『TOMONI行こう』足利敏浩(BLUE LUG オーナー)

by Mastered編集部

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TOMONI

— 今、多い時で一日どれくらいのお客さんが来ますか?

足利:えぇ…、数百人ですかね。

— 今日(平日の夕方)も、ひっきりなしでしたもんね。

足利:洋服屋さんで、お店の人がお客さんの顔を知ってたり、名前を覚えてるっていうのが少なくなってきてますけど、ウチはすごいですよ。もうお店をはじめてから知り合ったお客さんなのか、元々仲間だったのかが分かんないくらい(笑)

— それはすごいですね。昔から友達だった、くらいの繋がりになっているんですね。

足利:そう。通販で買ってくれる人も、物質的にはイイモノを買ったと思えるんでしょうけど、それを友達に見せびらかして「それイイなぁ」とか言われたり、一緒に乗ったりできたら、もっと楽しいんじゃないかなぁ、って僕は思うんですよね。

— 「おっ、それどこで買ったの?」「うん、通販」…こんなでは、話も発展しなさそうですしね。
ところでお客さんと一緒にどこかへ行ったり、なんていうのもあるんですか?

足利:この間、でっかいバーベキュー大会やりましたよ。

— みんな自転車で、ですか?

足利:場所がすごく遠かったから自転車じゃない人もいましたよ。何店かの共同開催みたいな感じだったんですけど、とりあえずすごい数の人でした。

— 共同開催といえば、今オリジナルのフレームを企画なさってるんですよね?

足利:はい。ウチみたいなお店のほんとの先駆けって、ディーポ(DEPOT)さんていう市川にある、このリロード(R.E.LOAD)ってバッグの代理店をずっと6年くらいやってるお店なんですよ。そこと葛飾堀切のジャン(JAN)っていうお店と、パンチサイクルっていうかなりオタクなお店があって(笑)。そこにウチを加えた4社で。
やっぱり早い時期から走り出してたから仲いいんですよ。まだ何もないときに手探りでやってたから。
それでその4社で、『トモニ(TOMONI)』っていう名前で自転車作ってます。

— つきあいが制作にまで発展してるんですね。

足利:その『トモニ』って「ともに遊ぼう」のトモニなんです。ともに楽しもう、とかってとこから来ていて。やっぱりピストっていうシーンが大きくなってくると、ビジネス的に入ってくる人もいるだろうし、色々混沌としてくるじゃないですか。

— 関わる人が多くなると、それはありますよね。

足利:そのなかで大切なのは人と出会って、楽しくやっていこうよ、っていうことかなって。ちょっと出不精だった人も、自転車に乗って外に出て遊んだり、お店に行ってコミュニケーションを取ったり、そういう「ともにやっていこう」っていうところから生まれた自転車を作ろうと。
なぜ作ることになったかって言うと、企画した段階では今以上にピストが手に入らなかったから。フレームが見つかっても、全部組むとなんだかんだで20万円くらいしちゃう。それをなんとかしたいって。
そこから、完成車でも日本人の体型に一番合うようなサイズで、ある程度絞った数量で4軒で無理なく販売していけるような、カッコイイピストを作ろうって始めました。春に完成車で出します。

トモニの完成車<br>120,000円(予価)<br>(BLUE LUG)<br>※写真はサンプルのため商品は<br>仕様が変更される場合があります

トモニの完成車
120,000円(予価)
(BLUE LUG)
※写真はサンプルのため商品は
仕様が変更される場合があります

— それで、どのくらいの価格なんですか?

足利:12万円くらいかな。でもこの値段じゃありえないようなクオリティですよ。
日本のメーカーにも『トモニ』のコンセプトや企画を理解してもらって、賛同の上一緒にやるのが『トモニ』の考え方なんで、日本の競輪のパーツを作ってるメーカーさんにも協力してもらってます。
普通に日本のパーツを使って組んだら法外な値段になっちゃう企画なんですよ。でも、まずは取り組みを大きくしてから、それから自分たちの利益とか考えましょうね、っていう形でやってるからこの値段で抑えられてます。

— この企画の旗ふり役はどなたなんですか?

足利:ディーポ、ジャン、ブルーラグの3人で飲んでたんですよ。それで、シーンの現状について熱っぽく話してるとき、ちょうどそこにメーカーの人がいたんです。自転車を作ってるメーカーの人が。それでその場で「やってもらってイイっすか?」って。

(一同笑)

足利:そうしたら「明日社長に話してみる」ってなって。それでこの社長がまたよく分かった方で、ちゃんと理解してくれて、その取り組みに協賛してくれることになりました。

サイクルモード時のトモニブース。

サイクルモード時のトモニブース。

— トントン拍子なんですね。

足利:サイクルモードっていう日本で一番大きな自転車の展示会があって、そこに『トモニ』でブースを出してくれたんです。そうしたらすごい盛り上がって。
サンプル車を飾って、それを装飾する意味で、取引のある海外のこういうバッグのブランドに「オレたち、こんなコトやってんだよ、『トモニ』はTOGETHERって意味だから一緒にやろうぜ」って言ったら、みんな『トモニ』のイメージにあったバッグとかを、バンバン送ってくれて、それをブースに飾ったんです。

— イイ繋がりですね。

足利:それで自転車だけじゃなく、こういう身の回りのモノも大きく広がって。世界同時多発的に。

— あぁ、ファッションで乗ってる人が多いのかと思ったら、みんな好きなんですよね、繋がりとかが。そういう話を伺ってると僕も乗りたくなってきちゃいます。

足利:きっかけはみんなファッションだと思うけど、変わってきますよ。僕、洋服屋さんに行ってお店の人と話すことなんてそんなにないと思うし、ましてや他のお客さんとなんて「それ買ったんスか? イイっすね」なんか言うわけもないじゃないですか。それが当たり前に言えちゃうんですよ。で、お店の外でパーツを付け替えてたら、他のお客さんがやってくれるんですよ。「それ、ここを締めればイイんですよ」とかって。
そういうのは洋服屋じゃ無かったなって。

— なるほど。洋服屋ではお客さん同士が「コレとコレを合わせればイイんだよ」なんて言わないですもんね(笑)

足利:でも、ほんと聞くんですよ。迷っちゃってるお客さんとかには、違うお客さんにも聞いちゃう。わざと振ってるっていうのもあるんですけど。例えばお客さんから「コレ、どっちですかねぇ?」って聞かれて「オレは赤だと思うけど、どう?」って別のお客さんに振ると、今度はそのお客さんが「青だと思う」って。それで「違う違う違う」って余計悩んじゃう、みたいな(笑)
そういうのをやったりするのが僕らは楽しいから。

— 小売りの理想ですよね、個人商店というか八百屋とかの感覚に近い感じで。

足利:そう。僕らの考えだと、ちょっと話デカイけど…

— はいはい。

足利:今ネットを使った海外通販とか当たり前でしょ。だけどそうやって一生懸命パーツを集めて、かっこいい自転車が組めたとしても「で?」っていう感じじゃないですか。

— 分かります。

足利:ウチにある商品も、他のネット通販しているお店で買えば、1,000円安く収まるなんてことがたくさんあるんでしょうけど、それも「で?」 って感じで。1,000円高くても、店で買ってくれたら3,000円分くらいの楽しみを提供できるし、困ったら助けますし。お金とかじゃなくて。
クリックするだけじゃなくて、いろいろ話をして買い物したモノの方が、もっと大切に思えますから。それを知ったら、通販しなくなっちゃうと思うんですよ。その店を差し置いてまで。

ウチ、身近な仲間と考えた開店当初に想定してたレイアウトは、かなり小ぎれいだったんです。僕、原宿でお店をやっていたんですけど、そのときもニューヨークの地下鉄みたいな、ギャラリーみたいなアーティスティックな空間が気になってて。キレイな白い空間に大きなガラス張りで、Tシャツ1枚をキレイに飾る、みたいな。でも、オレ居づらかったんですよ。会話も弾まなかったし。
そんなこともあって、なかなかうまくいかないなって思いがあるなかで考えてたら、逆になっちゃったんです。できるだけグチャグチャ、でもグチャグチャなんだけど、商品は意識して並べてます。パっと見で把握できちゃう店でありたくなくて。変な場所にあるから、電車賃とか交通費を使ったり、自転車いっぱい漕いで汗だくで来てくれたのに、パっと見て「うん、何もなさそう」っていうのはすごく嫌だなぁって。だからストック出すんです。ダンボールも置いたりして。

(一同笑)

— 昔の洋服屋にあった「あっ、何か入荷してきたな」的な感じですよね。

足利:とりあえず今のところはそういうのが受け入れられてるみたいです。さっきも言いましたけど、それこそ自転車でも感性の仕事だと思ってて。カタログ的な紹介とかギャラリー的なのって、感性じゃないと思うんですよ。カッコ良くは見えるかもしれないですけど、でもちょっと自分で探し出したり、人からのアドバイスを参考に実際に着たり付けたりしていくなかで、「これイイじゃん」っていう風になって買って欲しいなぁ、って思ってます。そういうの幸せでいいじゃないですか。探せるお店。
だから高いモノもあるけど、超安くてバカっぽいアメリカのモノとかも置いてます。振り幅っていうか。

— そうですよね。それがブルーラグの魅力だと思います。
ピストに乗るようになって何か変わりました? 例えば着るモノとか。

足利:服は、個人的なことを言えば、トップスは普通にジャストでパンツは太めで「細めのパンツなんて気持ち悪ぃ。あんなもんオンナの穿くもんだ」なんて思ってたんですけど、いつの間にかかなり細めになりました(笑)

— (笑)最初に乗ってた頃は太めでしたよね?

足利:ダブダブのジーパンを穿いてましたね。でも変わっちゃうんです。服を選ぶときも、どこか自転車のことは考えてます。でも、「いかにも」っていうのはイヤなんですよね。

— 僕も乗るようになったらパンツが細くなったり、革靴を履かなくなったりするのかなぁ…。でも、やっぱり細いパンツは無理だなぁ(笑)

足利:でも革靴で乗れるっていうか、傷つかないペダルパッドっていうのも必要だなぁって思ってます。

— それこそサラリーマンが通勤に使いたいっていう需要もあると思うんですよね。革靴でトゥークリップだとやっぱり不安ですけど、靴が傷つかないパーツが出てくれれば、買ってみようかな、ってなると思います。

足利:ほんとそうなんです。裾を細くまとめるのもチェーンに巻き込まないようにするためなんですけど、そういうバンドとかを装着しなくても巻き込みを防止するパーツもあるんですよ。いまちょっとカッコイイのが出て来てるんです。

— イイですね。それは欲しいなぁ。

足利:そういうのを仕入れなきゃなぁって。そうすれば細身のパンツじゃなくても大丈夫。

— 「オシャレはガマン」なんて言うけど、ガマンし過ぎちゃってるのは逆にカッコ悪いですし。

足利:そうですね。

— ジャケットとかスーツを着ながらピストに乗りたいですもん。超カッコイイと思いますし。

足利:今は出してないけど、nari/furiでストレッチが効いたスーツとかやってたんですよ。それを作ってくれた子も、元々格好がアメリカっぽかったのに、ピストに乗るようになってから変わって。同じように思ってそういうの作ってました。

— ピストに乗りやすいカッコイイ服が増えたら、もっとシーンも広がるでしょうしね。

足利:某ブランドのデザインをやってる森さんが作ってる「輳(SOU)」っていう服とか、アレキサンダー・リー・チャンが作ってるのとかもやってますよ。あと、balも「VOO」っていうピスト向けのラインを作ってます。みんな自転車好きだから、いい感じで。

— あと、ブレーキを付けるのがカッコ悪い、みたいな風潮が変にハードル上げたような気がしてました。

足利:関係ないですよ。

— 今は付けてる人も多いですよね。

足利:そうですね。カッコイイブレーキがあるし、付けたいと思うブレーキがありますから。

— 「ブレーキ付いててもイイんだ」っていう流れが大きくなれば、彼女とかとも一緒に楽しめますしね。
それと、もうひとつ気になってたことがあるんですが、ピストに関して何の情報も持ってない人が店に行って、はじめて買う時のサポートって、充実してるもんですか?

足利:自転車屋さんってちょっと敷居が高いっていうか、無知な人にイヤな対応をしがちなんですけど、ウチは絶対それをナシにしようって。

— 高い自転車を扱っているお店って、そういう印象で行きづらいですからね。中目黒とかにありがちな。

足利:ウチでも自転車をすごく遠くに止めてくるお客さんがいるんです。恥ずかしいんでしょうけど、そういうのを見ると「あぁ、ウチもまだまだだなぁ」って思っちゃう。どんな自転車でも店の前に止めて、サラッと入って来れるような敷居の低さ的なものを目指したい。

— 誰もが入りやすい店っていうのは、理想的ですよね。

足利:自分も3年前は何も知らなかったわけじゃないですか。 何がタブーかも分からなかったですし。だから、知らないのが当たり前ってことで、やっていきたいなと。それと別に自転車は固定ギアに限らなくて全然イイわけですから。固定に乗っててフリーギアにも乗ってる人ってたくさんいますから。固定ギアでカッコイイのを、フリーギアで表現すればイイだけですから。

— 自分が乗ってて楽しい、っていうのが第一ですよね。なんだかイイ話が聞けちゃいました。
これをアップしたら、またお客さん増えちゃうと思いますよ。

足利:ほんとですか? ヤバイな(笑)

— まずはこの辺の身内から(笑)

足利:こういう人たち、めんどくさいんだよなぁ…(苦笑)

(一同笑)

足利:本当にこだわるから。「予算18万円」って言ったのにどんどんいいパーツ選んじゃって、最後は「無理だよぉ」なんて言う。こういう人たち、すごくカッコイイのを組むし、一緒にやってて楽しいんですけど、とにかくめんどくさい。

(一同笑)

足利:洋服とかもいいモノを見ちゃってるから、たいがい高いのを欲しがるんですよね〜。

— 耳が痛い…(笑) 買う時は気をつけないとですね。
本当に楽しかったです。今日はありがとうございました。

手前味噌ではありますが、ピストについてはもちろん、商店としてのあり方も考えさせられる、いいインタビューだったと思います。
なんとなくピストについてネガティブな印象を持つ方も少なくないと思うのですが、ルールとマナーとモラルを守ればとても便利で楽しい乗り物なんですよね。
足利氏の人柄が色濃く出たブルーラグに、是非一度足を運んでみてその雰囲気に触れてみてください。

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