東京ファッションシーンへの愛情
— しかしこのスピーカーはすごいですね。
横山:これ、関さんにはずっと内緒だったんです。「今回はありがとうございました」みたいな感じでプレゼントしたくて。絶対に関さんが欲しいモノだと思ってたし。
本当は展示会のときに渡したかったんですが、その時はまだ精度が低くて。
(一同笑)
横山:やっと昨日完成しました。
— ちょっとイイ話ですね。
荒木:関さんたちがやり始めた頃…20歳ぐらいだったと思うんですけど、そういう「何も分かんないけどやりたいから洋服作るんだぜ」みたいなノリが、もう2000年を過ぎて一周したら完全になくなってる気がするんですよね。きっちりブランドとして成立してる人ばっかりで、熱が遠いというか。
横山:だから今回のカタログもわざと小さいサイズの部屋を作って撮影してるんです。あの時代のカルチャーって、小さな空間で色濃い人が交じり合って生まれたモノだな、って思ってたから。
だからこのリミテッドショップもそんな感じを表現したくて、『ブラックミーンズ』にも混じってもらって異種格闘技戦みたいにして。こういうことが本来僕らが好きなことかなぁ、と。
荒木:フットワークの軽さで。今はわりと○○系みたいなそれぞれのジャンルが大きくなってて、そのなかで完結しちゃってるから人が別れてる感じがしちゃうんですよ。昔は「聴いてる音楽は違うけど、洋服で繋がってる」みたいな空気があったじゃないですか? ああいうのがメッチャいいなぁと思ってるんですよ。
横山:そういうのです。
(一同笑)
横山:でもホントに一回小千谷に行ってみてください。関さんのカレー、メッチャ美味いッスよ(笑)
— 僕らもカレーは大好きなんで、それは是非行ってみたいですね。
関:ホント今、服を作るよりカレーを作る方が…
(一同笑)
関:あと家にツタを這わせるのに時間をかけてるんですよ。ツタ屋敷みたいにしようと。だからツタみたいなのをフィーチャーしても面白い企画があったら是非。
(一同笑)
荒木:でも行ったらホントにビックリしますよ。田舎っちゅう田舎なんですよ。
横山:ここ? ホントにここぉ?! って(笑)
高校生の頃は車なんて持ってないから、時間をかけて電車で行くんですけど、だいたい週のうち3日か4日休んでましたもんね。
(一同笑)
荒木:で、行って休みだと「うわー」って。電車もなかなか来ないし、待つとこもなくて。しかも雪国なんですよ。
だから「今日やってそう」っていうのだけを頼りに行ってみて。行けばその月のカレンダーが店に張ってあるから、営業日だけは分かるという。
— 今では考えられませんが、そういうのが楽しかった時代ですね。実際に今でも話のネタになってますし。
関:一応体裁は市なんですけど、人口も4万人しかいなくて、電車もローカル線が一時間に一本。若い子も娯楽がないから学校を卒業すると都会に憧れて出て行く傾向が強いんですよね。だからどんどん高齢の方が多くなって、訪れる人は「なんでここで成立してるの?」って不思議らしくて。
都内でブランドをやってて煮詰まっちゃった、みたいな友達が来る時があるんですけど、「あ、ここで出来てるんだから大丈夫だ…」って安心して帰っちゃうような場所ですね。
でも自分では「え、それって…?」という…
(一同笑)
— 「どういう意味だよ?」って感じですよね。
関:みんな仲良いからフランクに言うんだけど、「関君がここで出来てるんだから、うちで出来ないわけがない」って言葉を残して帰るんですよ(笑)
荒木:チャージして帰れるんですよ。そのくらいイイ雰囲気。
横山:小千谷行ったときお蕎麦屋さんに連れていってもらったんですけど、いきなり関さんが「あ、仙台からのお客さんだ」って、そのお客さんのお代を相手が気付かないうちに払ってあげてるんですよ。
関:土日は県外からもお客さんが来るんで。
自分が『TOKYO AIR RUNNERS』をスタートさせたときも、自分の中では「AIR RUNNERS」っていうのを「口コミで飛び交う情報」っていう意味で捉えてて。最初は一切メディアの力は借りずに、口コミという現象で拡大すればイイなと思ってたんです。
— ブランド名は、そういう語源だったんですね。
関:そういう始まりなんで、口コミを頼りに足を運んでくれた方は本当に大事なんですよ。そして口コミの破壊力をいつまでも信用したいので、それをやり抜くためには、土日に遠くからわざわざ足を運んでくれる方が一番大切なんです。
— それは同感です。でも、よく知らないお客さんに蕎麦をおごっちゃうのはすごいですね。
横山:ホントにコミュニケーションが素晴らしいんですよ、マジで。
— 僕らも見習わないとですね。
横山:あと、たまたま大学の先輩にTARラボで会ったんですけど、そこでTARのスタジャンを2色買いか、3色買いしてて。
荒木:そんな人いまだにいるんだって(笑)
横山:「あれは買っときゃなきゃでしょ」とか言って。
(一同笑)
— すごいなぁ。
横山:こういうのイイなぁ!って思って。
関:まぁこういう話だときれいに聞こえますけど、やっぱり逆の面もあって。盲目的なファンだったり、ある意味宗教色じゃないけど熱狂的になりすぎることもあるんで、そこをうまくコントロールしながら。
そして、なんとか20年続けることができたんで、今度は名前を変えてみようってことで『サブマージ(Submarge)』になったんですね。「サブマージ TAR ナビゲーション」っていう風にして、『TAR』を少し水面下に沈めてさらにナビゲーションしていくイメージで。
で、『TAR』を何もないところから始めたように、口コミで『サブマージ』っていうブランドをどこまで広げて行けるのか自分でも試してみたいって。今、サブマージを始めて3年なんで、あと17年頑張って20年目を迎えられるように。でも今の時代ってたくさんブランドがあるから。
横山:でも、その話聞くと壮大なことだなって。僕らなんてまだ10年も迎えてないのに(笑) もう一回20年だからね。
荒木:マジっすか?って。でもこういうきっかけで『サブマージ』が追い風に乗れたらイイなって。だって20年を2回ってすごいじゃないですか?
横山:今回90年代の東京をテーマにしたのは、東京の人にしかできない、日本人にしかできないコトが90年代にはたくさんあったからで。やっぱり僕ら、そういう東京とか日本ならではの感覚っていうのが好きなんですよ。でも、みんなどうしても欧米欧米って向かいがちな中で、なにかアクションを起こさないとそういう部分が無くなっちゃうんじゃないかな、っていうのがきっかけで。「みんなそろそろ気付いてもイイんじゃない?」って。
あの当時、見る人によってはたかがプリントTシャツだったかもしれないけど、そのプリントにはいろんな意味が込められていて、そこにカルチャーがあったし。
荒木:カッコ良かったですよね、トライブ感というか。みんなで着てつるんで遊ぶとか、今そういうのがないじゃないですか? 細分化されすぎて別れちゃってて。
でもオレ、ああいうのが好きなんですよ。
— すごい分かります。それこそクルーで揃いのスタジャンを着てるみたいなね。
関:ここで意気投合すれば、ここに居る人たちで一から組み立てることもできますしね。とりあえずまずは5人で揃えてみて。
— それでカレーでも作りましょうか?(笑)
横山:でもホントに関さんのカレーがヤバくて…(以下、カレー談義が夜遅くまで続くのでした…)
サスクワァッチファブリクスの面々が自分たちのルーツである「アーリー’90s」を振り返り、
その象徴として捉えていた関氏とともに実現させた今季のコレクション。
そこに込められた、決してただの懐古主義では無い彼らの思いが伝わったのではないでしょうか?
一見めちゃくちゃに見えて、じつは一本筋が通った考えの元でモノ作りに励む彼らのアティチュード。
東京のリミテッドショップはすでに終了してしまいましたが、またすぐに何かおもしろいことをやってくれるでしょう。それを楽しみにしたいと思います。
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