ルーツはアメリカ
— ちなみに、森山さんのスタイルのベースというのはいつごろ確立されたんでしょうか?
森山:渋カジ時代ですかね…。
— やはりアメリカモノがベースですか?
森山:そうですね。完全にアメリカがベースです。洋服文化ってアメリカを経由して日本に入ってきてるじゃないですか。だから、やっぱりラルフ・ローレン(Ralph Lauren)あたりを代表とする、アメリカ人から見たイギリスへの憧れっていうのってすごく分かりますよね。
— なるほど。ラルフ・ローレンの話でふと思ったのですが、森山さんと言えばここ数年タイドアップしたスタイルが基本になっていますよね。
仕事以外のときでもネクタイはされるんですか?
森山:休みの日はしないですね。
でも、さっきの『眺めのいい部屋』のローファージャケットじゃないですけど、「肩の力は抜いてるんだけどちゃんとしてる」っていうのは、今すごく新しく感じてます。ズルズルの楽なカジュアルは誰でも出来るじゃないですか。でもそうではなくて、ネクタイはしてるんだけど本人の肩の力は抜けてて堅苦しくない。しかもビジネススタイルではないというところは今自分としても表現したいですし、お店としてもそういうところを狙っています。
おかげさまでお客様にも好評で、オリジナルの製品洗いをかけたジャケットなどはすごい売れてますね。これは褒め言葉なんですけど、お客様が「着たまま寝れるからイイね」って。でも僕からしたら「着たまま寝てるんですか?」って。
(一同笑)
森山:「あぁ、あんまりにも激務で着替える時間ももったいないのか…」という風に理解していたんですが、その話を聞いた何ヶ月も後に尋ねてみたら「出張のときに新幹線で寝たりする時のことですよ」って(笑)
— あぁ、わざわざジャケットを脱がなくても寝れるくらい楽だということですね。
そのまま布団に入るっていう意味ではなかったわけですね、さすがに(笑)
森山:仮眠所みたいなところでぶっ倒れるまで働いて寝る、みたいな様子を勝手に想像してたんですけどね(笑)
— 他にもディストリクトのオリジナルには一風変わったスーツやジャケットが多いですよね。
森山:そうですね。スーツで狙っているのは「お行儀が良くて面白い」というところです。やっぱり「今、新しい」みたいな。
これなんかはいわゆるパイピングジャケットなんですが、パイピングの部分に帯状の生地やニットをかぶせて付けることは簡単なんですが、ウチの場合はこのパイピングの形に生地を裁断してセットしているんですよ。
— 生地の無駄使い(笑)
森山:「え?、どんだけ用尺とるんだ!?」っていう。でも、それが売りです(笑)
パイピングのジャケットはトレンドっぽくなりましたけど、そのまま消費されちゃうのはやっぱりイヤなんでしつこくやってるんですよ。
— このシャツはワイドスプレッドでオックスフォード地なんですか?
森山:そうです。さっきの「アメリカから見たイギリス」じゃないんですが、ボタンダウンがあるならワイドも必要だろうと。提案ですね。
— 毎年展開されているファンシーツィードのジャケットも健在ですね。
今年の物は遠目に見るとなんともバッファローチェックのようですね(笑)
森山:本来このツィードはすごくゴージャスな生地なんですが、カジュアルな方に振ってしまえ、と(笑)
もうチノパンとか、むしろフィルソンのティンパンツなんかに合わせていただきたいくらいで(笑)
— 本当にバッファローチェックのブルゾンを着る感覚でですね(笑)
森山:そういう着こなしの広がりも面白いじゃないですか?
— そうですよね。
それでは、映画好きになったきっかけも教えていただけますか?
いつ頃からなんでしょうか?
森山:もう子供の頃からです。親の影響ですね。もう訳が分からないときから映画館へ連れて行かれてました。
これは極端な笑い話なんですけど、僕もまだ子供なんでチョロチョロ動き回るじゃないですか。それで、「何か食わせておけば大人しくなるから」っていうことでドンドン食わせてたらしいんですが、限界を超えてリバースしてしまって。
(一同笑)
— 映画館で、ですか?
森山:そうそう。それ僕、覚えてはいないんですけど。
— それで、後に自分でもどんどん映画を見に行くようになったと。
森山:そうそう。小学生になると「アレ観たい、コレ観たい」ってなってました。
— やはり出身地である佐世保という土地の影響はあるんでしょうか?
アメリカモノに影響を受けたという部分でも。
森山:ありますね。(米軍基地があるので)身近にいっぱい外人さんがいたし、ウチにも遊びにきてましたし。
アメリカのキャバレーだったか将校クラブだったのか、よく行ってた映画館が向こうのスタイルで作られてたんですよ。レッドカーペットの階段があって。
日本ではあんまり見ないんですけど、休憩室があったんですよ。映画館の後ろにガラス張りで。ラウンジみたいになっててタバコが吸えて、飲み物も飲めて。(映画の)音は聞こえないんですけど、スクリーンは観れるのでそこで休憩したりとか。とにかく一日中いましたね。
— その頃は入れ替え制なんてなかったんですよね。
森山:はい。最初の回から最後の回まで『スターウォーズ』を観てる(笑)
— やっぱりスターウォーズなんですね(笑)ちなみにその当時の森山さんのファッションって、どんな感じだったんですか? やっぱりアメカジっぽかったんですか?
森山:どうだろう… でも、親が着せてたんじゃないかな。ボタンダウン(シャツ)を着て、チノパンやジーパンを穿いて、とか。小学校のときにすごく気に入って着てたのが、コーデュロイにくるみボタンでエルボーパッチが付いてたジャケットっていうのは覚えています。
— 随分おませさんだったんですね。
森山:いえいえ。そういう時代だったんですよ、みんな。VANが市民権を得ていて、親もやっぱりVANだったんで。
でも僕らのときにはVANはもう下火になってて、マクレガー(McGregor)とか着ていましたね。
— 何か運動はやっていたんですか?
森山:格闘技です。
— それは放課後に一度帰宅してから行ってた感じですか?
ほら、学校で運動をやってたりすると、楽だからいつもジャージになったりしがちじゃないですか。もうみんな年中ジャージ、みたいな(笑)
森山:あぁ、学校の友達ってあんまりいなかったですね。
(一同笑)
森山:小学生のときはいたんですけど、中学・高校になったら外で遊ぶようになってて。
— 同級生ではない人たちと遊んでいたんですね。ちなみに、その面々はやはりオシャレだったんですか?
森山:みんなオシャレでしたね、やっぱり。
— それで、高校を卒業して文化服装学院に進学されるんですよね。そのとき一緒に上京してきた人はいるんですか?
森山:いないですね。みんなだいたい福岡止まりだったかなぁ。
— いつごろから服飾の道に進もうと思ってたんですか?
森山:いや、全然思ってなかったんです。高校時代にアルバイトしていた美容院に地元ではカリスマ的な存在の方がいたんですけど、その方から「頭いじれるだけじゃなく、トータルとしてファッションをいじれないとダメだよ」って言われたんです。それで、洋服屋でもアルバイトしてたので文化(服装学院)を勧められて。
上京してからも洋服屋でアルバイトもしたし、文化(服装学院)にも行ったし、研修で行った先の会社でお店にも立ったりしてて。それでそこの会社の人にすごく気に入っていただいて「ウチに来てくれ」と言われて。
— その当時ってどんな格好をされていたんですか?
森山:まわりはギャルソン(Comme des Garçons)とかばっかりで、ああいう風な感じでした。みんな真っ黒ですよ。僕も真っ黒でしたし。その辺は模索中でした。
— そこですでに完成してしまっていたら、ちょっとイヤですよね(笑)
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