藤井隆行と[nonnative]の15年、そして「ちょっと先のこと」。

by Mastered編集部

前身サイト「CLUSTER」の立ち上げ時から動向を追ってきたデザイナー、藤井隆行。藤井が[nonnative(ノンネイティブ)]にデザイナーとして加わり丸15年というタイミングを機に、成熟の粋に達したそのクリエイションについて、改めて話を訊いた。

原点回帰的なテーマを掲げた2016年秋冬コレクションの話を中心に、40歳を目前にしての「意外な初体験」や、いまだ変わらず愛し続ける「あのアイテム」、そして本邦初公開のリーク情報まで。EYESCREAM.JPにとっても原点回帰となる本インタビュー、ご賞味あれ。

Photo : Keiichi Ito | Interview, Text & Edit : Yugo Shiokawa

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15年前、何が一番好きだったかなって振り返ると、あの頃のロンドンだったんですよね。

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— 藤井さんが[nonnative]にデザイナーとして加わって、15年だそうですね。

藤井:このあいだやった次の秋冬の展示会が、僕が入ってからちょうど30回目だったんで、丸15年。ブランド自体はもう少し前からあるんで、とくにアニバーサリーとかっていうわけじゃないんですけど、15年もやってきたんだな、っていう。

— 以前、「ブランドをどうやって続けていくかっていうこともデザインの一部」とおっしゃっていたのが印象に残っています。→ 関連記事

藤井:ビジネス面も大事だっていうのは普通のことというか、あたりまえのことで。何か新しいことをするわけじゃなくて、あたりまえのことをあたりまえにやって、気がついたら15年経ってたみたいな感じですね。

— 藤井さんが加わって30シーズン目となる[nonnative]の2016年秋冬コレクションは、”Back to Everyday People”という、原点回帰的なテーマが掲げられています。藤井さんは毎シーズン、旅でのインスパイアからコレクション制作をされていますが、今回はどちらへ行かれたんでしょうか?

藤井:今回はロンドン。15年前、何が一番好きだったかなって振り返ると、あの頃のロンドンだったんですよね。なんか、今のロンドンのファッションがまさにあの頃の感じなんですけど、それがすごく懐かしくて、いいなと思って。パンクとかそういうイギリスじゃなくて、自分が当時勤めていた[SILAS(サイラス)]だったり、[Levi’s® RED™(リーバイス® レッド™)]、[maharishi(マハリシ)]、[GRIFFIN(グリフィン)]。音楽だったらファットボーイ・スリムとかアンダーワールド、オアシスにブラーとか。そういうアメリカには無い要素っていうのが、やっぱり好きなんだなって。

[nonnative]の2016年秋冬コレクションより。

[nonnative]の2016年秋冬コレクションより。

— その原点回帰は、15年という節目を迎えての意図的なものだったんですか?

藤井:なんか、ちょっと詰まっちゃってたところがあったんです。春夏はテキサスがテーマだったんですけど、今やアメリカそのものが、僕が憧れていたアメリカとは別のものになってしまっていて。テキサスまで行けば、僕が好きな「アメリカっぽさ」があるかなと思ったんですけど、実際はそこまででもなかったですね。
そんなこともあって、アメリカはもうあのアメリカじゃないし、ロンドンがおもしろそうだな、と。

— ここ数年はとくに顕著ですが、基本的なクリエイションにまったくブレがなく、15年かけてひたすら藤井流のメンズファッションをブラッシュアップしてきたものが、今の[nonnative]だと思うんです。

藤井:変えようがないっていうか、基本的に不器用なんですよ(笑)。弟ブランドを作るとか、複数のラインを展開するとか、そういうことを上手にできるタイプじゃないし。でも、毎シーズンまったく同じものを定番として作っているのって、ジーンズだけなんですけどね。

— そうやってストイックに研ぎ澄まされていくものを骨格に、旅から得るテーマが毎シーズンのいい肉付けになっていて。

藤井:なんていうか、「この服を着て、どこに行く」っていうポイントが弱いような気がしていて。やっぱり洋服は着るためにあるものだから、それを着て実際にどこへ行くかって、絶対に必要なことだと思うんです。ただデートに着ていきます、みたいなことだけじゃなくて。かといって、「いかにも旅のツールです」みたいな服を僕が作るのもちょっと違うんで、シーズン前は必ず旅に出かけて、異なる土地の空気感を取り入れている感じですね。それに、「イギリスです」とか「アメリカです」とか、土地がテーマになっていると、わかりやすいというか、伝えやすい部分もあります。

— わかりやすさ、ですか。

藤井:お客さんひとりひとりに僕が直接説明するんだったら、もっと抽象的なテーマでもいいのかもしれないですけど、店頭のスタッフも増えている中で、わかりやすい、説明しやすい要素っていうのは必要かなって。かといって、音楽とか映画をテーマにするようなタイプでもないので、旅っていうのがちょうどいいんです。映像にも落とし込みやすいですしね。ちょっとふんわりしてますけど。

— 映像といえば、[nonnative]はイメージムービーが毎回すごくおもしろいですよね。

藤井:ムービーは今、明男(TNP全体のプレスも兼任する山川明男氏)がディレクションしてるんですけど、僕からはキーワードを投げるだけで、あれこれ内容を指示したりっていうことは無いんですよね。「どうしましょうか?」って聞かれることもないし、ミーティングすらない(笑)。今回の春夏だったら、僕から伝えたのは「カウボーイ」と「NASA」。レトロとフューチャーですよね。それだけ伝えたら、ああなりました(笑)。ミーティングを繰り返したところで、あんまりおもしろいものにはならない気がしています。

— ファッションのムービーというと、かっこいいモデルがかっこいい服を着て、なんとなくかっこいい映像に収まっているだけ、みたいなものが多い中、とても新鮮に響きました。

藤井:自分たちの作っているものに対して「かっこいい」っていう自信があれば、動画はちょっとダサいぐらいの方に振った方がおもしろいじゃないですか。そういう表現をできるスタッフが揃っているっていうのは、心強いですね。

— 日本のファッションブランドがイメージムービーをVimeoにアップするって、僕の知る限り[nonnative]が最初だと思うんですけど、ブランドウェブサイトをはじめ、ネットへの対応も早いですよね。

藤井:ただ、ネット販売については、今でもどうなのかなっていう部分もあって。地方のセレクトショップをはじめとした卸先さんも大切ですし、みなさん一生懸命売っていただいていますから。でも、やっぱり全150型を扱ってくれるお店なんてあるわけがないし、そんな中、お客さんはうちのブランドサイトとかを見て「あれもあるんだ、これもあるんだ、欲しいな」って言ってくださるわけで、そういうニーズに応えようと思うと、どうしてもECサイトCOVERCHORDは必要でしたね。

— あと[nonnative]といえば、つい最近の[LACOSTE(ラコステ)]もそうですけど、長年いろいろなブランドとのコラボレーションアイテムを展開しています。その中でも[New Balance(ニューバランス)]との取り組みは、ずいぶん長い間続いていますよね。

藤井:今年も出すんですけど、これは本当に悩みました。今回は「マジでやめよう、もう無理です」っていうところまで追い詰められてたんですけど、これも去年の夏、旅の中である靴と出会ったことによって、いいアイデアが生まれて。それを[New Balance]さんに形にしてもらったら、うまくハマったんですよね。ていうか、[New Balance]側が驚いてました(笑)。10月から11月ぐらいには発売できると思います。

— ひと足お先に見せていただきましたが、これは楽しみですね。今回のものを含め、最近は最新のモデルをベースにすることが多いですが、これは[New Balance]側から指定があったりするのでしょうか?

藤井:今は本国の方針でクラシックモデルを扱えないというのもあって、ある程度決まったカテゴリーの新しいモデルから、何モデルか選ぶ感じですね。それを自分で実際に履いてみて、その中から「あ、これいけるな」っていうものを形にしていくんですけど、まぁ難しいですよね。1500とか1700みたいな定番モデルと違って、本当に売れるのかどうかもわからないですし。でも、今さらクラシックモデルでやったところでっていうのもあるし、最新モデルをいじるおもしろさっていうか、これは僕たちにしかできないことなのかなって。

乞うご期待。

乞うご期待。

— [New Balance]とファッションブランドのコラボレーションもそうですが、ジョガーパンツやノーカラーのアイテムなど、世界のトレンドを[nonnative]がはるか前に先取りしているということが本当に多いですよね。

藤井:僕らはリブパンツと呼んでたけど、今やジョガーパンツっていう名前で、[UNIQLO(ユニクロ)]があんなにプッシュしてて(笑)。ノーカラーも、ただ襟を取っちゃっただけなんですけど、気がつけばずいぶん増えましたよね。東京に来るたび、必ずお店(vendor)に寄って買い物していってくれる海外のファッションセレブリティも結構いるし、地味にですけど、気にされているみたいです(笑)。

— 来シーズンは[New Balance]以外にも、[Converse(コンバース)]のプロレザーをアレンジしていますよね。

藤井:[Converse]とやるのははじめてなんですけど、プロレザー40周年っていうことでお話をいただいて。同い年じゃん、っていうのもあって、とりあえず3色提案して作ってもらったら、仕上がりが全部いい感じだったんですよね。それで3色ともやりましょう、って。ヴィンテージっぽい木型とソールの感じとか、すごくよくできてます。発売は9月ぐらいかな。

取り外し可能なジップが付く、[nonnative × Converse]のPro Leather。各20,000円 + 税

取り外し可能なジップが付く、[nonnative × Converse]のPro Leather。各20,000円 + 税

— そういえば、[CHROME HEARTS(クロムハーツ)]のリチャード・スタークが、先日[nonnative]の服をたくさん買っていったそうですね。

藤井:そう、奥さん(ローリー・リン・スターク)の個展で来日してた時に、UNITED ARROWS & SONSと作った草木染めのやつ→ 関連記事を気に入ってくれて、サイズが合うやつ全部買ってくれたんです。そのあとの個展のオープニングパーティでは一緒に記念写真まで撮ってもらって、その脚の長さに驚いたりしたんですけど(笑)。
でも、「そういえば[CHROME HEARTS]、ひとつも持ってないな」ってことに気づいて。買ったことなかったんですよ。まわりからは「あ、[goro’s(ゴローズ)]派なんだ?」とか冗談混じりに責められたんですけど、こういう顔だから(笑)、あんまりアクセサリーをジャラジャラつけるのが苦手で、[goro’s]も一切持ってないんですよね。腕時計もできればしたくないぐらい。
でも、せっかくウチの服を買ってくれたわけだし、[CHROME HEARTS]みたいなジュエリーを買うっていう体験自体が自分にとっては珍しいものだから、ちょっとおもしろいなと思って。それで翌日、ヨッさん(UNITED ARROWS広報 吉田淳志氏)に原宿のお店へ連れて行ってもらって、一番シンプルなキーチェーンを買いました。39歳にして、はじめての[CHROME HEARTS]です(笑)。

意外にも人生初だという[CHROME HEARTS]のキーチェーン。藤井氏私物。

意外にも人生初だという[CHROME HEARTS]のキーチェーン。

— 他にも最近買ったものってなにかありますか?

藤井:ベージュの靴ぐらいかなぁ…。

— やっぱり!(笑)→ 関連記事

藤井:ちょっと前まで黒ばっかり着てたから、あんまりベージュの靴を履いてなかったんだけど、今日みたいに薄い色目なことが多くなってきたから、また履く機会が増えてて。最近買ったのだと、[HOKA ONE ONE(ホカ オネオネ)]のミリタリーっぽいハイカット。直接本国のサイトから買おうとしたんだけど、日本には送れませんって言われちゃって。それで調べてみたら、日本でもBEAMSだけやってるっていうことがわかって、無事買えました。まだ一度も履いてないんですけど(笑)。他にも[Nike SB(ナイキSB)]のダンクとか、ちょこちょこ買ってますね(編注:その全貌は次のページで!)。
そういえば今、ベージュの靴をふたつのブランドと作っていて、そのうちひとつは年内、もうひとつは年明けに紹介できると思います。どっちもはじめてやるブランドなので、僕自身、仕上がりが楽しみです。

次のページは「最近お気に入りな”ベージュの靴”」の紹介です。

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