フジロック出演! 大注目の1stフルアルバム『Within And Without』のリリースを目前に控えたチル・ウェイヴシーンの旗手、Washed Outにインタビューを敢行!

by Mastered編集部


メロウ・サイケデリックなサウンド・プロダクションがインディー・ロックとニュー・ディスコ/バレアリックの橋渡しとなるなど、クロスオーバーな広がりをみせているチル・ウェイヴ/グロウファイ・シーン。そのなかで、トロ・イ・モアと共にその代表的なアーティストと目されているのがアメリカ・ジョージア州出身のウォッシュト・アウトことアーネスト・グリーンだ。

2009年のデビューEP『Life Of Leisure』に収録の「Feel It All Around」が瀧見憲司ほか、日本のDJにもヘヴィー・プレイされ、後続の作品に期待が高まっていた彼が初のフル・アルバム『Within And Without』をいよいよリリースする。
初来日した5月のFreaks Music Festivalにおけるバンド編成でのパフォーマンスの流れを受け、生楽器の比重をぐっと増したこの作品はプロデュースをアニマル・コレクティヴやディアハンター、M.I.A.、ナールズ・バークレー他を手がけるベン・アレンが担当。
7月末のフジロックフェスティヴァルでの来日を控え、彼の音楽性の謎に迫るべく、インタビューを行った。

インタビュー・文:小野田 雄
写真:浅田 直也

ニート生活の最中に作っていた音楽にエスケーピズムを意味する何かを見つけたんだ。僕は音楽の中で迷うのが好きなんだよね。

— Freaks Music Festivalのライヴは、作品以上にアップリフティングで、インディー・ロックとダンス・ミュージックの要素が際立っていましたよね。ダンス・ミュージックについてはのちほどおうかがいしますが、インディー・ロックはやはりウォッシュト・アウトのルーツにある音楽なんですよね?

ウォッシュト・アウト(以下WO):もちろん、インディー・ロックは僕のルーツだよ。インディー・ロックのレコードのテクスチャーとラフなクオリティが大好きだから。僕のスタイルにもかなり大きく影響してるし、元々はロック・ミュージックを聴いていたからね。
エレクトロニック・ミュージックを発見したのはもっと後のことなんだよ。ロックの後、ヒップホップにハマってたんだけど、それがエレクトロニック・ミュージックを見つけるきっかけになったんだ。その前はもっとアンビエントでサウンドスケープなアルバムにハマっていたよ。

— 今のインディー・シーンは、作ったばかりのMP3ファイルやCD-Rをポンと発表したり、レコードやカセットがリヴァイヴァルしたりといったリリース・フォーマットの捉え直しと、そうしたフォーマットのいわゆるハイファイではない音質や独特な質感が音楽性と分かちがたく結びついていますよね。

Washed Out(ウォッシュト・アウト)
米国ジョージア州ペリー在住のアーネスト・グリーンによるソロプロジェクト。NYの重要インディ・ポップ・レーベル「メキシカン・サマー」からリリースされたEP『Life of Leisure』が話題を呼び、チルウェイヴ/グローファイシーンを代表する存在として頭角を現す。今年7月、ついに1stフルアルバム『Within And Without』をリリースするインディシーンの注目株。

WO:実用的なレベルで言えば、質素なベッドルームに機材をセットアップしてレコーディングするのがどんどん簡単になってきてる。だから単純に、その影響もあるんじゃないかな。
そして、僕にとってローファイであることっていうのは、最初は大事な要素だったんだけど、そういった音の質感が自分の音楽を定義するとも思っていなかったんだ。
だから、ベッドルームを出て、本格的なスタジオでレコーディングした今回のアルバムは、自分の音楽をより上手く、そして実際に形として定義する試みだったと思うよ。

— そして、ウォッシュト・アウトの音楽を語る際、引き合いに出されるチルウェイヴ/グロウファイという呼称は、ちょっとした言葉遊びでありつつも、インターネット発のムーヴメントであるという指摘が非常に興味深い気がします。そうした考え方について、そして、あなたが住んでいるジョージアの土地があなたに与えた影響は?

WO:ジョージアの生活から直接影響は受けていないね。逆の意味で、最初に自分の関心をインターネット上のマイナーな音楽に向かわせたのは、成長期の時、自分の周りにあったくだらない音楽に対する反抗心だったんだ。そして、多くの人々が、誰かとコラボレーションをする代わりに一人で音楽を作るようになった現状は10年前や20年前とは違うよね。
ただ、一般的に言われているチルウェイヴというタイプの音楽を、僕はもう何年も作り続けているわけだけど、そうした音楽は自分自身の中から自然に出てきたものなんだ。ジャンルとかムーヴメントとか、そういういったことは、あまり気にしていないね。もちろん、音楽を語る際のキーワードが作品を分類するのに必要不可欠なのは分かっているけどさ。
実際、チルウェイヴとして分類されてるどのミュージシャンも最初からチルウェイヴ・ミュージックを作る事を目指してるわけじゃないと思うんだよね。

— もちろん、それはよく分かりますよ。じゃあ、質問の角度を変えますが、同じジョージア州在住のトロ・イ・モアとは音楽的にはどのような共通点があり、そして彼のどういったところに刺激を受けているんでしょうか?

WO:僕は彼のファンだし、彼の音楽はとても消化しやすいんだ。具体的に言葉では上手く伝えられないんだけど、僕たちの音楽の中にはシェアしてる共通の感覚があると思う。
だから彼とよく比較されるのもなんとなくわかるよ。ただ、僕らの違いを見つけることのほうがもっと面白いとは思うけどね。
チャズ(バンディック:トロ・イ・モア)は本当に多彩で、驚くほど色々なやり方で音楽を作ることができるレアなミュージシャンだと思う。今回、彼が新しいアルバムで、より生で演奏することにこだわったことは、僕も共感できるところだったよ。実際に僕もアルバムでそういうものを目指したしね。

— そして、あなたの存在を一躍知らしめることになった「Feel It All Around」はゲイリー・ロウ「I Want You」をスクリュー・サンプリングしたアプローチが画期的だった名曲ですが、あの曲はどのような発想で生まれたんですか?

WO:僕はピッチダウンしたりスローダウンする音楽が好きだったんだ。そうすることで、曲のフィーリングやムードを完全に変えることができるし、色んなテクスチャーを強調することができるからね。
そのアイディアがあの曲をもとに、ゲイリー・ロウのループをスローダウンさせたんだ。その結果として、僕自身も心からエンジョイしてる、あのメロウなムードを作り出すことが出来たんだよ。

— ウォッシュト・アウトのサンプリングからはある種のヒップホップ・マナーが感じられますが、あなたの場合、ブラック・ミュージックのフィーリングではなく、サイケデリックなインディー・ロックのエレメントが際立っています。ヒップホップからはどんな影響を受け、自分なりに消化しているんですか?

WO:僕のファイヴァリットは、多分DJシャドウじゃないかな。でも、ストーンズ・スロウにも大好きなアーティストが沢山いるよ。
僕がヒップホップで影響を受けているのはビート。あと、ヒップホップが持つ、趣があって映画みたいなあの質感からも影響を受けている。

— そして、「Feel It All Aroud」で使ったゲイリー・ロウのレコードは、コズミックと呼ばれる70年代イタリアのレフトフィールドなディスコでプレイされていた曲として、近年再発見された作品だったりします。コズミック・ディスコやバレアリックと呼ばれるレフトフィールドなディスコ・ミュージックにはどのような影響を受けましたか?

WO:僕は、音楽の引きの部分とフロウ、そして音楽がどのように構築され、どのようにクライマックスに達するか、そうしたことを感じながらダンスミュージックを聴くのが好きなんだ。
だけど、僕はクラブに行ったりはしない。僕がピックアップしたクラブに対するイメージは、全部映画から来ていると思う。
そのうえで、ダンスやクラブが中心の伝統的なディスコに比べて、コズミック・ディスコでは、感情的な面や知的な面で、より色んなことが起こってると思うんだ。その点に惹かれるよ。
実用レベルで言えば、コズミック・ディスコのサウンドが本当に大好きなんだ。アナログのシンセサイザーとか、アルペジオとかね。

— いまお伺いしてきたように、あなたの音楽は、様々なジャンルを多角的に組み合わせたクロスオーバーなものですが、あらゆる時代、あらゆる音楽にイージー・アクセス出来るインターネットの音楽アーカイヴはあなたの作品に影響を与えていると思いますか?

WO:自分の音楽への影響は本当に大きいよ。インターネットなしでウォッシュト・アウトの音楽が作れるとはとても思えないな。
インターネットで見つけた、大々的には知られてない音楽の多くからインスピレーションを得ているしね。サンプル・ベースのマテリアルに関してはもっと影響を受けてる。
そういう音楽は、まさにインターネットで見つけた細々とした物からできてるからね。

— そのうえで、デビュー・アルバム『Within Or Without』はソング・オリエンテッドな作品であるように思いました。どのような作品を構想して、作業していったんですか? また、あなたが理想とするソングライターとは?

WO:アルバムの大半はジョージアの田舎にある湖のそばのコテージで書いて、レコーディングしたんだ。そのあと一週間くらい、ジョージア州のアトランタにある本格的なスタジオで、(アニマル・コレクティヴ、ディアハンター、M.I.A.、ナールズ・バークレー他を手がける)プロデューサーのベン・アレンと一緒に作業して、レコーディングとアルバムのミックスを仕上げた。 制作には5ヶ月かかったよ。アルバムをどういうサウンドにしたいとか、特にそういう決まったゴールは持ってなかったね。
でも、避けたかったことや避けたかったサウンドなら沢山あった。結果、それが主にレコードを具体化させたんじゃないかなと思う。確かにメロディーにフォーカスを置いていたし、ソング・オリエンテッドな作品になっているよね。
このアルバムに関しては、ダンス・ミュージックの影響をミックスしたポップ・レコードを構想してたんだ。具体的には、ビートをメインに持ってくることで、トラックを構成する他のサウンドを押しつぶしたくはなかった。それって、クラブ中心のダンス・ミュージックではよくあることだと思うし、そうなると、かすかな感情のシグナルがすぐに消されてしまうからね。
とにかくダンス・レコードやヒップホップ・レコードのような、偏ったものは作りたくなかったんだ。理想とするソングライターというか、影響を受けたのはやっぱりDJシャドウかな。彼の音楽は、音楽作りに対する僕のアプローチを変えたし、彼の影響でポップ・カルチャーをベースにしたヴォーカル・チューンを作り始めたんだ。

— 先日、ユートピア指向の新作をリリースしたフレンドリー・ファイアーズが「今の僕たちの世代は、将来が約束されていないし、安定とか保証がない。だから、開き直っているところがあるし、今を楽しく生きなきゃいけないなっていう思いも強くある」と語っていたのですが、ウォッシュト・アウトの「Life of Leisure」というタイトルやその音楽性から感じられるエスケーピズムやファンタジーはどこから生まれたものだと思いますか?

WO:実は『Life of Leisure』っていうタイトルは、皮肉の意味を持っているんだ。
というのも、この作品をレコーディングしていた時、僕は仕事もせず、親の金で暮らして、家にほとんどいないような、偽りの娯楽生活を送っていたからね。
そして、そんなふしだらな生活のなか、作っていた音楽にはエスケーピズムを意味する何かがあったんだ。
個人的に、僕は音楽の中で迷うのが好きなんだよね。ウォッシュト・アウトの作品を聴いたみんなのリアクションも自然とそうなったらいいな。

Washed Out『Within And Without』

2011年7月6日発売予定
※日本先行発売

YRCG-90060 / 2,300円
(よしもとアール・アンド・シー)

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