自転車にもミックス感覚
— またちょっと話が変わりますが、いま都内でピストを組めるお店っていうのは結構増えてきているんですか?
足利:多分、完成車がすっごい増えてて。以前は競輪のフレームを使うっていう選択肢しかなかったんですけど、今は5〜6万で完成車が買えて、それをだんだん自分用に変えていくっていう人がすごく多い。とりあえず固定ギアっていうものの乗り味が分からないから、試してみるっていうのは僕もアリだと思いますし。「オレ乗れるのかな?」っていうのもあるだろうし、あんまり最初からお金かけて乗らなくなっちゃうのは…っていう人は、とりあえず買ってみるのもいいのかもと思います。それでハマれば、部品を替えて自分の思い通りに変えて乗ればいいですし。そうすると恐らく完成車のフレームじゃ満足できなくなっちゃうと思いますけどね。
— そうでしょうね。
足利:そしたら新しいフレームを買えばイイし。そこに部品を載せ変えて。
— あぁ、逆の発想ですね。最後にまたフレームを替えるっていう。面白いですね。
足利:ピストって、規格が全部一緒っていうわけじゃないんですけど、かなり絞られてるんです。競輪っていう競技自体同じ条件の元で競わなきゃいけないから。
— では、サイズだけの差って感じですか?
足利:ほぼそんな感じですね。だから載せ替えるのも結構楽なんです。
— なるほど。でもスケボー以降、多少BMXとかもありましたけど、ここまでストリートを席巻するカルチャーってなかったですよね?
本当に色々な要素、例えばエコブームとかガソリンの高騰、健康志向などが、ちょうどうまくハマったっていうのもあるんでしょうが。
足利:とりあえずウチは30歳前後のお客さんが多いです。
— まさに僕らの世代ですね。
足利:買いやすくなってからは若いお客さんも多くはなったんですけど。やっぱり少し贅沢なモノだから、お金とか時間に多少余裕ができた人じゃないとなかなか厳しいんですよね。そういう人たちってやっぱり僕らと近い世代で、なんていうか、前にジーパンとかスニーカーを「おぉ、これは○○年代のあれだから超レアじゃん!!」って盛り上がってたのと同じことがピストでも行なわれてるんです。「こんなステムがオークションで出てきたよ!」って騒いでみたり。こんなバカみたいなことを、同じ趣向の人たちと楽しく話せるのは久しぶりですね。
— いいですね、そういうの。やっぱり男はそれですよね。
やっぱりピストでもヴィンテージの○○…みたいなのにハマっていくものなんですか?
足利:そういう人もいますけど、ヴィンテージのジーパンにギャルソンのシャツを合わせちゃうみたいに、今や自転車も何でもアリになっちゃってますから、ずっとファッションやってきた人と同じように、その人の感性がすごく反映されますね。
昔の自転車乗りの人で、こだわっている人は年代だったり、ジャンルだったり、ウェアにもこだわってるみたいですけど。
— その辺は洋服とまったく一緒ですね。コスプレ的というか、その年代からそっくりそのまま抜け出てきたような人がいるのは。
足利:でも、僕らはまったく関係ないですから。
— ミックス感覚ですよね。
足利:これなんてウチがオリジナルで作ったサドルなんですけど、ヴィンテージのサドルをモチーフにして、出来るだけ忠実に型は再現してるんですけど、素材はふざけたい。
— 遊び的な要素を入れ込んでおくわけですね。
足利:ただの物真似では終わらせたくないんですよ。だから、素材は極端にふざけてやろうと思って。サバみたいのとかカーボン風とかドット柄とか…
— 「リプロダクト」ではなく、ということですね。…こんな話、前も誰かとしたなぁ(笑)
足利:確かに形はすごく良いんで、そこに僕らなりの感性を加えていきたいですね。
— ちょっとお聞きしたいんですが、ピスト乗り同士の評価、例えば「アイツ、ダセー」みたいなのってあるんですか?
足利:う〜ん、やっぱり避難の的になりやすいんですよ、ピストって。ブレーキ問題とかもあって。ずいぶん無くなってはきたんですが、やっぱりいまでもチョイチョイ話題には上りますしね。だから、そういう負のイメージを助長するようなマナーが悪すぎる人なんかは、ちょっと嫌だなぁとは思います。
— 車道を逆走、とか?
足利:そうそう。事故った人に聞くと、事故るなりのことをやってますし。新しい乗り物ですけど、みんなすごくピストが好きで、これからもずっと乗っていきたいと思っているから、そのシーンを縮小させるような行為はできるだけしないで欲しいです。
— 素晴らしいです。この年代の余裕というか、ゆとりを持って乗って欲しいですよね。
足利:僕なんてずっと自営業をやってきて、人間関係が偏りがちだったんですけど、今は自転車に乗る人はみんな仲が良いんで、いろんな人がまわりにいますし。例えば店の棚が壊れれば「ちょうどウチ大工いた」って直してもらったり。
(一同笑)
足利:お客さんがステッカー用の絵を描いてくれたり、そういうのが楽しいですよね。
— あぁ、なんかそういう自然な繋がりは美しいですね。理想ですよ。
足利:今までの人生では会えない人と会えますから。
— だから、「店に来よう」っていう空気が流れてますもんね、BLUE LUGには。
でも、今も通販はしているんですよね?
足利:一応やってはいますけど、積極的にはしてないです。まず店に1〜2週間並べてから通販に出してます。
— タイムラグは作ってるんですね。
足利:作ってますし、在庫があと2個とかになったらオンラインショップからは消してます。あくまでもお店優先。
— 通販で多いのは遠方からの注文ですか? それとも都内からも来ますか?
足利:近くの人も多いですね。
— やっぱり、自転車でもそうなんですね。
せっかく近いなら、お店に行ってコミュニケーションを取って買ったらイイじゃん、って思うんですけどね。
足利:いくらキレイに写真撮って、イイ謳い文句を載せて、それが通販で売れてもなんだか寂しいんです。こんなに良いモノなのに、「ちゃんと伝えられるかな?」って。
うちで扱ってるバッグなんか、ハンドメイドなだけにステッチがガタガタだったりもするんですよ。だけどそれを「この時は眠かったのかな?」とか…
(一同笑)
足利:そういう、商品が作られている背景なんかを考えながら冗談半分でお客さんと話して、それで売れた方が楽しいですし。実際ね、元々は通販で100%売り上げるイメージでのスタートだったんだけど、今は全然。ほとんどお店の売り上げですから。通販は商品カタログ的なイメージと、お店の雰囲気を伝えるためのツールだと思ってます。
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