そして、再会
― でもその後、山と再会を果たすわけですよね?
小林:うん。その後原宿で勤めてる間も全然行くことはなかったんだけど、ある日フォトグラファーの安倍(英知)さんに誘われてキャンプに行ったみたら、「こりゃ面白いな」と思って。
― いつ頃のお話ですか?
小林:十数年前かなぁ。一回ウチのコレクションで、すべて真っ白なキャンプ用品っていうのをやったことがあるのね。それが1999年で、その2〜3年前だから1996年辺りか。それでいざ目の当たりにしてみたら、子どもの頃には知らなかったナイロンのテントとか、まさにモダンデザインの花園だったりするわけだから、すっかりカーッと引っ張られちゃって。それまで全然知らなくて突然見たもんだからさ。子どもの頃のテントなんてA型ので、あぁいうピッケルみたいなモノを持って、ニッカボッカとチェックシャツの時代だったから。
― ワンダーフォーゲル的なスタイルですよね。
小林:当時は全然そんなモノには惹かれなかったけど、最先端のプロダクトを突然山ほど見るに連れて、ビックリしちゃって。そこからMOSS(編集部注:今は無き伝説的テントブランド)だのみんなが好きになる筋があるじゃない。そんなモノを教えてもらったり買ったりしながらハマっていったんだよね。
― なるほど。やはりとっかかりとしてはハイテクなモノが多かったんですか?
小林:そうだね。結局モダンデザインが好きだから。やっぱりアウトドアの面白さはモダニズム・デザインだし、それが咲き乱れてるようなマーケットだから。そこがものすごく面白かった。ヨーロッパのプロダクトみたいに斜に構えた感じじゃない、古着とかジーパンとかを見て思ってた「アメリカらしさ」がさらに加速した感じがおもしろくて仕方が無くて。
― 合理主義的なところですね。
小林:そう。そういうのを見て、最先端のモノだけじゃなく古いプロダクトにも興味が湧いてきて。そんな変遷もあって「天然素材もイイんじゃない」ってなってきた。当時のA型テントとか、持ってるヤツに入れてもらったりしたんだけど、意外と静かだったり。ナイロンに比べてキャンバスのテントは静かなんだよね。で、綿だから夜露を吸うんだけど、翌朝晴れるとそれが蒸発した気化熱によって、一瞬中が涼しくなったりして。
― 面白いですね。
小林:そういう、なんていうかディテールに住んでる感情みたいなのがいくつか見えて、「こういうのもアリだよね」って。軽さを得るかわりに置いてきちゃったモノとか、そういうのを意識したいなっていうのがここ最近かな。だから最近はスニーカーじゃなくてブーツを履いてたり。クラシックなバックパックを背負うのも、今まで使ってたすごくハイテクなモノと比べて、単純な良し悪しじゃなく、何かを呼び覚ますっていうか、何かにタッチしてくれる感情的なモノがあるはずと思ってるからなんだよね。天然素材を使って野外生活を繰り返していった後にある何かに期待をしたいというか。使ってすぐに分かったり変わったりするものじゃないだろうから。
― そうですね。ゆっくりと変わっていく何かを探したいと。
でも、単純に肩にきたりしませんか、あぁいうパックだと。
小林:くるけど、イイヤツはきちんと腰でホールドしてくれるから。もちろん隙間を埋めていくディティールみたいなモノは付いてないけど、必要な根はきちんと押さえられてる。
― 見た目は文句なしにカッコイイですしね。
小林:だから、何が良いとか悪いじゃなくて、最近は「おっ、カッコイイじゃん!」って思う対象が天然素材のモノに多いかな。
― 天然素材は味の出方とかも抜群ですもんね。
小林:メンテを繰り返すと必ず表情として付いてくるよね。
― この辺の感覚は、次のマウンテンリサーチにも反映されてるんですか?
小林:アメリカの古い毛布をテーマにやってるから。あとはこの辺の分厚いウェアも。ディテールやデザインは色々と違うけど、なんとなくたき火の前とか、どこかの尾根を歩いてる感じとかを想像しながらやってるかな。少し慣れは必要だけど、別にマウンテンパーカを着てなくてもそういう場所には行けるはずだし。
最初からマウンテンリサーチは別に登山の服じゃないからね。なんとなく山あいの景色を心に持つ人の服。でも、山に行く人って突然いかにもな格好になるでしょ?
― そうなんですよ。
小林:あぁじゃなくてもイイのに。
― いきなり変わりますよね。完全本気仕様みたいな。
小林:おかしいでしょ(笑)。自分の場所じゃないから、あぁやって着せられちゃう。別にライダース着てたってイイはずだもん。尾根縦走してるくらいならライダースで大丈夫。
初めはなるべくいつもの格好で山に行けるようなルーティングっていうのを考えるとイイと思う。一番下から上がるんじゃなくて、日本の山は結構上まで駐車場があるんだから、そこまでサッサとタクシー飛ばして行って。
(一同笑)
小林:帰りの時間もタクシーに言っておいて。
― 「このくらいに迎えに来て」と(笑)。
小林:あとは、ほとんど高低差のない、一番景色のキレイな見晴らしのイイところだけを歩いてくる、というようなコトをやってもイイんじゃないかな。
それによって買い込むモノが減ったり、いつもの格好で場数をこなせるんだったら、それもアリだと思う。
― 僕らも岡部氏や相澤氏に誘ってもらえるんですけど、どうしても身構えちゃって。どこまで揃えてから行けばイイんだろうかって。
小林:そうだよね。なんかスノボに誘われたときと一緒で。まぁウェアを揃えると「行かなきゃ」って腹を括れるっていう効用はデカいんだけど(笑)。
不景気だし、四の五の言わないでおいしいパートだけ食いに行くっていうのもイイんじゃないかと思うんだ。
― それなら行ってみたい気になるんですけど、昔から言われる「山をなめるな」的な話も気になって…。
小林:タクシーを使うっていう反則してでも、尾根縦走から始められそうなポイントを探してさ。とにかく行かなきゃ分からない空気感があるし、ちょっとでも行かないと慣れてこないから。長い時間つらい思いをしなくても過ごせるように知恵を出して工夫すれば、もう少し違ったパターンも出てくるでしょ。
でも、なんかみんなストイックな方向で、ちゃんと正面から入ろうとするよね(笑)
― 確かにそうですね。
小林:だから、この前やった展示会のテーマは『ロウ・マインデッド・マウンテン・フォークス(Low Minded Mountain Folks)』。問題意識の低いロウ・マインデッドな山側の人という感じ。マインドを高く持つ努力はするけど、もともと行儀は悪いからロウ・マインデット。
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