44になってみると、やっと半分くらいまで来たっていうくらいにしか思ってないし、今の自分が立っているのは、そういう場所なんですよ。
— そして、「LIVING IN TH FUTURE」でビートを手掛けたDJ KRUSHは、BOSSさんにとっては日本のヒップホップにおける原点となる方ですよね。
BOSS:今回、DJ KRUSHさんにビートを頼んだのは、オファーの最後の方だったんですけど、思い切ってオファーしたら、「俺もアルバムを作ってるから、それぞれのアルバムに入れようよ」と言ってくれて。「じゃあ、よろしくお願いします。こういうリリックなんですけど……」って、リリックを投げたら、すぐにトラックが返ってきて、そのまま成立しちゃったんですけど、その仕事の早さと精度は相変わらずスゴかったし、自分との差は依然として縮まってないなと感じましたね。KRUSHさんと曲を作ったのは、2001年のアルバム『漸 -Zen-』に入っている”Candle Chant (A Tribute)”以来だったんですけど、自分としては、共通の友人の死を歌ったその曲でKRUSHさんとの曲作りを終わりにしたくなかったというか、次に作る曲のアイデアはずっと頭の中にあって。あれから15年近くが経って、当時、ヒップホップをやって、聴いていた人の多くが子供を持って、現場を離れた時代に俺とKRUSHさんがまたリユニオンして、「お前ら、まだ終わってねえよ。まだヒップホップ出来るんだよ」って歌うことで、死を生に反転させる”Candle Chant (A Tribute)”の続編がようやく形に出来たんです。
— そして、”WE WERE, WE ARE”にフィーチャーした同郷のB.I.G. JOEさんとは今も地元で頻繁に会われているんですよね?
BOSS:最近は月に一回くらいかな。B.I.G. JOEとは僕がラップする前から、O.N.Oと同じくらい長い付き合いなんで、離れていても、何を考えているかは、お互い何となく分かっているっていう、俺にとってはそういう感じですね。B.I.G. JOEとは20年以上の付き合いのなかで、一緒に作った曲は、沖縄の基地問題について歌った”MISSION POSSIBLE”、初期衝動で録ったあの一曲だけ。俺とB.I.G. JOEのストーリーなんて、札幌ヒップホップの半分は占めるくらいの長さがあって、そこでも付かず離れず、揉めたり仲直りしたり、そんなことをずっと繰り返して、俺らもやっと大人になって、今はそれぞれのスタイルを認め合って付き合えるようになったっていう。そんななか、B.I.G. JOEとは札幌のヒップホップ、札幌のフッドを歌った地元の曲を作りたいとずっと思っていたので、それを伝えて、レコーディングに臨んだんですけど、B.I.G. JOEのヴァース、フロウ、ライム・デリヴァリーはホント衝撃で。それをレコーディング・ブースの外で聴きながら、「このフロウとこのスタイルにヤラれて、ラップを始めたんだよな」って思い出しながら、改めて打ちのめされるようなすごい仕事をやらかしてくれたことが本当にうれしかったですね。
— そして、札幌でラッパーとしてのキャリアをスタートさせてから18年が経ったわけですが、周りを取り巻く環境が大きく変化するなか、BOSSさん自身は知識や経験を得て、どう変わったと思いますか?
BOSS:ヒップホップでいったら、44歳というのは若くはないけど、自分自身はやっと半分が終わったというくらいにしか思ってないんですよ。今、10代、20代でヒップホップをやっている子たちがハマって楽しんで盛り上げているのは最高にオッケーだし格好良い子も多い、ただ30代に入ると、続けるか続けないかという話になってくるし、40代になって、今、自分はここにいるんだけど、それでもまだ44なんですよ。札幌にいる僕の先輩たちが超元気だから、そのお陰でもあるんですけどね。確かに自分が22、3でヒップホップをやってる時に40代の人間なんて果てしなく遠くに見えたし、自分もその先はあるのか?って、実際思ってた。でも、44になってみると、やっと半分くらいまで来たっていうくらいにしか思ってないし、今の自分が立っているのは、そういう場所なんですよ。
— とはいえ、40代以降、現役で活動しているヒップホップ・アーティストはDJ KRUSHさんだったり、数えるほどですし、日本において、その先の道は用意されていませんよね。
BOSS:そうですよね。もちろん、20代と張り合えるような若さや初期衝動は持っていないんだけど、そのぶん見てきたものや経験に価値を置いて、音楽を提示することは可能だと思っていますね。ボブ・ディランなんか、70代になっても、いまだに歌えているし、彼にとって、40代の時の曲なんて30年前のめっちゃ若い時の曲であって、いま自分がやっているのもそういうものなんですよね。そう考えると、同世代のラッパーに対しては、もっと曲を作ろうよ、もっとライヴしようよって思うんですよね。諦めんなよ!って感じなんですよ。
— 今は色んな発表形態がありますからね。
BOSS:もちろん、若い子がやってるサイファーに入っていけとは言いませんよ。そこでフリースタイルのバトルになったって、「ヨー、ヨー、おっさん」「うるせえ、ガキ」っていうことにしかならないだろうけど、曲だったら、成立するでしょ。というか、そうやって作品を通じて、若い子とコミットしていく方が格好良いし楽しいよね、って思うんですよ。だからこそ、YOU THE ROCK★は熱かった。俺と勝負しに来たし、フリーキーなフロウは一個も入れずに、自分のヴァースでは自分の孤独と苦しみと哀しみとやるせなさ、それを全部さらけ出して、超シリアスなヴァースを一発作ってきましたからね。自分としても、今回、色んなビートメーカーと一緒にやらせてもらって、ラップに改めて向き合いながら、オーセンティックなヒップホップにこだわったんですけど、ラップするのはホント楽しかったし、ここから先は作った音楽をどうやってお客に届けるか。今回のアルバム本編に特典を含めた16曲を今までのセットに組み込んで、新しい曲の流れの妙であったり、破壊と再生であったり、そういうものが今後のライヴで始まっていくことになると思いますね。
【tha BOSS(THA BLUE HERB) 『IN THE NAME OF HIPHOP』】
発売中
LABEL:THA BLUE HERB RECORDINGS
■限定盤
CAT NO.:TBHR-CD-026
FORMAT:2CD(インストCD付属)
価格:4,000円 + 税
■通常盤
CAT NO.:TBHR-CD-027
FORMAT:CD
価格:3,000円 + 税
■収録曲
1. HELL-O MY NAME IS… Beats and Arranged by Olive Oil Scratched by DJ SEIJI
2. I PAY BACK Beats and Arranged by HIMUKI
3. BLOODY INK Beats and Arranged by DJ KAZZ-K
4. HELL’S BELLS feat. BUPPON, YUKSTA-ILL Beats and Arranged by YOUNG-G
5. WORD…LIVE feat. 田我流 Beats and Arranged by Southpaw Chop
6. S.A.P.P.O.R.A.W. feat. ELIAS Beats and Arranged by NAGMATIC Scratched by DJ SEIJI
7. REMEMBER IN LAST DECEMBER Beats and Arranged by INGENIOUS DJ MAKINO
8. MATCHSTICK SPIT Beats and Arranged by PENTAXX.B.F
9. SEE EVIL, LISTEN EVIL, SPEAK NO EVIL Beats, Arranged and Scratched by PUNPEE
10. NOW IS NOT THE TIME Beats, Arranged and Scratched by INGENIOUS DJ MAKINO
11. WE WERE, WE ARE feat. B.I.G. JOE Beats and Arranged by LIL’J
12. 44 YEARS OLD feat. YOU THE ROCK★ Beats, Arranged and Scratched by DJ YAS
13. LIVING IN THE FUTURE Beats and Arranged by DJ KRUSH
14. ABOVE THE WALL Beats and Arranged by DJ KAZZ-K
15. …RELEASED ALL Beats and Arranged by grooveman Spot