特別対談:ILL-BOSSTINO(THA BLUE HERB)×清永浩文(SOPH.co.,ltd.)

by Mastered編集部


1997年、ILL-BOSSTINO、O.N.Oの2名により結成されたヒップホップグループ、THA BLUE HERB。皆様既にご存知の通り、北海道・札幌の地から発信されたこの類稀なる才能はたちまちに日本列島を席巻し、“THA BLUE HERB以降”という言葉を生み出すほど、メジャー、アンダーグラウンド、双方に大きな衝撃を与えました。そんなTHA BLUE HERBが遂に明日、5月9日(水)、通算4枚目となるフルアルバム『TOTAL』をリリース。

約5年間の沈黙を破っての登場となる待望の新作には、早くも発売前から最大級の期待が寄せられていますが、今回Masteredではこのアルバムのリリースを記念し、稀代のMC、ILL-BOSSTINO氏と、EYESCREAMブログへの電撃参戦も記憶に新しいSOPH.co.,ltd.代表、清永浩文氏によるスペシャルなクロスインタビューを敢行。かねてより親交があったというこの両者による対談は、ニューアルバム『TOTAL』に秘められた想いから、意外な2人の意外な共通点、そしてクリエーションの原点にまでに迫った非常に濃密な内容となりました。
それでは早速ですが、ファッションメディアとしてはMasteredのみでの独占公開となるジャンルを超えた奇跡の対談。一言一句見逃すことなく、心ゆくまでお楽しみ下さい。

Photo:SATORU KOYAMA (ECOS)
Interview&Text:Mastered

1枚目、2枚目、3枚目とそれぞれにその時の俺たちの気持ちが入っていて、どれも同じ位好きなんだけど、その3枚とも実はこのアルバムを作るためにあったんじゃないかって思えてしまうくらい大きな総決算になった。だから『TOTAL』かな。(ILL-BOSSTINO)

— 読者の方にとってこのお二人の繋がりというのはかなり意外だと思うのですが、まずはお二人が知り合った経緯についてお話を伺っても宜しいでしょうか?

清永:THA BLUE HERBの歴史で言うところの活動第3段階目“PHASE 3”にあたるのかな。たしか2007年くらいに当時、CISCO(今は無きレコードショップ、CISCO RECORDS)で働いてた知り合いから「THA BLUE HERBのPV用に清永さんのところの洋服を借りられないですか?」という話を頂きまして。その担当者とは個人的に仲も良かったので、僕がTHA BLUE HERBの大ファンだってことも知っていて声を掛けてくれたんです。その人を通じて紹介して頂いたのが1番最初のBOSS君とのコンタクトですね。

— そもそも清永さんがTHA BLUE HERBというグループを初めて知ったのはいつ頃だったのでしょうか?

清永:DJ KRUSHのやっていたプロジェクト““流 -RYU-””(DJ KRUSH、DJ HIDE、DJ SAKの3名からなるプロデューサーユニット)のシングルでBOSS君がフィーチャリングされている曲が1曲入っていたんですよね。それが本当の初めて。そこから気になって、どちらかという自分から調べにいった感じでした。「このラップをやってる人は誰なんだろう?」っていうところから始まって、アルバムを買ったり、VHSを買ったりして段々とファンになっていったんです。

流のデビューアルバム『我』

— BOSSさんは、清永さんとソフの存在を以前からご存知だったんですか?

BOSS:俺も清永さんと同じで、CISCOの人から聞いたのが初めてでしたね。さっき話していたPVで洋服を借りた時は結構忙しい時期だったから、顔合わせをこの部屋でやったくらいだったんです。でもそこから段々と清永さんのブログを見るようになったりしていって。それで今回新しいアルバムを出そうって話をしていた時に「そうだ!」って思いついた。たまたま札幌に清永さんの服を置いてるお店があったりして、気になる存在ではあったんだけど、アルバムを出すタイミングで「清永さんの服を着てぇ!」と思って、俺から改めてメールで挨拶をしたって感じ。それが去年の夏過ぎぐらいで、それからずっと継続的に連絡を取るようになったのかな。

清永:しばらく会ってなかったんですよ、何度かニアミスはあったんですけど。僕がライブを見に行って、アフターで会いそうになったんだけど、結局なんだかんだで会えなかったりとか。

— お互い実際に対峙したときの第一印象はいかかでしたか?

清永:なんだろうな…でもライブだったり、アルバムだったり、PVだったりで見ている等身大の人がそこにいるっていう感覚でしたね。良い意味で理想通りというか、「この人、思ってたのと全然違う…」なんてことは無かったです(笑)。

BOSS:たしかに。なんか本当に自然に会ったって感じでしたよね。

— それが今でも良い関係性が続いている理由の1つなのかもしれないですね。清永さんは今回のアルバムを聴いてどんな事を感じましたか?

清永:僕はひとつ前のアルバム(2007年5月にリリースされたTHA BLUE HERBの3rdアルバム『LIFE STORY』)が本当に大好きで、自分の中ではそれを聴くのが1つの習慣になっているようなところもあったんです。なんとなく「今週はTHA BLUE HERB週間」みたいに決め事をしたりして(笑)。
自分の中で、もっと頑張りたいとか、ここが正念場という時に『LIFE STORY』を聴いていましたね。この5年間ずっと。1年に何回かはその“THA BLUE HERB週間”みたいなものが必ずやってくるんです。でも今回のアルバムのサンプル盤をもらってからはとにかく、もうこれだけ。今のTHA BLUE HERBが凝縮されていて、言い方は少し子供っぽくなってしまいますが、すごく元気が出るんです。だからこのアルバムさえあれば他の物は要らないっていうぐらい、単純に嬉しいです。本当にありがたいというか、逆に感謝の気持ちを感じるくらいですね。

THA BLUE HERBの3rdアルバム
『LIFE STORY』

— 今回、THA BLUE HERBとしては5年ぶりのアルバムリリースになりますが、この5年間の間に映像作品を2つ残されていますよね。“PHASE 4”のスタートにあたっては昨年の東日本大震災の影響も大きく受けているとのことでしたが、アルバムの制作自体はいつ頃からスタートしていたのでしょうか?

BOSS:2010年の春位からは、俺は俺でリリックを書きためていて、O.N.O(THA BLUE HERBのトラックメイカー)はO.N.Oでトラックを作ってました。それから2011年を経て、去年の震災が起きる少し前ぐらいかな、2人で会って「そろそろやろうか」と。アルバムの制作作業をする前に俺は俺で言葉を溜めなければならないし、彼は彼でトラックを溜めないと話にならないので、そこを乗り越えて、「じゃあ合わせようか」っていう段階に入ったのが去年の夏くらい。その時はお互い7、8曲分を持ち寄って、そこからは言うなれば2人の音と言葉の合体作業だね。

清永:そういえばアルバムの前に先行シングル(2012年3月にリリースされたTHA BLUE HERBのシングル“STILL RAINING, STILL WINNING / HEADS UP”)を出しましたよね? 両A面シングルのような形態だったけど、2曲どちらにもPVがあるのに僕はびっくりしました。まさか2本のPVが繋がっているとは思わなかった。

BOSS:あれも1つの挑戦でしたね。

清永:あのパターンは初めて?

BOSS:初めてですね。

清永:良い曲だよなぁ…。最初に1曲聴いたんだけど、後から「あっ、こっちも良かった!」って気付かされる感じ(笑)。

— そうするとアルバムを出すことは震災以前から決まっていたということになりますよね?

BOSS:そうだね。『LIFE STORY』のリリース後はずっとライブを全国各地でやっていて、2010年の春位に、もう自分らの今持っている曲でやるライブのエンディングは近いなと自然に思った。その時にじゃあこのPHASE 3の最終段階“PHASE 3.9”をどうやって終わらせるかってことを考えたんだけど、実は次はどうするべきかって考えが自分の頭の中に既にあったんだ。だから、必然的に4枚目という考えは頭の中に浮かんで来てた。

— その以前から頭の中にあった内容が、震災の影響で変わったりということもあったんでしょうか?

BOSS:それは変わったね、間違いなく変わった。でも、その前に書いた曲たちをアルバムに入れるのを止めるとかそういうことではないし、あくまでも俺たちがやっていることはヒップホップだから。恋愛を歌っている訳ではないし、THA BLUE HERBとしてはリスナーをずっと“上げたい”というか、勢いを付けたいって思いでずっとやってきて、根本にはそういう感覚があったからさ。震災前の段階でも日本はちょっと没落しかけていて、例えば不景気だとか、そういった逆境の中で「どうやって上がっていくんだよ!」って気持ちで曲を書いてたから、震災があったからといって内容をがらっと大きく変えた訳ではないんだ。震災が起きてから、さっき話したような没落の下降線具合に拍車が掛かっただけであって、どっちみち俺らの「聴いてる人の気持ちを上げたい」っていう部分に変化は無いから。もちろん、リリックとかそういう細かい部分では影響を受けた部分も大きいけどね。

THA BLUE HERBのシングル
『STILL RAINING, STILL WINNING / HEADS UP』

清永:たしかに。さっき話したシングルも含めて、今回の曲はどれもすごく気持ちが入ってるように感じました。

BOSS:シングルは純粋にそういう気持ちを100%込めて作りましたね。でもアルバムではもっと全体というか、それだけで70分を使うのではなくて、色々と試したいこともあったし、アートとして完成された物を残したいっていう気持ちもあった。シングル2曲に関しては言うなれば“気持ち1本勝負”というか、まずここで俺たち自身が熱くなれないと次のステージには行けないなとも思っていたので。

— 今回は『STILLING, STILL DREAMING』の時を思い出すような力強い歌い方でしたよね。

BOSS:俺もそう思うし、実際にやりながらそう思ってた。

— 『STILLING, STILL DREAMING』は東京やシーンに対する怒りや、フラストレーションみたいなものを吐きだした結果としてああいう作品になったと思うのですが、今回も同じような怒り、フラストレーションといった類のものがあったのでしょうか? もちろん1stの時の対象とは異なるものにはなるかと思いますが。

THA BLUE HERBの1stアルバム
『STILLING, STILL DREAMING』

BOSS:うん、あったと思うよ。怒りでもあるし、またちょっと違ったやるせなさっていうのかな。去年起きたことがあれだけハードだったからね。去年1年間で失われた命のことを考えたりだとか、自分の仲間が亡くなったり、色々なことが起きた中で感じたやるせなさ。それに対する「立ち止まっていてもしょうがない!」っていう、前に出る姿勢や感覚も含めて全部がこのアルバムには入ってる。そういう意味では1stと近いのかもね。あの時も前に踏み出さないと俺たちの人生そのものが終わっちゃうっていうぐらいに追い詰められた状況だったからね。

— 先ほど少しDVDについて触れましたが、ここ数年はずっとライブに専念されてきた訳ですよね。そのライブから得たものというのは今回のアルバムにどのように反映されていますか?

BOSS:昔はさ、もちろん聞き手それぞれに自由はあるんだけど、俺がシャドーボクシングする姿を横から撮ってもらうような感覚だったんだよ。もしくは、闘技場で俺とO.N.Oがたった2人で音と言葉で勝負しているのをオーディエンスが取り囲んで見守っていて、それにスリルを感じるというか、音楽的にも俺たちがやっていることを見てもらっているって感覚が強かったね。でも、今回はばっちりカメラ目線をして、お客さんとも向き合った。O.N.Oとはほとんどアイコンタクトで曲を出来ちゃうようになったから、今度はそんなことよりも伝える対象に向かって「目を逸らさねぇし、逸らさせねぇ」って感覚がすごく強かったかな。だから、外に向かってのメッセージが強くて、“あなた”っていう対象に向かって投げかける曲が多くなった気がする。

— 今お話を伺っていて、ソフにも少し似た部分があるのかなと感じました。先日の清永さんへのインタビューと話が重複しますが、ソフも以前は前衛的なアーティストをピックアップしたりと実験的なプロダクトを多くリリースしていましたよね。でも最近はベーシックという傾向がより強くなっているようにも思います。

清永:そうですね、キャリアはBOSS君の方が1つ先輩なんですけど、畑は違えど、同じ時空を生きていて、同じ感覚を持っている人だなと僕は勝手ながらすごく思っていて(笑)。
だからこそアルバムを聴いていても自分の中で参考になる部分が多くあるし、THA BLUE HERBの音楽を通してBOSS君の考えと自分の考えとを比較、確認しながら生きていってる部分もありますね。

BOSS:俺は北海道出身で清永さんは大分出身で、お互いそこから日本の中に自分の場所を作っていったってところも似てますよね。あとはサッカーも好きだしね。うまい飯も好きだし、Massive Attackも好きだし。意外と共通項は多いんですよ。最初に会った時はMassive Attackが好きだみたいな話から結構盛り上がりましたよね?

清永:マッシヴの話ばっかりしてたよね(笑)。

— このお二人がMassive Attackについてどんな話をしているのか、かなり気になりますね…。外から見ると音楽だったり、洋服だったり、通ってきたところが全く同じとは思えないのですが、その辺りはいかがでしょうか?

Massive Attackのアルバム『Mezzanine』

清永:同じ物というよりかは、同じ周波数のところにいるなっていう感覚ですね。引っかかるところが近いんだと思います。

BOSS:そうそう。お互いニューヨークも好きだし、旅も好き。あとはさっきも言ったけどサッカーも(笑)。
共通の話題が多いんですかね。

清永:そういえばアルバムに絶対サッカー選手の名前が出てくるよね? 今回で言えばリリックにイニエスタの名前が出てくるんですけど、前回はランパードやジェラードが出てきたり、その前はフィーゴとベッカムが出てきたり。尚且つ、それで韻を踏んだりするから、そういう時は「さすが!」と思って。イニエスタっていうのも「また渋いところついて来るなー」って感じで(笑)。
結構そういうのが重要だったりするんですよね、僕の中では。まさか、ここでそれを出すか!っていう意外感。

— 今旅のお話が少し出ましたが、『LIFE STORY』のリリース前は結構長い期間、旅に行かれていたと伺いました。今回は旅はされなかったんですか?

BOSS:ニューヨークとかロンドンとか、旅は何度もしてたけど、そこでリリックは書かなかったって感じだね。リリックはほとんど日本で書いたと思う。

清永:日本を回っている時にちょくちょく連絡をくれたじゃないですか? 結構色々な場所を回ってたんですか?

BOSS:いや、制作期間に足を運んだ場所で言うと、仙台と小倉だけですね。まぁ途中でフジロックとかも行ったりしてたけど、リリックを書いたのは仙台と小倉だけです。あとは札幌。

清永:小倉、どうでしたか?

BOSS:すごく良かったですよ!

清永:色々な意味で…結構面白い街ですよね。

BOSS:でも、やっぱりニューヨークにしてもロンドンにしてもそうだけど、街の雰囲気ってすごく大事なんですよね。あまりにものんびりしたところで、例えばビーチリゾートでリリックを書く気なんて全然起きない(笑)。
小倉の雑踏だとか、ああいう色々な人間が入り混じった場所に自分も紛れてリリックを書くっていう作業がすごく好きなんです。そういう意味でも小倉はすごく良かった。街にも歴史があるし、雰囲気もあるしね。

— 清永さんも、旅に行って、旅先の街からインスピレーションを受けるようなことはあるのでしょうか?

清永浩文
SOPH.co.,ltd.代表。 98年にSOPH.をスタート(後にSOPHNET.に改名)。 テクノロジー素材と上質なデイリーウェアをミックスさせたクリエイション で、東京を代表するブランドに成長させる。NIKEとのコラボレーションライ ンF.C.R.B.、そして08年には藤原ヒロシ(fragment design)とともにuniform experimentを始動させるなど、その先進性には常に注目が集まっている。

清永:うん、ありますよ。街からっていうのもあるし、移動時間も。僕、移動時間がすごく好きなんですよ。新幹線とか飛行機の中とか。特に飛行機の中の12時間なんて、本当に至福の時。

一同笑

清永:飛行機に12時間いるってことは、12時間カプセルホテルにいるようなものじゃないですか? 12時間完全に自分の個室が出来るわけで。そういう時間ってなかなか無いから、何しようかなって考えるのが楽しいんですよね。その時間用に新しいDVDを買ったり、本を買ったり。携帯も持ち込めないから外部から連絡もこないし、ジュースも持ってきてくれる。最高じゃないですか(笑)?
よく「寝ないんですか?」って聞かれたりしますけど、僕からすれば「いやいや、もったいないです!」って感じで。

— 飛行機に持ち込むものって個人によってかなりこだわりがあると思うのですが、清永さんはどんな物を機内に持ち込むんですか?

清永:僕はPCと電源さえあれば、後は何もいらないかな。空っぽの状態のスーツケースを持って行って、向こうで中身を入れて帰ろうぐらいに思ってます(笑)。
昔と違って、今は手ぶらで海外に出かけても、現地で何でも買えるじゃないですか。日本から持っていかないとヤバいって物はあまり存在しないと思っているので。だからPCと電源とパスポートで十分ですね。

— BOSSさんは飛行機の中はどういった過ごし方をされますか?

BOSS:俺は清永さんと全く逆ですね。寅さん(渥美清主演、山田洋次監督の名作『男はつらいよ』シリーズ)見てるよ(笑)。
不思議なことに飛行機って必ず寅さんやってますよね? 絶対に1本はある。

清永:あとはANAだとベストヒットUSA(笑)。
あれを見て、当時こんなこと歌ってたんだって感慨にふけります。

— 2人でどこか一緒に行こうとか、そういう話は出ないんですか?

清永:そういう感覚では無いですね。

BOSS:ニアミスはたくさんあるんだけどね。まだ札幌で飯食ったことも無いですよね?

編集部注※このインタビュー後日、札幌で初めて食事を共にしたそうです。

— じゃあ基本的にはBOSSさんが東京に来たときに会う感じなんですね。

清永:そうですね。まぁ会うというか、うちの会社に来て少し話すってぐらいで。極端な話、僕は別にBOSS君と実際に会わなくても良いんですよ。考えとか、近況とかってことは音源やライブを通して分かってるから会わなくてもいい。ファンだからといって、BOSS君と特別仲良くなりたいとか、仲良くなったぜ!って自慢したい訳でも無いんです。

BOSS:清永さんは本当にそういう感じ。清永さんに限らず、僕が出会う人ってそういう感じの人が多くて、すごくフラットな目線で喋ってくれるのでそういう意味ではすごくありがたいですね。洋服に関しても清永さんから「今回はこれを着てやって欲しい」なんて言われたことは無いし、あくまでも人と人との繋がりが根本にあるというか。本当にありがたい。

清永:「仲が良いならコラボとかやらないんですか?」って言われたりもするけど、THA BLUE HERBに関して、そういうことは必要無いと思っています。

BOSS:どうせやるなら、他では出来ないでかいことをやりたいですよね。1回きりで。

清永:BOSS君にソフのイメージは付けなくて良いんです。ファンだからこそ付けたくない気持ちもあるし、そもそもそういう感覚で付き合っている訳では無いから。だから大袈裟に言えばたとえライブに協賛してもソフの名前は一切出さなくていい(笑)。

— お互い、必要以上に干渉しない関係という訳ですね。

ILL-BOSSTINO
札幌の地を拠点に、ジャンルの壁を飛び越え活躍する国内屈指の実力派MC。 幅広い層から支持を得るヒップホップ グループ「THA BLUE HERB」のMC として全国を巡る。 あらゆる音楽にオープンに接するスタイルは 各方面に大きな影響を与えている。
http://www.tbhr.co.jp/


BOSS:良いもんですよ、お互い干渉し合わない関係って。40オーバーならではの感覚だよね。それでも根本の部分はきっちりとリンク出来ているので、何も問題は無いんです。

清永:お互い15年以上1つのことを継続してやってきていて、ある程度自分の世界を作ってますからね。精神的にも若い頃よりは余裕があると思うし。

BOSS:きっちりやる所と、力を抜く所の区別が出来るようになりましたもんね。清永さんとは良い意味で力を抜いて会えるから。

清永:お互い普段は色々なものと闘っているから、必要以上の干渉は要らないというか。

— なるほど。ではアルバムの方に話を戻しますが、今回の『TOTAL』というアルバムのタイトルにはどんな意味が込められているのでしょうか?

BOSS:僕とO.N.Oの二人だけで作ってるものが、ここまでやれた総力というか、自分たちの今持っている全てっていう感覚でTOTAL。あとは1枚目、2枚目、3枚目とそれぞれにその時の俺たちの気持ちが入っていて、どれも同じ位好きなんだけど、その3枚とも実はこのアルバムを作るためにあったんじゃないかって思えてしまうくらい大きな総決算になった。だから『TOTAL』かな。

— 先日の清永さんへのインタビューの際に、年齢に比例してのクリエイションの変化という話をさせてもらったかと思うのですが、BOSSさんは以前の、例えば『LIFE STORY』の頃と比べて、リリックや楽曲に対する考え方の変化はありましたか?

BOSS:どうだろうね、人それぞれで歳のとり方は違うし、良い時もあれば当然悪い時もある。ましてや去年はハードなことがたくさん起こって、よりポジティブなものを発信していきたいというか、自分自身がポジティブなメッセージを求めていたって部分はあると思うし、その感覚が多分日本全体の共通したバイブスのようにも感じる。「今争いごとをするなんてナンセンスだろ」って、そんな感覚があるね。だけど、自分達がやるなら簡単に「団結しよう」だとか、「頑張ろう日本!」っていう感じだけではなく、もっとこの状況を掘り下げてみたいと思った。その一言で片付けたくなかったんだよ。だから、行こうとしている所は同じなのかもしれないけど、THA BLUE HERBなりの気持ちの上げ方を表現したいって気持ちがすごく強かった。そう考えると今回のアルバムは『LIFE STORY』のように人生的にどうというよりは、去年起きたことからどう上がっていくかって気持ちから生まれたのかもしれないね。次のアルバムを作った時にこの4枚目が自分の人生の中でどういう位置づけだったのかって総括は出来るかもしれないけど、今はこれが最前線で、そこまで大きなことは考えていなかったし、とにかく“上げていこう”って気持ちだけだったかな。

— すごくポジティブなメッセージが強いアルバムという印象はたしかにありますね。

BOSS:感じ方は人それぞれだけどね。でも、あれが俺らの答えだね。

— また少し話は変わりますが、清永さんから見て、THA BLUE HERBのライブの魅力っていうのはどんな部分だと思いますか?

THA BLUE HERBのライブDVD
『PHASE 3.9』

清永:実はライブを見た回数自体はそこまで多くないんですが、やっぱり同じ曲でも違うトラックを使ったり、歌詞を変えたり、その場の空気に合わせた曲にその都度変化させていくところですかね。状況によってMCも違うし、他のミュージシャンとは色々な意味で異なるライブセットだなと思います。曲順もライブ毎に変えているんですか?

BOSS:もちろん変えてます。

清永:だからどこで見ても全然違うライブになってるんですね。1つの曲でもトラックが何パターンかありますよね。有名どころで言うと“AME NI MO MAKEZ”とか。あれは全部で何パターンぐらいあるんですか?

BOSS:4つか、5つはあるんじゃないですか。全部合わせると。

清永:そうですよね。だからライブの面白さというか、CDに出てこないトラックもあるから、そういう部分はすごく面白いですよね。僕の中でそれはファンサービスの一環なのかなとも思うんですが。

BOSS:そうですね。それはやっぱりヒップホップ特有の面白さでもあると思うし。バンドと違って1つのトラックのアレンジを生で変えるってことは出来ないので、そういった部分で新鮮味を出していくっていうのは大事なところだと思います。

清永:洋服に置き換えると、復刻だったり、カスタム、コラボっていうのがそれに近いのかな。ライブで聴くとその音源がそのまま欲しくなったりするもんね。

BOSS:やり続けることによって最終的にオリジナルを超える勢いに化けたりもしますからね。それはそれで面白いですよ。

— 今回のアルバムの5曲目はオーディエンスについて歌った曲ですよね。あれだけの量のライブをするとやはりオーディエンスに対する気持ちに変化が起きたりもするのでしょうか?

BOSS:いや、そこに対しての変化はないね。引き続き、変わらずって感じ。

清永:あの曲を聴いてると、その状況がすごく具体的に頭に浮かぶよね。どこかの都市のビジネスホテルから街を見下ろしている感じ。

BOSS:日常。朝方の酔っぱらいみたいなけだるい感じもありますね。

— 今回のアルバムの曲に関して、ライブの時にどう見せようっていう具体的なプランは決まってらっしゃいますか?

BOSS:まだだね。帰って1から練習しないと。6月の中旬からツアーが始まるから、そこに向けて仕上げていく感じ。

— お二人で洋服の話をされたりもするんですか?

清永:あまり、しないよね?

BOSS:しないですね…。まぁソフの話をしたりはするけど、他に特別ファッションの話はしないかな。

清永:こないだ飯行ったときどんな話しましたっけ?っていうぐらいの会話ですよ(笑)。
他愛も無い話をしてます。お互いの年齢のこととか、状況は違いますけど、仕事の話は段々と増えてきていますけどね。僕はファッション業界の人とTHA BLUE HERBについて話したことあまり無いんですけど、どうなんですかね、結構ファンが多いのかな?

BOSS:それは全然分からないですね(笑)。

— でもヒップホップ畑じゃない人へのアプローチは他のヒップホップアーティストと比べると格段に多いですよね。

BOSS:まぁそうかもね。でもそれも結局は受け手次第だから、俺らが意識してそっちにアピールしている訳じゃないけどね。たしかに、そうやってアンテナを立てて引っかかってくれる人はヒップホップ以外の人でも多いね。

清永:意外な人とそういう話になる時もありますからね。

— では最後の質問になりますが、2012年はお互いどんな年にしていきたいですか?

BOSS:THA BLUE HERBとしてはこのアルバムを出して、その後のライブで行けるところまで行きたい。一体どうなるのか、まだ全然ビジョンは見えていないけど、行けるところまで行こう、上がっていこうって感じだね。

清永:この前のインタビューと同じ回答になってしまいますが、このままで。ソフはソフらしく、ソフのままで。特に今年はこうって事は無くて、目の前にあることをやるだけですね。

THA BLUE HERB『TOTAL』

2012年5月9日(水)発売

TBHR-CD-20 / 3,150円
(THA BLUE HERB RECORDINGS)

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