TEPPEIの服、TEPPEIと服

by Keita Miki

ファッションの世界に足を踏み入れる前の僕は”スタイリスト”という職業を、「なんだか良く分からないけど芸能人と仲良しで、毎晩派手に飲み歩き、たまにモデルやアイドルと付き合いつつも上手にメイクマネーする、鼻持ちならないオシャレ野郎」くらいに考えていたのだが、その大いに間違った認識を改めてくれた1人が、Masteredでも様々な企画に登場してくれているスタイリスト・TEPPEIだ。
自身の思考やスタイル、感覚をことさら大切にしながらも、一方では”ファッション”を俯瞰して論理的に捉え、洋服と真摯に向き合う唯一無二の姿勢は、老若男女・国内外を問わず、ファッションを愛する多くの人々に影響を与え続けている。そんな同人物の私服を展示・販売するスペシャルなイベント『TEPPEIの服展』が、11月21日(土)より、offshore tokyoにて3日間限定でスタート。
開催期間中は、洋服を愛しすぎるが故、これまで頑なに私物の出品を拒否してきたと言う愛すべき”服バカ”・TEPPEIが20代の頃よりアーカイブしてきた私服、約300点が会場にラインナップされ、前代未聞の”無料(=提供)”ラックも登場。さらには、TEPPEI自身が今最も注目しているブランド・SPECIAL GUEST(スペシャルゲスト)によるリミテッドTシャツも限定販売される。
本特集では『TEPPEIの服展』に登場する一部のアイテムをピックアップし、TEPPEIとoffshore tokyoのファウンダーである的場良平に解説してもらうと共に、このイベントに秘められた両者の想いにフォーカス。
TEPPEIの服、TEPPEIと服。

Photo:Kazuki Miyamae | Text&Edit:Keita Miki

— 各アイテムの解説に入る前に、まずは今回のイベントを開催するまでの経緯について話を伺えますか?

TEPPEI:緊急事態宣言が解除されたばかりの頃、夜の原宿を散歩してたら、良平ちゃん(的場)と偶然会って。少し立ち話をしてたら、「TEPPEI、俺、一緒になんかやりたいよ」って話をいきなり持ちかけられたんですよね。でもさ、何であのタイミングだったの? しかもたまたま会ったのに。酔っ払った勢い(笑)?

的場:いやいや(笑)。知り合って随分経つけど、実はずっと胸の中に「てっちゃん(TEPPEI)と何かをやりたいな」って想いがあって。コロナ禍で色々と考える機会も多かったし、「これは運命だ! いま言うしかない!」って思ったんだよね。もちろん、この状況の中で、お店に人を呼ぶようなイベントを実施して大丈夫なのかって心配はあったけど。

TEPPEI:当初、内容については、かなり漠然としていたんだけど、そこから何度も2人で話し合いまして。

的場:この状況下だからこそ、人と人の繋がりを感じられるようなイベントをやりたいと思ったんです。一緒にスタイリングの企画をやろうとか、映像を作ろうとか、色々とアイデアはあったんですけど、もう少しお客さんに洋服を通して直接的に何かを伝えられるような企画をやりたいって話になりまして、今の形に落ち着きました。

TEPPEI(スタイリスト)
2002年、高校卒業と同時に上京し、都内の専門学校スタイリスト学科に入学。卒業後2年間の古着屋勤務を経て、スタイリストとしてのキャリアをスタート。2000年代中期までの東京ストリートカルチャーにおける象徴的な存在として注目を浴び、ジェレミー・スコットやベルンハルト・ウィルヘルムがスタイルサンプリングしたことでも知られている。現在は、スタイリストとして数々のアーティストイメージやブランドビジュアルのディレクション、ドバイ万博2020における日本館公式ユニフォームのビジュアルスタイリング、2019年秋冬シーズン以降のANREALAGEのメンズコレクションやChildren of the discordanceのコレクションスタイリングを手掛けており、特に国内のメンズファッションシーンにおいて代表的な作品発表を続けている。

的場良平(offshore tokyo ファウンダー)
Masteredでもお馴染み、原宿のヴィンテージショップ・LABORATORY/BERBERJIN®の名物スタッフとして活躍しながらも、2017年からは平行して自身のセレクトショップ・offshore tokyoをスタート。LABORATORY/BERBERJIN®時代にはヴィンテージロックTシャツのプロとして『森田一義アワー 笑っていいとも!』にも出演を果たしている。人呼んで世界のMTB。

TEPPEI:これまでにも何度か、自分の私物を販売するイベントに誘ってもらう機会はあって、それらは全てお断りしていたんですけどね。コロナ禍で洋服屋さんがなかなか厳しい状況にあることも分かっていたし、今回に限っては、自分がモノを提供することで友人のお店に恩返しが出来るなら、それはそれで全然アリなのかなと。

— 私物を手放さなかったのはどうしてなんですか?

TEPPEI:スタイリストであるってことを差し引いても、僕は洋服が無性に好きだから、洋服をどれだけ沢山持っていても何の苦も無いし、売ったり捨てたりする必要性をそもそも感じなかったんですよね。ただ、良平ちゃんと一緒で、コロナ以降、自分も誰かに何かを届けたいって思うようになり、自身のInstagram上で『DAYSSNAP』って企画を始めたんですけど、その過程で改めて自宅のクローゼットと向き合うことで、「手元に置いておきたい」って思う服と「大切だけど誰かに譲ってもいいかな」って思う服の整理も丁度出来たので。

— なるほど。では、早速ですが、イベントに出品されるアイテムの一部を見ていきましょう。

DogのスタッフがリメイクしたM-65 フィッシュテイルパーカ

今回紹介する中では唯一ヴィンテージのアイテム。ベースになっているのは、1950年代の米軍の『M-65』なのかな。

僕が昔働いていたDogって古着屋で販売していたアイテムで、購入したのは2000年前後。当時のDogではスタッフが意欲的にリメイクをやっていて、これは当時のスタッフの1人がリメイクしたモノ。彼は全くの素人だったんだけど、独学でミシンを学んで、こういう独特のテクニックを編み出したんだよね。Dogに来店した海外のデザイナーもこのテクニックを見て、すごく驚いてた。お店に出したらすぐに売れちゃうような人気アイテムだったね。

Christopher Nemeth(クリストファー ネメス)のセットアップ

購入時期は2000年代中盤くらい。Christopher NemethやJudy Blame(ジュディ・ブレイム)がモノづくりを始めた1980年代って、古布がゴミとして溢れかえっていたみたいで、Christopher Nemethはそういった生地を用いて服作りをしたことで名前が売れていったんだけど、これはその当時作られたアイテムの復刻版。イギリスのポストマンが使っていた運搬用の麻袋を使ったセットアップだったんだけど、当然、オリジナルは買えなかったから、のちにお店の人に頼みこんで作ってもらった、言わばプチ別注アイテムだね。

見た感じだけど、1920年代とかの素材感を再現しているのかなって思ったよ。プチ別注ってことは一点物だよね。Christopher Nemethはてっちゃんが着ているイメージがすごくあるな。

『TUNE』をはじめ、雑誌で良く着てたからかな。手放すのはちょっと惜しいけど、『TEPPEIの服展』とまで言われたら、Christopher Nemethのアイテムはやっぱり外せないかなと思って(笑)。

Bernhard Willhelm(ベルンハルト ウィルヘルム)の恐竜柄セーター&小人柄ニットパンツ

これもてっちゃんの印象が強いアイテム。

シーズンはそれぞれ違うけれど、どちらも元はウィメンズのアイテムなんだよね。Bernhard Willhelmはすごく人気で僕自身、Bernhard Willhelmのアイテムを買い漁っていました。『TUNE』や『FRUITS』の影響もあり、この頃はDogが海外から注目を浴びて、僕やスタッフの着こなしが、コレクションのサンプリングソースにもなっていたみたい。Bernhard Willhelmとは実際に会ったこともあって、後にBernhard Willhelmからは”DOG”って品番の付いた、僕をモチーフとしたコレクションがリリースされています。

すごいエピソードだよね。後にも先にも、お店のスタッフがコレクションのシーズンテーマになることはもう無いと思うよ(笑)。

Bernhard Willhelmのニットセットアップ

同じくBernhard Willhelmから。これはセットアップなんだけど、上下セットで着ることは少なくて、むしろ崩して着ることが多かったかな。パンツの方を履いたスナップが『TUNE』の表紙になっているので、見たことある人もいるかもしれません。

洋服を見ていると大概は元ネタが分かるけどさ、Bernhard Willhelmのアイテムってあまり既視感がないよね。

たしかに。2010年以降はサンプリング文化が主流になって、過去のモデファイが蔓延しているというか、元ネタがあからさまなものも多いんだけど、Bernhard Willhelmには依然として真似できない魅力があるよね。洋服としてすごく芯が強いし、アーカイブとしても価値が高いと思う。

SASQUATCHfabrix.(サスクワァッチファブリックス)のメキシカンスカルクロップドパンツ

Dickies(ディッキーズ)とのコラボレーションで7部丈っていうのが、色々な意味で時代感があるなと(笑)。この半端丈をタイムレスに感じる人に、ぜひ買ってほしいですね。SASQUATCHfabrix.を知っている人からすると、懐かしく感じる部分も多いのでは。

これが既に”懐かしい”ってカテゴリーに入ってくることに時の流れの早さを感じます。

FACETASM(ファセッタズム)のイーグルジャケット

これもさっきのSASQUATCHfabrix.と同じ時代感だよね。見た瞬間、懐かしいって思っちゃった自分がいる(笑)。意外にも2010年代初期のアイテムはまだ掘られていないってことで、僕がお願いして今回のイベントに出品してもらいました。

当時のFACETASMといえばこのモチーフ。柄合わせもしっかりされていて、作りも良いです。2010年初頭の東京ファッションを象徴する1着。今着ても、全然格好良いですよね。

PHENOMENON(フェノメノン)のビーズパーカ

”亀甲縛りMA-1”でインターネットを沸かせる、ちょっと前のアイテムかな。PHENOMENONのアイテムとしては特別有名って訳じゃないんだけど、個人的に大好きだったデザイン。

PHENOMENONのやっていたことって簡単に真似出来そうにも見えるんだけど、まだどこもそれをやらないってことは、やっぱり唯一無二だったんだろうね。今回のイベントでは、2010年代初頭というのが1つのキーワードになっています。

C.E.(シーイー)のグラフィックシャツ

2010年代初頭で言うと、C.E.のデビューも衝撃的だったよね。

これも僕の希望で出品してもらったんですが、C.E.のような現役バリバリのブランドの初期のアイテムが、市場的にそろそろ定義されても良いのかなって個人的に思っていまして。

DIET BUTCHER SLIM SKIN(ダイエットブッチャースリムスキン)のハイネックライダースジャケット

これも10年以上前の作品だよね。懐かしい。このハイネックは当時のDIET BUTCHER SLIM SKINを象徴するディティールだと思うんだけど、これはだいぶ初期のアイテムじゃないかな。

余談だけど、てっちゃんの服はどれもすごく状態が良いよね。洋服への愛を感じる。

JUVENILE HALL ROLLCALL(ジュヴェナイル ホール ロールコール)の蜘蛛の巣柄ジャケット

今も現役のブランドで、2010年代初期はCANNABISやGARDENが買い付けてたかな。当時は僕がルックのスタイリングを担当させてもらっていました。

スパイダーウェブが格好良いよね。

文脈的には1990年代後半から2000年代前半の東京のモード寄りのファッションシーンに通ずるデザインだと思っています。

visvim(ビズビム)のジップパーカ

シューズでヒット作を連発して、アパレルを本格的に作り始めた頃のvisvimのアイテム。可愛くて、すごく出来が良い。

たしかに2010年代初期のvisvimはシューズのイメージが強かったかも。

NIKE SPORTSWEAR(ナイキ スポーツウェア)の『AIR MAX 90(NIKE ID)』

初めて自分がNIKE IDで作ったシューズ。履き口に”YES”、”NO”とか書いちゃって、今見ると恥ずかしい(笑)。これに関しては時代感も無いし「TEPPEIが初めて作ったNIKE ID」ってことでしか無いかな(笑)。

企画にはベストマッチだけどね。『TEPPEIの服展』だから。

COMME des GARÇONS JUNYA WATANABE MAN(コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン)のパッチワークカーディガン

一見すると古着のリメイクっぽいけど、どちらかというとCOMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)の系譜を受け継ぐパッチワークがポイント。ちょっとレディースっぽいけど、メンズのアイテムです。これを着てスナップを撮られる機会も多かったかな。

てっちゃんが一番洋服にお金を突っ込んでた時代だね。給料を丸ごと洋服につぎ込むって感じの。

TEPPEIの服展

開催期間:2020年11月21日(土)~11月23日(月) 12:00~20:00
開催場所:offshore tokyo
東京都渋谷区神宮前3-14-17 1F A/B 
TEL:03-3470-6877
https://www.offshore-tokyo.com/

※各日11時30分から整理券の配布を開始。
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