既存のジャンルを超越するグルーヴ・バンド、SLY MONGOOSEが新アルバム『Wrong Colors』をリリース! その全貌について、リーダー笹沼位吉に迫る!!

by Mastered編集部


Rub N Tugの素晴らしいリミックスをフィーチャーしたシングル「Snakes And Ladder」が現在も世界中のダンス・フロアのピーク・タイムを突き破らんばかりに盛り上げているSLY MONGOOSE。TOKYO No.1 SOUL SETやTHE HELLO WORKS、スチャダラパーの作品やライヴでグルーヴの核となるベース・プレイを一手に担う笹沼位吉を中心として、前身バンド、COOL SPOON解散後の2001年に結成。無敵のグルーヴ・バンドである彼らは、ダークかつエレガントなムードに包まれた2009年の前作『MYSTIC DADDY』を境に大きく進化し、文字通りミスティックな存在となった。

そのアブストラクトかつディープ・サイケデリックなバンド・サウンドは、もはや、ダブやラテン、ハウスやテクノといった既存のジャンル、そのミクスチャーという域を逸脱。道なき道を切り開きながら、前作から2年振りとなる新作アルバム『Wrong Colors』ではその先のシュールリアルな世界を描き出している。そのサウンド・スケープの秘密とは一体? リーダーにしてベーシストの笹沼位吉にお話をうかがった。

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インタビュー・文:小野田 雄
写真:鳥居 洋介

意図が手に取るように分かってしまう音楽ではなく、理解不能な音楽にどうしても惹かれてしまう

— SLY MONGOOSEは2001年の結成から今年で10周年なんですね。

笹沼:いや、でも、全然稼働してないからね(笑)。まぁ、でも、10年経って、自分のなかでの音楽に対する思い込みがかなり変わってきたよね。その時々で面白がって聴いてる音楽ってあるじゃない? 最初はレゲエや民族音楽ばかり聴いていた気がするけど、あまり焦点が定まってなかったというか。

— 2003年にリリースしたファースト・アルバム『SLY MONGOOSE』は確かにレゲエやラテン、アフロの影響が渾然一体となった作品でしたよね。

笹沼:そう。だから、あの時期の記録っていうことだよね。当時はそれ以外の音楽ももちろん聴いていたけど、あの頃はあまりラテンに詳しくなかったから、逆に面白がって、買い集めては聴いていて、それが作品に反映されたんだろうね。思い込みはあって当然なんだけど、ただ自分の思い込みを信用しすぎるとロクな目に遭わないっていうこともこの10年で思い知らされたよね(笑)。

— ただ、音楽は自分の思い込みを具現化した一つの形であるようにも思うんですけどね。

笹沼:例えば、すごく意図的にスカスカでパンチのない音楽、それを狙いすまして打ち出してみたり、「これとこれを組み合わせてみました」っていう音には少し抵抗があるんだよね。振り返ってみると、若い頃、自分が作ってた音楽にもそういう短絡的なところがあった気がするっていう意味なんだけど。一応言っておくけど自分が成長しているとかそういうことじゃないよ。あまりにも成長しない自分に落胆してる(笑)。

— 短絡的というより、サンプリング引用をもとにした90年代という時代の発想も影響が大きかったんじゃないですか。

笹沼:確かにファーストとセカンドの『TIP OF THE TONGUE STATE』の頃は、「このベースラインをいま使うのが面白い」っていうような、ヒップホップ的な発想がまだあったよね。ただ同時に後ろめたい気持ちもあったりして、今は出来るだけ人様の音楽を引用しないようにとは思ってて、2009年にリリースしたサード・アルバム『MYSTIC DADDY』の辺りから、安易な引用に絡め取られることがない新しいチャレンジを自分なりにやっているつもりなんだけどね。

— 前作『MYSTIC DADDY』は、キャプテン・ビーフハートに代表されるアヴァン・ミュージックの影響をダークかつシネマティックなサウンドスケープに昇華した素晴らしいアルバムでしたよね。

笹沼:前作は山辺(圭司:LOS APSONレコード店主)さんに“現代版墓場の鬼太郎”って呼ばれたんだけど、そういうホラー・テイストな印象はあったみたいですね。シネマティックっていう形容はインスト・バンドによく使われがちだけどね。自分的には暗いなかにどこかポップなムードがある作風を目指したつもりなんだけど。SLY MONGOOSEの場合、みんな他の仕事をやりながら活動していることもあって、時間をかけて緻密なバンド・アンサンブルを構築していくみたいなことが出来ないから、集まれる時に集中して、再考する間もなく、1日5曲のペースで録っていったんだよ。1曲目の「From FarceLand」なんかは、リハーサルで通して演奏したことがなくて、レコーディングで初めて完成形が見えたっていう。

— では、今回の作品には構築的ななかにも即興性やライヴ感も封じ込められている、と。

笹沼:とはいえ、インプロビゼーションはよっぽど訓練されてる人じゃないと面白いものが作れないと思うし、少なくとも俺たちのレベルではそういう感じで作っても納得がいくものが出来るかわからないしね。さっき言ったようなバンドの物理的な制約もあるし、『MYSTIC DADDY』を作ったことである程度固まってきた、このバンドで出来ること、その延長で今回の作品は出来たんじゃないかな。

— ちなみに笹沼さんが構想していたアイディアというのは?

笹沼:今回のアルバムを作っていた頃は、脱臼アヴァン・ロックというか、緻密なアンサンブルなんだけど、どこか奇形的な、そういう音楽にハマってて。アーティストでいうと、例えば、70、80年代フランスのエトロン・フー・ルルーブランとかアルベール・マルクール、80年代初頭の米国イリノイの初期レジデンツを想起させるような、ブリッツォイズとかね。この人達は脱臼というより骨折してるけどね(笑)。あと、スラップ・ハッピー周辺のいわゆるレコメンデッド系だったり、イタリアのコンポーザー、アルマンド・サッシャのライブラリー音源で『IMPRESSIONS IN RHYTHM & SOUND』というアルバムがあって、早すぎたシルバー・アップルズみたいな作風なんだけど、そういうのを聴いてましたね。。

— アメリカのものもありつつ、今、笹沼さんが挙げたのはヨーロッパの音楽ですよね。

笹沼:が、多かったですね。例えばスウェーデンのトラッド・フォーク・サイケ、アルベーテ・オ・フリティードっていうバンドも好きで、「こういうのもっとないかな」ってことで調べて、その周辺のレコードを買ったり。気がついたらことごとくヨーロッパでしたね。ここ何年かで、何千枚か定かじゃないけど、まとめて売ったんですよ。で、その売ったお金でまたレコードを買ってるという(笑)。誰か助けてって感じですよ(笑)。

— では、聴き続けていったのは、自分にとって知らない音楽だったと。

笹沼:「これとこれをくっつけて、こういう音楽をやりたいんだな」ってことが手に取るように分かってしまうと、そういう音楽には興味をそそられないんだよ。だから、逆に理解不能な音楽にどうしても惹かれてしまうっていう。

— 英米のロック、ポップスは、その多くが系統立ってアーカイブ化されて、どういう流れのものか、ある程度解析されているじゃないですか? だからこそ、近年の音楽シーンでは、英米の文脈から外れた音楽に焦点が当てられているような気がします。

笹沼:そうなんだよね。さっき挙げたスウェーデンのバンドにしても、森羅万象を飲み込んだっていうと大袈裟かもしれないけど、そういうごった煮感があったりして。俺からすると、どこにも属さない民族音楽に聞こえるんですよ。中東、シリア出身のフランソワ・ラバスっていうダブル・ベースのプレイヤーとかも好きで聴いてたんですけど、何か一言で片付けられない音なんですよ。バンドには自分の個人的な趣味趣向は極力持ち込み過ぎないようにはしていますけどね。。

— ただ、今回の作品を聴くと、バンド・アレンジもストレートに着地せず、かなりの変化球で意図しないところに連れていかれるのは、いま挙げた音楽からの影響が少なからずあるように思います。

笹沼:自分のなかではもっとエラー・サウンドというかズッコケた感じになると思ってたんだけど、なんか狙い過ぎた感じがしちゃって。。

— つまり、狙わないということが狙いになってしまうっていうことですね。

笹沼:ただ、まるっきり狙わずに音楽やってる人はいないというか、どんな音楽であっても、ある程度、焦点を定めたなかで成立していると思うしね。テクノとかハウスの影響にしても意識下にはあるんだろうけど、強く意識することは無いです。今でもチェックはしてますし、ChidaくんのENEやMuleから出した12インチシングルは自分達にとって最大のプロモーションになっていて、知らないところで一人歩きしている感じはあるけどね。よく言われるんだけどフロア的、クラブ・ミュージック的な要素を排除するっていうことも考えてないし。もっとも誰も聴いたことのない音楽を作ろうっていう大それたことも考えていないんだけど。

— そして、今回の作品には、ギターの塚本さんがやってるネタンダーズのJUJUさんがサックスとフルートで参加していますよね。

笹沼:思い描いていたイメージ、参加してもらう際のプレイのモチーフとなるレコードもあって、JUJUくんには次の作品にはぜひ参加してもらおうと思っていたんだけど、実際に演奏してもらったら、当然、自分のイメージ通りにはならなくて、そこから軌道修正することもあったりして。

— さらに9曲目の「SAMIDARE」には、女性ヴォーカリストがフィーチャーされていますよね。

笹沼:当初「SAMIDARE」は、ピッチ・シフターでヴォーカルを虫声に変換して、昭和歌謡みたいなものを洒落で作ってたんですよ。で、スタッフとヴォーカリストについて話し合った時に、どうせいないだろうなと思って、「山崎ハコみたいなイメージのヴォーカリストがいたら面白いんだけどね」って言ってたら、山崎ハコを敬愛しているっていうmmm(ミーマイモー)さんってシンガー・ソング・ライターをホントに連れてきて(笑)。で、「歌ってもらったヴォーカルを虫声に作り替えるよ」って事前に断ったうえで作業していたんだけど、散々こねくりまわした末、結局歌ってもらったヴォーカルをそのまま使わせてもらうことにして。リリックもBIKKE(TOKYO No.1 SOUL SET)と塚本くんが共同で書いて。思いのほか、真面目な仕上がりになったという(笑)。

— SLY MONGOOSEは前作の「Jinxxx」でも石野卓球さんにフリーキーなヴォーカル表現を要求したり、ヴォーカリストの起用の仕方も一筋縄ではいかないですよね。

笹沼:だから、今回も聴いた人にどう取られるのか。出来れば、深読みしてもらえるとありがたいんだけど(笑)。

— 深読みっていう意味で、SLY MONGOOSEの音楽は常に表と裏があって、シリアスな曲も実は裏側にユーモアがあったり、その逆もしかり。

笹沼 位吉(ささぬま のりよし)
SLY MONGOOSEのリーダーで、ベースを担当。ホコ天バンド、THE FUSEやジャズバンドCOOL SPOONのベーシストを経て、2001年にSLY MONGOOSEを結成。THE HELLO WORKSとしての活動以外にも、スチャダラパーやTOKYO No.1 SOUL SETなどのライブ時にはサポートも務める。愛称は「ハナちゃん」。

笹沼:今回はポップなものにトライしてみようっていうアイディアもあったんですけど、実際にやってみると出てくるのは、こういうものばっかりで(笑)。「Fu Manchu」と「Sweet Sweet Dreams」は塚本くんが歌って、「ARISEN」は俺と塚本くんが一生懸命歌ってるんだけど(笑)。「楽しんご」みたいに「もうガマン出来ない!お兄ちゃん!」って感じで、マイクを持った訳じゃないですよ(笑)。

— はははは。そういうこと言ってると、川辺さんとかBoseさんに「歌ってよ」って言われちゃうんじゃないですか?

笹沼:言われそうだね、山が動いたとか(笑)。

— そして、今回の作品は『Wrong Colors』っていうアルバム・タイトルに象徴されるちぐはぐな色彩感が言い得て妙だな、と。

笹沼:アルバム・タイトルと曲名はアートワークを担当してもらった石黒(景太)と一緒に考えて、お互い考えたタイトルを付き合わせて、そこでいいと思ったものを今回使っているんですけど。。

— 石黒くんのアートワークも3回、4回とひねりが入ってますもんね。

笹沼:そうそう。ひねり過ぎて普通になっちゃったり(笑)。前作の五木田(智央)くんとか、今回もそうだけど、アートワークに助けられてる部分があるというか、アートワークが内容を説明してくれているところがあるので、自分達にとってアートワークは重要な要素ですよ。二人とも予測不能なものを仕上げてくるから、いつも楽しみですよ。あと、最近思うんだけど、分からないもの、理解出来ないものを面白がる人が圧倒的に少なくなってきてるんじゃないかって気がするんだよね。音楽に限らず、理解出来ないものを排除していく空気をちょっと感じるというか。

— 確かに物分かりのいいもの、口当たりのいいものばかりが求められる傾向は強まっているように思います。

笹沼:色んなところで言われているけれども、音楽に限らず、自分の思考で選んでいる人が少なくなってきているのを皮膚感覚で感じるところがあるんだよね。あと、論点がそれるんだけど、今回のレコーディング中に東日本大震災をまたいだんです。音楽以外のこともあれこれ考えてしまう状況で、原発の事に関しても根拠ない楽観を黙認していた自分もいるわけで、行政とかお上のせいにばかりは出来ないなとか、しらんぷりが一番罪なんじゃないかとか、柄にも無くあれこれ考え込んじゃったりして。相変らず不謹慎な暮らししてて、おこがましいんだけどね。あと歳の事なんかも考えちゃってね、もう俺も未来より思い出の方が長くなってきてるわけだしさ(笑)。やりたいことなんかそんなにあるわけじゃないんだけど、発表する場があるうちはバンバン作っていきたいなって。

SLY MONGOOSE『Wrong Colors』

2011年7月20日発売予定

PCD-25131 / 2,625円
(Pヴァイン・レコード)

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※本日7月6日よりiTunes Storeにて収録曲「SAMIDARE」と「Arisen」の先行配信がスタート! → 詳細を見る