シアター芸術概論綱要 Vol.02
“ミュージシャン TOSHI-LOW(BRAHMAN)” Produced by theatre tokyo

by Mastered編集部

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TOSHI-LOW:少し重複してしまうけど、ミュージシャンじゃ食べて行けないっていうのが今の子は分かってるんじゃないのかな。メジャーっていうデカい部分は残されていますけど、「一旗あげてやる!」みたいな子もいないし、現状は不思議な熱量に包まれていますね。

柿本— そういう熱量の中で、この先TOSHI-LOWさんはどこへ向かっていくつもりですか?

TOSHI-LOW:自分は全てにおいて、人間臭い方しか求めていないので。だから、「人間として」っていうのが頭につく方の道に行こうかなと。その感覚って全ての人にとって違って良いと思うんだけど、例えば買い占めている人と、分け与えている人を見て、どちらが「人間として」って言葉があてはまるかを考えたら、俺は買い占めている人にその言葉は付けられない。人間として弱くても良いですよねってことではなく、自分が損しても1つその先に進んでいくような人になりたいっていうのはすごくありますね。

柿本— 若い人たちに向けて、「音楽をやりたいんだけど、食っていけるか分からないから悩んでる」みたいな子が目の前にいたらなんて声かけますか?

TOSHI-LOW:まず、そういう感覚がすごく不思議ですよね。時代が恵まれていたのかもしれないけれど、自分がバンドをはじめた時は「失敗するかもしれないし、リスクを負うかもしれない」なんて考えは当たり前すぎて、頭の中に無かった。だって何か行動を起こしたら、プラスもあればマイナスもあるのは当たり前だから。そこで駆け引きをする時点で少し難しいんじゃないかな。仮に全てを捨てて入ってきても、最後には必ず沢山お土産を持って帰れると俺は思ってるし。逆に言えば、両手を離して来た人以外は何も持って帰れないですよ。色々準備をして、理論武装をしてきてしまった人は「自分が求めていた音楽はこんなんじゃなかった」、「自分が求めていた映画はこんなんじゃなかった」と言って時間を無駄にする。全てを捨てて、裸で飛び込めるかどうかってところかなと思いますけどね。

柿本— すごく良い考え方ですね。両手に荷物をたくさん持って入ってきてもそれ以上もって帰れないけど、両手が空だったらたくさんの物を持って帰れる。それって実際の生活の中だけじゃなくて頭の中っていうか考え方、思想に関しても同じことなんですよね。

TOSHI-LOW:今の子たちは知識がすごいから。何でも知ってるから「ああでもねぇ、こうでもねぇ」って言い訳出来る。なんかそういう人が多すぎますよね。もっと本当に直観というか、正しい、正しくないなんてどうでも良いんですよ。賛否両論が無い表現なんて無いし、そんなことを怖がっても仕方ない。3.11の前は自分も知らず知らずの内に、そうなってたのかなと反省しつつね(笑)。

柿本— この前の『NO NUKES』でのBRAHMANのライブを見せてもらったんですが、会場が本当に1つになっていましたよね。ものすごいエネルギーに溢れていて。すごくクサイことを言うと「音楽で世界って変わるんだな」って客観的に見ていて思ったんですよ。音楽家に与えられている宿命みたいなものって、すごく巨大なんだなと思った。

TOSHI-LOW:俺自身がやっぱり音楽に救われましたからね。音楽に救ってもらったって感じがするから、それはやっぱり返したいなと思っているし。

柿本— 音楽のライブ特有の一体感って、今すごく必要だなと思います。そういう意味ではライブハウスっていう場を作ったり、声を出す場所ができるっていうのはすごい良いことですよね。

TOSHI-LOW:声を出せる場所はこれからもガンガン作っていきたいし、俺ら以外にもそういう人達が出てくれば良いなと思っています。食っていけるかどうか関係無い時代だからこそ、それこそ初めから縛りを完全に無視して、言いたいことを言うような音楽がもっと出てきても良いような気はするんですけどね。次の世代に、すごく期待はしていて、最終的に変えてくれたら良いなと。やっぱりパンク・ロックとかハードコアが好きですからね。カウンターアクションとして俺は音楽をやってたんだけど、いつの間にか、バンドとか音楽が良い子のものになっちゃった。暴走族とかヤクザにならない代わりにやってたものが、いつの間にか「ギターを持っていれば、お母さんが安心しますよ」みたいな

一同笑

TOSHI-LOW:「何だこりゃ」と思って。でも、そういう人達から出る嘘はもう通じないですよ。変な話、全てがフラットになって良いというか、1回全部壊しちゃっても良いんじゃないかなと思うんですよね。そういう終末思想みたいなものが自分の中にはあるし、平べったいところからもう一回始めればいいんじゃんって気持ちもある。既存の形、システムを大事にしたい人たちがいて、そこから出られない人がいる。でもそんなの関係無いし、誰が決めたんだって話であって。日本だけじゃないと思うけど、そういう競り合いが表現なんじゃないかなって。自分たちみたいな音楽とかアートとかの人たちって元々マイノリティだけど、マイノリティが縮こまっていたんじゃ、未来なんて無いですよ。小さくても風穴をブスッと開けるのが、俺たちの役割だと思うんです。だからこういう“場”を作る人たちといるとワクワクするよね、嬉しくなる。

柿本— 結局さっき話していた”持って帰れるもの”が何かっていう基準の問題であって。林海象さんの言葉で言えば「実感」、その成功の基準をどこに置くかって話ですよね。海象さんだってあまりお金は無いけれど、代わりに海象さんなりの”実感”はたくさんあって。本来はそれで良いなとも思います。

TOSHI-LOW:成功のものさしがお金じゃないっていうのは、すごく良いよね。むしろ、そこだけでは見えないものがあったりするし。3.11以降、俺も教えてもらったことがたくさんあります。

柿本— 最後の質問になりますが、TOSHI-LOWさんはいつまで音楽やっていると思いますか?

TOSHI-LOW:いや、分かんないな。いつでもやめようと思ってましたから。「限界かな」とか思って(笑)。
才能があるわけじゃないし、音感に優れている訳でも無い。歌なんて今でもド下手だし。でもとにかく自分が「好きだ」と思ってやってきたので。そういう風に好きなものを商売にする葛藤もあったし、対価をもらうにしても、もらいすぎないようにってことも考えてきたけど、足りるを知るってことを考慮すれば実はまだまだやりたいことも一杯あって。本当に恥ずかしい話なんだけど、3.11の前、俺が本当に歌とちゃんと向き合ったことがあるかと聞かれたら、無かったと思う。「こういう立ち居振る舞いをして、こういうライブをやるんだ!」って思い込みだけでここまで来ていた。今は歌を歌ったり、ライブをやるのが初めて心から楽しいし、「うまくなりてぇな」って思ったりもしていて。だから、「あと10年」って言われると「10年しか無いんだ」って思っちゃうし、もっと時間が欲しい。100年でも欲しいですね。だけど、どこかでは「明日終わっても良いよ」って思ってる。ずっと準備してるんです。両手を空にして。