと思うんです。無駄が無いっていうか、SGの”S”はソリッドの”S”ですよね? だからみんなやるべきことを、今までは引いて引いて引いて完結させたのが、みんなゼロのポイントに戻って、むしろ少しだけくっ付けているっていう考え方。シンプルとそれとは違うんですよ。「それ、シンプルだね」じゃないんですよ。シンプルではなくて、すごくソリッドなんですよ。引いてないと思うんです。
高橋:ちょっと前までは引いてっていうのがあったけど、確かに足してますね。
宮下:みんな引きすぎちゃったんですよ。
高橋:無くなっちゃってつまらなくなっちゃった。
宮下:ゼロのポイントが見えたから、じゃあ自分の好きなことをちょこっと乗っけてあげようって。
高橋:足し算でも若い時とは違うんで、バランスが面白くなってるし、ちょっと進化していってる。
— 足す時の無駄がなくなっていってるんでしょうね。
高橋:無駄っていうか、奥行きがあるっていう感じになってる。年を取った分経験もあるし、バランスも調節できるっていうか。
宮下:みんなが上手くやってるのはバランスなんです。みんな手数が多いわけではないんですよ。むしろ手数が少なくて、でも引いてはいないんですよ。
— 絶妙な塩梅なんでしょうね、そこへ持っていけるのは。
宮下:これはたぶん経験も必要なんでしょうね。時間が経ってようやくそこが見えてくる。
— 振り返った時に20代の時にしかできなかったデザイン、30代の時にしかできないデザイン、40代だからこそ見えてくるものはきっとあるんでしょうね。そうしたことも、それぞれ伝え合える部分が面白いですよね。今言った、「ちょっと足す」っていうのは2人で通じ合ってるじゃないですか。これは全然誰とも通じる話じゃないですよね。
高橋:まぁ、そうでしょうね。人によるだろうけど。
宮下:明らかに引きまくってる作業をしてる人より、少し足そうっていう作業をしてる人が多くなってるような気が全体的にします。それは再構築とかではなくて、単純に補修工事的な。少しだけここが歪んでるから矯正しましょう、みたいなね、それぐらいの感じに近いのかな。
— 全体っていうのは常に見えてるものなんですか? 経験が上がることで全体が見えてくるのか、それとも若い頃から大体見えてるものなんですか?
宮下:風景がまず違うと思うんですね。見えてる人ってそれが最初から360度見えて、何周も何周もしちゃってると思うんですけど、見てる風景と時間が違うと思うんですね。それが個性だと思うんです。見えない人は一生同じ角度でしか見えないですよ。全体が見えて始めて、じゃあどこに立とうかなってことになる。でもその意識もあんまりないですけどね。いい加減な言い方ですけど、感覚っていうか、「こんなもん」みたいな。でもみんなが見てる色や時間は全然違うだろうし。その空気も音も感じてるものは違うだろうし。
高橋:見える角度とか、もののクリアさは大分変わって、同じではないですよね。もうちょっと前より見やすくはなってるかもしれないけど、その分、時代も流れてるので、分からない部分もあるし。でも自分がどうしたいかなっていうのは前よりは勘が利きますね。
— その勘に辿り着くために何周も回ってるわけじゃないですか。「デザインって見つける作業だ」っていう話を以前されてましたが、たくさん選択肢がある中でこれだっていう正解をひとつ見つける。その判断がどんどん速くなっていって、パッと一発でっていう感じになっていくんでしょうかね。
宮下:これもデザイン、あれもデザインで色んな物が溢れすぎてて、整理がついてないじゃないですか。今のこの状況は自由なようですごい不自由な気もするし、逆に僕らがガキの頃は周りに何も無かった。自分で探す時のことを考えると、不自由だと思われたあの時の方が自由だったんじゃないか。また翻って今がそんなに不自由かって問われたら、ありすぎる物を全て一回整理したら、また自由もあるのかなって。自由か不自由かなんて……でも今は不自由な気がしますね。僕は自由ですけど。若い人達は色んなものが用意されちゃっているから
高橋:モノや情報が多すぎるからね。あとは自分の要る/要らないがわからないんでしょうね。自分の場合は、「これじゃないな。こっちだな」っていう分別が前よりつくんで、だから情報は多くてもあんまり変わらない。使える物は使う、要らないものは要らないっていう風に分けられるんじゃないかな。だからそんなに面倒くさくはないし。
宮下:だから足せるんですよ。
— なるほど。でもその小さいことを見つけるのって本当はすごい大変ですよね。
高橋:要るものと要らないものが分かってるから計算できるっていうのはあるかもしれない。
— 若くて今の選択肢が目の前にあったら、結構大変ですね。
高橋:大変だと思う。
宮下:整理つけられないと思う。
高橋:だからなんでもごちゃごちゃじゃない。
— そうなっちゃいますよね。
高橋:これだけ色々な情報が発達していると、しょうがないのかもしれない。自分で見つけるにしても、どれが自分の意志なのかわからなくなっちゃうかもしれないし、見失っちゃいそうですよね。
— 確かに言う通り、“逆説的に不自由”っていうのはあるかもしれないですね。
宮下:ある人にとっては自由かもしれないけど、ある人には不自由だろうし。
高橋:どの時代でも自由とか不自由とか言ってるから、結局一緒なのかもしれないけど。60年代、70年代の日本とかそうだし、特にポリティカルなフォークやロックの歌詞ではずっと自由/不自由とか歌ってたりとかもするし。今はそういうのが無いから、その定義すらもわかんなくなっちゃってる感じが、逆に不自由なのかもしれない。前は前で情報が無さ過ぎて、どうやって自分で自由みたいなものを掴み取るか探してたりするじゃないですか。でもそれも今は、情報が多過ぎてどれが自由かわからない。飽和状態っていうか。
— 自由過ぎて不自由って逆説的ですけど、自由の定義すら判然としないっていう状況に立たされてる感じはしますよね。だからそんな時代にあって、自由でいられることってすごく大切っていうか、とてもアドバンテージっていうか。
高橋:俺も自信を持って「自由です」とは言えないけどね。どれくらい自由かどれくらい不自由かっていうのは分かるんで。自由かどうかっていうのは別として、どれくらいなのかっていうことがちゃんと前よりは分かるかな。
— でもそれがーーまた逆説的ですけど、自由なのかもしれないですよ。自分がどれほど自由でどれくらい縛られてるのか分かってない状態が一番不自由な感じじゃないですか。
高橋:分かんないことを考えちゃったら不自由かもしれないけど、分からないままだったら、それは自由かもしれない。何も考えてないと自由かもしれない。「時間ないわ、不自由だわ」と考えちゃったら不自由になっちゃうけど、何も考えなければ……まぁそんなお気楽な奴はあんまりいないかもしれないけど。
宮下:分からないことが分かってるっていうことは大丈夫なんですよ。分からないことは分からないですよ。ということが分かってるんで、それの方が重要なんですよ。
(続きはSPADE第2号にてお楽しみください)
2012年1月26日発売
B006WP6DE4 / 1,580円
(音楽と人)