text:Kenichiro Yanagi
2008年の活動開始以来、さまざまなジャンルのアーティストの楽曲プロデュースやアレンジ、リミックスを手がける。若手音楽プロデューサー/DJの筆頭格たるTeddyLoidが、自身2作目となるオリジナルアルバム『SILENT PLANET』をリリースする。12曲すべてに豪華ゲストを迎え、クラブ・ミュージックのみならず、Jポップ、ラウドロックまでをも自在に行き来するしなやかさは他の追随を許さない。いかにして1989生まれの彼はこの柔軟さは獲得し、かつそこに自分の「らしさ」を落とし込んでいけるのか。
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–2作目のアルバムで多岐にわたるアーティストとのコラボを行うというのは、最初から決めていたことなんでしょうか。
「そうですね。昨年リリースした前作アルバムは、作曲、歌、ミックスからマスタリングまで完全に自分ひとりで仕上げた作品なので、その制作中に『2作目は、仲間たちというか、たくさんのアーティストの力を借りるアルバムにしよう』と決めていました。これまで出会うことの出来たアーティスト達とは、一体どんな曲ができるだろう、って。アイデアはどんどん浮かんでいたので」
――なるほど。
「以前からいろいろ曲をプロデュースさせていただいたりしてる経験のせいか、コラボレーションは自然なことなんですよ。彼らと今度は僕の作品上でセッションするなら……っていつも想像していました」
――音楽への向かい方っていうことだと思うんですが、ご本人はそもそも音楽とどういう出会いをしたんでしょうか。
「最初は、2歳から始めたエレクトーンなんですよね」
――2歳?
「ええ(笑)。そして小学校の中学年くらいにDTM。パソコンで音楽を作り始めて、そこからヒューマンビートボックス、バトルDJ、ヒップホップ、そしてフレンチ・エレクトロに出会った――という流れです。今は大きな意味でのEDMが中心ですが、根底にはフレンチ・エレクトロという存在が強くあります」
――フレンチ・エレクトロに大きく惹かれた理由って、どこにあるんでしょうか。
「エレクトーンをずっとやってきたわけですけど、クラシックとかって、そういうものは教科書を見て、その通りに弾くっていう感じなんですよ。だから、インターネットでヒューマンビートボックスとかの動画を見て『こんなに自由でカッコいい音楽があるんだ!』ってショックを受けました。その既成概念にとらわれない姿勢に心を打たれたんです。こちらは様式美や学術ばかりを追求してきたわけですからね。だからそれからはエレクトーンをコンピューターにつないで、サンプリングしてビート組んだりするようになって(笑)」
――そうならなければ、折り目正しく音楽をやっていく方向だった。
「周囲からは100パーセントそっちの方面だ、と思われていたでしょうね。コンクールも何年も連続優勝!みたいなノリだったので、将来はエレクトーン奏者――と言われていました。でも……やっぱりダフトパンク、ジャスティス……2005年、中3の頃にフレンチ・エレクトロに出会ったんです。それですべてが変わりました」
――なるほど。
「特にジャスティスは衝撃的でしたね。ロックの要素もあるし、パンク的でもある、ヒップホップライクでもあるし。もっとも影響を受けたムーヴメントと言い切れます。また同じくらい影響を受けた日本のアーティストが、m-floのTaku(☆Taku Takahashi)さんですね」
――音楽的なところにとどまらない大きな影響が感じられます。
「はい。自分がそれまで他の日本のアーティストに感じられなかった洋楽的なムードに惹かれました。あとこれは自分も心がけているんですけど、常に抵抗無くトレンドを取り入れている。どちらかと言えば日本のアーティストは自分をしっかり持っている、サウンドを積み上げていくっていう傾向があると、僕は勝手に思っているんですが、☆Takuさんはアルバムごとにガラッと変えていくことがあって、そういうチャレンジ精神はすごいな、と思います」
――最新のものを追いかけても、浮わっついたものにはならないんですよね。
「落とし込んでいくのが本当に上手いんですよね。僕は『日本のダフトパンクになりたい』っていつも思ってますが、m-floが一番近いところにいるんじゃないかと思います」
――そしてあなたもまた、音楽だけじゃなくさまざまなものを貪欲に取り込んで、落とし込めているアーティストのひとりだと思います。
「ありがとうございます。僕自身、いろんな音楽が好きだし、音楽だけじゃなくアニメもゲームも好きだったり、本当にいろんなカルチャーに興味があるんですよ。だから『僕はこうだからこっちとはやれない、あっちとはやらない』、そういう壁はまったく作らないですね」
――興味は多岐にわたる、いろんな物事に触れていく、それをピックアップ、セレクトの基準ってどういうところにあるんでしょうか。
「一番は、見たことないもの/聴いたことないもの、ですよね。今までこんなのなかった!ってものにグッと来るんですよね」
――今回のアルバムにも、そういう思いは込められていますよね。
「そうですね。このアルバムの中に、KOHHさんと柴咲コウ、あーりん(佐々木彩夏/ももいろクローバーZ)が一緒にいるなんて他にはないだろうな、って思います」
――もう、超絶多彩っていう。
「誰もやってないことやってるな、我ながら快挙だな、と作っていながら興奮していました(笑)。いろんな方から刺激を受けつつ、自分の色が出せたと思います。僕もずっとヒューマンビートボックスをずっと止めていたんですけど、今回解禁してますね」
――それは何故止めてたんですか?
「TeddyLoidというプロジェクトを始めて、フレンチ・エレクトロのアーティスト像を確立したかったからです。ビートボックスを続けていたら、ブレてしまうんじゃないかな?と思ったんです」
――でも解禁したってことは――今はもう、何をやってもTeddyLoidになるという自信がある。
「そういうことです。自分のキャリアを通じて培ってきたものをすべて爆発させているし、新たな出会いもありつつ、いろんなアーティストの魅力をあらためて目の当たりにして、逆に自分の色を相手にぶつけてセッションできたと思います。今はEDMのイメージが強いかも知れませんが、その枠にとらわれずに、2015年現在の自分らしい作品ができたかな、って思ってますね」
『SILENT PLANET』全曲解説
01. Game Changers with 中田ヤスタカ(CAPSULE)
ヤスタカさんとやるからには、現行の音楽やシーンを”CHANGE”する曲にしたかったんです。そういう意味でこのタイトルを選びました。かつ、彼と僕との共通の趣味がゲームでして、しかもレトロゲームなんですよ。というわけでクラシックなゲームサウンドをサンプリングしてドロップパートを作ったり、最新のEDMのアプローチで作りました。作っている最中から斬新な曲になると予感していて、アルバムの1曲目はコレだって決めていました。
02. Searching For You feat. 柴咲コウ
以前、コウさん、DECO*27さんと、galaxias!というユニットで活動していたということもあり、今回の作品にはコウさんには必ず参加してもらいたかったんです。そしてギターもDECOさんに弾いてもらって、galaxias!の再結成的な1曲として仕上げられました。アルバム中で疑似再結成したい!って早い時期から思っていたので、とても嬉しかったです。
03. All You Ever Need feat. ☆Taku Takahashi(m-flo)
☆Takuさんには曲作り、サウンド面ではなく、ヴォーカリストとして参加してもらいました。なかなかないことが実現出来ました(笑)。タクさんの歌声って、メロウで哀愁があってEDMと合うんですよ。だから今回のアルバム、絶対歌って下さいって以前からお願いしていたんです。いつかライヴもご一緒してもらうつもりです!
04. Secret feat. 池田智子 from Shiggy Jr.
この秋、Shiggy Jr. さんの“GHOST PARTY”というシングル曲をリミックスさせていただいたんです。その作業中に独りで彼女のヴォーカル素材に向き合っていて…「声、すっごくイイな!」と思って、即「歌ってもらいましょう!ってスタッフに連絡しました。この曲はそういったストレートなきっかけです(笑)。キラキラしたポップなフィルターハウス風にしたいと作り始めましたが、実際に歌ってもらったらバッチリ。2015年版の新鮮なフューチャー・フィルターハウスが作れたと思います。
05. Last Teddy Boy feat. HISASHI from GLAY
HISASHIさんは、ガイナックスのアニメ『Panty & Stocking with Garterbelt』で、僕が☆Takuさんと作った曲を絶賛してくださっていて、光栄なことにご自身のライヴの開演前のBGMにも使ってくださったと聞きました。いつか一緒に曲を作れたらとTwitterやチャットでは話していたんですが、今回この曲でやっとお会いすることができました。ギター弾いてもらって「かっこよすぎる~!」(笑)。というわけでギター中心の曲になりました。ストレートなギターソロの説得力も凄いですが、ギターのデータがクラブミュージック的に元からエディットされていたり。とても新鮮なセッションでした。
06. Break’em all feat. KOHH
KOHHさんは僕がここ数年で一番注目してるラッパーです。こんなフロウ聴いたことない、って思えるアーティストです。KOHHさんのスタジオで、彼が気になってるトラックを聴かせてもらったんです。それがアトランタのトラップだったんです。すごい酩酊感で、さらにもうひとつKOHHさんがハマっているのが、デスコア(笑)。それを合わせたらどうなるかっていう話になって、ひと晩でトラックをいくつか作って送ったら、すぐラップを入れて戻してくれました。それを一緒にミックスしながら、お互いヤバい曲になった!って盛り上がりました。これも思い出深いセッションです。
07. We Are All Aliens with WRECKING CREW ORCHESTRA
この曲は、公演中の彼らと宮本亜門さんの最新作『SUPERLOSERZ SAVE THE EARTH 負け犬は世界を救う』のメインテーマとして作った、今回のアルバム中唯一のインスト曲です。ミュージシャンじゃなくてダンス集団とのコラボレーションというのもなかなかないんじゃないかと(笑)。彼等とは前作『DOOODLIN’』やゲーム『パズル&ドラゴンズ』とのコラボレーションからのおつきあいです。光のダンスで世界的に有名なEL SQUADのパートを担当しているんですが、いつもの様に彼等のダンスから発想しつつ、「このフレーズならどう踊ってくれる?」といった具合に、常にお互いチャレンジしています。
08. Lion Rebels feat. JUN 4 SHOT from FIRE BALL & N∀OKI, NOBUYA & KAZUOMI from ROTTENGRAFFTY
元々ROTTENGRAFFTYさんとはリミックスやアレンジのお仕事をさせて頂いていたので、「ラウドロック枠」的に参加して頂きたいと思っていたんです。この夏、彼等とFIRE BALLさんがライヴイベントで共演するって知って、すぐにこの顔合わせを思いつきました。小学生の時、初めて聴いたレゲエがFIRE BALLだったんで決まった時は興奮しました。曲はダブステップとレゲエ、そして高速ラップと、それぞれの要素を活かした欲張りな曲ですが、絶妙なクロスオーバーに落とし込めました!
09. VIBRASKOOL feat. 近田春夫(Professor Drugstore a.k.a. President BPM) & tofubeats
TeddyLoid独自のヒップホップをやろうって思った時に、僕からはtofubeatsくん、マネージャーからは近田さんの名前が挙がりました。最初は意外な顔合わせでしたが、結果的にはピッタリでしたね。”VIBRASKOOL”、っていう曲タイトルからもわかるように、僕とtofuくんが近田さんの道場に入門してヒップホップを教わりながら、道場破りを狙うというストーリーを軽く設定して、あとはおふたりに自由にラップしてもらいました。そしてそのラップをまた自由にエディット〜カットアップさせてもらって。tofuくんをサウンド面でなく、ラッパーとして起用するっていうのも面白かったです。僕は彼をヒップホップ・アーティストだと思っているんですが、その一面が引き出せたと満足しています。近田さんのフロウは20数年ぶりのラップだというのにめちゃめちゃタイトで、アンサーする立場のtofuくんが期待以上のアグレッシヴなフロウを聴かせてくれたのもカッコよかったです。
10. Above The Cloud with 小室哲哉
僕はドンピシャのリアルタイムのリスナーではないんですが、日本の音楽家にとって大きな存在ですから、感慨深かったです。なので、タイトルは「雲の上の存在」っていう意味です(笑)。さらにもう一つ、「クラウド上で作った」という意味も込めています。小室さんとはデータのやりとりだけで作ったんです。小室さんは普段はスタジオでセッションされるミュージシャン型なんだと思うんですが、あえてメールによるデータ交換のみで仕上げていきました。どんな曲にしようか悩んだんですが、海外に向けたEDMにしました。彼に手引きのソフトシンセを入れてもらって。往年の感じですね。
11. はじらい Like A Girl feat. 志磨遼平 from the dresscodes
ロックとEDMの融合というのは、ヒップホップ同様、昨年からのテーマだったんですが、そんな時にドレスコーズの志磨さんのライヴを観て、そのロックスター性にすっかりヤラれてしまって。ステージを下りてからの、穏やかな普通の優しいお兄さんぶりにもヤラれましたが(笑)。歌詞もほぼお任せして歌ってもらったんですが、「声をイジってほしい」ということになったので、オートチューン等のエフェクト処理や声のカットアップ等、好きにやらせてもらいました。ドレスコーズのファンの方に、新しい志磨さん像を感じてもらえたら嬉しいですね。
12. Grenade feat. 佐々木彩夏 from ももいろクローバーZ
ももいろクローバーZさん、エンターテイメントとして凄いですよね。毎回新しいことを仕掛けてくるし、カッコいいですよね。だから、いざももクロのメンバーが参加してくれるって決まった時は、どんな曲にするか珍しく悩みました。彼女達のリミックスアルバムでサウンド的なアイデアは出し尽くしているタイミングだったし。ただ、あーりんさんが歌ってくれることになって、彼女の歌唱力をしっかり活かすならバラードだろうとなりました。彼女の歌を活かしつつ、ビートはトラップにして、間奏もゆったりなエレクトロにしました。
【TeddyLoid『SILENT PLANET』】
発売中
キングレコード/EVIL LINE RECORDS
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