特別インタビュー:村上隆~あの村上隆が映画を撮った? 『めめめのくらげ』の正体とは~

by Mastered編集部

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村上隆の初監督作『めめめのくらげ』、その資料用パンフに掲載されている写真があまりに象徴的だ。机の上に沢山並べられた特撮モノの怪獣やキャラクター人形たちを前にして幼少だった頃の村上が微笑んでいる。特撮モノやアニメで育った原体験を元に描かれる「子供達の世界」。そこには単純なファンタジーとしてではなく、苦い現実を反映し、答えのない問いが繰り広げられているという。映画完成を前に、カイカイキキに村上隆を訪ねた。

Photo:Yoshimitsu Umekawa(otie)
Hair&make:Asuka Fujio(otie)
Interview&Text:Hiroshi Inada

明るく楽しいだけの夢や希望を与えたいわけではない。

— まず監督デビュー作『めめめのくらげ』がこのタイミングに結実した流れを教えてください。

デイヴィッド・リンチ監督作品『イレイザーヘッド』のDVD

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村上隆(以下、村上):震災後、いろいろ考えたんですよね。このまま関東から逃げようか、自分が出来る社会貢献はなんだろうとか。台湾に行って自分の作品をチャリティーにかけてお金集めたり、世界中の友人のアーティストのところに行脚して、大きなチャリティーオークションを開催する準備をしたり。でも、一方では日本国内のプロジェクトはいろいろ止まったんです。そんななか、前の年の別プロジェクトで知り合った西村(喜廣/製作・監督補) さんに口説かれたことを思い出して一本電話したんですよね。どう口説かれたかって言うと、「村上さん、一本目の映画は自分の作りたいものを誰にも気にせず創るべきですよ。デヴィット・リンチの『イレイザーヘッド』みたいに何年かかっても監督のやりたいことを最初から最後まで破綻してても全部作りきるのが一作目です」って。なので、今、そうはいっても西村さんも大変だろうなぁ~って。ぼんやり暗い気持ちで電話したら明るい声で「スグ打ち合わせ、やりましょうよ!」って言ってくれて、元気でたんですよね。

— 西村さんが仰る通り、監督としての第一作は一度しか撮れないので、きっと村上さんのコアが露になっているのかと想像するんですが。

『ウルトラマン』のDVD BOX

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村上:西村さんが最近おっしゃってるのは「村上さんのメッセージは政治色が強いです」というんです。確かに『めめめ』の世界観の何が原点になっているかといえば、自分の幼少時に観たTVからのあれこれに対して、親父に質問し答えてくれた、その対話が核になってることが明確になってきたんです。ベトナム戦争、冷戦構造、公害、あさま山荘事件、安保条約反対、学生紛争、そして自分の家の貧困の原因。資本主義やアメリカの帝国主義、自由民主主義と社会主義、戦争の無意味さ、等を今考えると刷り込まれたと思います。難しいことはわからなかったけれども、そういう話を聞いて『ゲゲゲの鬼太郎』や『ウルトラマン』とかを観ると、カリカチュアライズされた社会の歪みが描かれていた。そこで子供心に気がつけていけました。そういうプロセスが『めめめ』には織り込まれています。

— 現代アートの世界において村上さんは作り手であり、なおかつ論客でもあるじゃないですか。でも映画ってうるさい論客の人が多いですよね。

村上:『ダークナイト ライジング』にも文句を付ける人がいるんですから、何を造っても文句言う人からは言われると覚悟しています。

— そこに対する躊躇いとかはなかったんですか?

村上:正直、自分は日本では常にアウェイですから。例えば、GEISAIとかで若いアーティストを育てても、そのアーティストから嫌われたりとか。もう究極です。なので、外国で受ければいいやって。僕のホームはロサンゼルスとパリなんで、そこで迎え入れられればいいや、と諦めてます。でも今回は映画なんで、村上隆への先入観の無い子どもたちには観て欲しいなぁ~って思います。

— 子供に対するメッセージを一番メインで考えてるんですか?

村上:はい。先にお話したように、子どもたちが観てくれて何かの気付きになってくれたら、と思っていますので、小学1年から5年ぐらいまでの子供さんに観て欲しいんです。

— 子供にはむしろストレートに受け取ってもらえますよね。

村上:子供は親との対話で、ある程度基礎が作られると思います。作品を見て、いろいろ親子で対話が可能な作品に仕上がってると思うので対話を創る作品としてはいいんじゃないなかぁ~って思ってます。津波のメタファーとか、クラッシュする映像も出てきますが、ファンタジーを通して見える現実の世界を共有してもらえないかなと。原発の事故の報道など、欺瞞と嘘が交錯していることは、子供の目にも写っているはずですが、それを見つめれるプリズムの準備になれないかなと思ってます。

— それは震災を経て次のパラダイムを模索している今の状況とも重なりますね。

漫画『風の谷のナウシカ』

漫画『風の谷のナウシカ』

村上:僕は宮崎駿の漫画『風の谷のナウシカ』が本当に好きです。絶望しか無い世界に産まれてしまった人々が、希望を持とうとして戦争をして兵器を復活させ 領土や欲へ己を滾らせてゆく愚かな姿。まさに現実はそういう世界です。僕の生きている現代美術の世界も、キレイ事の部分は紛うことなき“お芸術”そのものなんですが、投資やエゴ、金への執着もまた現実にはまとわりついてます。僕はそういうドロドロした人間の姿の中に塗れてゆくことを欲しています。ですが日本人は欺瞞的な構造の芸術が戦後は好きになっています。癒されないと満足されないというか、自立できない自分を承認されたがっているというか。そういう世界観から離脱できるお話を『めめめ』では日本の怪獣映画のフォーマットにのせて、語れればと思っているのです。

— 今CGを作られていて、作品として何割くらい完成してるんですか?

村上:一進一退です。本当になにもないところからイメージをたぐり寄せる作業なので。それこそ宮崎駿さんのように、作家本人の頭の中からイメージを絞りだす、という作業ではなく、多くのクリエイターとアイディアを出しあって、映像にしていって、それをこねてゆく方法が僕の製作方法なので、CGの部分は特別0からの創造なので、何度も何度もやっては潰し、潰したものを再度復活させる、という非効率的な進行方法をとっています。なので、9割出来たかな、と思っても6割ぐらいに一気に後退したりして。なので今どれぐらいかは言えない状態です。

— 実際に映画を作ってみて、アートを作っている現場と比べて物作りでかなり重なる部分と全然違う部分があったと思いますが。

村上:映画を語るグラマーをまだ手に入れられていません。手品のような仕掛けとともに、その効果を発揮するための段取りがあるわけで、現代美術の世界ではその段取りをマスター出来たので成功しましたが、映画はまったくの手探りです。段取りとテクニックと、そして作家の覚悟でしょうかね。同じようでも全く違う世界に、正直戸惑っています。

— 表現者として、映画にシフトするくらいの気持ちなんでしょうか。

村上隆1962年、東京生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。91年に青井画廊で個展を開催しアーティストとしてデビューする。98年には、UCLAのアートデパートメント、ニュージャンル科に客員教授として招かれる。08年に、米TIME誌「世界で最も影響力のある100人」に選出される。英国のアート誌Art Reviewの特集では、10年連続で「世界のアート業界をリードする100人」に選ばれ続けている。最高位は03年の7位。またアートの経済情報サイト、 アートタクティクスにおいて、11年7月に信用度の評価で世界5位を獲得している。日本では、六本木ヒルズやヴィトン、カニエ・ウェストやゆずとのコラボレーションで有名。また、「芸術起業論」「創造力なき日本」などの著作でも広く知られている。有限会社カイカイキキ代表として、若手アーティストの育成やマネージメント、ギャラリーやショップの運営も手掛けている。アニメ作品『6HP』を監督、13年にリリースされる。

村上隆
1962年、東京生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。91年に青井画廊で個展を開催しアーティストとしてデビューする。98年には、UCLAのアートデパートメント、ニュージャンル科に客員教授として招かれる。08年に、米TIME誌「世界で最も影響力のある100人」に選出される。英国のアート誌Art Reviewの特集では、10年連続で「世界のアート業界をリードする100人」に選ばれ続けている。最高位は03年の7位。またアートの経済情報サイト、 アートタクティクスにおいて、11年7月に信用度の評価で世界5位を獲得している。日本では、六本木ヒルズやヴィトン、カニエ・ウェストやゆずとのコラボレーションで有名。また、「芸術起業論」「創造力なき日本」などの著作でも広く知られている。有限会社カイカイキキ代表として、若手アーティストの育成やマネージメント、ギャラリーやショップの運営も手掛けている。アニメ作品『6HP』を監督、13年にリリースされる。

村上:僕は絵を描くのも、彫刻を創るのも、ギャラリーを運営したりアートショウをキュレーションして、メッセージを送る作家です。ニーズがあって、条件が合えばなんでもします。でも映画はいままでニーズも何も、作品として1つも無かった。なので、お声がけがあれば映画はやるし、今回のように自分でどうしても作りたいものがあったら造って行きますが、映画ドップリになることは無いと思います。

— と言いつつ、パート2も作られていると聞いたんですが。

村上:なので『めめめ』はどうしても撮りたい作品なんです。

— 一作目を撮ってる段階で続きを撮らなきゃっていう感じだったんですか?

村上:映画は好きだから、とかそういう舐めた動機で制作してないよな、と自問自答した部分があり、本当にこの世界観に自分を賭けれるのか、そのためには創りつづける構造に挑戦しようと思ったんです。3部作は受けても受けなくても撮りきるという構造を。だから結構悲壮感はあります。でも今は一作目の失敗をマインドしないようにして、自分のできる最高の作品を作りきることに集中しています。

— なるほど。あくまで想像ですが、内容としては相当辛口そうですね。

村上:日本の欺瞞を暴く、それは日本人である僕自身の事でもあるんですが、人に対して辛口ではなくかなり自己言及的な内容になっていると思います。一見楽しい子供映画の体をなしていますが。

— 村上さんにとっての主戦場である現代アートの場合は見る側のグラマーも問われる部分があるじゃないですか。それで言うと映画はよりストレートに、村上さんの考えてることがダイレクトに伝わると思います。

村上:お花の作品やキャラクターを使っているので、日本のアート界から随分嫌われ続けてきました。でも世界のアートシーンが思いつきや仕掛けだけで生き残れるはずはなく、手練手管の全てを駆使して生き残っているんです。笑っているお花にも多岐の意味やコンセプトがあるようにこの映画の幼稚な空気にも、ぼくなりの仕掛けは込めたつもりです。

— 子供が観て、後で何か気付くこともあるでしょうし。映画は時限爆弾だって言った人もいますけど。

村上:そうなんですか。僕にとっての時限爆弾はまさに『ゲゲゲの鬼太郎』と『ウルトラマン』だったわけですね。そういう作品になれるよう、残された制作時間、出来る限りの事を試したいと思います。

©Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

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【『めめめのくらげ』】
2013年4月26日(金)TOHOシネマズ 六本木ヒルズ他 全国順次ロードショー
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エグゼクティブプロデューサー、原案、監督、キャラクターデザイン:村上隆
主題歌:「Last Night, Good Night」(Re:Dialed) livetune feat. 初音ミク
プロデューサー:笠原ちあき 監督補:西村喜廣 脚本:継田淳 撮影:長野泰隆(J.S.C)照明:児玉淳 録音:良井真一
スタイリスト:柚木一樹 ヘアメイク:清水ちえこ 美術:福田宣 音楽:kz (livetune) サウンドデザイン:百瀬慶一
VFXプロデューサー:豊嶋勇作(デジタル・ フロンティア)、鹿野剛司(スタジオ・バックホーン)
助監督:塩崎遵 キャスティング:安生泰子 制作担当:齋藤悠二
製作:カイカイキキ 配給:ギャガ
http://mememe.gaga.ne.jp/

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