シーズンテーマは”judb”。
同じことの繰り返しのなかで、何かがはじけ飛んだ。
世界を襲った目まぐるしい社会環境の変化により、心を閉ざし、消極的だった。
そうした期間を越えて迎える2023年春夏コレクションは、冒頭の言葉の通り、ファッションのパワーを前に向かって広げたいというデザイナー宮下貴裕自身の、停滞からの解放を意味している。
「完全な何かを作りたくなかった」と宮下が話すように、”GRAY”という言葉を暗号化し、タイトル化したこのコレクションでは不完全性や転調といった、予定通りにはいかない不確実さをデザインの随所に垣間見ることができる。
アノラックにキルトジャケット、ロールアップされたタキシードパンツといったブリティッシュスタイルをベースに、いくつかの洋服は内側から切り裂かれ、パンツに見えてタイトスカートであったり、オールグレーのスウェットシャツ、ワンピースにも見える衣服にはスリップドレスやチアリーディングのユニフォームが描かれ、あえてクルーネックを裂いただけで仕上げたテーラードジャケットなど、これらのアイデアで展開されるコレクションは総じて「傷を負った人間」の姿を想起させる。
あらゆるデザインで使われるトロンプルイユの手法は、曖昧なフェイクであるように見えて、性別、血の色、年齢などの違いをすべて受け入れ、だれがどのように着ることをも拒絶することのない、宮下の考える解放のひとつと捉えることも可能。
「見えない、聴こえない、感じない」と社会全体が想像することを諦めてしまった未解決のマーダーケースをテーマに扱うことは、見えない存在に対して、諦めずに想像を続けたいという意思が込められており、同時に、クリエイティビティが商業主義に支配された現在のファッション世界に対するアンチテーゼを隠さない宮下が、創造を続けていくという挑戦の表明でもある。
【お問い合わせ先】
TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.AOYAMA
東京都港区南青山6-1-6 パレス青山108
TEL:03-6805-1989
http://the-soloist.net/