シアター芸術概論綱要 Vol.02
“ミュージシャン TOSHI-LOW(BRAHMAN)” Produced by theatre tokyo

by Mastered編集部

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柿本— 当時はどれくらいのペースで被災地に足を運んでたんですか?

TOSHI-LOW:一番最初は茨城とか、福島あたりに行って。そのすぐ後には既にライブもやり始めていたんですけど、震災直後、なんか表現を自粛しろみたいな雰囲気があったじゃないですか。その時、とっさに「これは返って今ライブをやるべきなんじゃないか」と思って。それで馴染みのライブハウスに電話したら「半年先のスケジュールまで全部飛んだ」って言うから「なら空いてるだろ? 俺らがやるわ」って言って、二週間後には自分の地元でもある水戸でライブをしてました。もちろん電力の問題とか色々な反対意見はあったんだけど、俺はそういう部分はずる賢いので「日曜の昼間なら工場も動かないし、電力余ってるでしょ」とか、予想される反対意見に対しての反論は全て用意しましたね(笑)。でも、そういう色々な批判の中でライブをするっていうのが、自分たちが初期にしていたことと似ている部分もあって。価値観の置き場所が似ていたんですよ。そこからはもう各地を行ったり来たりですね。

柿本— その行動力がほんとに素晴らしいと思います。気持ちで動く行動と頭で考える行動と、右脳と左脳の使い方のバランスもすごい。そういった意味でもやはり、それまでずっとメジャーとか、アンダーグラウンドっていうところとは関係ない独自の場所でやっていたBRAHMANも3.11をきっかけに変わった? やはりそこがターニングポイントだったんでしょうか?

TOSHI-LOW:実際そうですね。恥ずかしながら自分たちが、メジャー、アンダーグラウンドっていう極論を避けて上手くやって来てしまったボロがすごく出たと思うし、「お前、本気なの?」ってことをすごく突きつけられた気はします。「命がけ」だとか、「ステージで死んでもいい」とか言葉にはしていたけど、「本当に本気だったの?」って言われたら、やっぱりそうじゃなかったんじゃないかとは思いますよ。

柿本— それは今、音楽をやっているバンドの方々でも言われてドキッとする人たちがたくさんいるかもしれませんね。

TOSHI-LOW:どうなんですかね。ほんとに言うのは簡単ですから。実際、3.11で「仲間だぜ、ファミリーだぜ」とか「ひとつになろうよ」って表で言ってる人たちが一目散に逃げるのを見てきたし。でも、別に避難することが悪いなんて思っていないし、家族がいる人なら気持ちは分かるけど、「歌っている内容とあまりにも違うだろ」ってのはありますよね。たとえ作り物や虚構のものだとしても、俺はそこまで自分に嘘をついたものを売りたくないなと思う。作り手である自分が出来る最大限の誠意として、自分の作ったものからは嘘を出来るだけ省きたい。ピュアな状態のままで買ってもらいたいっていうのはやっぱりあって。

BRAHMANの最新アルバム『超克』

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『超克』

柿本— 抽象的な話にはなってしまうんですが、一つの楽曲単位ではなく、TOSHI-LOWさんがやってる“音楽”全体で、人をこういう風にしたいとか、こういう風に感じて欲しいとかって漠然とでも良いんですが、何かあったりするのでしょうか?

TOSHI-LOW:特にはないですね。他人がと言うよりは自分がどうしたいかということしか基本的には考えないです。でも最終的に評価を求めていないかと聞かれれば求めているし、他人の反応も絶対気になってはいるんだけれど、やっぱりそこにも順番があって、自分を奮い立たせるものとして、自己満足的な部分が一番最初にあるから。ただ年齢を重ねるごとにその自己満足も、ただ自分の心に置いておくよりは、当たり前だけれど人に差し出した時に、数字で現れる評価よりも目の前の人に「よかったよ」とか「ありがとう」って言ってもらえることの方が順番が勝ってきた。そういうものも自己満足という大きな枠の中に入ってしまっていることもあって、それはもう単純なナルシズムみたいなものでは無いと自分では思っているんですけどね。

柿本— 大きな自己満足ですよね。ちゃんと循環している。広い世界を見ているからこそ、感じれる自己満足。あえて順番を付けるならばどういった感じになるんでしょう?

TOSHI-LOW:それがね、今自分で言っておいてなんなんですけど、実際には複雑に入り混じっちゃっていて。正直なところ、今までは自分の表現活動に対して言われる「ありがとう」って言葉に対して、どこか「けっ」て思うような部分もあったんです。自分の為にやっているだけで、別に褒められたくてやっているんじゃないと思ってた。でも、まだ余震がある中でチャリティーライブをやって、そういう時に来てくれた子たちに泣きながら真剣に「ありがとう」って言われたら、「関係ねーよ、ただの自己満足だよ」なんてとても言えなかった。自分がもらうものがあまりにもデカすぎたんですよね。今はそういうのがマーブル模様みたいに混ざっているから、何かを抜き出して順位を付けることはすごく難しい。かといってやっぱり、表現は“他人のため”にやっている訳では無くて、“自分のため”にやっている。しかもその割合が年々、肥大してきているっていう部分もあって。同時に自分の為にやってきたくせに、自分なんてどうでも良くなる、二の次になるような瞬間もあるし、難しいですね。

柿本— この連載、『シアター芸術概論綱要』ってタイトルで、これは宮沢賢治の『農民芸術概論綱要』って本から引用したものなんです。この本の中で彼が言ってるフレーズの一つに「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない。自我の意識は個人から集団社会宇宙と次第に進化する。新たな時代は世界が一の意識になり生物となる方向にある。正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識してこれに応じて行くことである。われらは世界のまことの幸福を索ねよう。求道すでに道である。」っていうフレーズがあるんです。これって「人間が人間として次のフェーズに行くためには、“個”としての意識を捨てて、“銀河全体での個”としての意識に成長しそこに幸福を感じていかなければいけない」ということな気がして、今の話を聞いていて、同じようなこと言ってるなって。早くも締まったというか(笑)。
もう最終壇のような気持ちになりました。

一同笑

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