エコの観点からは語れない
― となると.......リサーチはしばらくはマウンテンがメインに。
小林:マウンテンはジェネラル辞めてからは中心に添えてるからね。でも、それだけじゃ飽きちゃうから年一回にして、それ以外のリサーチだったらよく知ってる人をゲストに招いたりして。よく知ってたりする人がアツくなってたりするコトに自分も興味があるから、そういうことをおもしろがりながら、服への興味が山っていうモノだけじゃなくて、作りとか色々なところに自分を引っ張って貰えるような設定にしておかないとね。本当に山の話ばっかりになっちゃうと、他へのとっかかりがなくなってきちゃうし。そんな仕掛けにしてるのもそういう理由かな。
大昔は洋服とかファッションっていうモノが、フランス語の新聞を持たせて、カフェっぽい見え方する場所で撮ればOKな時代だったけど、ここ14〜15年のあいだに自分の趣味だとかリアルなところに一段進んで。でもファッションが具体的な場所を提示していたことはなかったはず。これからは山という曖昧な場所から、もうちょっと日本の山っていうフォーカスを絞っていきたいかな。僕の場合なら、長野の山の景色でちゃんとディティールアップしたモノを作っていきたいなと思ってる。
― なんだかおもしろそうですね。
小林:まぁ道行きとしてはそうしかないというか。こういう絞り方をしてきちゃったし。例えば「アラスカ・マウンテン・ガイド」とかってバッジ付けてる人がいるじゃない。だから山はつねにドコの山の話かが設定されてる。そういうのを洋服にちゃんと落とし込んでいくことがやっていきたい道なんだなって。
例えば、川上村の人は洋服に「川上村」って書いてあるとイヤなわけ。中目黒って書いてあるとイヤなオレらと一緒でさ(笑)
でも、そうじゃない角度も設けられるはずなのね、きっと。なんちゃって的なやり方じゃなくて。そのやり方を色々試行錯誤しながら近づいて行けるとイイかなと。モダンデザインのファンであるという意識も持って、もう少し賢くやるためにはどうしたらイイんだろうかって考えて。昨日までやってきたことに懐疑的な姿勢があって、掘れる対象さえあれば、十分納得しながら色々なことが出来るから。
でも、どうせ概ね間違ってるからさ。
(一同笑)
小林:それは一年くらい経つと分かっちゃうわけでしょ。「なんかもう、そのことは喋れません」みたいな恥ずかしい思いを繰り返してる。
(一同笑)
小林:あとエコの観点からも一切語れないし。森のことを知るには一日でも多く森に行かなきゃいけないし、でも行けば行くほど森は汚されるわけじゃない。壊したくなければ行かないければイイんだけど、それじゃ表情には触れられない。なわけで自分がやってる毎週行くようなことは環境破壊以外の何ものでもないし。オーガニックな素材への標榜はしてるけど、僕らが使ってる染料とか素材とかってオーガニックとは程遠いモノだし。ましてや科学的な透湿防水なんかの素材は燃やそうとしてもガスが出るらしいから。だからやってることは本当にとんでもないんで、一年後には自分の馬鹿さ加減が死ぬほど分かるんだけど。
だから、そういう観点じゃなくて、でも自分なりの納得に近づくというスタンスでしか語れないっていう。エコの文字が出ると居場所がなくなる。
(一同笑)
― 確かにそうですね。では、最後にいくつか質問を。最近も色々買ってるんですか?
小林:買ってるね。これ、最近ずっと使ってるカトラリーセットなんだけど、アメリカ軍がベトナム戦争のときに使ってたミリタリーモノなのね。こうやって穴が空いてるからカラビナにぶら下げたりできるんだけど。こういうちゃんとしたの使ったら、アウトドア用のチタンのとか使えないもん。あとはずっと集めてるランタンとか。炭坑で使われてた古いヤツ。
― なるほど。ところであの斧みたいなものは?
小林:あー、アイスアックスね。別に冬登山はやらないので本当は必要ないんだけど、あれも50年代のヤツでアルプスの近くで作られてたモノなのね。農機具の鍛冶屋が求めに応じて作ってて、元々はつるはしとスコップと杖をひとつにまとめただけのモノだけど、仕上げとかすごいキレイな鍛冶屋の仕事。
― 他にも何か大きいモノを買われたんですか?
小林:アイスアックスくらいですね。あと2〜3本買っちゃったんで。
― 2〜3本ですか!!(笑)
小林:なんかアイスアックスって、昔のヤツだと杖の要素がデカいからどんどん長くなっていくの。近年になると短くなって木の柄じゃなくなっていう変遷があるんだけど。杖として使ってた20年代とか30年代のものってすごく長いから、ちょっと興味あるじゃない(笑)。
「別に興味なくてもいいだろう」って言われたらそれまでなんだけど…。
(一同笑)
小林:あとは、こういうヒッコリーの杖とかも。ポイントは今こういう杖を作ってる会社があるってことで。「それ見たことか」って気持ちになる。なんとこういう杖なのに商品構成があって、プレーンなものとコンパスが付いたもの、さらにコンパスと笛が付いたものっていう三択があるんだよ。なんのために三択?
(一同笑)
小林:なんか小躍りしたくなるくらい嬉しい。なんの意味もないでしょ? 誰がこの三つで悩むんだっていう。
(一同笑)
小林:でも、実際三つを前にしてみると、「じゃあ、どれだろう?」って始まるのね。天然素材だからそれぞれ太さも違うし。
こういう物を製品化している人々がいるってことは、世の中にはまだ幸福なる場所がいくつも存在しているなぁ、って。
(一同笑)
小林:こういうのに一喜一憂しながらモノを買ってますね。そして勇気づけられたりもしてて。これを「商品ですよ」って言ってる人たちに会ってみたい。素晴らしいと。これだけじゃ暮らせないけど、こういう暮らし方もあるんだと思わせてくれる。
― ある意味、自信がつくというか。色々な意味で安心させられますよね。
ちなみに、次のリサーチはもう決まっているんですか?
小林:天然素材シリーズで毛布、靴、パックを試行錯誤中です。
― なるほど、それは楽しみです!
まだまだ聞きたいことが山のようにありますが、それはまた別の機会に改めさせていだだきます。 今日は本当にありがとうございました。
と言いつつも、今までしてきた収集の話や今後の展開、そしてやっぱり山の道具の話に至るまで
この後もたくさんの話を聞いて長居させていただきました。本当に楽しい時間でした。
そして、ここまで物事を掘り下げていく姿勢はとても勉強になりますし、真似しないとなって。
小林さんたちが築いたレールを次の世代にも繋げられるよう、僕らもがんばって行きたいと思います。