この冬、一番気になる服。 WISLOM(OVERGARMENTS)

by Mastered編集部

2016年春夏シーズンから、デザイナー藤内裕司がスタートさせたブランド[WISLOM(ウィズロム)]。アウターのみの展開という、ある種ストイックなデビューコレクションを経て完成した[WISLOM]の2016年秋冬コレクションが、この冬、僕らの心をがっちりととらえて離さない。

都会的でシンプル。だけど、洋服好きのツボをしっかりとおさえた[WISLOM]のアウターは、何故だか無性に"着たくなる"。藤内裕司への単独インタビュー、そしてスタイリスト 池田尚輝によるアウター論を通して、[WISLOM]の魅力に迫る。

Photo:Shin Hamada(P1)、Takuya Murata(P2)、Text&Edit:Keita Miki

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「WISLOMはファッションブランドじゃないよ」ってことを伝えたかったんです。(藤内裕司)

この冬、一番気になる服。 - WISLOM(OVERGARMENTS) -

— まずは藤内さんのファッション的なルーツについてお話を伺えますか?

藤内:幼いころから、ずっと衣食住のいずれかに関わる仕事をしたいなとは思っていたのですが、その中でたまたま自分が興味を持ったのが、”衣”の部分だったんですよね。「こういうカルチャーが好きで」とか、「このブランドに影響を受けて」とか、もっとデザイナーっぽい答えが出来れば良いのですが(笑)。

— 具体的にファッションのどういった部分に興味を持ったのでしょうか?

藤内:ファッション全体というよりは、[Y’s(ワイズ)]のコートがカッコイイとか、[COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)]のシャツが好きとか、アイテム単位で興味を持ったんですよね。当時好きだったアイテムは、やっぱり、今見ても最高に格好良いなと思います。

— ご出身はどちらですか?

藤内:大分です。当時はまだ大分市内にPARCOがあって、そこに入っていたブックセンターがファッションに関する唯一の情報源でしたね(笑)。とにかく時間があればファッション誌を読み漁っていて、高校生の時には「将来ファッションに関わる仕事がしたい」と考えていました。

— ファッション好きの高校生って感じですかね。

藤内:ところが、実は小学生から高校3年生まで、ずっと野球をやっていて、完璧な野球少年だったんですよね(笑)。野球少年が練習や試合の合間に、ファッション誌を読み漁っていたという、世にも奇妙な物語です。

— 高校卒業後の進路は?

藤内:上京して文化服装学院に入ろうということは決めていて、それまでの1年間は大阪にいました。昼間は喫茶店でアルバイトをして、夜は問屋さんの商品補充を手伝うっていう生活。専門学校に入る前に、働きながら1度世の中を見てみようと思ったんです。専門に入ってからは、パターンを中心に洋服の勉強をしました。卒業後はパタンナーになろうと思っていたのですが、紆余曲折して、最終的には[MHL.]の企画、デザイン、素材開発等をすることになりました。

— 実際に社会に出て、企業の中で働いた経験はどのような形でご自身に影響を与えたと思いますか?

藤内:もちろん、働いている中でテクニックや技術といった面では覚えることがたくさんあったのですが、意外と洋服を作っていく上での感覚値という意味では、高校生の頃から変わっていないんですよね。「この生地のこの風合いが良い」とか「このステッチが格好良い」とか、自分が”ぐっと来るポイント”は、あの頃のままなんです。色々な企業で働かせてもらったことで、その”好きなもの”を形にする技術っていうのは格段に向上したと思いますけどね。

— [WISLOM]をスタートさせた経緯について教えてください。

藤内:いずれは自分のブランドをやりたいなと思っていたのですが、良いタイミングでお誘いを受けたというのが直接的なブランドスタートのきっかけです。企業デザイナーとしては、これ以上先に進めないかもなってところまできていましたし、今考えてもすごく良いタイミングだったと思います。

— ブランドデビューから丁度1年を迎えましたが、個人的な手応えとしてはいかがでしょう?

藤内:正直なところ、「本当にこれで良いのかな」って感じですかね(笑)。自分の性格上、色々な方から「すごいね」と言ってもらっても、「もっとこうすれば良かった」とか、常に先へ先へと考えてしまうので……。だから、手応えはまだ全然掴みきれていないです。

この冬、一番気になる服。 - WISLOM(OVERGARMENTS) -

— ご自身では、[WISLOM]というブランドの強みは、どんな部分だと考えていますか?

藤内:[WISLOM]というブランド名は、僕の名前の藤の字を英語にした”WISTERIA”と、”LOOM(織物を織る、機屋)“という単語を掛け合わせた造語なんですが、素材開発に関しては、かなりのこだわりを持ってやっています。まだスタッフの体制も十分とは言えない状況ですが、素材、生地という面に関しては、満足するものを作れているかな、と。自分の服作りは、シーズンを問わず、常に生地とディティールのことは頭の中に平行線上にあって、いざ、「次のシーズンのプランニングをしましょう」となった時に、その平行線上にある生地とディティールをミックスしていく感覚。20代の頃から収集している生地スワッチのコレクションの中から、「これ、意外と良いかも」って生地が出てきたりするので、やっていて面白いですよ。

— [WISLOM]では素材毎に名前が付けられていて、ブランドとして素材を大事にしていることが良く分かるのですが、藤内さんは個人的にどんな素材が好きなんですか?

藤内:メルトンが好きっていうのは、昔からずっと変わらないですね。でも、基本的に普通のメルトンのダッフルコートとかPコートって、重いし、動きづらいじゃないですか。それを何とか出来ないかなと思って作ったのが、『OPERA』という生地なんです。

— [WISLOM]の場合、素材を糸から作っているので、それ相応の時間もかかりそうですよね。

藤内:構想から考えると、1つの素材を作り上げるのに半年から1年くらいはかかっています。マニアックと言えば、マニアックなポイントなのですが、そこはブランドとしてのこだわりでもあるので、しっかりとやっていきたいな、と。

この冬、一番気になる服。 - WISLOM(OVERGARMENTS) -

95,000円 + 税
MODEL: PASCAL
FABRIC:OPERA

— 藤内さんは自身のブランドのアイテムを、自分でも着るタイプですか?

藤内:そうですね。[WISLOM]は、どちらかと言うと、シーズン毎に細かくアップデートを重ねていくタイプのブランドだと思っているので、良く自分でも着用しています。実際に着て生活をしてみると、「このポケットは使わないな」とか、着ることによって見えて来る部分も多いんですよね。

— 1シーズン目はアウターだけにアイテムを絞って展開を行っていましたが、その理由は?

藤内:「WISLOMはファッションブランドじゃないよ」ってことを伝えたかったんです。先ほどもお話したように僕自身、アイテム単位で洋服を見ている人間だし、今の時代、そういう感覚を持っている人って多いと思うんですよ。トータルコーディネートを提案して、「今回のテーマはどうですか」って見せ方を決して否定する訳では無いんですが、[WISLOM]には、そういう見せ方は合わないんじゃないかなと思って。あとは、個人的にアウターが好きっていうこともありますね。折角ブランドを始めるなら、自分が一番好きなものから作って、それをブランドの軸にしたいなと思ったんです。2017年春夏シーズンからは、トラウザーも新たに展開するのですが、それも「こういうアウターを着る人は、こういうトラウザーを穿くよね」という発想なので、あくまでもブランドとしての軸はアウターにあるんです。

— 今後もラインナップは増やし続けていく予定ですか?

藤内:アウターを軸としたシャツやTシャツなど、やってみたいことは色々あります。でも、そうすると必然的に型数が増えて中身が薄まってしまう恐れがあるので、逆にカテゴリーごとの型数は絞って、「これ!」っていう、納得がいく素材が出来て、本当に良い物が出来てからリリースして行けたら良いなと考えています。

— 理想で構わないのですが、藤内さんとしては[WISLOM]の洋服をどんな人に届けたいと思っていますか?

藤内:誤解を恐れずに大きく言うと、個人事業主のクリエイターですかね(笑)。アートディレクションをやっている人だったり、作家さん、カメラマンにスタイリストなど、芯があって、自分の考えがしっかりとしている人達も満足してくれるような洋服作りを出来たら理想的だなと。[WISLOM]はあえてタブーに挑戦しているような部分もあって、チェスターコートとかも本当だったらもう少し綺麗に作りたくなるんですが、あえて芯を全く入れずに作ってみたりとか。そういう部分もユーモアとして見てくれたら嬉しいですよね。

— 自分でブランドを始めたからこそ、気付けたことって何かありますか?

藤内:一番大きいのは、セールス面に関することですね。今までは営業やプレスの「売れるのはこっち」っていう意見に対して、「そうだけどブランドとしてはこうだよ」って反論する立場だったんですが、実際にものを売らなきゃいけない立場になって、全体を見渡してみると、気付くこともすごく多くて。企業デザイナーの立場では、絶対に経験出来なかったことだなと思います。どういう人達に、どれくらいの規模で、どうやって売っていくのか。そういうこともデザインの一部なんだなと思うようになりました。

— [WISLOM]の洋服って良い意味で、特定のカルチャーやバックボーンが見えない服なんですよね。それって、すごく今の東京っぽいなと個人的には思うんです。

藤内:結局、洋服って着る人が選ぶものなので、着て頂く人の色に染まりやすいものを作りたいんです。[WISLOM]は何にも区別されない洋服でありたいと思うし、ジェンダーレス、エイジレスでありたい。その人なりの格好良さが表れる服を作れたら最高ですよね。

— 海外展開も視野に入れていますか?

藤内:うーん……無理に海外に出る必要はないかなと思っています。先ほど、おっしゃって頂いた「東京っぽい」って言葉がミソなのかなと。[WISLOM]の服って、都市部で生活するのに便利で快適なアイテムが多いと思うんです。だから、東京をはじめとした日本の都市部で売れることが、まずは先決ですかね。まだデビューして1年なので、まずは最高のチームを作り上げて、人との出会いや関わりを大事にしながら、その時代にあった発信の仕方を続けて行ければなと考えています。

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