サーフブランド、ファッションブランド。そんなカテゴリーを気にしているのは日本だけなのかもしれない。
本特集でフィーチャーするのは、オーストラリアはシドニー発のブランド[TCSS]。前回の特集に登場したJIM MITCHELLと共に、同ブランドを創設したSam Coombesへのインタビューから[TCSS]の魅力、2016年秋冬シーズンの注目アイテムに迫るという内容だ。
彼は、インタビューの中で[TCSS]を、サーフブランドではなく、コースタル(海外沿いの)ブランドと形容した。ファッションとサーフの関係や、今後の展望についての質問に対しては、不思議そうな表情で考えを巡らせた。
どうやら、彼にとって大事なことは、一過性のトレンドや、自分たちがどう分類されるか、商業的な未来のプランではないらしい。「情熱を持って好きなことをやり続けて、毎日を楽しく過ごして欲しい。」全ては彼らの信条であるこのメッセージに尽きるのだろう。
今回の記事を通して、サーフブランドの枠に留まらない[TCSS]のGood Vibesを感じてくれたら嬉しい。
常夏のアイテムに限定してしまうブランドでは、サーフのライフスタイルから考えると、逆に狭い範囲でしかないんですよ。
— まずは簡単に自己紹介をお願いします。
Sam:名前はSam Coombesです。Jimとの出会いは、もともとMamboで働いていたことがきっかけです。一緒に2000年のシドニーオリンピックのユニフォームをデザインしたこともありましたね。その後、2009年にJimとオーストラリアのシドニーでブランドを立ち上げて以来、音楽、サーフ、アートという自分たちの好きなものを取り入れながらブランドをやってきました。[TCSS]はポップカルチャーからインスピレーションを得て、コースタルライフ、海岸沿いでのライフスタイルという解釈を加えることによって独自性を出しています。ボードショーツが”世界一イケてるボードショーツコンテスト”(Stab Magazine’s ‘Place in the Sun’ competition、Stab Magazine’s ‘Poolside Love Affair ’ competition)で2年連続チャンピオンになっている経緯もあり、かなり調子が良く、この頃は秋冬のジャケットやフリース、裏毛関係、シャツだったりにも注力しています。
— 日本でも[TCSS]はやはりボードショーツのイメージが強いです。ここが今日のテーマになって来るのですが、「じゃあ、サーフブランドの秋冬物ってどういうものなんだろう?」って思う方もきっと多いはずで、その点について[TCSS]の強みはどういったところにあるのでしょうか?
Sam:当然ですが、サーファーにも冬は来ます。サーファーには様々な環境でサーフィンをすることが日常的にあるんですよね。極端な例だと、この頃サーフの写真のスポットとして注目されているアイスランド。今は、極寒の地でサーフィンをするっていうのも、逆にハイライトになっていたりするので、常夏のアイテムに限定してしまうブランドでは、サーフのライフスタイルから考えると、逆に狭い範囲でしかないんですよ。家を出て、海に着いて、ウェットスーツに着替えて、海に入って、上がって。あらゆる環境でこういったプロセスをカバーできてこそ、正しいサーフライフスタイルのブランドだと思っています。サーファーは、いい波を求めて世界中を旅するので、様々なコンディションに対応できるようなデザインを心がけています。まだ発表できないこともありますが、より旅を心地よく充実させるためのアイテムをいろいろと開発中です。
— そういったコンセプトをまさに体現している今シーズンの注目アイテム、[NANGA(ナンガ)]とコラボレーションしたダウンジャケットについて教えてください。
Sam:[TCSS]は、ファンたちにいいもの提供しないといけないっていう責任感が強いブランドなんです。だから今回、ダウンを作ろうと決まった時も、世界最高峰のダウンメーカーはどこだろうと調べた結果、[NANGA]に辿り着きました。オーストラリア人からすると[NANGA]っていう響きも、ちょっとワルな感じでかっこいいなと思って、ズバッと来たんですよ(笑) コラボレーションが実現してすごく嬉しいです。
— アイテムの特徴を教えてください。
Sam:ダウンジャケットってキルティングされている物が多いですが、あえてキルティングを表面に出さないことで[TCSS]らしいデザインのひねりを加えたつもりです。撥水生地なので、キルティングがないことで雨が落ちやすくなって、より撥水性が高まるという意味では、機能的なデザインでもあります。シルエットにもかなりこだわっていて、アウトドアの野暮ったさを無くしながら、サーフ寄りでクリーンな、かっこいいシルエットになっているのでそこも自信があります。
— サーファーの為のダウンにはどんな機能が必要なのでしょうか
Sam:コンセプトを考えてみると、例えばボードショーツというのは、海の中で活動するための、ある意味エクストリームな環境で着用するものなので、生地も良いものじゃなくちゃいけないし、ポケットやデザインやパターン、フィット感、全てがしっかりしていないと通用しない世界。そういった意味では、このダウンも、極寒の中で機能しなければいけないという役割を考えてみれば、僕たちが得意なボードショーツとも通じる部分があって、そういった経験から培ったクリエイションも取り入れています。具体的には、こちらのダウンはフィルパワーが760。フィルパワー=暖かさなんで、これはかなり暖かいと言えます。また、ダウンフェザーは日本国内でオゾンで洗浄することで、脂肪酸を除去しながら、殺菌、消臭といった機能性にも優れていて、なにより単純にすごく軽いです。
— [TCSS]のターゲットはどんな人たちですか?
Sam:ターゲットとして考えているのは、プロモーションのモデルにも使っているDEADKOOKSのEden soul。彼が今の[TCSS]のミューズでありターゲットとする人物像そのもです。基本的に、[TCSS]のプロダクトは、サーフィンをする人たちに向けて作っています。根幹となるカルチャーはやっぱりサーフィン。ただ、ここで言うサーフィンっていうのは、アスリートとして取り組む競技のことではなく、オーストラリアを含め、コースタルライフをエンジョイしながら、サーフィンをしている人たちっていう意味でのサーファー。それを見てサーフィンをする人でも、しない人でも、こういうライフスタイルいいな! と思って使ってくれれば、それはありがたいし、嬉しいことです。サーフカルチャーを象徴しながら、ライフスタイルを楽しむ為に着られるブランドでありたいと思っています。
— 日本ではサーフブランドとファッションブランドの境がだんだんなくなって、より近いものになって来ているのですが、海外ではどうでしょうか?
Sam:サーフとファッションは、もともと近いものなんだと思います。特にオーストラリアやアメリカ西海岸はサーフィンが日常的なもので、そこから自然発生的にスタイルが確立していくというのは昔からあったことなので。今ではストリートブランドとして認知されていますが、Shawn Stussyだって、もともとはサーフボードシェイパーだったり。今も昔もサーフとファッションは互いに影響しあっているんじゃないかなと。
— それでは、[TCSS]は何ブランドだと思いますか?
Sam:あえて言うなら、コースタルブランドですね。キーワードは、楽しくて、海があって、リラックスしている。[TCSS]はアートのブランドだと言う方もいますが、そのアートも海岸沿いのカルチャーの中でインスピレーションを得て、描かれているものなので、全てはそこに繋がっていると言えますね。
— [TCSS]の今後の展望について教えてください。
Sam:今後の展望か〜。なんだろうな〜? 面白い質問ですね(笑) 引き続き今やってることを深掘りしながらレベルアップさせた、より良いものを作ること。そして、コースタルなvibeを皆で共有したいです。強いて言うなら、アメリカ、日本、オーストラリアに今はフォーカスしているので、そこから派生して、より多くの国の人たちと良い時間、良いマインドを共有できるようにブランドを広げていければいいなと思います。そして個人的には、サーフィンがたくさんできれば最高です。
— 日本のファンにメッセージをお願いします。
Sam:これは[TCSS]の信念でもあるのですが、好きなことを、情熱を持ってやり続けて、毎日を楽しく過ごして欲しい。あとは、皆ちゃんと海に入ってください。気持ちいいんで(笑) “Wash off the day” 海に入って心も体も綺麗に洗い流される感覚を、たくさん体験して欲しいですね。