シアター芸術概論綱要 Vol.02
“ミュージシャン TOSHI-LOW(BRAHMAN)” Produced by theatre tokyo

by Mastered編集部

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TOSHI-LOW:(笑)。逆に質問したいんだけど、この『theatre tokyo』ってプロジェクトでは、最終的にはどこからお金を調達して映画を作ろうと思ってるんですか?

柿本— この『theatre tokyo』っていうのは、出口のシステムなんです。僕は映画を作りたい人だけど、映画を作りたくても今って出口がどんどん減ってきている。僕より若い人たちは本当に出口が無いし、いわゆる映画監督という映画だけ作って生きている人は、さっきの話で言うメジャーの方向に流れていくか、すごく貧乏な状態でストイックに表現していくしかないような環境です。そこで僕は「映画を作っても人にみてもらう場所がない現在、映画を作るために、その映画を人に見てもらう場所を自分で作ろうと思った」って感じです。例えるなら、ライブをやるためにライブハウスを作ったみたいな。でもまぁ、場所を1つ作っただけでは満足出来ていないので、次はリアルな場所、核になるようなものを探しています。『theatre tokyo』っていうプロジェクト事態がこの連載も含めて、一つの表現であり、思想であり、作品みたいなもので、そこから、どんどん新しい概念を発信していくっていう試みでいます。

TOSHI-LOW:それはもう、試されてるんですよね。

柿本— 現実的には実際のリアルに人が集まれる場所で、ライブスペースのようなところを作って作品を上映する、WEBではその監督の過去の作品のアーカイブなどがみれて、一つの作品や監督の人間像が立体的に感じれるような仕組みを作っていきます。リアルな価値観の交流とかが出来れば僕はそれで良くて。お金を儲けるってことは今は二の次にしています。お金を儲けようとすると、多分バランスが悪くなるので。

TOSHI-LOW:最終的に突き詰めていけば、メジャーでやっていることと変わらなくなっちゃうもんね。

柿本— そうなんです。だから別軸というか、このプロジェクトは、今の大きな流れとは全く違うところで動かしていきたいなって。もちろん、最低限のお金は必要なので、それは別の場所で生んでいけばいいかなと。そういう姿勢でいれば、こっちではすごく純粋でいられる気がするんです。

TOSHI-LOW:すごいよ。素晴らしいと思います。場を作るのって、一番能力がいるけど、もしかしたら一番楽しいことだし、損得抜きにすれば本当に面白い作業だと思う。でも面白いとは分かっていても、結局その”誰か”になるのってみんな嫌がるでしょ。損するかもしれないし、失敗するかもしれないから。だから一番最初に場を作っていく人たちってすごいと思うし、実際『東北ライブハウス大作戦』だって初めはボロカスに言われましたからね。「瓦礫しかない街にそんなもの作ってどうするの」とか、「安全性はどうなんですか」とか。でもやっぱりやっていく内に色々なことが繋がって来るし、そこで初めて次が見えてくる部分もあると思う。自分たちも今度幕張で、入場料が2,000円台のライブをやるんですけど、単純なバジェットの話をすればペイなんてする訳ない。だけど、そもそも全てをペイさせようっていう考え方自体がおかしいんじゃないかなと、個人的には思っていて。インターネットがこれだけ肥大化している中でも、目で見て、匂いを感じて、ライブを体験してもらいたいって想いはすごくあるから、値段設定は出来る限り高くしたくない。全部ペイさせるんじゃなくて、一個でも損しなければ良いじゃん、ぐらいの考えでやれねーもんかなとは思ってるんですけどね。まぁこれも壮大な実験で、嫌がる人からは「また赤字ですか?」とか言われるんだけど、そういうのは「赤字でライブを出来るってことはそれだけ力があるってことだからさ!」とか上手く言いくるめて(笑)。
お金との付き合い方に関しては、ちょっと考えるようになりましたね。

BRAHMANのLIVE&DOCUMENTS DVD『THE THIRD ANTINOMY』

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柿本— 改めてこの『東北ライブハウス大作戦』というプロジェクトについて伺いたいんですが、どういう経緯で誕生したものなんですか?

TOSHI-LOW:元々Hi-STANDARDとかを担当していた、LOFT出身の西片っていうPAがいるんだけど、彼がある日堰を切ったかのように「ライブハウスを作る」って言い出しまして。その前にも自分たちはチャリティーライブとか、ボランティアとか復興支援はしていたんだけど、ちょうどその時、色々な道を探していた時期だったんです。きっとあの時は誰もが考えたことだと思うんですけどね、「自分の職業って何なんだろう、どうやって役に立ってるのかな」って。その結論が西片のチームは「ライブハウスを作る、表現の場を作る」ってことだっただけだと思うんだけど、まさか3ヶ所も出来るとは。はじめのうちは1ヶ所作るので精一杯だろうなって思ってましたからね。

柿本— 今はどういう感じでその3ヶ所を回してるんですか? 色々なバンドが入れかわり立ちかわり?

TOSHI-LOW:いや、なかなか難しいですね。元々僻地だから。盛岡に行ったバンドがその後に、宮古とか大船渡に行くかといえばそうではないし、元々人口が少ない街だし、ライブハウスも無い訳で。もちろんスタッフ全員が食べて行ける状況では無いし、土日が全部埋まっている訳でも無いし、まだまだこれからだなって感じです。ただ、場がそこにあるってことは、ゼロではないから。一縷の希望があるってことがどれだけ嬉しいか、地元のバンドマンの姿を見ていればそれは分かるので。

柿本— 宮古とか石巻にもバンドマンはたくさんいるんですか?

TOSHI-LOW:昔よりは少なくなってきているとは思います。映画も同じだと思うんだけど、発表の場がないから。そういう意味で言えば表現者は減ってきているのかな。逆に映画監督や映画を作りたいって人の人口はどうなんですか?

柿本— 減ってると思います。

TOSHI-LOW:なんか、バンドの状況も同じような気がしていて。楽器を弾くとか趣味で音楽をやっている人はそんなに減ってないんだけど、バンドまで組んで音楽をやろうっていう人は減ってるんじゃないですかね。

柿本— たしかに。昔は映画くらいしか動画もなかったけど、今はネットがあってDVDがあって番組すごい数があるし、アニメーションもCGもあるし、みなきゃいけないものがたくさんありすぎて、色々な所に分散しているんですよね。あと、なんとなく感覚的に映画は食えないっていうのが分かっちゃってるんで、みんな大変な思いをしてまでやりたいと思わないのかもしれない。

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