哲平は僕ら世代のGlen E. Friedmanになれるんじゃないか、『FUCK YOU HEROES』みたいな作品を世に出せるんじゃないかと思っていたんです。(横山健)
— 当時、お二人はそういう飲みの席でどんな話をしていたんですか?
岸田:どういう話してましたっけ? 飲まされて、いじられてっていう記憶しかないです。
横山:まぁ、まともな話はしてなかったよね。飲みの席をギャーギャー騒ぎながら楽しんでた感じ。
岸田:まともな話はしてなかったですね。
横山:いや、それ今俺が言ったから。
一同笑
横山:これもお決まりのネタなんで(笑)。今日の話の中で何回も出てくると思いますけど、僕が話したことに彼が被せて来て、「それ俺が言ったから」って。同じことをもう十数年やってます(笑)。
岸田:今日の対談で、「これだけは言わないと」って決めてきたのはこれです。
横山:でもさ、実際どうだったの? あの当時、カメラマンっていう仕事に対して何か明確なヴィジョンはあったの?
岸田:「とにかく沢山のバンドを撮りたい」ってそれだけでしたね。Warped Tourでも、ただRANCIDとかNOFXを撮りたいって思ってたし、「一杯撮りたい」ばっかりで、それを実現するために、カメラマンとして電話をするというか。きちんとレコード会社に電話しないと撮れないバンドも多いですから。
— 将来的にカメラマンとして食べていこうみたいなことは考えていたんですか?
岸田:いえ、そういう感覚も特に無くて、写真を撮るのが面白いってだけでしたね。
横山:東京にしろ、大阪にしろ、毎日どこかでライブがあるもんね。俺からすると、哲平はライブハウスカルチャー全般にすごく興味があったように見えた。ハイスタを撮る前は広島で地元のバンドを撮っていたり、大阪でHUSKING BEEのライブを撮ってたりして。ライブハウスカルチャーの写真を撮るプロのカメラマンなんて、そんなに多くなかった時期に、それをわざわざ切り取ってやろうっていう情熱を持った人だったのかなって気はしますね。それが将来仕事になるかは分からないけど、「今はこれがやりたい」って思ったんじゃない?
岸田:ありがとうございます!
横山:いや、別に褒めてないけど! なんでありがとうなの?
岸田:すみません(笑)。まぁ、本当に健さんには色々な事を教えてもらいましたね。Warped Tourの時の事も鮮明に覚えてますもん。アメリカのハイウェイを走ってる時に、健さんに言われたんですよ。「菊池茂夫さんとか、久保憲司さんは一杯修羅場をくぐってんのに、お前はハイスタにおんぶに抱っこで、ハイスタだけ撮って帰るのかよ?」って。で、僕も「そうだよな」と思って、何とかスタッフに話をつけて、「健さん、残ることになりました!」って報告したら何故か大爆笑されて。「お前、マジで残るの?」って(笑)。
横山:Warped Tourって全てが一緒に動くんですよ。バンドが動けば事務局も動くし、ステージも一緒に高速を走るんです。バンドも「ここからここまでは一緒に行くけど、ここで離れるよ。それで、ここから別のバンドが合流するよ」みたいなことが厳密に決まっていて、バンド数だって20~30バンドくらいはある訳です。要するに、そういう状況の中で事務局に「空いてる席無いですか?」って申請しに行った訳ですよ? そりゃ、「うわ、本当に行ったよ、あいつ」って思いますよ(笑)。
岸田:その頃、日本では『電波少年』が流行ってたんですけど、「バイバーイ!」って健さんたちに置いて行かれる時は、本当に電波少年みたいな気持ちになりましたね。「あー、行っちゃったな~」なんて思いながらスタッフ用のバスに乗って、1週間ぐらい延泊したんですけど、結局フォトパスが出なくて。今冷静に考えると、そりゃ出る訳無いよなって感じですけど(笑)。
— 今回の写真集の話が出たのはいつ頃だったんですか?
岸田:去年あたりですよね? 忘年会で健さんと話して。ノリで出すことになりました。
横山:ノリじゃねーだろ!!(笑)
岸田:はい、ノリじゃないです! ずっと作りたかったです!!
横山:まぁ、タイミングもあったんじゃないですかね。僕は前から彼にちゃんとした写真集を出してもらいたかったんですよ。もちろん、それは横山健が被写体じゃないものでも全然良くて。僕らの世代がすごく影響を受けた『FUCK YOU HEROES(Glen E. Friedman著)』っていう写真集があるんですけど、いずれ時期が来たら、哲平は僕ら世代のGlen E. Friedmanになれるんじゃないか、『FUCK YOU HEROES』みたいな作品を世に出せるんじゃないかと思っていたんです。まさか彼の最初の写真集が『横山健 – 岸田哲平編 -』になるとは思ってませんでしたけど(笑)。
岸田:昔、ハイスタが恵比寿のみるくでライブをやった時だったと思うんですけど、当時「写真集を出さないか」って話が僕のところに来ていて、健さんに相談しにいったことがあるんです。僕としては「知り合いも写真集とか出してるし、俺も出しちゃおうかな」とか思ってたんですけど、健さんは「待て」と。「『FUCK YOU HEROES』は10年以上待ったんだから、お前も今はまだ待った方が良い」って言われたんです。それで、やっぱり写真ってずっと後に残っていくものだし、そのシーンの記録でもある訳だから、今は待とうって思えたんですよね。
— 『横山健 -疾風勁草編-』の際はご自身が撮られていることに気付いていなかった部分も多く作品の中にあったと話していましたが、今回はいかがでしたか?
横山:写真だし、哲平はいかにも撮ってますって時も多いんですけど、これだけ長く一緒にいると段々と感覚が麻痺してくるんですよね。正直、何に使われるのか分からないで撮られている写真も一杯あるので、相当フザけた写真集になっていると思います(笑)。
— 今少しお話にも出ましたが、岸田さんはミュージシャンを撮る際にどんな手法を取ることが多いんですか?
岸田:他のアーティストを撮る時は客観的な感じがメインにはなりますかね。それこそ、若い頃は「ライブ写真だけでなんとかしてやろう」とか思ってて。だから、オフショットを撮ったことってあまり無いんです。そういう意味ではWarped Tourもそうですけど、今思うと、もっとたくさんオフショットも撮っておけば良かったなって後悔はあります。でも、健さんに関しては別で、健さんだけは一番近くで撮れるというか。逆にこれだけ近くで撮らせてもらえてるっていうのは、すごくありがたいことですけどね。
横山:哲平に「オフショットもちゃんと撮れよ」って言ったのは良く覚えてますね。アメリカの有名なカメラマンで William Hamesって人がいて、彼はライブも撮るんですけど、同様に機材も撮るし、オフショットも撮るし、すごく密着型のカメラマンなんです。写真に写っているギタリストよりも、その足元に転がっている缶ビールの方にリアルなアメリカを感じたりするじゃないですか。哲平にはそういうことをやってくれよって頼みました。