映像を観たうえで新曲を聴いてもらえば、あの曲に込めたものは分かってもらえるんじゃないかなって思うし、それをシングルとして売るんじゃなく、ドキュメンタリー映像とライヴ映像、そして新曲という3つをセットで1つのパッケージに閉じ込めることにしたんです。
— 確かに今回のドキュメンタリー映像を拝見すると、東日本大震災の被災地、宮古、大船渡、石巻でのライヴに集まる聴衆とBOSSさんは個と個で対峙して、言葉を投げかけていらっしゃいますよね。
BOSS:そう、それが俺の言葉の行く末というか、それは政治ではなく、対極にある個。しかも、東北の3日間に関して言えば、その個が経験した大きな悲しみに言葉を通じて土足で踏み込んで、入っていく。それが俺のやってるラッパー稼業なんだなって、OPPA-LAでライヴをやりながら思ってましたね。
— 今回の映像を観る側からすれば、その音と絵から想像するしかないんですけど、それにしても、被災地にあるライヴハウスのステージに立つBOSSさんの心境というのは計り知れないものがあります。
BOSS:ライヴハウスもそうだし、ライヴハウスの外もそうだし、車で走ってる街もそうだけど、はっきり言って、目に映らない”何か”がひしひしと感じられた。しかも、その何かというのは、ライヴに来てくれたお客さんと関わりのある何かであって、そこでは俺だけが他人なわけ。そういう土地のステージにぱっと出ていってさ、言葉を投げかける際に感じる痛みや恐怖……まぁ、想像はしていたけど、そうしたものをライヴで感じた後は酔わないと寝られないくらい。そういうライヴで1時間50分、ああやって語るのは想像を超えるハードな体験だったね。でも、その場で何度も言ったんだけど、目に映る生きてる人と目に映らない亡くなられた方々の間には言葉で楔を打たざるを得なかった。俺は坊さんじゃないし、「どうか成仏してください」っていうような言葉しか持ってないから、死んでいった方々は供養出来ない。そこで俺に出来ることといえば、生きている人間に言葉を投げかけることだけ。そういう言葉しか持ってないんですよ。だから、目に映る生きてる人と目に映らない亡くなられた方々の間に線を引いて、「生きているんだから、その先へ行くしかないでしょ」って。そう言い続けるしかないんだよ。
— 被災地のライヴハウスを回って、過酷な表現の場に身を置こうと思ったのは?
BOSS:やっぱり、東北や福島で起きたことが今回のアルバムは大きく影響を受けていて、その作品を日本全国で鳴らしてきて、その土地土地で色んな人に共感してもらったんだけど、やっぱり、その土地で鳴らさないわけにはいかない。そう思ったことが東北ツアーの動機ですよね。
— 映像作品として形にすることも早くから決めていたんですか?
BOSS:映像班を連れていったのは、何かが起きるかもしれないという予感がもちろんあった。ただ、この映像に値段をつけて売るっていうことに対して、誤解が生じるかもしれないという恐れが今の段階でも自分のなかにはあったりするんだけど。それでもね、東北ライブハウス大作戦というプロジェクトが始まって、色んなミュージシャンがライヴしにいくようになって、今回、俺も出掛けていって、そこで何が起きたのか。ヒップホップの人間から見た東北がどうだったか。そこで話された言葉はどういったものであったか。今回、実際に足を運んでみて、そこで起こったことがあまりに壮絶すぎて、まだ現地の人は気持ちが整理出来てないというか、やっと、こうやって俺のエグい言葉を前向きに受け取ってくれるところまで来たんだけど、もっともっと俺らが足を運んだり、煽ったり、焚きつけたり、投げかけたりするしかないなって、そう思ったんだよね。そういう意味で今回の3日間を残さないことには次に繋がらないし、ライヴに足を運んでくれた人達だけの記憶にはしたくなかった。
— その3日間のライヴは、それ以前からやってきたライヴとは別で組んだセットで臨まれたんですよね。
BOSS:そう、今回のツアー用のセット。その後はまたがらっと変わったんだけど、東北の人たちに俺がスタイルがどうこう、「金を掴んでやろうぜ!」みたいなことを言いに行きたかったわけじゃないから。そう考えた時にカットされた曲があったり、逆にもっと直接的に伝えたいことをどうやって伝えられるか。そういうセットを組んでいきましたね。
— そして、初日のライヴで感じたことや人と話したこと、見たもの、聞いたもの……そういった経験が2日目以降のセットに反映され、変化していったと。
BOSS:ギリギリの状況だったんですけど、そういう判断をしたね。自分なりに葛藤する過程で、“遠慮”って言葉が出てきたんだけど、東北に足を運ぶ自分には伝わらなかったらどうしよう、誤解されたらどうしようっていう恐怖があったから、最初の段階ではそういう遠慮の気持ちが働いてた。でも、”遠慮”の”遠”ではなく、もっと近くてよかったんだよね。それに時間もないし、ご託を並べるより直接行くしかねえなってところまで追い詰められて、部分的にセットを変えることにした。
— セットリストの変更にBOSSさんの心の揺れが見て取れたんですけど、そういうギリギリの心境をも映像に収める監督の川口潤さんとの関係性であったり、ご自分が当事者として登場するドキュメンタリー映像作品という表現手段についてはどんなことを思われますか?
BOSS:今回はね、みんな、目の前の現実と向き合うことに精一杯で、どう映ってるか、どう撮るか、あるいは人間関係の構築みたいなことに構ってる余裕がなかったと思う。そういう意味でよく知ってる川口潤監督とカメラマンだからこそ、この作品に収められている自分は自然だと思うし、このスタッフだからこそ出来た作品なのかなってと思うね。
— そして、この映像作品のタイトル『PRAYERS』は、新曲のタイトルでもあるわけですが、その新曲”PRAYERS”は東北ツアー後に制作されたんですよね。
BOSS:そう。映像編集の段階からリリックを書き初めていただんだけど、川口潤監督は「今回の映像は新曲”PRAYERS”が出来るまでのメイキング映像みたいだね」って言ってて。そういう自然な流れで俺もO.N.Oも1週間くらいでこの曲を作り上げたんだ。だから、映像を観たうえで新曲を聴いてもらえば、あの曲に込めたものは分かってもらえるんじゃないかなって思うし、それをシングルとして売るんじゃなく、ドキュメンタリー映像とライヴ映像、そして新曲という3つをセットで1つのパッケージに閉じ込めることにしたんです。
— そして、3月の東北ツアーを経て、その後も続いたツアーは7月20日の江ノ島OPPA-LAで一つ節目を迎えましたね。
BOSS:また11月からライヴは再開するんだけど、その間の8、9、10月はインプットの期間だね。ただ一区切りとはいえ、まだまだ全然イケる。前回の『PHASE 3』の3年半のタームは180回くらいライヴをやってるから。そう考えれば、今立ってるのはまだ半分過ぎの地点。ここから先、まだまだ全然良くなっていくよ。ライヴに来る1人1人にチケット代払ってもらってるわけだから、俺が詐欺師にならないためにはそのクオリティをきっちり上げていかないとね。もし、それが出来なかったら食っていけないし、仕事として成り立たなかったら作品を発表する場がなくなって、消えていくだけ。ずっと、ここに居続けて、音楽で生活していくためには、気持ちも体調も保たなきゃダメだし、それが俺の仕事なんだよ。
THA BLUE HERB『PRAYERS』
発売中
Label: THA BLUE HERB RECORDINGS
CAT NO. : TBHR-DVD-006
FORMAT : 2DVD + 1CD
価格 : 4,980円 (税込)
■収録内容
DVD DISC 1 : 道中の映像、オフショットやインタビュー、ライブなどで構成されたドキュメンタリー
DVD DISC 2 : ツアー最終日、石巻でのライブの模様
CD : THA BLUE HERBとしては1年ぶりの新曲”PRAYERS”