MOTTAINAI
— あと、植林もしていく計画があるそうですが?
野田:それは『MOTTAINAI』っていう、環境分野で初のノーベル平和賞を受賞したケニア人女性のワンガリ・マータイさんが提唱してる『3R+1』っていうのがあって。いわゆる3RっていうのはReduce(ゴミ削減)、Reuse(再利用)、Recycle(再資源化)の事なんだけど、『MOTTAINAI』っていう言葉にはその3つ以外にもRespect(尊敬の念)が込められてます、っていう運動があるのね。
それを日本では伊藤忠がやってるんで、そこで契約をして。箭内さん(クリエイティブディレクター 箭内道彦氏)とか寄藤文平さん(イラストレーター)を交えて、エディフィスで商品展開をしてたりしたんだけど、それにプラスして社内全店で買い物袋(に商品を入れる事)を断ってくれる方が10人いたら、それにつき(アフリカに)木を1本植えて成木になるまで面倒見ますっていう金額を『MOTTAINAI』を通して寄付をしようっていう取り組みだね。
ちなみにそれを導入するにあたって社内のりん議は上げてるんだけど、まずインフラを整備しなくちゃいけなくて。手集計でやるのは大変だから。断ってくれる人がいたら、ボタンひとつ押すだけで集計できるようなシステムを考えてるんだけど、なにせ150店舗分だからね。まずは1ヶ月間でどのくらいリアクションがあるのかテスト店舗5店でやってみたら、920〜930人も断ってくれて。ポップを出しておいただけでね。
— 約100本近くの木を植えることになるわけですね。
野田:そう。ちなみに成木になるには10年くらいかかるんだけど、その間の維持管理費と人件費を全部寄付する。
— 5店舗でですよね? 1ヶ月100本だとして、150店舗だと…
野田:30倍だから、単純計算で3,000本。それを年間で考えたら36,000本くらいの試算にはなる。
大きめのバッグを持ってる人だったら、買い物袋に入れて渡しても途中で道に捨てられちゃう場合もあるわけだからね。それだけ無駄になってるモノが10年もしたら30〜40万本の木になるっていう。まさに「チリも積もれば」。笑えない規模で。
— 結構な規模の森になりますよね。
野田:そういうのを『MOTTAINAI』側に提示して、寄付するから『こういうことをやってくれないか』っていう企画する感じ。
社内でも、企画会議内でそういう話を投げて、『みんなでやろうぜ!イェーイ!』みたいなことをしてる。
この間も社内でお掃除大会みたいなのに参加して。アルピニストの野口健さんと長谷部健さん(渋谷区議)、それと特別審査員としてルー大柴さんが参加して。
— 歌ってますもんね。
野田:その場でも歌ってたよ。で、200人くらいで富士山のお掃除しましょう、みたいな。全部で30社くらい集まって、みんなで樹海に不法投棄されたゴミを拾ってきたよ。そして、チームワーク賞をいただいてきました。ルー大柴特別賞なんだけど、トゥギャザー賞っていう。
— エコは会社的に立ち上げる事になって、そのポジションに野田さんが入ったんですか?
それとも野田さんの周りから起こした感じですか?
野田:会社の30周年で何かしたいなっていうのがあって。他の会社とかはド派手なことをやってたりしてたんだけど、オレはそういうのに飽きちゃって。地味でも会社としてポジションを確立できるようなしっかりしたことが出来ないかなと思ってたし、ちょうどエコ絡みのことを調べてはいたのね。
で、たまたま代表が『アース』っていう映画を観て感銘を受けてたらしくて。『そういうのを考えてるんだけど、どう思う?』って聞かれたから『オレもそういうの考えてて、いろいろ調べてはいますよ』と。そしたら『今度ウチの会社で、そういうチームを立ち上げるから』『イイっすね、立ち上げましょうよ』って流れになって。オレも全然自分が率先してまでやる気はなかったから、軽い感じで話してたんだけど。
その後、役員会を経て立ち上げるメンバーも決まりかけたときに、社長が『ちょっと待て。お前がやらなくて、誰がやんだよ』って。
(一同笑)
野田:『え〜っ!?』って。で、そのままやらされてる。もう1年経ちました。
でも、それも何かのきっかけだし。さっき言ってたエコな人たちとの接点って今までなかったけど… もちろんコアな人もいるのよ。『それちょっとやりすぎなんじゃないですか?』みたいな。でも、思いのほかみんなカジュアルな気持ちでやってて。それぐらいでイイなぁって思ってるし。あんまりまじめにやっても疲れちゃうし、完全なボランティアだと続かないじゃないですか? だからビジネスでもイイと思ってて。だってビジネスにならないと継続できないから、企業は。
— そうですよね。その発想は当然だと思います。
野田:ビジネスだったら、継続するのが何より大事だから。
— 実は僕ら、洋服屋のエコって1番えげつないとも思ってるんですよ。
『そんなこと提唱すんなら、洋服作んなよ』って。『エゴです、すいません』くらいでいて欲しいなぁと。
野田:それはちょっと違うのよ。0か100かのゼロサムじゃなくて、それこそ大事なのって…あ、「チーム-6%」って知ってる? 1990年当時の排出量に対してだから今だと30%くらい削減しなくちゃいけないんだけど。でもそれで継続できるわけ、地球が。だから『それはエコじゃない』とか、そんなこと言ったら死ぬのが1番早い事になっちゃう。
— そうそうそう。そうなりますよね。
野田:そういう話になっちゃうでしょ。じゃなくて、まず出来ることだけ。だって人間なんて欲のかたまりなんだから、自分の欲に動かされて生きてるわけだし、欲がなかったら子供なんて出来ないし。それはそれでイイの。それは人間が背負った業だから。
— はい。つまりはエゴですよね。
野田:今までやっちゃってた、大したことじゃない無駄なことを削ればすぐ2〜3割くらいになるから。「自分の虚栄心を満たす為」って認めたうえでファッションを楽しんじゃっていいの。そこをはき違えて「あれはダメ」とか言ってるヤツがオレは嫌い。
— あぁ、その辺がまだ浸透してないですよね。
『僕はエコで』って言っちゃった手前、全部エコじゃなきゃダメみたいな気がしちゃってますからね。
野田:そうそう。
— ここはエコをするけど、ここでは出来ないとは言いづらいし、許されてもいない。
『エコって言ったなら、全部やれよ』的なムードが流れちゃってますよね。
野田:うん。でもそれは、オレはあんまり好きじゃない。言えないだけで、みんなそう思ってるはずだし。
じゃなかったら、死ねよって話だし。
— 極限のエコは、地球から人間がいなくなることになっちゃいますからね。
野田:それで、こういうのも仕事として自分の考え方を形成するのにも役立ってるかなって。どっちかって言うとA型的な性格だから、きっちりしないと気が済まなかったのが、わりと『そうじゃなくていいんだ』と思ったら楽になったんだよね。結構、気楽。
今までは、まじめに考えすぎて出口が見つからなくなっちゃう、みたいなことがあったんだけど、それは苦しいだけで楽しくないから。
— 僕も『エコ気にしてます』なんて言っておいて、結局ビニール袋もらっちゃうんだ自分…という葛藤もあって。
必要なときは貰ってもいいんですよね。全部エコで縛る必要はないんだ、と。
野田:イイんだよ、出来る部分だけやればイイ。自分の生活の中でイイことしたなって、エコ的なことしたなって、そういうのを10回に3回くらい。それで20〜30%くらいにはなる。
— なんだかファッションとエコについての関係については、日頃からモヤモヤしてた部分があったんで、話すことができてスッキリしました。
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