南貴之とGraphpaper

by Mastered編集部

南貴之はブレない。いつだって自分が次にやるべきことを分かっているから。

南貴之は驕らない。洋服屋の苦労や困難を熟知しているから。

南貴之は妥協しない。誰よりも店づくりを楽しみ、自分の関わる店を愛しているから。



南貴之とGraphpaper。

※本特集内に掲載されている商品価格は、全て税抜価格となります。

Photo:Satoru Koyama(ECOS)、Takuya Murata、Text&Edit:Keita Miki

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お店側からの提案なんて、本当にどうでも良いんですよ。

— Graphpaperはこの2月で1周年を迎えますが、まずは改めてGraphpaperというお店をスタートさせた理由を教えて頂けますか。

:元々自分の会社でこの場所をプレスルームとして使っていたんですが、実はその時から、いつかはお店にしたいと思っていたんですよね。東京のど真ん中なのに、鳥がいて、虫がいて、蛙がいてっていうロケーションがすごく気に入っていて。

— その当時から、Graphpaperの構想は南さんの頭の中にあったんですか?

:いや、お店にしたいとは思っていたんですけど、実際にお店にするチャンスは急にやって来たので(笑)、何も考えてない状態でしたよ。だから、FreshServiceの期間限定店をやったりしながら、半年ぐらい、「どうしようかな」と考えて。でも、いずれにせよ、洋服だけのお店にするつもりは無かったから、日本全国歩き回って、色々な作家さんに会ったりして。なんとなく、お店の仕組みも持ち合わせたギャラリーみたいなことが出来ないかなと思って。

— 今まで手掛けてきたお店とは違う形でということですよね?

:空間的な考え方としては、FACTORYに近いのかもしれないですね。ただ、今回は作品よりも空間が前に出て来てしまうのはあまり良くないなと思ったし、年代とか国とかジャンルとか、そういうのは全部一旦置いておいて、全てをフラットに見てもらえるような空間が作りたかったんです。店内が全部シンメトリーになっているのも、そういった理由からですね。少し話は変わりますけど、アート作品をプリントしたTシャツとかって良く見るじゃないですか? 僕はあれを絶対にやりたくないんです。アートはアートとして成立させたいし、作品は作品として販売したい。そういう意味ではギャラリー的なことがやりたいんだけど、ギャラリーって作品の展示場所とショップが別になっていますよね。あくまでショップはギャラリーのお土産を置く場所というか。そうじゃ無くて、見せたものは全て買えるようにしたかった。僕がやるのは「お店」な訳だから、買えないと意味が無い。それをどうやって成立させたら良いのかってことを考えた結果、出来上がったのがGraphpaperなんですが、まぁ、正直めちゃくちゃ大変でしたよ(笑)。

— アートとファッションの現在の関係性へのアンチテーゼでもあると。

:まぁ、アートとファッションは近くにはいるんですけど、決して一緒にはならないですよね。最近はアートも食も、全てがファッション化していますけど。

— 洋服のセレクトに関してはいかがでしょうか。Graphpaperに置いてあるものの基準は?

:膨大にあるブランドの中から、”このブランドのこれだけ”っていうような選び方をしているので、基本的には土下座してブランドさんにお願いするような感じですね(笑)。観点は色々とありますけど、基準としては自分が永続的に美しいと思えるもの。良く「自分が永続的に美しいと思えるもの=ベーシック」みたいな捉え方をされたりもするんですけど、その中にはアヴァンギャルドなものもあれば、民族的なものもあって、決してベーシックなものにこだわっている訳では無いです。本当に個人的に選んでいるので、範囲としてはすごく狭いんですが、今はそういう選び方をするお店の方が少ないですから。ギャラリーでは、キュレーションする人間が1つのミュージアムの中で、どう作品を置いて、どう見せていくかを決める訳ですけど、それと全く同じ手法でお店をやってみたかったんです。

— 考え方としてはギャラリーに近い訳ですね。

:そうですね。お店に「世界観を出して欲しい」ってリクエストをするブランドさんって結構あると思うんですけど、そもそもGraphpaperにはそういう概念が無い。逆に普段とは見え方も視点も変わって、「これもありだね」って気付いてもらえたら嬉しいなと。

— アイディアソースは、1969年にハラルド・ゼーマンのキュレーションによって、クンストハル・ベルンで開催された展覧会『WHEN ATTITUDE BECOME DORM – 態度がかたちになるとき -』だと伺いました。

:まず最初に所謂キュレーターと呼ばれる人たちは、どういう人たちなんだろうってことを調べたんですよ。キュレーターって基本的には決まった美術館に所属していて、自らの属する美術館に合うものをキュレーションする訳です。だけど、このハラルド・ゼーマンという人はフリーランスで、展示する場所も、テーマも、参加アーティストも全てを自分で決めて、それまでの美術館のキュレーターという概念を覆した。要するに、至極個人的な考えやコンセプトを基に作品を集めて展示したんですよ。その姿勢が僕にとってはすごく面白くて、自分のやりたいことにも近かったので、Graphpaperの根本にはなっていますね。

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— ビジネス的な側面に関してはどのように考えていますか? つまりは「売れる、売れない」ということをGraphpaperでは考えているのかという話ですが。

:全く考えていないですね。ただ、こんな場所まで来てもらう訳ですから、「ここでしか買えない」ということには少しこだわっています。例えば3型の中に1型別注を混ぜるとか。うちのコンセプトに基づいて、このお店の為に作ってもらうものが多いような気はします。

以前のインタビューの際に、洋服の性差について話を伺いましたが、メンズ、レディースの区別は?

:もちろん、性差も無いですよ。そもそも最近やたらと騒がれていますけど、メンズの洋服を女の子が着るって事象は随分前からありますからね。だけど、ワンピースとかもありますよ。それも1つの作品として捉えているので。女性のお客さんも結構来てくれますし。

— 昨年だけで考えても東京には多くのショップが生まれ、そして消えていきました。お店としての差別化を図ることが難しい時代になってきているようにも思うのですが。

:言い訳は色々あるでしょうけど、結局ダメなものは消えて、良いものは残るってことなんじゃないですかね。「コンセプトが悪かった」とか良く耳にしますけど、悪いのはコンセプトじゃないですから。

— 1LDKの時のように、この場所以外にGraphpaperを作るつもりはありますか?

:天井が高くて、広くて、真四角な場所があれば。東京オリンピックに関連して古い建物がどんどん壊されていきますけど、代わりに新しい場所が生まれるかもしれないですし。ただ、今のところ、商業施設には入れるつもりは無いです。たくさんの人に分かってもらえるものでは無いし、たくさんの人が流れていくような場所でやるお店でも無い。余談ですが、Graphpaperでは「人の気配」を消したくて、スタッフには制服を着てもらってるんです。1LDKの時は”家”がコンセプトだったからスタッフのパーソナルな部分も大事にしていたんですけど、Graphpaperではお客さんはスタッフじゃ無くて、お店のファンになって欲しいと思って。

— Need Supply Co.関連で昨年はNYに足を運んだそうですが、久々のNYはいかがでしたか?

:結構色々なお店を回ったんですけど、正直大した驚きは無かったですね。でも本気のスケーターやキッズ達が集まるようなお店があって、そこは抜群に良かった。

— 個人的に最近興味のあるものは?

:ミッドセンチュリーとかヴィンテージのデザイナー家具に興味があって、色々と買っています。自分のお店があると、やりたいことは全部そこで出来るから、興味がある事は、お店を見てもらえれば一目瞭然かと。

— 国内でGraphpaper以外に面白いなと思ったお店はありますか?

:面白いお店は、地方の方が多いですね。地方は東京の何倍も顧客商売だから普通のお店じゃ生き残れないし、スタッフのレベルも高い。場所もあるから、お店自体が格好良いんですよ。話してみると、東京に対するコンプレックスはあるみたいだけど、むしろ東京のお店より全然ちゃんとしてるお店も多いですしね。去年、コペンハーゲンに行った時に思ったんですけど、東京はとにかく古い建物が少ないんですよ。海外と比較すると、建物のポテンシャルが全然違う。東の方、例えば清澄白河とかは天井が高くて、良い建物が多いので、狙ってはいますけど。

— ご自身のお店を作って良かった思う部分、苦労している部分を教えてください。

:洋服屋は原価率に厳しいけど、自分のお店だったら好きなことが出来るし、儲からなくても良いっていうのは自分のお店だからこそって感じですかね。苦労していることは特に無いです。今までも大変だったので(笑)。場所が場所だし、売れなくても良いやと思っていたけど、意外とお客さんも来てくれるし、買ってくれる。音楽もレコードの売上が良いって聞くし、アナログなものに飢えている人達が増えているのかもしれませんね。みんな、色々なことをやりすぎなんですよ。「儲けたいだけなら洋服屋なんて辞めちゃえよ」って思いますけどね。「売れない、売れない」って言うけど、うちは売れてますよ。そもそも、お客さんを騙そうとして上手く行く訳が無いんですよ。特にメンズに限っては。靴を半分に割った写真が雑誌に載っている国ですよ? 靴職人になる訳でも無いのに、好きな人は靴の歴史の勉強までしちゃってるし(笑)。そんな国は日本だけですよ。スタイルなんてお店から押し付けるものじゃない。お客さんの生活や趣味を無視して、「今年はこうです」、「うちはこう提案します」とかおかしいじゃないですか。そういう意味ではGraphpaperは何も提案しないし、個性が無いお客さんはお店に来ても面白くないのかもしれない。個性を持っている人は自分で選べますからね。お店側からの提案なんて、本当にどうでも良いんですよ。

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