13年の沈黙を破り待望の新作『SOUND BURGER PLANET』をリリースするかせきさいだぁに直撃インタビューを実施! 稀代の才人が語る空白の年月とは!?

by Mastered編集部


近年、脱力系4コマ漫画「ハグトン」の連載や自身の個展で活躍しているかせきさいだぁ。1998年のセカンド・アルバム『SKYNUTS』以降、長らくアルバム・リリースを待望されていた彼がなんと13年の沈黙を破って、2011年、ついにサード・アルバムを発表する。
『SOUND BURGER PLANET』と題されたこの作品は、ここ数年来、ライヴでのバックを務めているハグトーンズの演奏を基調に、スチャダラパーのBose、SHINCO、TOKYO No.1 SOUL SETの川辺ヒロシ、渡辺俊美、イリシット・ツボイというかせきさいだぁお馴染みの面々、そして、ベテラン・サウンド・クリエイター、DUB MASTER Xが参加。

黎明期のジャパニーズ・ヒップホップ・シーンにおいて、スチャダラパーやTOKYO No.1 SOUL SETとは異なる角度からドメスティックな表現を追求してきた彼は、サンプル・オリエンテッドなワード&サウンドをオリジナルへと昇華。
はっぴいえんどと作詞家、松本隆の影響色濃いファースト『かせきさいだぁ≡』(1995年)、そして、その進化形であるティン・パン・アレーに触発されたセカンド『SKYNUTS』(1998年)を経て、どんな絵を描き出しているのだろうか?

インタビュー・文:小野田 雄
写真:鳥居 洋介

みんな、ヒップホップをポップスにしていきましたけど、もっとシティ・ポップスにしていったら、それこそが自分にしか作れないアルバムになるんじゃないかって。

— 前作『SKYNUTS』から13年。作品リリースがここまで伸びてしまったのは何故だったんでしょう?

かせきさいだぁ(以下かせき):もちろん、13年かけてアルバムを作っていたわけじゃなく(笑)、実際の制作期間はそこまでかかったわけじゃないんですけど、作品をリリースするのにちょうどいい時代を待っていたっていうことに尽きると思いますね。逆にいえば、自分にとって、2000年代は音楽をリリースするのに適した時代ではなかったというか。

— 2003年には(ホフディランのワタナベイビーとのユニット)Baby&CIDER≡と(ヒックスヴィルの木暮晋也とのユニット)TOTEM ROCK、それからかせきさいだぁのベスト・アルバムがリリースされましたよね。

かせき:実はBaby&CIDER≡とTOTEM ROCKの曲にはかせきさいだぁのサード・アルバム用に作ったものも含まれていて。当時、サード・アルバムを出そうと動いてはいたんですけど、『SKYNUTS』の反応があんまり良くなかったし、当時のヒップホップもリアル一辺倒だったこともあって、お呼びでないような気がしたんですよね。
(今はなき)恵比寿のクラブ、MILKでシンゴスターがやってたイベント「RADIO SHOCK!!」で、(イリシット)ツボイくんがDJ、TUCKERがエレクトーンっていう3人編成のライヴをしょっちゅうやってたんですけど、そこでは若い子たちが汗だくになって狂ったように踊ってたのに、それ以外の場では受け入れられてないように思ってましたし、状況的にアルバムを作ることになっていかなくて。
その時点で無理して自分でリリースするっていう方法もあったんですけど、そんなことをやって自分が消耗してもしょうがないと思っていたら、それがBaby&CIDER≡やTOTEM ROCKっていうグループに発展していったんですけど、その2つも表舞台でがっつりやる感じではなく、自分のペースで時々ライヴをやっては曲を増やしてって感じで、2000年代はリリースのことは考えず、とにかくライヴしかやってなかったですね。

— ただ、状況が変われば、かせきさいだぁ名義の作品を作りたいとは思っていた、と?

かせき:まぁ、周りからは「もう勘弁してくれ」って思うくらい、出せ出せって、ずっと言われてて。もうね、酒飲んだら、朝まで言われるくらい(笑)。なので、作品を出さなきゃならないっていうのはすり込まれていたんですけど、その一方で2000年くらいかな。当時所属していた事務所の人に「サンプリング・ミュージックはお金と許諾の手間がかかるので、もう作らないで欲しい」って言われたこともあって、別のやり方を考えなきゃなって。
そんななかで、自分たちで楽曲を作るワタナベイビーや木暮さんと一緒に音楽を作り始めたら、他のグループに発展していったりもして。だから、「一緒にやりましょう」って言ってくれるような若い人が現れるまでアルバムは出来ないかもしれないと思いつつ、絵を描いたり、個展をやったり、そういう別のことをやってましたね。

— そんななか、2年前にハグトーンズと出会うことによって、音楽活動が再び活発化していくわけですけど、「一緒にやりましょう」と言われたにもかかわらず、すぐには動き出さなかったそうですね。

かせき:そうですね。その時は個展がハンパなく忙しかったし、連載もあったり、「かせきは何でそんなに忙しいの?」ってみんなが不思議がるくらい、何故か忙しかったんですよ。年間、3回、東京、京都、大阪の3箇所で開催して、そのために毎回、新作を20枚以上書いたりしてましたし、あまりに忙しくて、電車のなかで仕上げをしてたくらい(笑)。
だから、そういう時間の問題もありつつ、自分ではがっついてるつもりでも、「やりましょうよ!」って言われると、「忙しいから、いいでしょ、やらなくて」って、つい答えてしまうというか、どうも、周りからすると、がっついていないらしくて(笑)。
そうこうしているうちに、また絵の個展でイベントをやりませんかっていう話が来て、「じゃあ、タイミングがいいし、ちょっとやってみる?」ってことで、温めてたいた「ネェ What do you want?」という新曲を交えてやってみたら、感触がよかったので、その後のライヴも受けつつ、新曲も増やしていったんです。

— そして、今回のアルバム制作になるわけですが、レコーディングは「Music Lounge J」という千歳船橋の音楽バーで行われたんですよね?

かせき:そうですね。ハグトーンズのメンバーの一人に家族でバーをやってる子がいて、「うちはビルの地下で夜からの営業だから、昼間から練習出来ますよ」ってことで練習に使っていたんです。で、アルバムの録音をどうするかという話をしているうちに、スタジオはお金がかかるし、時間制限もあるから、そういうことを気にせず作業が出来るように、そのバーで録音することを考えて、ライヴのギャラを全部つぎ込んで機材を買って揃えたんです。
僕は「やるからついてこい!」っていうがむしゃらな性格じゃないので。他のこともあるし、基本面倒臭がりやだなところがあるので(笑)。だから、一緒に進んでいけるように準備をちょっとずつ進めていったんですよ。

— そういえば、かせきさいだぁの活動もそういう流れのなかで始まったんですよね?

V.A.『CHECK YOUR MIKE』

V.A.『CHECK YOUR MIKE』
TONEPAYS名義では唯一となる録音音源「苦悩の人」を収録した、ECD主催によるヒップホップコンテスト「CHECK YOUR MIKE」のコンピレーション・アルバム。
1992年リリース。

かせき:かせきさいだぁが始まったのは、TONEPAYSっていうグループが解散して、「もうやめようかな」ってことで、ライヴのやり方を色々教えてくれた川辺(ヒロシ:TOKYO No.1 SOUL SET)くんに報告したら、「俺がDJやるから、一人で続けろ」って言って、それから2年くらい、川辺くんがかせきさいだぁのDJをやってくれて。だから、かせきさいだぁも自分で始めたわけじゃないというか(笑)。
しかも、かせきさいだぁのライヴをやるにあたって、バーンとコンセプトを見せなきゃならないし、新曲も作らなきゃって思ったので、当時、下北沢のクラブ、SLITSで毎月やってたLBまつりっていうイベントを3ヶ月くらい休むつもりだったんですね。そうしたら、2ヶ月目の当日、「なんでリハに来ないんだ?」って、川辺くんから電話がかかってきたので、「いや、3ヶ月くらい休もうと思って……」と答えたら、「ダメだよ。今日、かせきさいだぁ始めるから」って。だから、川辺くんに首根っこつかまれて、無理矢理ライヴを始めさせられたっていう(笑)。
でも、そのライヴが全く盛り上がらなくて、それを申し訳ないと思ったのか、川辺くんが出る別のイベントで「俺のDJの間にかせきさいだぁやるから」ってことで、川辺くんが1時間かけて少しずつ盛り上げていって、ウワーッとなってるところで「かせき、今だ。行け!」って、ライヴをやったんです。ちなみにそのとき、(渡辺)俊美くんも「僕も参加したい」ってことで、僕の横でギターを弾いて。「ソウルセットのBIKKEが俺になっただけじゃん!」って思いつつ(笑)、その時のライヴがすごい盛り上がったことで、とにかく暗い感じでやってたTONEPAYSのライヴからポップに盛り上げていくイメージに変わったということも、そういえばありましたね。

— 以前から描かれていた絵にしても、ハグトンっていうキャラクターから個展に発展していく流れは同じように自然発生的な広がり方でしたよね。

ハグトン

4コママンガ『ハグトン』は、現在リリー・フランキーのサイト「ロックンロールニュース」内で好評連載中。

かせき:そうですね。ハグトンも最初はああいうキャラクターを思いついて、遊びで描いていたんですけど、試しに一本だけ4コマ漫画を描いてみたら、「これ、1本だけ描いても、誰も面白いとは言ってくれないだろうから、量産しよう」って思って、2、3週間で50本描いたんですね。
で、それをコンビニでコピーして、ホッチキスでとめたものを100部くらい作って、それを友達に配ってるうちに「面白いから、これをちゃんと本にしましょう」って言ってくれる人が現れたり、それを扱ってくれるお店が現れたり。
そんな感じでくだらないことをやって、みんなを驚かせることは、僕も好きだし、LBって言われる人たちもみんな好きなんですよね。だから、ものごとの始まりはいつもそんな感じなんでしょうね。

— 音楽以外の表現活動も、今回はアルバムにDVDを付けることでヴィジュアライズしているように、フットワーク軽く総合的な表現として発表出来るのが今の時代ならではだと思いますし、かせきさいだぁらしいように思います。

かせき:そうですね。配信で作品を買う人もいるでしょうけど、「この全部の塊が欲しいんだ」っていうものを作ろうっていうアイディアは打ち合わせ段階からありましたね。
歌詞も読んで欲しいし、今回、写真撮影は川島小鳥くんにお願いして、ブックレットにも彼の写真をいっぱい使っているんですけど、そういうものを含めて読みながら、世界観を感じながら聴く、そういうトータルなものですよね。個展をお願いされた時からすでにDJとライヴだけじゃなく、ご飯を食べられるように準備したり、天久(聖一)さんとか(しまお)まほちゃんとのトークでゲラゲラ笑ったり、トータルの空間を楽しむのが今の時代の表現であるような気がしていたので、今回のアルバムもその延長で、サウンドだけじゃなく、他のヴィジュアルもすごい意識して、みんなで楽しむことをより考えたというか。

— 音楽を軸とした表現世界の広がりが今回のアルバムの特徴だと思うんですよ。振り返ると、95年にリリースしたファースト・アルバム『かせきさいだぁ≡』は一人でものすごい時間をかけて作られたんですよね?

かせき:まぁ、最初はCDを出せると思ってなかったので、「じゃっ夏なんで」なんかは、それこそ半年くらいかけたり、直しては消しってことを延々とやったり、時間は相当かけましたからね。
ただ、同時にこんなことを続けていたら食っていけないから(笑)、そういうやり方はファーストだけってことにして、徹底的に作ったアルバムですよね。あのアルバムの曲はそれこそ5年くらいかけたんじゃないかな。

— そして、1998年のセカンド・アルバム『SKYNUTS』は、時間をかけたとしても、勢いのある言葉を意識した作品ですよね。

かせき:セカンドはファーストほど時間はかけられなかったんですけど、「ポップアート」で一緒にやれるとは思わなかった南佳孝さんをのぞいて、全曲を知り合いに頼んで、気心知れた仲間と一気にセッションして作る楽しさがありましたよね。
あのアルバムを作ったことで、自分に妙な爆発力があることにも気付きましたしね。

— そうした2枚のアルバムを踏まえた今回はどんな作品を構想していたんですか?

かせき:僕がラップを始めた頃、日本語でラップをやってたのはいとうせいこうさんくらい。他の人は英語でやってたような時代に「日本語でやるしかないよな」って思っていたら、スチャダラパーと知り合って、あのすごいコンセプトを見せられたので、そこで悩んで悩んで考え出したのが、はっぴいえんどをサンプリングして、松本隆の歌詞もサンプリングしてラップをやれば、日本語のヒップホップの新しい形が出来るんじゃないかっていうアイディア。それがファースト・アルバムなんですね。
そして、セカンドは、はっぴいえんどから発展していったティン・パン・アレーのサウンドをヒップホップで出せないかと思って作った作品。ただ、当時なかなか伝わらなかった、そのコンセプトも最近は理解してもらえるようになったということもあって、今回のサードはシュガーベイブとか初期ユーミンのようなシティ・ポップ……まぁ、セカンドもシティ・ポップになってるとは思うんですけど、より洗練された作品をイメージしつつ、作っていくうちに変わっていった部分もあったんですけど、最初のコンセプトとしてはそんなことを考えていましたね。

— と同時にサウンドはサンプリングでなく、バンド・サウンドをベースにしていますよね。

かせき:ハグトーンズはみんな上手いので、僕が無茶を言っても、「わ、出来るじゃん」って。そういう意味ではすごく助かりましたね。
僕が作曲した曲はサンプリングみたいな感覚で作っているというか、モチーフになる曲を聴いてもらって演奏しながらどんどん変化させていって、別ものにしていくんですけど、そういう作業もハグトーンズはより良くしてくれるし、ありがたかったですね。

— 「明日ライドオンタイム」は川辺さんがサンプリングで組んだ曲を生演奏を差し替えて作り上げたものなんですよね。

かせき:そう。川辺くんも最初から「ハグトーンズと作りたい」と言ってくれて。自分で作ったデモを20曲くらいCD-Rに焼いてきて、「かせきっぽい曲を選んできたから、ここから好きな曲を選んで」って言われたんですけど、いい曲が多くて困っちゃったんですよ。
そうしたら、ボーちゃん(BOSE:スチャダラパー)が「レコーディングやってるらしいじゃん? 俺にもやらせて」って言ってきたので、家へ行って、曲を選んで、コンセプトも一緒に考えたんですよ。で、アルバムのコンセプトを伝えたら、「やっぱり、山下達郎の『RIDE ON TIME』だよねー」って。「だけど、達郎さんもそうだし、ブライアン・ウィルソン(ザ・ビーチ・ボーイズの元リーダー)もサーフィンは絶対やってないよね」ってことで、「夏、海、サーフィンに憧れつつ、実際はやってない人が書いた曲ってコンセプトで曲を作ろう」と。だから、歌詞をよく見ると、1回も海に行ってないっていう、そういう内容になってます(笑)。

— 妄想、空想的なリリックというのが、実にかせきさいだぁらしいというか。

かせき:リアルが求められる状況との折り合いも、結局のところ、影響を受けたものを自分というフィルターを通して表現するしかないというか、このアルバムにしても、自分が影響を受けたものをつめこんだ作品なんですよね。
例えば、「恋のANYTHING GO!」って曲は『ザッツ・エンターテインメント』っていう、ミュージカルのハイライト・シーンばかりがつまってる映画で流れる曲に影響を受けて作ったんですけど、完成してみて、「よく、あのモチーフから作ったな」って我ながら思ったりしますしね。

— そして「ときめきトゥナイト」はアニメ・ソングのカヴァーですよね。

かせき:そう、1年くらい前に偶然テレビを観ていたら再放送されていて、「すごいいい曲だから、すぐにカヴァーしよう」ってことで取り上げたんですけど、アニメ・ソングでもいい曲だったら、平等に扱うべきだと思ったんですよね。
ライヴでも1年以上演奏してきて、最初は笑われたりもしたんですけど、今はようやく馴染んできたという。

— さらに、「夏をプレイバック」や「ネェ What do you want ?」でレゲエをやっているのは、ここ13年でよく聴く音楽だったということなんですか?

かせき:それは元カノの影響で……(笑)。ロックステディとか、昔の古いレゲエが好きな人だったんですけど、全然聴かない僕は「そういう音楽、家で聴くの止めてくれない?」とか言ったりもしてたぐらい(笑)。
でもある時、作ってもらったテープをラジカセで聴いたら、「ちょっといいぞ」って思うようになって(笑)。そのうち大好きなレゲエ・アーティストのライヴを観に行って、みんながノリノリで踊ってるのに、僕だけ「本物を見れた。すげー!」って思って泣きながら観たりして(笑)。
ただ、「レゲエっぽいサウンドで夏っぽいことを歌う」っていうベタなことはやらないようにしようと思って、まずは「ネェ What do you want ?」を作ったんですけど、「夏をプレイバック」では結局やらないようにしようと思ってたことをやってしまったというか、そのかわり、これ以上ないくらい夏っぽい曲にしようと思って作りました。。

— 以前、理想とするヒップホップとしてビースティー・ボーイズの『ポールズ・ブティック』とかジャングル・ブラザーズの『ドーン・バイ・ザ・フォース・オブ・ネイチャー』を挙げていましたけど、自分の好きなものを詰め込むんでいく感覚はその2枚に通じるものですよね。

かせき:そうですね。自分のなかでそれを最初に形にすることが出来たのが『SKYNUTS』というアルバムなんですよね。あの時はそういうアイディアを形にしなきゃ気が済まなかったというか、あの作品は全10曲の作者が全員違いますから、今にして思えば、むちゃくちゃでしたよね(笑)。
ただ、まぁ、時間はかかりましたけど、『SKYNUTS』をさらに洗練させて、すっきりさせたアルバムが今回出来たんじゃないかな、と。

— リリックに関してはいかがですか?

かせき:言葉のサンプリングも相変わらず散りばめていたりもするんですが、今回は今までで一番悩まずに書けましたね。言葉に関しても、自分のフィルターを通していくしかないと思っていて、そうなるとアニメも入ってくるし、漫画も出てくるし、ヒップホップっぽくないから、そういうものを入れるのは止めようと思ったことは一度もなく、むしろ、敢えてどんどん入れていくというか。
本当の音楽好きと比べたら、僕はそこまで音楽好きじゃないというか、色んなものが好きすぎて、それがリリックにも反映されていると思うんですよ。そういう意味で実際にお会いした松本(隆)先生も、そこまで音楽漬けじゃないというか、色んな趣味や視点をお持ちで、それが歌詞に反映されているように感じられましたし、そんな松本先生からは知り合う前からも、知り合ってからも学んでいるというか。
あと、ラップを始めた時点で、他の人が韻と格闘するなか、僕は、日本語が韻を踏むのに向いてない言葉だなって思ったんですね。そう思った時、「あ、俳句があるな」って。だから、「古池や蛙飛び込む水の音」じゃないんですけど、そういう言葉のリズムの追求を20年くらい続けて今があるんだと思います。

— モチーフとしては、キャリアを通じて一過して、夏を描くことが多いですよね?

かせき:うーん、気付いたら描いていた、っていう感じなんですよね。日本って夏と冬が長いじゃないですか。歌詞で春のことを描こうとすると、「卒業の頃も冬っていえば冬だしなぁ」って思ったりするし、秋もね、落ち葉の頃しかないというか、歌詞を描くうえでキーワードも少なくて。
逆に夏は自分が好きな季節でもあるし、期間が長いし、描きやすいので、いくらでも思い浮かぶんですよ。実際はそんなことなかったはずなのに、体験したことがあるような気がする夏休みとか、そういうものを具現化するのが面白かったりもするし、もやもやしたものが目の前にイメージとして表現出来る、そういう音楽の不思議さにとりつかれているところがありますね。
本の場合、ガッチリその世界に入っていく楽しさがあるのに対して、音楽はさらっと流しただけで入っていくことが出来るわけで、そこにエッセーや小説のようなリリックを盛り込んでいくこと。あと、人の言葉を引用しつつも、誰も書いてない世界観……セルフ・カヴァーの「STAY TUNE」だと、「おばちゃんがやってたゲームセンター 焼きそば、おでんの匂い」っていう一節は、こんな言葉を並べていいものなのかって思ったりもするんですよ。だって、聴いてたら、おばちゃんが浮かぶわけでしょ(笑)。そういう勇気がいる表現があったりもするんですけど、それを違和感なく上手いこと入れたいっていう。

— 今回の作品からはそんな言葉の洗練が随所に感じられるように思います。

かせきさいだぁ

かせきさいだぁ
1990年、元スチャダラパーのナイチョロ亀井や、BOSEの実弟であるFAKE-T(光嶋崇)らとともにTONEPAYSを結成。93年の解散後、ソロプロジェクト「かせきさいだぁ≡」として再始動する。
ラッパーとしての活動以外にも、文筆業や漫画家、イラストレーターとしても活躍するなど、多才な人物である。
なお、今作のリリースに伴い、アーティスト名表記末尾の「≡」を削除し、「かせきさいだぁ」と改めた。

かせき:まぁ、でも、そこまでやられても困るよっていう表現もどうかと思うので、そこは上手い落としどころを考えなきゃいけないし、ボーちゃんはさり気なく「やりすぎないように」っていうことを諭してきますね。
ただ、SHINCOがトラックを作ってくれた「雨のびいと」は、結構振り切ってる感がありますね。この曲は一週間かけて歌詞を書いたんですけど、SHINCOのトラックがなかなか上がってこなかったので、濃く煮詰めていくしかなかったんですよね。だから、出来上がった今もやりすぎちゃったのかどうなのか、判断が出来なかったりするんですけどね。

— この曲は、SHINCOさんのトラックの素晴らしさも相まって、一つの到達点であるよう思いました。

かせき:今回のアルバムは、ティン・パン・アレー、ユーミン、山下達郎先生たちが作り上げた音楽の先で、自分もしっかりしたものを作りたいと思ったんですね。RIP SLYMEだったり、みんな、ヒップホップをものすごいポップスにしていったじゃないですか。
で、僕が作ったものより、上手くポップスになってるなとずっと思っていたんですけど、もっとシティ・ポップスにしていったら面白いんじゃないかとふと思ったんですよ。それこそが自分にしか作れないアルバムになるんじゃないかって気がしたし、先輩たちが作り上げた音楽を踏まえて、自分なりに取り組んでいくのも面白かったですしね。
そして、2年前にハグトーンズと知り合って、最初の1年はライヴをやりながら新曲を作っていって、去年の1年でそれをちゃんとレコーディング出来ることも分かってきたので、この流れでアルバムもう1枚を割とすぐに作っていけたらいいなと思っているんですけどね。

SOUND BURGER PLANET

かせきさいだぁ『SOUND BURGER PLANET』

2011年6月29日発売予定

DDCB-12039 / 3,150円
(AWDR/LR2)

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BONUS BEATS & PIECES

伊江なつき監督、平岩紙主演(?)による「CIDERが止まらない」のPV。

CDに同梱されるDVD作品のトレーラー映像。