「Intervew with Julien David」今、最も注目すべきデザイナーが語るファッションの未来とは?

by Mastered編集部

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「今、最も注目すべきデザイナーは誰か?」と聞かれたとき、Masteredとしては、[ジュリアン デイヴィッド(JULIEN DAVID)]の名を挙げさせていただきたい!ウィメンズにおけるトラディショナルなランウェイで発表を続ける気鋭の若手デザイナーでありながら、昨年突如として発表したメンズコレクションは、なんと東京の路上で撮影したルックブックという形式。ストリート・ウェアを踏まえながらも、どこかメゾンブランドのようなラグジュアリーさを兼ね備えた独自のスタイルは、モードともストリートとも少し違う、新しいファッションブランドの在り方ではないでしょうか?

そんな稀代のデザイナー、ジュリアン デイヴィッドにインタビューを敢行!彼の思うストリート・ファッションとは?これからのファッションの表現方法とは?これからのファッション・シーンを担うであろう注目デザイナーの本音に迫ります!!

Photography:Takeshi Abe
Interview&Text:Yusuke Asano(Mastered)
Special Thanks to Bar Trench

私がメンズ、ウィメンズの両方でやろうとしているのは「ラグジュアリー・ウェアをどう作り替えるか」というチャレンジなんです。

―ウィメンズのデビューコレクションから拝見しているんですが、これがまた、ちょっとトラッドな雰囲気とメンズのストリート的な要素が合わさったようなコレクションでかなり印象的でした。よくよく調べてみると、なんとデザイナーは、パリ出身で、学び舎はニューヨークのパーソンズ芸術学院。しかも制作拠点は東京だと知り驚きました。
最近のメンズファッションで注目を集めているデザイナーたち、例えばウミット・ベナン(Umit Benan)もそうですが、彼らは「ハイブリッド」な土地感というか、あるひとつの基盤となる都市に留まるわけではなく、さまざまな土地の良いところを上手くコレクションに取り入れているように思います。あなたもそのひとりですよね。そういった「ハイブリッド」感は、あなたのコレクションにどういった影響を与えていると思いますか?

Julien:誰しも、拠点となる場所からさまざまな影響を受け、その中で、自分の興味が引かれる対象を見出していくと思います。そして、また違う土地に移ると、そこからのインスピレーションが付加されて……というように、経験や自分が好きだと思えることが、場所を経るごとに累積されていく。僕の場合もそうで、生まれ育ったパリ、そして学生時代を経てデザイナーとして最初のキャリアを積んだニューヨーク、そして今、拠点としている東京……、それらの都市の好きな部分、おもしろいと思う部分を吸収し、積み重なって今の自分がある。それはつまり、デザインをする上での語彙が増えていくことだと思っています。

―ということは、自分の中核となっているのは出生地であるパリ的なものなのですか?

Julien:ひとつの国籍だったり、ひとつの国の文化を個人やブランドの中核のように捉えるという考え方は、前時代的ではないかと思っています。自分自身、パリを出てからもう14年間経っていますし、ひとつの場所が持っている特性に属するというのは、自分が目指しているものやスタイルではありません。

―なるほど。では、自分のクリエイションに一番影響を与えたものや、過去や現在、気になっているものがあれば教えていただけますか?

Julien:育った場所では、スケートやサーフィンといったカルチャーやそのスタイルにかなり影響を受けました。そういったどちらかというとストリート的なカルチャーに加えて、[ナルシソ ロドリゲス(Narciso Rodriguez)]や[ラルフ ローレン(Ralph Lauren)]という2つのハイエンドブランドでデザイナーを務めたことで、上質なファブリックやウェルメイドであることなど、クオリティを高めるという作業にすごく面白みを感じた経験、その両方が、今のベースになっていると思います。

JULIEN DAVID
1978 年フランス、パリ生まれ。19 歳で渡米し、ニューヨークのパーソンズ美術大学で学ぶ。在学中よりナルシソ ロドリゲスで働き始め、3 年間、ナルシソ直属のデザインアシスタントとしてキャリアを積んだ後、ラルフ ローレンに移籍。同社パープルレーベルのウィメンズウェアデザイナーとして、主にテイラードアイテムなどを担当する。2006 年に来日し、東京を拠点にフリーランスとして活動をスタート。翌2007 年に自身の名を冠したシグニチャーブランドをローンチする。2012 年ANDAM グランプリ受賞。

―クオリティとストリート、その両方を結びつける土地として、東京があると。

Julien:ブランドを立ち上げる前にも1年間、日本に滞在していたのですが、おっしゃる通り、その要素をミックスできる場所ということで、ここでなにかできるかもしれないと考えていました。最初に日本に来たときからそういう可能性を感じて、今まで体験してきた土地と同じように過ごすのではなく、この場所だからできることに挑戦してみたいと思い立つに至ったんです。

―ちなみに、今、東京で気になっているストリート・カルチャーは何かありますか?

Julien:日本のストリート・ファッション・シーンですごくおもしろいと思うのは、国内ブランドと海外ブランドのミックスの仕方ですね。それから、日本のブランドがストリート・ウェアのようなものを作ると、すごく洗練されたものに昇華されるというのはパリとは違う点です。他の国ではストリート・ウェアというと、もっとティーンエイジャーや若い人たちが着るものというイメージがありますが、日本では「大人も楽しめるもの」という捉えられ方をしているので、それは自分がブランドを始める上でも大きなきっかけになりました。

―海外メゾンがストリートの要素を取り入れようとしたとき、例えば[ルイ・ヴィトン(Louis Vuttion)]がマーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)を起用してスニーカーを作るといったようなやり方と、東京のストリート・ウェアは異なるものだと思うのですが、ジュリアン デイヴィッドというブランドに関して言えば、どちらかというとアウトプットは東京のストリート的で、作り方は完全にハイエンドというか。どちらの要素も併せ持ちながら、どちらにも属していない不思議な雰囲気がありますよね。

Julien:先ほど、おっしゃっていたルイ・ヴィトンのようなビッグブランドが、そういったストリート・ウェアの要素を取り入れてコレクションを作るというのは、あくまで現代との関連性を見いだすというテーマのもとにやっていることで、ブランドのベースとして、ストリート・ウェア的な何かがあるという訳では決してないと思います。

説明するのはすごく難しいですが、僕がやろうとしているのは、フーディーをカシミアで作り替えようとか、Tシャツにプリントを載せるとか、単にそういったことではなくて、自分が経験してきたストリート・カルチャーという核をさまざまに解釈し、そこに独自のアイデアを加え収斂させながら、新しいものに変換していくということ。さらに、そこには時代性、つまり、同じ“今”を生きている人たちが着たいと思える、共通言語がなければならないと思っています。単純に表層の部分で、ストリート・ウェアの“スタイル”をラグジュアリーに作り替えるということをやっている訳ではありません。そこが大きな違いだとは思っています。

―なるほど。確かにその点は、メンズのコレクションの特性を考えると、すごく分かるんです。ライフスタイルにあわせて毎シーズン微調整を加えながら煮詰めていくようなもの、そういったマスターピースを作っていく作業がメンズだと思うんです。でもウィメンズとなると、そういうところとはちょっと変わってくるのではないでしょうか?ジュリアン デイヴィッドの過去のウィメンズコレクションを見ても、もっと自由であるというか…。

Julien:僕がメンズ、ウィメンズの両方に共通して挑戦しようとしているのは、「ラグジュアリー・ウェアをどう作り替えるか」ということ。それはストリート・ウェアとラグジュアリーの概念を掛け合わせるという手法に限ったことではありません。今はたまたまそういったアプローチでメンズウェアを作ってはいるのですが、それはひとつの方法でしかなく、それが全てではないと思っています。

―ちなみにウィメンズを始めようと思ったきっかけはどのようなものだったのですか?

Julien:特にウィメンズからスタートしようと思って始めた訳ではなく、たまたまパーソンズでウィメンズデザインを学んで、その後ラルフ ローレンでもナルシソ ロドリゲスでもウィメンズのデザインをやってきたので、自然な流れというか、あまり意識せずに始めました。メンズに関しても、今、ウィメンズに加えてメンズのコレクションを立ち上げたことに対して、自分でも驚いているくらいですし(笑)。特にストラテジーがあってのことではありませんでしたね。

―先ほどおっしゃっていた「ラグジュアリー・ウェアをいかに作り替えるか」ということを制作活動のテーマに捉えた場合、ウィメンズから始めるのは、本当に自然な流れだと思います。ただ、メンズのコレクションだけを見てしまうと、今度は、例えば[アダム キメル(Adam Kimmel)]などと比較される「次世代のストリート」といった捉えられ方をされがちだと思うのですが。

Julien:メンズはまだ初めてから2シーズンしか経っていないし、ショップでも最初のコレクションがデリバリーされたばかりなので、まだまだやれる余地があると思っていて。この2シーズンというのは、純粋に、自分が好きなものがより色濃く出ているコレクションで、ベースづくりという意味合いが大きいので、今後、そこからさらに発展していく可能性は十分にあると思っています。

―メンズのコレクションの発表の場として、ランウェイやプレゼンテーション、ルックブックでの作り込みなど、さまざまな手法があると思うのですが、今回はルックブックのみでしたね。将来的にはウィメンズ同様、ランウェイでの発表を視野に入れているのでしょうか?

Julien:まだ答えは見つかっていないのですが…。うーん、正直に言ってこれはすごく良い質問ですね(笑)。自分自身に問いかけなくてはいけない。今のところは始まったばかりなので、今すぐにというのは考えていません。メンズのランウェイは難しいというか、ウィメンズと比較してちょっと違和感があるんですよね。この違和感というのは、例えばオリンピックで、もともとが男性競技であったレスリングを女の子がやっていると少し変な感じがするし、男子競技でもしリボンを使ったら、とても違和感を感じるのと同じことで。いつかは打開策を見つけて、自分にとっての正しいやり方でメンズの発表方法を見つけていきたいと思っています。

―ということは、メンズファッションの発表の場として、ランウェイというのもアリだと思いますか?

Julien:正統的な発表方法=ランウェイと考えるのは、少し時代錯誤な感じがします。80年代や90年代的というか。これは自分だけでなくビッグブランドにとってもそうです。現状として、ファッション界のあり方がそうなんですよね。ランウェイをやった方がたくさんプレスに来てもらえる、すなわち評価もしてもらえるから、ブランドとして次のレベルに行きやすい。そうすると、さらにビジネスとしても成長できるという、ある種のシステムができてしまっているから、それを変えるのはなかなかに難しいことではありますね。

―ランウェイと新しい見せ方、その二つの対比は、こと日本においては「WEB vs 雑誌」にも似ているように思えるんです。ランウェイで発表しなきゃ、雑誌に載らなきゃいっぱしのブランドとして見られない、というような。「デジタル vs アナログ」と置き換えても良いかもしれません。この「デジタル vs アナログ」というのをジュリアン デイヴィッドというブランドに置き換えると、デジタル世代でしかありえないグラフィックなのに、作っているものはすごくアナログだったり。ブランドとして新しい見せ方をするんじゃないかと思っていたら、案の定、ムービーという見せ方で表現していたりだとか。次の展開がすごく気になっているんです。

Julien:いかなる芸術表現も、過去に確立された優れたものや価値観と、今の時代の空気や考え方との接点を見つけることができれば、なにか新しいものを作ることができるのではないかと僕は考えています。ブランドを立ち上げた5年ぐらい前―――わりと最近ではありますが―――当時はまだ紙の媒体が勢力図としては圧倒的な力を持っていたけれど、今はWEBの方がレスポンスも早く、影響力の意味でも紙媒体を凌駕している。その構図がかなり崩れていることを考えれば、今後もだんだん変化していくのではないかと思いますね。

―そうなることを本当に願っています(笑)。それでは、今回のコレクションに話を移しましょう。2013年春夏シーズンのメンズコレクションのなかで、お気に入りのアイテムはありますか?

Julien:ウィメンズの時はできなかったのですが、メンズを始めたことで自分自身が着ることができるようになったので(笑)お気に入りはいっぱいあります。まずは、ウォータープルーフのフーディー、これはウィメンズで昔から作っているアイテムですが、毎回お気に入りのピースだし、同じようにショート丈のスイングトップも自信作です。今日は被っていないけど、キャップもいつも被っているし、サマーセーターにもキャップの柄を施したほど。このインターシャが最高なんです。

―いつも履いていると伺っているパンツがお気に入りに入ってこなかったのは意外ですね(笑)。

Julien:パンツは、メンズのファーストコレクション(2012年秋冬)も作った定番アイテムなので、あえて外しました(笑)。でも、個人的に5本ほどオーダーしている、僕のマストアイテムです。

―なるほど。それでは最後の質問になります。Masteredにはグルメな読者も多いので、グルメネタで。あなたは、かなりの肉好きだと聞いたのですが、読者に向けてオススメのお店を紹介していただけますか?

Julien:なるほどね、それ誰に聞いたの(笑)?まず、最近オススメなのは、麻布十番の「サヴォイ(SAVOY)」と「ピッツァ ストラーダ(PIZZA STRADA)」、どちらもピザ屋さんなのですが、これが最高に美味しくて。ああ、肉関係でいえば、この1年はトンカツの和幸が。

―まさかのトンカツですか!

一同笑

Julien:もし僕に会いたければ青山の和幸に来て下さい(笑)。

―今度は、ぜひグルメ企画にも出ていただきたいですね。

Julien:オファーを待ってます。

次のページではJULIEN DAVIDの2012FW、2013SSコレクションを一挙公開します!