シーズンテーマは”RE:”
この虚構の様な現実世界に於いて、象徴的な自由の崩壊は何を意味するのだろうか。人々は、抑圧され、光と闇が混在するこの状況の中でもその美しさを放つ為に、意識の中で新たなる感情を追い求め続ける。何かが終わりを告げる事は、その意識下に於いて、自身の持つ永遠を基軸とした新しいメロディの再構築が始まる事を意味する。
この状況下に於いても決して変わることの無かった宮下の洋服に対するエモーショナルな想いがもたらした今コレクションの創作は、洋服の進化の為の新たなる始動と、人々の感情の甦生を告げるものとなる。
新たなる進化の次元に一歩踏み出すことは、物事の終わりを伴う始まりの儀式である。それは俯瞰で見つめるもう一人の別感情の自分へと近づく事であり、ドッペルゲンガーとも言える鏡合わせの抑圧された人格への自己投影表現でもある。
抑圧の象徴とも言える拘束具は、洋服上に五線譜を模した形で表現される。バロックのオペラがニュー・ウェイブに形を変える様に、洋服はその五線譜の中で多様性を持ち、あたかもそれは美しく音符を配置したかの様に、抑圧の中で全く新しく、そして自由な宮下のメロディを奏で始める。洋服に取り付けられたパッチに落とし込まれた言葉は、モールス文字として暗号化され、その言葉と表現方法はまるで、抑圧の中で戦う宮下自身の心の叫びを暗に表している様にも思える。宇宙服のディティールを落とし込んだ洋服は、誰も踏み入れたことの無い領域へ行こうとするリスクを冒すものだけが到達できる、果てしない探検の終わりとその始まりの感情を示唆する。
誰もが賛同し得る絶対的な価値観の視点というものは、これまでも、そしてこれからも存在しないのかもしれない。しかし、宮下は洋服に真摯に向き合い、そして創作する事、それはつまり誰も聴いたことの無いメロディを紡く事が、この現実世界へ対しての返答となる。シーズンテーマである”RE:”には、全ての“再生” を願う意が込められた。
境界線など存在しない、自由なる未来へと向かう人々の感情を甦生する為に。
私たちが始まりと呼ぶものが終わりであることがよくある。
だから、終わらせることは始まらせることだ。
終わりはスタート地点なのだから。
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