シアター芸術概論綱要 Vol.04
“俳優 村上淳” Produced by theatre tokyo

by Mastered編集部

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柿本— ムラジュンさんって、何にカタルシスを感じるんですか? リミッターを外すとか、さっき話してた監督の後ろにいたいっていうのもそうだとは思うんですけど、「これがあるから次にいける」っていうようなものはありますか?

村上:たぶん、僕本人はそんなに世の中に対して伝えたいことが無いんだろうね。だからこそ、誰かが書いた脚本にのれるというか、こういうことがやりたいって監督に頼るんだけど、実は充実感みたいなものって、毎回自分の中にはほとんど無くて。やっぱり、それは足りないんだよ。これはネガティブな発言じゃなくて、自分自身でも毎日反省するところ。どうやったら自分のスケールを上げて、横にも縦にも伸びて行けるかって考えるんだけどね。カタルシスっていう部分では、5年でも10年でも良いんだけど、時が経ってから、ふと街で「あの作品よかったっす」って言われる瞬間かな。僕は良い意味で、映画だったら興行成績、テレビだったら視聴率にへこたれないから。もっと長いスパンで作品を見ているし、それに耐えうる作品に出たいなとは思ってるよ。

柿本— その「出たい」って感覚にも色々あって、もちろん役者としては大きな作品には出たいじゃないですか。でも僕ら撮る側としては、大きな作品ほど撮りづらいなとは思うし、ある意味ではそれが映画界だとは思うんですけど、実感として三宅くん(三宅唱)みたいな監督って、なかなかいないですよね。

村上:今日僕はヒロシくんの話から始めたけどさ、結局は90年代っていう時代が“ムラジュン”っていうのを押し上げてくれた部分はあるんだよ、確実に。その頃はインターネットも無いから、雑誌にすごくパワーがあった。多分みんなインターネットが出てくるのをどこかで察知してたんだろうね。だからみんな雑誌に夢中になった。その中で僕はとにかく自由にやらせてもらっててさ、例えば、僕ってスタイリストを付けたことが無いのね。だって、その方がリアルじゃん。でも、稀だとは思うよね。僕が20代の頃は周りにジョニオくん(高橋盾)だったり、NIGO®くんだったり、色んな人がいて、面子も条件が揃っていたから、いきなり「6ページ頂戴!」とか言っても企画が通った訳だし。すごく面白かったんだけど、ある日そういうことに全く興味が沸かなくなって、その興味が何処に向かって行ったかっていうと映画だった。

ちょっと話が逸れちゃったけど、たしかに三宅くんみたいな才能のある人間は珍しいよね。でもさ、本人を目の前にして言うのもなんだけど、柿本ってすごいと思うよ。うねりがあるんだよ。それは三宅くんにもある。柿本が回ると、どんどん人が巻き込まれていく感じ。世の中をリードするフロントマンっていうのは、俳優とか歌手とかタレントに多いけど、その感覚に近いよね。特にそのフロントマンって意識はミュージシャンが強く持っている傾向があって、例えばThe Birthdayのチバくん(チバユウスケ)。あとは最近、NHKの『八重の桜』で共演して友達になったんだけど、Dragon Ashのkj(降谷建志)。kjは本当にフロントマンである意識が高くて、フロントマンが何を我慢して、何を受け入れ、何を断るのか、全部理解してる。柿本にもそういう部分ってあってさ、だから僕は柿本のことをすごく信頼してるよ。無理にでも柿本と僕が矢面に立てば、何かが共有出来るじゃん。本当はそこから何かが生まれていって、雑誌でもインターネットでも洋服でも飲食でも何でも良いけど、循環すれば一番良いんだよね。今はそのループがどこかで止まってしまっているから、復活させないと。今って、みんな、お金も情報もすごくたくさん持っているけど、”ユーザー”にはなっていないんだよ。僕は情報が入ったらすぐに行動する。「ここで個展がやってる」って情報が入ったらすぐに行って、”ユーザー”になる。情報だけ持ってる人って、僕からすれば「で?」って話な訳で、なんか歳のせいもあるのかもしれないけど、最終的には行動する人間のほうが強いと思うんだよね。今って、普通に暮らしてるけど、実はすごいことが起きてるわけじゃん。5Dが登場して、それをiPadひとつで編集出来ちゃう。でも、それを共有する場所がYouTubeだけっていうのには、すごく違和感があるんだよ。そういう想いもあったから、柿本がtheatre tokyoを立ち上げるって言った時、僕、大賛成したじゃん、良く分かって無かったけど(笑)。タレント性のやりとりっていうのはさ、良く分からないものの方が格好良いし、興奮する訳だよ。「何これ?」っていうさ。

柿本— そういうものって本来は「無いんだったら作れば良いじゃん」って話だと思うんです。シンプルに。場所がなければその場所つくればいい。ただ、時代が巡り巡って、今は作りにくかったり、もしくは、似たようなものがありすぎて、散らばっちゃったり、表向き、ちゃんとしたものは、権利関係の問題で途中でつまずく。そうして、お金の部分でまわらずに結局つぶれて減ってきたりしてます。ムラジュンさんはそういう実感はありますか? もしくは本質を表現できる場所が減って来てるから、もっと作って欲しいとか。

村上:僕はプロデューサーでは無いし、一俳優の領域からは出ないけど、ただ、毎日色々な映画館に行って、とにかく色々な映画を観てる。本当に分け隔てなく観るから、ある意味ではマーケティングが出来てるんだよ。この映画館にはこういう人が多くて、驚くぐらいビッグバジェットの映画が公開2日目の午前中にガラガラとかさ、少なくとも都内に関しては肌ですごい量の情報を持ってるわけ。こんなことを人前で話すのは初めてなんだけど、俳優が映画館のことを考えるべきか?って言ったら、僕は考えるべきだと思うんだよ。自分にオファーがかかった映画が、どのくらいの公開規模で、どこの映画館のシアターいくつで公開されて、そこのキャパはどれくらいでってことを知っておくのは、長いスパンで見て悪い事では無いと思う。やっぱりスクリーンで見られてなんぼ、って思う部分はあるしね。柿本とも話したけどさ、映画ってみんなが思っている以上に日常に無いんだよ。昔、川久保玲(Comme des Garcons)さんが言ってたんだけど、「良いものはお金が掛かるってことだけは知っておいてください」って言葉があって。今は安くて手軽なものがもてはやされる時代だけど、良いものは高い。一流の人がデザインして、一流の人が縫って、一流の人が接客したらさ、そりゃやっぱり高くなるじゃん。でも、今はそういう考えって欠落していて、価値観が再構築されてる。まぁ、面白い時代だよね。

少し話は変わるけど、さっき10代の頃は映画観てなかったって言ったけど、一応は観てたわけ。先輩と話あわせる為だとか、女の子にモテたいって理由で。本で例えるならジャック・ケルアックの「オン・ザ・ロード」とか、多分これを読んでれば格好良いんだろうみたいなもの。で、読むじゃん。結果、「なげぇー」って思う(笑)。とにかく長い!ぐらいの印象しか無い。でも読むには読むんだよ。読んだから、こうやって話してて、女性が入ってくると、この話が急に「ケルアックがさ~」とか、「ブコウスキー、いいよね」みたいな話になる。そういうことだよ(笑)。でも、それがちょっとしたきっかけで、ある時、本当にハマりだすんだよね。僕、2年前から写真にハマってるんだけど、きっかけは韓国のインディー映画でカメラマンの役をやったこと。小道具も衣装も自分で用意しなくちゃいけなかったから、柿本にライカを借りたんだけど、実際にライカを持つじゃんか。それまでは全然ライカに興味無かったんだけど、良いものって実際に持つとさ、侵食されていくんだよね。ゾクゾクって。それでハマっちゃって、カメラは未だに柿本に返して無い(笑)。今ここに女の子がいても、写真の話になったら、「ちょっと黙ってて! 今写真の話してるから。」言うもんね。そういう”逆になる瞬間”って映画の現場でもあって、面白いなって思うよ。いきなり映画とか写真って言っても難しいけど、ファッションの分野でもスキルってあるじゃない。同じように映画を観るのにもスキルってあるんだよね。それが何かっていうと抵抗さえ無ければ良い。良いじゃん、分からなければ分からないって言えば。寝たければ寝れば良いんだよ。

柿本— 『Theater Lounge vol.3』で流したシークレット・ムービーでもショウジさんが「他人がイイっていうモノは観たほうがいいぞ。良かったら良かったですねって言えばいいし、良くなかったら良くなかったですねって言えばいいし。そっから会話が生まれるんだ」って話をしてましたね。

村上:僕もあの一言で再確認したんだけど、ジョニオくんも、ヒロシくんも、パンクなんだけどBeastie Boysが良かったら聴くし、ジャンルに縛られずに良いものは良いって言うよね。それって、勇気とコツが要ることだと思うんだよ。今はこれだけSNSも発達してるけどさ、とにかく動くってことじゃないかな。経験値にして行かないと人生面白くないじゃん。映画をいくら観ても演技が上手くなるわけじゃないし、やっぱり有機的なものが欲しい。あとは毒があるもの。そもそも、僕の場合は「分からない」ってスタンスに対して、恥ずかしさがあんまり無いんだろうね。だから、分からないことがあったら聞けば良いし、教えてあげれば良いと思う。まぁ、誰が言うのかっていうのも重要でさ、10代のころは30代の人がいう事なんて一切耳に入らなかったからね。2、3個上の先輩に「これ良いよ」って言われて初めて「まじっすか!」ってなる(笑)。その点、今は誰が何処で発信しているのか分からないからさ。インターネットの時代になって生まれたのが、コピペ。コピペがあると、オリジナルがどこか分からなくなっちゃうんだよね。EYESCREAMの人の前で言うのも失礼な話だけど、要するにMastered見ようが、honeyee.com見ようが、Houyhnhnm見ようが、コピペなんだよ。だから僕は今、全部の情報源、情報発信者から同じくらい距離を取ってる。僕自身も今、模索している最中だから、正しいのは自分かって言われたら全然そうでは無いと思うんだけど。でも、大橋くん(大橋トリオ)の”HONEY”って歌にもあるじゃん、「趣味なんて違っても一緒に笑い合えれば良い」みたいなさ。まだまだ世の中は面白いものに溢れてると思うんだよ。まだ歌舞伎もオペラも見に行ったこと無いし。

柿本— 人がびっくりするくらいバカなことも、ダメなことも、遠回りも、ふんだんにやってきたムラジュンさんですけど(笑)たとえば、道に迷った時にこうする、みたいな哲学はありますか?

村上:迷った時はシンプルだよ。絶対に困難な方に行く。

柿本— そういうシンプルな選択をまさか生死がかかっているような場所でも突き通せるのが、淳さんの凄さですよね。

村上:今考えるとぞっとするようなことも沢山あるけどね(笑)。今でも気にすることなんだけどさ、本質って見失いがちじゃない。映画で言うなら、こういう共演者がいて、バジェットがこれくらいでって言うのは、本質では無いよね。世の中、本質同士の話を避ける傾向にあるからさ、絶対に折れちゃいけない部分っていうのもあるとは思うんだけど、もっと本質同士の話をした方が良いよ。いま、こんな時代だから。本質の話を。