シアター芸術概論綱要 Vol.03
“映画監督 橋口亮輔” Produced by theatre tokyo

by Mastered編集部

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映画『監督失格』のDVD

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柿本— 今回の『ゼンタイ』は全身タイツ愛好家の人たちにフィーチャーした作品ですが、この発想はどこで?

橋口:全身タイツ自体は昔インターネットで映像を見て、その時は”ゼンタイ”っていうのが全身タイツの略語だってことさえも知らなかったけど、なんとなくこれが映画のポスターになって、タイトルが『ゼンタイ』だったら興味を惹くだろうなと頭の中にインプットされていました。色々な事を乗り越えた後だったので、重いものは作りたくないし、コメディとかやりたいなって思っていた時に”ゼンタイ”の存在を思い出して。それで実際に取材してみたらすごく楽しくて、最初は短編のつもりだったんですが、撮っているうちに長編になったって感じですね。

柿本— 『ゼンタイ』はまさしく絶望の先に向かう話でしたよね。

橋口:そうですね。「いい人ぶってるクソみたいなやつより変態の方がマシですよ」ってセリフが象徴的ですけど、今の僕の中の表現を煮詰めないで、そのままストレートに出している作品だと思います。完成されていなくても良いから、平野がAV嬢を撮ったように、俺も撮らなきゃと思った。

少し話は変わりますけど、『ぐるりのこと。』ってタイトルはある作家さんのエッセイの中に出てくるタイトルの引用なんです。だから、映画を発表する時にその作家さんに一応引用のお断りを入れておこうと思って、制作会社の人間に頼んだんですよ。で彼が「いまから新潮社に電話いれます」って電話して、ものの3分ぐらいでOKの返事が出た。やたら早いなとは思ったんですが、そのまま映画の制作は進み、その完成披露試写の際に観客からタイトルに関する質問が出たので、僕は当然「○○という作家の方のエッセイから引用しました。ご本人からOKも頂いています」と答える訳ですよね。そうしたら、その観客が書いたブログを見た作家さん本人から「OKなんか出していない」というクレームが出てきて、僕は『ダ・ヴィンチ』などの複数の全国誌で、その作家から「恥知らずな映画監督」と非難されました。要は制作会社の人間が嘘の電話をして、嘘の報告を僕にしていたってことですよね。もちろん、僕はその制作会社の代表であるプロデューサーにクレームを入れましたが、回答は「そんなこと言ったってしょうがないじゃん。こうなると思ってたけどね」だって。まぁ、結局これも僕を鬱状態に近づけるための一環だったって話です。で、今回の『ゼンタイ』では自分の生の部分を出していこうと思ったから、このエピソードを若い役者さんに全部話したんですよ。すると彼女たちはこの話を主婦達のエピソードに落とし込んでくれた。何の落ち度もない主婦が、言葉で伝えればきっとわかってもらえると信じて立ち向かっていき、ボロボロにされていく話を完成させた。あの主婦はまさしく僕なんです。自分が否定され続けた姿をこうやって映画にして外に出すと、また色々と言われそうですが、すごく緊張感のある良い場面になりましたよ。自分の身をもって体験したことが、一番力をもって人に伝わるんだってことを再認識しました。今の世の中ってものすごく理不尽なことが多いじゃないですか? でも、そこからなんとかして自由に、楽しく、少しでも丁寧な人生を送ってもらえたらなと。そんな想いがこの『ゼンタイ』には込められています。

柿本— 今日、ここで話してくれたことを映画にする気はありますか?

橋口:新しい映画を作るたびに色々なことがあって、作るたびに映画が嫌いになりそうになるんです。1回1回膨大なエネルギーが要るし、時間も掛かりますしね。でも作れるチャンスがあるならば、作ろうと思っていますよ。さっきも話しましたけど、今回の出来事を経て、とりあえず自分のありのままを外に出していくってことを許しても良いんじゃないかと思えるようになった。絶望も多いし、理不尽なことばかりだけど、今は楽しくやれていて、助けてくれる人もいる。作りたいって気持ちも無くなってはいないので、焦らず、今の自分に作れるものを作っていけば良いんじゃないかなと思っています。

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【映画『ゼンタイ』】
8月31日(土)よりテアトル新宿にてレイトショー
原案・監督・脚本:橋口亮輔
音楽:明星/Akeboshi
出演:篠原篤、中島歩、成嶋瞳子、岩崎典子ほか
製作・配給:テンカラット、アプレワークショップ、映画「ゼンタイ」を応援する会
http://zentai-movie.com/