世界中の注目を一身に集めるウルグアイ発の新興レーベル、International Feel。昨日ご紹介したDJハーヴィーの新プロジェクト、ロクスソルスのリリースに先駆け、レーベル第1弾アーティスト・アルバムとしてリリースされたのが、ガトー・フリットのアルバム『ガトー・フリット』(日本発売は4月27日予定)だ。
2009年に手がけたロッチャのシングル「Hands Of Love (Fingers Of Sand)」リミックスがハーヴィーほか、世界中のDJにヘヴィー・プレイされたガトー・フリットことベン・ウィリアムス。謎多き英国のクリエイターである彼のアルバム・リリース・パーティが4月14日に音楽関係者やファッション関係者を集め、ロンドンのセレクト・ショップ、LN-CCの瀟洒なクラブ・スペースにて開催された。
その模様のムービー/フォト・レポートと彼のDJミックス、そして、独占インタビュー記事がロンドンより届けられたので、ここにご紹介しよう。ウルグアイ、ロンドン、そして日本をつなぐコネクションから伝わってくる新たなダンス・ミュージックの胎動を感じ取っていただければ幸いだ。
ガトー・フリット 独占インタビュー
— 今回、ウルグアイのレーベル、International Feelの第1弾アーティスト・アルバムとしてあなたのアルバムがリリースされたわけですが、日本において、ガトー・フリットはまだまだ謎の存在だったりします。まず、あなたのバックグラウンドについて教えてください。
ガトー:僕はいつも楽器を演奏していた子供だったね。それは父とのポジティブな思い出でもあるんだ。父とは決して仲が良かったわけじゃないし、それ以外に何か一緒にしてきたというわけでもない。もっと言ってしまえば、僕は彼が亡くなるまでの20年間、いい部分を見たことはなかったんだけど、僕が幼かった頃はピアノを教えてくれたし、彼自身がとてもいいミュージシャンだった。
それから僕は過去12年間、ロンドンの中古レコードショップで働いていたこともあるよ。ソーホーにある(老舗レコード・ショップ)レックレス・レコーズとミュージック・アンド・ビデオ・エクスチェンジってところなんだけど、それらの職場では(ノルウェーの伝説的なブラック・メタル・バンド)バーズムからモダン・ソウル、巷で流行ってるポップ・ミュージックのプロモまで、様々なジャンル、新旧の素晴らしい音楽に触れることが出来たんだ。もちろん、そこでは、「イカれてる」とか「オブスキュア」とか「イカした」とか、そういうナンセンスな形容がされていたハウス・ミュージックも常にそのかたわらにあったんだけど。
そして、僕は数人で集まっては、いつも音楽を作ってきたよ。2006年からは自分一人だけで音楽を作り始めたんだけど、当時は本当に自信がなかったな。僕が初めて作った曲はDissidentというレーベルからリリースされたシングル「Clem’s Bounce」で、2枚目のシングルは「Invisible College」、それから先は下り坂って感じかな(笑)。
— International Feelから作品をリリースすることになった経緯を教えてください。
ガトー:(International Feelオーナーの)マークから『Rocha の「Hands Of Love (Fingers Of Sand)」をリミックスして欲しい』っていう電話があったのが最初だね。で、僕はミックスを仕上げて、彼がお金を後払いで払ってくれたってわけ。
ただ、この時の彼とのやりとりはリミックスの世界ではとても珍しいことだったんだ。というのも、普通はリミックスを手がけた後、3ヶ月待ってもギャラが入金されることは滅多にないから、リミックス仕事を振ってきたヤツに振り込むよう連絡するだろ? でも、月末まで待って口座を確認しても入金されてなくて、また連絡してみる。ひとつのリミックスが終わってから、電話やメールでのそんなやりとりに時間を費やして、4〜5ヶ月後に支払われるのはたいていの場合、雀の涙みたいなギャラだったりする。でも、マークは違った。アーティストに対して彼が払う敬意や献身はInternational Feelの核といっていいんじゃないかな。
— マークは「優れた作品だけを世に送り出し、その対価をアーティストに支払うというシンプルな発想」をレーベルのポリシーにしているということですけど、こういう基本的なところが守られていないダンス・ミュージックの世界における彼のスタンスからは、音楽に対する真摯な思いが伝わってきますよね。
ガトー:全くその通りだね。だから、僕たちはこれまで上手くやってこれたんだと思うし、彼のレーベルからはHungry Ghostという別ユニット(ガトーと彼が暮らすフラットの同居人でもあるサム・ウィーヴァーのプロジェクト)でも「Illuminations / Don’t Eat The Apricots」っていうシングルもリリースしたんだ。彼の心強いサポートとInternational Feelっていうオーガナイズされたレーベルから作品をリリース出来て、ホントに光栄だよ。
だから、彼から今回のアルバム制作について話があった時、その場で即答したよ。彼は一生懸命働くし、何が起きたかも正直に話してくれる。そういうスタンスはアーティストにとって安心出来るし、レーベルを信頼することができるのは素晴らしいことだよ。
— デトロイト・テクノの重層的なシンセ・ワークとバレアリック・フィールが出会った、ロンドンのクリエイターならではの感性が耳新しく感じる今回のアルバムについて教えてください。
ガトー:アルバムの中でも新しい2曲「Solar Flares」と「Grinding of the brakes」が出来たのは去年の11月。その他の曲は2009年から2010年の間にかけて作ったものなんだけど、数曲は悩まずに作ることが出来たものの、「The Curse」に関しては、数年間あれじゃないこれじゃないと行き来していたね。それから昨年11月に父が亡くなり、その1ヶ月後には6年間付き合っていた彼女との別れもあって、アルバム制作中は平静を保つことが大きな課題だったね。
作品に関しては、さっきも言ったように色んな音楽を聴いてきたからね、僕が影響を受けてきた音楽は曲を聴いてもらえば、分かってもらえるとは思うんだけど……影響を受けたといえば、マニュエル・ゴッチングやスティーヴ・ライヒも自分の中では大きいと思うな。僕の音楽と彼らの音楽を比較するのは馬鹿げていると思うけど、メロディを重ねたり、カウンターとなるメロディを盛り込む彼らのアプローチは大好きだね。
結局のところ、僕は雰囲気のある独特な音楽が好きだし、同時にキラーなメロディーに惹きつけられることが多いんだよ。音楽を作るにあたっては、スタイルやジャンルについて考えることはないし、強いて挙げるとすれば、トラックにフックを持たせることは意識したかな。
— 今後の予定について教えてください。
ガトー:この間、サムとHungry Ghostの新しいEPを仕上げたばかりで、この作品は10月にリリースされる予定だよ。ガトー・フリットとしてのライヴもやってみたいとは思っているんだけど、そのためにはまだまだ準備が必要だね。
僕はスタジオでのライヴ・セッションが好きだったりするんだけど、今回の作品をバンドに置き換えたライヴは、想像しただけで気分が悪くなりそうだし、30代の冴えない男がラップトップでパフォーマンス、っていうのも気が滅入りそうだしね(笑)。
それ以前に僕が今回のアルバムを作ったPCは、(ソウル・ジャズ・レコードより作品を発表しているテクノ・ユニット)Subway のマイクにもらった古いタワー・タイプで、値段でいうと15ポンドくらいかな。とにかく重いものだから、ライヴのたびにそれを運ぶのはぞっとするよ。いくつかのシンセにマイク、コンピューター、机にエフェクター……うーん、どうしたらいいんだろう(笑)。まぁ、でも、今はまた別のアルバム制作も構想しているところだから、うまくいけば、来年の今ごろにはみんなに聴いてもらえるんじゃないかな。
2011年4月27日 発売予定
IMFYL005 / 2,400円
(International Feel / MUSIC 4 YOUR LEGS)
GATTO FRITTO ALBUM LAUNCH from ritchie ln-cc on Vimeo.