馬場圭介と加古光雄の「U.K.入門」

by Mastered編集部

「U.K.のことをもっと知りたい!」というとき、誰に聞いたら良いだろう?そりゃあ、U.K.に住んでいたことのある先輩たちに聞いてみるのが一番だ!というわけで、20代の頃、ロンドンに住んでいた(しかもルームシェア!)という超大物お2人に、僭越ながらU.K.初心者を代表して、質問してきました。これさえ読めば、今すぐキミもU.K.通?

Photography:Takeshi Abe
Edit:Yusuke Asano(Mastered)

Q1:UKで今一番いけてる洋服屋はどこですか。

馬場:ないね。イケてる洋服屋とかセレクトショップなんてない。どこも全然新しくないし。ロンドンで絶対に行くのは、セルフリッジかハロッズ、それからハビー・ニコルス、リバティと全部デパートだね。

加古:馬場さんはどちらかというとスタイリスト目線的だよね。僕の場合は、やっぱり、服を作ることを念頭に置いちゃう。工場や生地屋、ボタン屋とか、そういうところを見ることが多いんだけど、やっぱり馬場さんがいったみたいに、すごく恰好良いっていうお店自体は少ないね。

でも、アイディアソース的なことでいえば、馬場さんと一緒に住んでいた頃からマーケットが圧倒的に面白い。日本でいうフリーマーケットみたいなところね。そういうところは突出していて、日本やアメリカと比べるとセンスも良いし、恰好良いものが見れる。ひとつだけ、イケているショップをあげるとすれば、以前、ダファー(*編集部注:ダファー・オブ・セント・ジョージのこと)をやってたエディ・プレンダーガストのショップ「PRESENT」はいいんじゃない?ちょっと日本的なんだけれど。

馬場:そうだね、PRESENTは行くかな。でも、イギリスっぽい独特の雰囲気のセレクトショップってないよね、今。もう東京もニューヨークも全部一緒だし。

Q2:最近、面白いと思うUK発のファッションやアイテムはありますか?

馬場:ファッションは色々あるだろ(笑)。ニューウェーブ、ニューロマンティック、パイレーツ、パンク。でも、今のロンドンに、独特のファッションなんかないよ。若い子はB-BOYっぽいし、ちょっとおしゃれな人はプラダだったり、そういうもの着てるし。独特の格好してる人はもういないし、それはもう、世界的に一緒だよね。どっちかというと、恰好良いと思うのは、仕立ての良いスーツを着たハット被ったお年寄りとかね。そういう恰好良い人はいっぱいいるけどさ。

加古:馬場さんと一緒に住んでいた80年代の頃って、まだ情報がこんなに世界的に広まっていないし、インターネットもなかったからね。

馬場:今ほどアメリカナイズされてなかった。だって[ナイキ(NIKE)]を知らないヤツが平気でいたしね。

加古:スニーカー文化がロンドンには極端になかった、当時は。そのころアメリカではBーBOY的なラッパーの兄ちゃんみたいなのがいっぱいいて、それに憧れて「スニーカーを買いたい」という人がたくさんいたんだけど、ロンドンではスニーカーが何しろ売ってなかったからね。だからNYCで[アディダス(Adidas)]のRUN DMCモデルを買って帰ったときに、ものすごい高い値段で売ってくれって、言われたくらい(笑)。その頃からちょっとは変わり始めていたんだろうけど、やっぱり情報が圧倒的に、東京は東京で情報量が少ないし、ロンドンはロンドンで少なかった。情報が少ない=独自性があって、スタイルも全然違うっていうのは、その頃まではあったのかもしれないよね。今はもう、ロンドンのおしゃれな子達も、ドイツのおしゃれな子達も、ニューヨークのおしゃれな子達も、割と同じような流れになってきている。

馬場:でも、やっぱり昔からスタイル変えてない人が一番恰好良いな。50’Sから全然かわらない格好してる浮浪者のカップルとか、そういうのが。

加古:いるいる(笑)。ビシッとリーゼント決めたおじさんとおばさんが浮浪者やってるんだよ。でも、今でも田舎に行くとそういう感じなんじゃないのかな。

馬場圭介(ばばけいすけ)
スタイリスト
1958年生まれ。28歳で渡英し、帰国後スタイリストとして活躍。
加古さんとは旧知の仲で、ロンドンでルームシェアしていたことも。

Q3:UKで今一番イケてる人を教えてください。

加古:ちょっと音楽よりだけど、ポール・ウェラーかな。今でもよく街歩いていたりするけど、やっぱり恰好良いよね、僕らの世代からすると。ずっと同じスタイルでね。若い人たちから尊敬されるおじさんだな。まぁそういう意味で一番ピークのような気がするんだけどね。

馬場:U.K.の昔のミュージシャンって、日本の矢沢永吉とはちょっと違うんだよね。永ちゃんも恰好良いんだけど、なんかこう違うんだよね。なんだろうね、文化なのかな生活なのかな。それは、俺から見て外人だからそう思うのかもしれないんだけど、ミックジャガーにしてもなんか違う気がするんだよね。

加古:3年くらい前に、ブライアン・フェリーを街で見かけたんだけど、ものすごく恰好良かったよ。ダイムラーの運転手付きのリムジンの後部座席にいたんだけど、黒い革のトレンチコートに白い革の手袋して、白いマフラーをしてクルマに乗ってたんだ。やっぱりそういうスタイルを変えないがゆえに、恰好良く見えるということはあるよね。

馬場:若い頃は流行を追っていてもいいけれど、年取っても同じだと格好悪いじゃん?

加古:逆に普通のサラリーマンの人とかあまりファッションに興味ない人は、最新流行のものを買うよね。

馬場:普通の人は「人と同じものを着ていれば安心」という考え方をするんじゃない?でも、おしゃれな人って人と違うものを着ようとする、そこの違いかな。

加古:あと、その人に似合う服っていうのもあるしね。

Q4:気になるUKブランドってありますか?

馬場:強いてあげるなら[ベルスタッフ(Belstaff)]と[バブアー(Barbour)]かな。

加古:僕は、洋服の制作側の仕事も多いので、やっぱり昔から伝統的に残っているブランドが気になる。ベルスタッフを例に挙げれば、もう100年も前に素材を開発して、それがそのまま今でも残ってる。ちょっとイタリアの資本がついていたり、日本のデザイナーがちょっといじったりして、今風になってるっていうのが、やっぱり面白い。伝統に則りつつ、少しだけ変わってるというのが、どっしりとしていて良い。

加古光雄(かこみつお)
NK店主
サヴィル・ロウのテーラーが愛用する道具から
現地のファクトリーで作ったオリジナルまで展開するショップNKの店主。

Q5:加古さんのいう「どっしりしたブランド」って、ほかに何がありますか?

加古:昔からある、例えば[チャーチ(Church’s)]とか。チャーチでも今、新しく流行ってるのあるじゃない?スタッズのヤツ。ああいう風に長い歴史があって、スタイルもあったうえで、少し変わっていっているものは良いしね。あと、今年、オリンピックに行ってたんだけど、チャーチのお店がオリンピックを前面に出してたのね。でも、なんかオリンピックモデルみたいなのいっぱいやってたんだけど、他のところってあんまりそういうのって良くなかったりするんだけれど、チャーチは良かった。あれはでも、プラダの会社っぽさが出ているけどね(笑)

馬場:プラダが買収してよかったよ。

加古:すごく良い形のイギリスのブランドになってるよね。まぁ、それはバブアーで十紀人さん(※編集部注:[トキト(Tokito)]デザイナー吉田十紀人氏のこと)がやっているヤツも人気あるし、そういうブランドは今は特に人気あるね。

Q6:「イギリスの飯はまずい」日本でまことしやかにつぶやかれるこの噂、本当?

馬場:そんなのウソウソ。知らないだけだろ(笑)まずいところにしか行ったことないんだよ、そういう人は。

加古:80年代後半からそんなことなくなってるからね。コンランのおじさん(*編集部注:サー・テレンス・コンランのこと)がレストラン始めてから、イギリスの食文化っていうものはものすごく進んで、それ以前のときはそういう事情があったかも知れないけど。今なんかは、ミシュランの星付きレストランがイタリアよりも多いんだから。

馬場:その前から俺は好きなんだけどな。でも、イギリス飯まずいってやつ多いけど、お前がどんだけうまいもの食ってんだって話だよ。そういうヤツは、ただ単にまずいって聞いて、まずいって自分で思い込んでるだけ。

加古:ただ、田舎の昔からあるパブなんかに行くと、確かにスタンダードのレベルは低いんだけど。

馬場:でも、カレーもうまいし中華もうまいし、ベトナム料理もうまいし。フィッシュアンドチップスだってうまいっすよ。

加古:例えば、スーパーマーケットとかいくじゃない?スーパー自体はもちろんアメリカの会社なんだけど。オーガニックのスーパーの大きいのって、もう日本の比じゃないよ、進み具合が。食に対する文化のレベルが日本が高いって言うのは伝統的に格式の高いレストランいっぱいあるからだけれど、イギリス人の一般の人たちはもっと意識が高いよね。アメリカ的なジャンクフードを食う人も、もちろんいっぱいいるけど。

馬場:まずいって言うよりも、昔は出てきたもんに、自分で塩と胡椒で味付けして食うっていうスタイルだからね。自分で味とつくるっていう。でも家庭料理は不味いところは不味いんだろうな。たいしたもの食ってなさそうだな。

加古:それは日本でもそうでしょ。

馬場:パリのがおいしいよ?そりゃ(笑)。でも不味いっていうほど不味くはないと思う。どっちかって言うと美味しくない方が近いかな。強いてあげれば。不味いって食えないってことじゃん?食えなくはないし、美味しい所は美味しいし。

加古:レストランは本当にたくさん種類があるよね。僕が思うのはサービスの質が高い。日本的なサービスじゃなくて、楽しく過ごせるようにしてくれるってこと。友達とご飯を食べにいくとすると、8時に予約してご飯食べて、デザート食べて、食後のお酒を飲んでっていうのをちゃんと楽しめるレストランは明らかに多いね。そういうのってやっぱり文化の違いなのかもしれないけど。もちろん、食に対するマナーは細かくあるんだけど、でも確かに楽しい。それから、家でご飯を食べたりって言う習慣もなかなか日本では少ないでしょ?楽しく食事する機会は、ヨーロッパ全体もそうだけど、イギリスも多い。ただ、うまい不味いでいったら、フランス料理のがうまい(笑)

馬場:何度も言うようだけれど、食いもんはパリのが絶対うまい。でも、ロンドンも不味くないっすよ。

Q7:コレは不味い!という食べ物は?

馬場:俺が一番イギリスの友達と食ったなかで一番すごかったのは、食パンにチップスを挟んだサンドイッチだな。初めて見たとき、これはスゴイと思ったね。

加古:それ定番でしょ!イギリス学生の。

馬場:へぇ、そうなんだ。でも、この前『アカン警察』の「アカン飯」で「おかきをご飯の上にかけて食う」っていうのも見たし、まぁ一緒か(笑)。でも、そのサンドイッチを見たときは結構驚愕だったね。しかも、それがおやつじゃねえ、夕飯っていうのが。

加古:ロンドンにスタジオを持っていた頃、デザイン学校の貧乏学生が良く来ていたんだけど、結構食べていたんだよね。俺も、そのときまで知らなかったんだけど、安いカフェで、朝昼晩食べるんだけどさ、学生はお金がないから、一番安いのを頼むんだよ。それがトーストとチップス。それだけを頼むと、あとはケチャップかけたり、ビネガーかけたりするんだけどさ。でも、その組み合わせって、冷静に考えたらスゴイ食べ物だよね。

僕が一番食えなかったのは、ジェリード・イール。ファリントンの横に有名な古いイングリッシュレストランがあるんだけど、そこのジェリード・イールが超有名で。でも、これは食えなかったね。味がないんだよ。恰好良い店なんだよ、200年前くらいの建物で、レストランの内装も変わってないようなところでさ。サービスもめちゃめちゃ良いんだ。しかも、他のものは別に不味いわけじゃないんだよ。でもさ、ジェリードイルはさ、うーって吐くんじゃないかと思う不味さ。

馬場:ジェリード・イールは一度食べてみたいと思いつつも、食べたことないんだよなぁ。でも、好きだよね?イギリス人は。家庭で作ったりしているもんなぁ。発想は日本でいう煮こごりみたいなもんでしょ?

加古:食えると思ってたんだけれどね、日本人的には鰻をああいう風にして食べられないなぁ。

Q8:逆に、UKで一番好きな食べ物は?

馬場:一番はイングリッシュ・ブレックファストだな。薄いパンと、ねっとりとしたソーセージ、焼いたマッシュルームにビーンズ。三食これで良いと思うよ。

加古:それは僕も同じで、未だにロンドンにいったときには、フルブレックファストを絶対食べる。最近だと、スピタルフィールドのマーケットの向かい側にある角の古い建物のブレックファストがかなりうまい。

Q9:UKで立ち寄るべきご飯屋さんは?

馬場:中華は「Four Seasons」だね。ここのチャーシューは絶品ですよ。狭い店だから、予約しても絶対待たされるんだけれどね。

加古:ベトナム料理もおいしい店があるよね。ロンドンの東のほうに。パリのベトナム料理屋さんとはまたちょっと違う感じなんだよ。

馬場:ベトナム料理はパリより下世話でカジュアルでうまいね。

加古:本当はあんまり教えたくないんだけれど、ホクストンスクエアから出てすぐの、中二階のお店はうまい。新聞屋とクリーニング屋の間っていうのがヒントだね。ベトナム料理屋は、本当にここ10年くらいだよ。

馬場:ヒントというか、名前覚えていないんだよな(笑)。あの辺にいけば、おいしい店が何軒かあるよ。パブならウェストボーンパークロードの「THE COW」が好きだな。コンランの息子トム・コンランがやっているんだよ。結構、お洒落なんだよね。しかも、最近はパブ飯がおいしくなっている。ソーホーとか街中のパブは絶対不味いと思うんだけれど、ちょっと外れた住宅街のパブとかはおいしいところが多い。

「THE COW」
http://thecowlondon.co.uk/bar_menu.html

加古:今は、中心地に気の利いた店があんまりないんだよね。若者はイーストエンドに行っているし、今度は東があんまり流行っぽくなりすぎているからといって、西のポートベローのほうに引っ越している人たちもいる。ポートベローの一番奥のピザ屋も良いんだよなぁ。ついでにいうと、その先のフィッシュアンドチップス屋もうまい。

馬場:俺はフィッシュアンドチップスなら、予約を取らないステーキ屋の向かいにある「ザ・ゴールデン・ハインド(THE GOLDEN HIND)」が好きだな。ここも知っている人は多いと思うけれど、あんまり教えたくない(笑)。イギリス人なら絶対自分のお気に入りのフィッシュアンドチップス屋を一軒は持っているよね。

加古:僕はね、ボンマスのフィッシュマーケットの2階のところ。そこがうまい。ロンドンからクルマで2時間くらいかかるんだけれどね。60年代のモッズたちは、ブライトンよりボンマスに遊びにきたというくらい、お洒落なところだよ。

馬場:うどんだったら「こや(KOYA)」、最近出来たんだよね。で、カプチーノだったら、「バーイタリア(Bar Italia)」。ここのコーヒーはうまいな。わざわざいきたい店だよ。店内にはさ、ロッキー・マルシアノのポスターと本物のグローブが飾ってあっったりして格好良いんだよね。

加古:ソーホーって元々イタリア系のマフィアが多かった街で、そういう色っぽいところだったんだよね。80年代からずっと雰囲気も変わっていない。

「こや」
http://www.koya.co.uk/
「Bar Italia」
http://www.baritaliasoho.co.uk/

Q10:UK初心者が行っておくべきスポットは?

馬場:そりゃもう大英博物館とテートギャラリーだろ。あとは、ロンドン塔の宝物館エリザベス女王の王冠を見るだけでも結構良いぜ?

加古:イギリスがどういう国かというのを、良い意味でも悪い意味でも知っておくのは、必要だよね。

馬場:あとはマーケットかな。マーケットに行けば何かしら好きなものあるよ。洋服もレコードもアクセサリーもあるし。晴れた日曜日のカムデンとか、ぶらぶらしているだけで一日終わっちゃうよね。

加古:あとはパブと公園だよね。変なところに行くよりは、公園を歩くっていうのがイギリスらしい過ごし方かな。今でも、日本から来た人を案内するときは、どこかにそういう一日を入れるようにしている。公園で何もしない、というのがイギリスを感じられるんだよ。

馬場:ハイドパークに行って、ピーターパンを探すとかね(笑)。

加古:移動はバスがいいね。地下鉄に乗ってしまえばもちろん早いんだけれど、雰囲気は伝わらないし。風景を見ながら、街を眺めながらね。

馬場:ナイトバスもあるし。基本的に24時間なんだよ。貧乏な頃は、ナイトクラブで夜遊びしてナイトバスでソーホーの中華に行ったなぁ。

加古:あの頃は本当にくだらないことやってたなぁ(笑)。

Q11:日本でUKを体験できるスポットは?

馬場:こっちが知りたいよ(笑)。ここ(*編集部注:加古さんのショップ「NK」のこと)じゃねえか?日本でさ、「イギリス飯食いにいく?」とかねぇしな。

加古:いつもイングリッシュブレックファストみたいなものを食べたいと思って探しているんだけれどさ。東京って日曜日の早朝、ご飯を食べにいくところがないんだよねぇ。時間の過ごし方がイギリス的という意味で、週末の朝という時間帯に、ゆっくりご飯をたくさん食べられるところがあればいいんだけれどね。

馬場:でも、別に東京でロンドン感じなくてもいいじゃん?行くしかないよ。ロンドンに行ったことないやつが東京でロンドン感じられるわけないしさ。

加古:それもそうだ。3万円とかで行けるんだからさ、行ってみるのが良いと思うよ。

ここまで読み進めると、U.K.に行ってみたくなったでしょ?さっそく大先輩のアドバイスを参考にしつつ、この冬はロンドンに行くべし!