服について否定とか批判とかしたくない
— 卒業後はどんな感じだったんですか?
森山:就職した会社がアメカジベースのところだったので、僕としては小さい頃に触れていた服を、もう一度理論立てて系譜を辿ったという感じですね。
まだ、その頃はラブラドールレトリバーがそこ(編集部注:現ディストリクトの近所)にあって、プロペラとかバックドロップに行くという流れでしたよ。レッドウッドとかはまだだったような…。
— それは、いわゆるロン毛にエンジニアブーツ的な、ちょっと悪い雰囲気が漂う渋カジになりかけていた頃ですか?
森山:いや、まだそこまでいかなかったです。
— まだ浅野ゆう子的な感じですか?
森山:そうそう。シップスが売れてきたのって、僕がアパレルで仕事するようになってから何年も経ってましたから。
もうバリー・ブリッケン(Barry Bricken)だとか、アイクベーハー(Ike Behar)とかが良かったという時期で。
— ラルフ・ローレンのブレザーを着て、ダンガリーシャツを中に着て…
森山:ネクタイをして。足元はコール・ハーン(Cole Haan)な。
— そのときは、まさにそんな格好をしてたんですか?
森山:してました。
— それで、その後ユナイテッドアローズへ転職されるんですか?
森山:そうですね。前の会社には9年くらいいました。6年くらい店長をやっていたのかな。
— そんな歴史があったんですね。
すごく面白い話でまだまだ聞いていたいんですが、かなり横道にそれてるので(笑)再度映画の方に。
森山:はい(笑)
— やはり映画を観るときは、着ている服の細かいディテールなどに目が行く感じですか?
森山:参考にしてるのは服というより、着方っていう感じかなぁ。
— アイテムそのものって言うよりも…
森山:合わせ方だったり、サイズの選び方だったり。
— そういう風に観て欲しいですよね。今の若い人たちにも。
森山:映画でも「どこかのデザイナーズを着せられているんだろうな」というのはあって。シワひとつなくて、ネクタイもビッとしてて、でもネックがゆるゆるみたいになってると、もう許せない(笑)
— 着せられちゃってる感じですよね(笑)
森山:裾がダボダボとか。
— 映画のクレジットもチェックされているんですか? スタイリストというか衣装さんとか。
映画だとコスチュームデザイナーってなってたりしますけど。
森山:なっていますね。あとはどこが提供してるかとかも。
衣装も(昔から名前を見ていて)今でも目にする人とかいますよ。今はデザイナーになっちゃってる人とか。
— なるほど。最近観た中で衣装が良かった映画って何かありますか? 『JFK』以降で(笑)
森山:あの…『オーシャンズ11』のおじさんいますよね? 11人の中の1人で、もう引退してたような人引っ張りだしてきたような(編集部注:カール・ライナー演じるソール・ブルーム)。
そのおじさんのVゾーンの合わせとか、すごく洒落ていますね。
— どんな感じなんですか?
森山:ストライプで、すごく綺麗な色を使っているんですけど、破綻していないというか。
— 邦画ではどうですか? 気になる着こなしなんてあるんですか?
森山:邦画はあまり観ないんですよ。「テレビドラマじゃん、コレ」って思っちゃうと、もうダメなんですよ。
— となると、アニメ映画ぐらいですか?(笑)
森山:ですね(笑)
— とくに好きな俳優さんというのは、いらっしゃるんですか?
森山:とくに「この人が大好き」っていうのはあんまり無いです。
単に好きな人っていうのはいっぱいいますけどね。なぜか男優が多いですけど。スタイルが感じられるし。
スクリーンの中でもそうですし、公の場に出るときもみんなネクタイしてるじゃないですか?
— 絶対にしてますよね。
森山:やっぱり、大人の男性像みたいなのが行き着くところがあった時代っていうのには憧れますよね。
— 森山さんにとってのおしゃれアイコンみたいな存在の人っていらっしゃるんですか? 影響された人とか。
森山: やっぱりスティーブ・マックィーンとかですかね。
— 日本人だと、いかがですか?
森山:ショーケン(萩原健一)だったり、松田優作だったり、あの時代の人たちかな。
— ちなみに、どれくらいの本数の映画を観てます?
森山:DVDで観ることが多いんですけど、少なくとも週に3本は観ているペースですね。同じ映画を繰り返し観てることも多いんですが、トータルで年間150〜200本は観てます。
— 今まで一番観た映画というのはやはり…
森山:もちろん『スターウォーズ』です(笑)
— やっぱり(笑)ちょっと安心しました。
いまだに「大きくなったら、ジェダイになりたい」ですもんね(笑)
(一同笑)
— ファッションは関係なく、最近面白かった映画は何かありますか?
森山:『ゾディアック』かなぁ。衣装も良かったですね。劇中で年代が変わるごとにネクタイの幅が変わってたりとか。細かいところもちゃんと表現されてて。「あぁ、70年代になったな」っていうのが洋服から分かるんです。
— それは何回か観てから気付くのでしょうか? それとも一回目からその見方なんですか?
森山:一回目からですね(笑)
— すごいですね(笑)僕は服装を追ってしまうとストーリーが頭に入って来なくなってしまって…
森山:やっぱりストーリーに絡んでるんですよね、たぶん。何年代ってテロップが入らなくても、服装とか髪型とかでそれを語ってる。
クロエ・セヴェニーのメイクの感じが変わっただけで、年代が変わってるのが分かるんです。それが面白かった。
僕は文芸的な部分が抜け落ちてるんで、いわゆる「映画好きな人たち」から言わせると違うんだろうなとは思うんですけど。自分はちょっとジャンクな方なんで。エンターテインメントとして観ていますから。
— なるほど。森山さんらしい視点ですよね。
また話がずれてしまうんですが、森山さん的に好きなブランドというのはあるんですか?
森山:これ、っていうのはとくにないです。ただクリエーションとして面白いと思うモノはたくさんありますね。
「この服は嫌い」っていう風に、否定とか批判とかしたくないんですよ。みんな何か思いがあってモノ作りをしていると思いますし。
ちょっと嫌だなって思うのは、あからさまにお金儲けが見えて作ってる人だけで。
みんな夢を持って作ってるから、それを汲み取ってあげてお客様にお伝えするのが僕ら販売の仕事ですし。そこで芽を摘んでしまうようなことを僕はしたくないんです。
— 素晴らしいですね。今はお金儲け感丸出しで、ただばらまいているだけの服が完売しちゃったりしますからね。本当に恐るべしですよ。
そんなんで買った服をどうするの? って…
森山:(ネットなどを使って)ショートカットで買った服を10年20年先も着るかな? っていうのはありますよね。
サイ(Scye)の宮原さん(編集部注:サイのパターンカッター 宮原秀晃氏)みたいに、真面目にモノ作りをして「愛用して欲しい」っていう方なんて、もう全然違うベクトルにいますよね。
「ただ着て欲しい」だけではなくて「愛用して欲しい」。
そうやって古い映画を今観てもまた新鮮なように、昔買った服が今も新鮮で。21世紀になって、なんでもモノがある状態の中でも原点回帰していったり。
先ほども話の中で出ましたが、やっぱり僕の中では原点的な服を今の解釈で着よう、っていうことなんですよね。やっぱりそういうのが基礎にはなってるのかなぁと。
— なるほど。なんだかうまくまとまりましたね(笑)
案の定、脱線が多かったですが、興味深い話がたくさん聞けました。
今日は、どうもありがとうございました。
やっぱり面白い先輩方の思い出やこだわりの話って、非常に興味深いです。
歳を重ねる過程でたくさんの経験をして、自分なりの「芯」を形成していっていらっしゃいますね。
実に参考になります。そしてファッションを楽しんでる雰囲気がヒシヒシと伝わってきます。
基本的な気質は純粋なオタクなんですが(笑)、それを上手にアウトプット出来ている姿には憧れます。
僕らもそんな大人になれるように日々精進したいと思いました。