The Interview #005 Stephen Kenny(A TWO PIPE PROBLEM LETTERPRESS)

by Mastered編集部

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編集部が今気になる人のインタビューを不定期で掲載していく企画“The Interview”。第5回目となる今回登場してもらうのは、1800年代~1900年代のヴィンテージ・ウッドタイプとプレス機を使用し、拠点となる東ロンドンから世界に向け、次々と芸術性の高い作品を発表しているレタープレススタジオ『A TWO PIPE PROBLEM LETTERPRESS』を主宰するStephen Kenny(ステファン・ケニー)だ。

所有する多くのウッドタイプをミックスし、バランスの優れた配置とセンスの良い言葉選びで製作された作品の数々はVictoria&Albert Museumをはじめ、Design Museum、KK Galleryなど、錚々たる美術館やギャラリーに展示されるなど、美術的観点からも高い評価を獲得。Paul Smith SPACE GALLERYにて現在開催中の個展にあわせて初来日を果たしたStephen Kennyその人に、作品、姿勢、『A TWO PIPE PROBLEM LETTERPRESS』というプロジェクト全体について語ってもらった。

Photo:SATORU KOYAMA (ECOS)
Interview&Text:Keita Miki

端的に言えば、誰かを触発したいのだと思います。

— Kennyさんが主宰する『A TWO PIPE PROBLEM LETTERPRESS』はどのようにしてスタートを切ったのですか?

Stephen Kenny(以下、Kenny):前職がグラフィックデザイナーであることも関係しているとは思うのですが、元々タイポグラフィー、プリンティング、レタープレスというものに興味がありました。『A TWO PIPE PROBLEM LETTERPRESS』は僕が1人で始めたプロジェクトで、全て自己学習ですね。始めてから今に至るまで、幸いなことに常に意欲的な姿勢をキープ出来ています(笑)。

— プロジェクトをスタートさせようと思ったのは大体いつ頃の話ですか?

Kenny:6年前くらいですね。

— 前職ではどういった種類のグラフィックデザインを手掛けていたのでしょう?

Kenny:グラフィックデザイナーはフリーランスで、都合10年ほどやっていました。元々は大学でファインアートを学んでいたのですが、それからグラフィックデザインの分野に転向した形です。

— タイポグラフィーの中で、現在の『A TWO PIPE PROBLEM LETTERPRESS』の核ともなっているレタープレスという手法を使用するようになったのはいつ頃からですか?

Kenny:7年前にウッドタイプを集めだしたのが一番最初ですね。古いウッドタイプを見つけるのは、とても難しいことなんですよ。

— 具体的にどういった場所で見つけてくるのですか?

Kenny:実はウッドタイプにも専門のディーラーというのがいるんです。あとはインターネットでもたまに購入したりしますね。それと、北イングランドで印刷に関する博物館を運営している知り合いがいるのですが、彼のコレクションは膨大で、彼がロンドンに来る度に色々とねだったりもしています(笑)。

— Kennyさんの今現在のコレクションはどれくらいですか?

Kenny:100種類のウッドタイプが、4つのキャビネットを占領しています(笑)。

— (笑)。率直にお聞きしますが、ウッドタイプの魅力は?

Kenny:ブロックひとつひとつが僅かに異なっており、個性を持っているところでしょうか。印刷した時もそうですし、同じブロックでも刷るたびに表情を変えるというのはウッドタイプならではの魅力ですね。それから、フォント名やファウンドリー名が必ずAのブロックにだけ付いていたりする点も実にユニークです。

— お一人でプロジェクトをされているとのことでしたが、作品の制作はどれくらいのペースで行っているのでしょう?

Kenny:毎日です。大きな作品の他に、グリーティングカードなどのオーダーもあるので、常に何かは作り続けています。グリーティングカード4000枚を2日で仕上げたこともありますよ。だから、僕の手にはウッドタイプで出来た”タコ”があります。

— ほんとだ、すごいですね。アーティストというよりは、職人に近いものを感じます。

Kenny:もちろん! 私はデザイナーであると同時に、職人です。

— ウッドタイプを使って印刷を行うのには、何か特別な技術が必要なのでしょうか?

Kenny:印刷自体はさほど難しいものではありませんよ。それよりもデザイン、配置、どういった種類のウッドタイプを選ぶのか、といったことを決める方が難しい。スペースに限りがあるものなので、自分が意図しているデザインや配置を反映させられないことも多々あるんです。デザインと物理的なスペースの制限との間でバランスを取る作業が一番悩ましいですね。

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