「ヒップホップの名のもとに。」
44歳のtha BOSS(THA BLUE HERB)が描くパーソナルな世界観。

by Mastered編集部

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YOU THE ROCK★を呼んで、一緒に曲を作ることで過去にけりを付けようと思ったんですよ。

— THA BLUE HERBという一つの人格ではなく、tha BOSSという一人のMCとしてのリリックへの取り組みというのは?

BOSS:THA BLUE HERBは1997年のグループ誕生から今日までの成長、変化がリリックに反映されているのに対して、今回に関しては、自分が小さかった頃のことも含めて生きてきた44年の回想もあり、THA BLUE HERBという人格のリリックというより僕の主観ですよね。だから、今回の方が取り組みやすかったかもしれない。THA BLUE HERBのような前例もないし、完全に自由な、真っ白な状態だったこともあってか、フリースタイルみたいな感じで、楽しみながら、すらすら書けたんですよ。それよりも20人のビートメイカーやラッパーとやり取りしながら作っていくことのほうが遥かに濃密でしたね。

— 主観的でありつつも、リリックはセルフ・ボースティングに終始したものではなく、多角的かつ普遍的な表現にきっちり転換されていますよね。

BOSS:リリックは敢えて多角的に書こうと思ったわけではないんですけど、『TOTAL』は、震災以降のハードな状況下で作ったアルバムだったし、その時点で言いたかったことは全て言えたので、”I&I”じゃないけど、リスナーとはそういう向き合い方が出来たのかもしれないですね。YESかNOか、賛成か反対か、自分の立場は『TOTAL』で、すでに言い終わっていたこともあって、今回、自分のなかでのテンションはいい意味で落ち着いていたというか、”で、あなたはどうするの?”って語りかけられる余地があったんですよね。あと、リリックが多角的になったのは、1曲1曲違うビートメーカーだったことも大きかったかもしれない。僕自身、それぞれのビートメーカーの個性と調和したかったし、俺は俺ということではなく、ビートメイカーそれぞれに合わせて、あるいは引き出されるように、声色からテンションから変化させながら曲が作れたことも大きいかもしれない。

— そして、フィーチャリングで一番驚かされたのは、THE BLUE HERBの”A SWEET LITTLE DIS”や”人斬り”」でディスっていたYOU THE ROCK★さんですよね。

BOSS:今のヒップホップを聴いている子たちにとって、僕がYOU THE ROCK★とこのアルバムで一緒にやることにどんな意味があるのかよく分からないと思うんですけど、さんピンをはじめ、90年代のヒップホップを生きてきた人間にとって、そして、そんな自分が一緒にやることが出来たという意味で大きな意味を持ちますよね。YOU THE ROCK★というのは、当時のヒップホップを表す象徴的な存在だったと思うんですけど、何の後ろ盾もなく札幌から出てきた僕はYOU THE ROCK★と同い年だったということもあって、いまさら下からいくわけにはいかないし、とはいえ、生活がギリギリだった僕らの居場所は彼らをどかさないと手に入らないこともあって、戦いを挑んだことで、今ここにいるんですよね。その間に自分が言ったこと、ディスった人、そのやり方は、もちろん、ちゃんと覚えているんですけど、YOU THE ROCK★に関しては、その後、現場で顔を合わせる機会が多くて、最初こそ「俺はお前のことを認めてるのに、お前、何で俺をディスるんだよ!」って言われたりしたんですけど、あいつは気のいいやつだから、現場で会ったら、普通に話すようになっていたんですね。そして、今回、ソロ・アルバムを出すにあたって、自分が言ったことや人を傷つけたことに対して、今更吐いた唾は飲めないにせよ、やらかした自分が場所を設けて、YOU THE ROCK★を呼んで、一緒に曲を作ることで過去にけりを付けようと思ったんですよ。

— そして、実際に会いに行ったと。

BOSS:YOU THE ROCK★と中目黒の居酒屋に行って、その間に起きたことを打開するべく、酒飲んで話して。相当ヒートアップしてたんですけど、「ヒップホップがあったからこそ、ギリギリまで憎み合ったし、ヒップホップがあったから、俺らはここで飲んでるんだよね」っていう、やつの言葉にはホントに感動したし、お互いがそこまでヒップホップを愛してなかったら、誰かをディスっておしまいだったと思うんです。でも、自分のなかで、YOU THE ROCK★をディスって、ここまでアガってきた後ろめたさや罪の意識とも違うんだけど、相手を傷付けたということでやっぱり自分も傷ついていて。ヒップホップが好きな者同士、なんで、そんなことをしなくちゃいけなかったのか。そう思うと同時にヒップホップが好きだったからこそ、破綻せずにまた酒を飲むことが出来たわけだし、そんなヒップホップにまつわる思いを一緒に歌いたかったんですよ。それに、あいつもあの頃とは違って、端から見たら、ハードなことを色々経験している一方で、日本のヒップホップはどんどん変わっていってるし、「みんな、お前のことを昔の人間だと思ってるぞ。だから、ここで一発やれよ!俺はお前のお客を奪ったんだから、俺のお客をもう一回取り返すくらいのヴァース書いてくれ!」って言って、握手して別れたんですよ。そして、YOU THE ROCK★とやることになった”44 YEARS OLD”では、俺たちと同い年のDJ YASにビートをお願いして、一緒にレコーディングしたんです。

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