Masteredが自信をもってオススメするDJのインタビューとエクスクルーシヴなミックス音源を紹介する「Mastered Mix Archives」。大好評をいただいた第1回の二見裕志氏に続き、今回の第2回目に登場お願いしたのは2009年に実弟のS.l.a.c.k.、同級生のGapperと結成したヒップホップ・グループ、PSGとしてデビューを果たしたPUNPEE。
2006年の【Ultimate MC Battle】東京代表にして、2009年にAkai主催によるサンプラー・バトル【MPC Gold Fingaz Kitchen】で優勝するなど、ラッパー、トラック・メイカー、はたまたDJとして、全方位で活躍している新世代の才能が果たして何を語ってくれるのか。そのインタビューを読みながら、いよいよピークを迎える2011年夏の(脳内)極上ドライヴ・ミュージックとして、彼のDJミックスをまずはお楽しみください。
インタビュー・文:小野田 雄
※ダウンロード版の配信は終了しました。
DJの時はホント申し訳ないんですけど、楽しくやるだけって感じです(笑)。
— PUNPEEくんはDJをはじめて今年で何年になるんですか?
PUNPEE:一番最初が多分2002年、まさに高校を卒業するくらいの頃だったと思うんで、もう少しで10年くらいですかね。でも、超本格的にメイン・フロアでプレイって感じじゃなく、どちらかと言えば、ラウンジなのに高いノルマ払って出させられてたっていう超下っ端あがりなので、そこからずっとラウンジ・プレイみたいな(笑)。自分の好きな曲ばっかりかけちゃうので、ラウンジとの相性がいいみたいです。
— 一番最初にDJした時のことは覚えてる?
PUNPEE:Gapperと六本木のビエッティっていう、今はなくなっちゃったクラブに初めて行って、客が3、4人くらいしかいないなか、2人でDJブースにかじりついてて。そうしたら、その時のDJが「興味あるんだったら、うちのパーティでやってみれば?」って誘ってくれて、下北沢のバーで回させてもらったのが最初ですね。
— ターンテーブルを買ったのは?
PUNPEE:中2ですね。最初はリンプ・ビズキットのファーストとか、ハウス・オブ・ペイン「Jump Around」のミュージック・ビデオがTVK(テレビ神奈川)で流れてたのを見て、「スクラッチ、格好いい」って思って1台だけ買って、ひたすらスクラッチしてましたね。当時、バンドやってたので、そこにスクラッチを入れたりしてたんですけど、逆に2台つないでDJするって発想がなかったというか、ただこすって音を鳴らす楽器みたいなものだと思ってましたね。
— DJがメンバーのミクスチャー・バンドは90年代に多かったもんね。今回作ってもらったミックスにもその頃の青春の痕跡がちらほらあるような(笑)。
PUNPEE:はは。完全その流れっすね。あっちの国のヒップホップを聴く人からしたら、超ポップなマッチョ野郎って感じで好かれてないと思うんですけど(笑)、中学の頃に聴いてた、そういう音楽の楽しさを最近また再発見して。自分と同じ世代の人なら同じように感じてくれるんじゃないかなって思って、最近、DJでかけたりしてるんですよ。
— ただ、今までの話を総合すると、PUNPEEくんが音楽に興味を持ったのはヒップホップよりもバンドの方が早かった、と。
PUNPEE:ギターの方が先ですね。親父がもともとギターを弾いてたし、レコードをいっぱい持ってたので、それで「音楽って面白いのかな?」って思ってんですけど、ある時、親父が(エリック・クラプトン在籍のロック・バンド)クリームのライヴ映像を見てて、あの分かりやすいギター・ソロが格好いいと思ったんでしょうね。そうしたら、ビートルズのスコア・ブックとアコギを渡されて、「エレキに慣れちゃうとアコギが弾けないから」っていうよく分からないことを言われて、「あ、はい……」って(笑)。
— 偉大な高田父はPUNPEEくんとS.l.a.c.k.の2人に結構な影響を及ぼしてるよね(笑)
PUNPEE:なんか、さり気なく(笑)。親父に「こういう感じのネタない?」って言うと、次の朝、起きるとそのレコードが置いてあったりして、「あれ? あ、使えってことかな」って(笑)。親父は山下達郎マニアで、毎週日曜日にやってる(ラジオ番組)「サンデー・ソング・ブック」をチェックしてて、それを聴いては新宿のDISK UNIONに掘りに行く、みたいな。まあ、でも、親父からは教えられたっていうより、何気なくいい音楽がかかってるくらいの感じなんですけどね。
— 高田家といえば、一時期はS.l.a.c.k.と一緒にバンドをやってたこともあるとか?
PUNPEE:スタジオで一緒にやってたくらいですね。あいつはドラムが叩けるので、俺がベースを弾いて、Watterがギターで、遊びでセッションしてたりとか。でも、それはそんなに昔の話じゃなく、7、8年前、あいつが高校生くらいの頃かな。音源も出してなかったし、何をしていいのかよく分からない時期で、ヒマだから一緒に何かやろうよって感じだったんですけどね。
— じゃあ、その後も楽器に接する環境にはいたわけだ?
PUNPEE:そうっすね。だから、今も弾けるのはギターとベースとか。あと、鍵盤は音に合わせて、なんとなく弾くくらい。弟はギターが上手いんですけど、いつしか、触ってる姿の見なくなってしまいましたね(笑)。
— PUNPEEくんとS.l.a.c.k.の特徴として、トラックがメロディアスというか、楽器が分かってる人の作品だと思うし、PUNPEEくんの場合、DJからも同じものを感じるんですよ。
PUNPEE:ヒップホップの音程が合ってない格好良さ、ノイジーなヤバさももちろん分かるんですけど、音程なんかにしても、自然と気にして合わせちゃうんですよ。それはDJミックスにしても同じで、繋ぐときに前の曲と後の曲の音程も合わせちゃったりしますね。去年、『Mixed Bizness』ってミックスCDを出したんですけど、それも無理矢理エフェクターで音程を合わせたり。あんまり気にしなくてもいいところなんですけど、こだわっちゃうところがあるかもしれない。
— その後、バンドからヒップホップに入っていったきっかけって?
PUNPEE:やっぱり、ビースティー・ボーイズですね。スケボーやってて聴いてる人も多かったし、あの人たちって、バンドとヒップホップのちょうどいいところにいるじゃないですか? あとビースティーの伝記本を読んで、ヴィンテージの機材を使ってアナログで鳴らしたり、機材がずらっと並んでる感じが基地みたいな感じが格好いいと思ったし、なにより壊してはまた作るサンプリングの面白さ、ビースティーの場合、さらにそこにギターを入れたり、生でドラム足したり、ディストーションがかった声でラップしたり。そんなところからラップを聴くようになりましたね。アルバムでいうと、『イル・コミュニケーション』が出たちょっと後、その後に出た『ハロー・ナスティ』がヒップホップ寄りだったから、そこからさらにどヒップホップなものを聴くようになっていって。
— 『イル・コミュニケーション』が出た94年くらいって、オルタナティヴ・ロックとヒップホップがいい感じで接近して、それこそ、PUNPEEくんの最初のミックスCDと同名タイトルの「Mixed Bizness」って曲を出してるベックもそういうセンスの持ち主じゃないですか。ベックの影響も大きいんじゃない?
PUNPEE:ベックの『Odelay』と『Mutations』は親父が聴いてました。それで『Midnite Valtures』で完全にヤラれて……ベックの影響は確かにかなり大きいです。それはもしかすると、TVKを見て育ったこの世代特有の感じなのかもしれないですけどね。
— そして、ヒップホップにハマって、最初はラップじゃなく、トラックを作り始めたんでしょ?
PUNPEE:そうっすね。弟は中学生くらいの頃からラップを始めてたんですけど、俺は恥ずかしくて出来なかったので、俺がトラックを作って、弟にラップさせるっていう。今はもう残ってないんですけど、その頃、MDでS.l.a.c.k.のソロ・アルバムを一枚作りましたよ。内容はオフレコってことにしておきますけど(笑)、スケボーをやって、身の回りのことを歌うって意味では今と変わらないですよ。
— そこからPUNPEEくんもヒップホップにどんどん足を踏み入れていく、と。
PUNPEE:そうっすね、かなり。まぁ、今もですけど、軸にはヒップホップがあって、それはずっと追ってますね。
— ただ、まぁ、ヒップホップにハマっていったら、普通は服装もラージになっていきそうなものだけど、PUNPEEくんがPUNPEEくんであるところの格好も至って普通という。
PUNPEE:いわゆるヒップホップっぽい格好は、昔、やってみたこともあるんですけど、なんか、似合わなかったですね(笑)。高校の時に原宿で黒人の客引きのお兄さんがいる店に友達と入って、格好つけて上下のジャージを買ったりもしたんですけど、似合わなかったんですよ。だから、それ以来、服装はわざとそうしているっていうより、着てるものをただ着てるだけって感じなんですけど、ある意味、特殊に見られがちだったりして。
— でも、こういう普段着でPUNPEEって名前でヒップホップやってたら、そりゃ、特殊に見られるでしょ。最初にPUNPEEくんの存在を知ったULTIMATE MC BATTLEの時に着てたモヘアのカーディガンはホント衝撃的でしたよ(笑)。
PUNPEE:あれ、その時、付き合ってた子に買ってもらったやつを着ていっただけなんですけどね(笑)。まぁ、でも、あのカーディガンはいまだに言われますね。
— 若い頃って、憧れの対象を真似するものだし、似合わなくても、似合わないってことを受け入れられないまま突っ走りがちでしょ? それをしなかったところがPUNPEEくんのオルタナティヴなセンスだよね。
PUNPEE:もともと、トラックを作って、ラップでなんとかしてやろうとは思ってなかったっていうこともあると思いますけどね。それがMCバトルでラッパーとして名前が知られるようになって、色んなことが変わって。
— そのラップにしてもGapperのケツを叩くために20歳で始めたんでしょ?
PUNPEE:はは、そうですね。Gapperと他にあと2人ラッパーとグループをやってたんですけど、何にもしなくて。で、やつらにはフリースタイルをやってることは言ってなかったんですけど、MCバトルに出て、ケツ叩こうと思ったら、いい感じで優勝しちゃって。その2人はなんか知んないけど辞めちゃったんですけど(笑)、Gapperは「オレはやるよ!」ってことで、一緒に今もやってるっていう。でも、そうしたら、今度はトラックも自分が格好いいと思ってる人から話が来るようになって、「あ、やべえ。気合い入れよ」ってことで、トラックも気合いを入れるようになって。
— そして、2009年のAKAIのサンプラー・バトルで優勝してしまうっていう。
PUNPEE:あれは結構酔っ払ってて、後から自分で見ても相当調子に乗ってましたね(笑)。まぁ、でも、気付いたら、こうなってたっていうっていうのが正直なところですよ。
— ただ、まぁ、自然体だとしても、今日着てるのは映画「悪魔の毒々モンスター」のTシャツでしょ(笑)。
PUNPEE:ミックスでメロウにかましておいて、着てるのは超バカなTシャツっていう(笑)。
— そのTシャツに象徴されるアメリカのからっとしたバカバカしさ、エンターテインメント感覚。PSGで参加した曽我部(恵一)くんの「サマーシンフォニーver.2」のミュージック・ビデオに出てくるPUNPEEくんが自分の部屋でアメコミ読みながらゴロゴロしてる感じ、アメリカのB級映画のビデオが積んである正しいボンクラ感は今回作ってもらったミックスからも感じられるというか。あ、これ、もちろん、褒めているんですけどね(笑)。
PUNPEE:はははは。アメコミも中学の時から読んでたし、なんか、そういうカルチャーが好きっぽいですね。ニューヨークに対する思い入れもないし、むしろ自分の部屋とビデオだけ(笑)。今回のDJミックスも車で聴いてもらったり、今年は暑くなりそうだから超アホになった方がいいというか、あんま考えないで聴けた方がいいかなって。だから、今回、難しい選曲はしなかったですね。
— あと、バンドからヒップホップに入っていったこともあるし、高田父のアナログ・コレクションを通じて、色んな音楽に接してきただけあって、音楽の捉え方が広いのもPUNPEEくんの特徴であり、このミックスの特徴でもあるのかな、と。
PUNPEE:そうっすね。ヒップホップを掘ってる時でも、それ以外のジャンルで引っかかる曲もDJの時に混ぜたりしてましたし、それは昔からそうです。今は人から教えてもらったり、ネットで見つけたり、お店でかかってて引っかかった曲を入れることが多いんですけどね。
— いまどきのBPMが早くて、トランシーだったり、エレクトロだったりする曲は今回入ってないないよね。
PUNPEE:そういうものにも好きな曲はもちろんありますけど、なんか、疲れるというか(笑)。逆に今回のミックスに入れたBPM90くらいのブレイクビーツが使われていて、グルーヴがあるものの方が自分は好きっすね。あと生音とかサンプリングの丸い音、スネアも鳴りが良くて柔らかいものの方が好きかもしれないですね。好きなプロデューサーは、ヒップホップを聴き始めた初期に影響を受けたプレミア、あとはネプチューンズ……聴いた時に「あ、こいつのビートだ」って分かるやつには憧れますよね。
— S.l.a.c.k.の場合、CD/データ世代というか、彼の場合、今またアナログを掘ってるみたいですけど、PUNPEEくんにとってそういうDJのディグ・カルチャーは?
PUNPEE:今もネタとして掘るし、ネットが今みたいに発達してなかった頃はかなり歩いて必死に掘ってましたね。まぁ、今もレコ屋は行きますけど、当時は「あ、これ、あのレコードのネタだ」って感じでメモって探しに行ってましたね。たとえば、あるアルバムに入ってる有名な曲はYouTubeに上がっていても、そのB面の4曲目あたりに入ってるような曲はやっぱり掘らないと出会えないので、今もレコードは掘ってますよ。
— ただ、DJの時はほとんどCDでしょ?
PUNPEE:そうっすね。自分で編集した曲をかけたいので。例えば、「ここのパートはいらない」っていう部分を自分でカットした曲をCDでかけたり、音圧が足りない曲にコンプレッサーをかけてCDに焼いたり、マッシュ・アップとかエディットしたくなっちゃうんですよね。で、そういうやり方をしてたら、CD中心になっちゃいましたね。
— いまのPUNPEEくんにとってDJとは?
PUNPEE:いまはDJ1時間の枠のなかでDJプレイとそのなかで自分の曲をライヴでやるのが自分にとってやりやすいスタイルなんですよね。マイクは自分のなかで盛り上がっちゃうと思わず握っちゃう感じだったりして、まぁ、あんま喋りすぎるのもどうかと思うんですけど(笑)、DJの時はホント申し訳ないんですけど、楽しくやるだけって感じです(笑)。発表する場じゃないんですけど、提供曲やその元ネタを入れたり、でも、知らない人にも楽しんでもらえるものっていうことは基本としてはあるんですけどね。。
— 発表の場として、今回のミックスには、RAU DEFくんの「Tropical booty feat. HISTORIOUS (Instrumental)」とPSGの「Wussuup Cheap Show (Mush up)」っていうPUNPEEくん仕事がまず2曲。
PUNPEE:RAU DEFの曲は、去年の夏、YouTubeに上げたんですけど、アルバムに間に合わなくて、結局、YouTubeとWeNodの特典に入れて、今度、アナログで切ります。「Wussuup Cheap Show (Mush up)」はISSUGIくんがやってるMonjuが2008年に出した「BLACK DE.EP」に入ってる「Wussuup」にPSGを被せたもの。ちょっとレゲエっぽいものが入れたくて、でも、普通にインストを入れるのは面白くないかなって思ってたところにガチハマって。
— それから今回のエクスクルーシヴでわざわざ作ってもらったS.l.a.c.k.の「HOT CAKE (So hot sunset remix)」は、後半のエモーショナルな流れのなかで映える、実に素晴らしいリミックスですよね。
PUNPEE:それはよかった(笑)。DJプレイのなかにトラックメイカーの側面も出せたらいいなってところで自然とやりたくなっちゃうんですけど、「HOT CAKE (So hot sunset remix)」はちょっと夕焼け系の感じ。ドライヴに出掛けるぞってところから始めて、夕焼けで終わるっていう、ちょっとエモな感じに終わらせてみました(笑)。今回のミックスは作ってるうちに気付いたら、そういう流れになってたので、後付けなんですけどね(笑)。
— 今後の予定としては2枚目のミックスCDが出るんだよね?
PUNPEE:はい、出ます。ちょっと遅れちゃってて、8月の終わりか、9月の頭。内容は……いま頑張って作ってます。それ以外では、ソロを結構やりたいですね。でも、自分は作るのが早くないんで、まだまだ先の話になりそうです。あとはS.l.a.c.k.のご機嫌次第でPSGですかね(笑)。今後どうなるかは分からないんですけど、自分にとってPSGは、ワンループで聴けるような、それでいてちょっと異質なトラックに3人がラップを乗せるっていうスタイルなので、次にPSGを作る時にはまたそのスタイルでやりたいと思ってますし、3人が「じゃ、やろうか」ってなった時、やることになると思います。
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