パリから南に約400km。フランスの中で第二の規模を誇る都市圏であり、フットボールをこよなく愛する街。それがリヨンである。そんなリヨンで生まれ育ったヨアン・ウェンガーとローマン・サバティエの手がけるブランド[sansnom.(サンノム)]が、近頃、世界のファッションシーンで密かな話題を呼んでいる。
若干22歳、自らを「インターネット世代」と称するヨアンとローマンの作りだす洋服は、"スポーツ"という一貫したテーマを掲げながらもどこか力が抜けていて、今の気分にぴったり。[PIGALLE(ピガール)]のステファン・アシュプールもお墨付きを出し、パリの直営店でも取扱いを行う[sansnom.]の洋服作り、そして独自のスタンスについて、ヨアンとローマンに話を聞いた。
Photo:Masaya Fujita、Text&Edit:Keita Miki
僕たちの洋服を買わなくても良いので、何かを感じて欲しい。
— 初めてお会いしますが、お2人とも出身はフランスですか?
Yoann&Romain:そうですね、フランスのリヨンという街で生まれ育ちました。
— 洋服作りを始めたきっかけは?
Yoann:高校生の時のことなんですが、洋服を作ろうというよりも「2人で何かを作ろう!」と衝動に駆られて、プリントTシャツを作りはじめたことが[sansnom.]の原点と言えるのかもしれませんね。
— 特定のデザイナーやブランドに影響を受けたということはありますか?
Yoann:いいえ、特にそういう訳では無く、高校生の時からHighsnobietyやHypebeastなど、海外のネットメディアを良くチェックしていて、そこで起こっていることに、とにかく興味があったんです。僕らの地元であるリヨンには、そういうブランドやシーンは無かったし、なんといっても自分たちはインターネット世代ですからね(笑)。
— お二人の出会いは高校生の時ですか?
Romain:出会ったのは中学生の頃で、それからは家族ぐるみの付き合いをしています。先ほど、Yoannが話していたようにきっかけとなったプリントTシャツを2型作ったんですが、それを運良く地元のショップで取扱ってもらえることになって、そこから徐々に物作りの基礎を学んでいった感じですね。
— なるほど。では最初からブランドを作ろうという意識では無かった訳ですね。
Romain:その通りです。お店で僕らの洋服が売れた後に、初めて[sansnom.]をブランド登録しないといけないなと気付きました(笑)。
— [sansnom.]における2人の役割分担は?
Yoann:僕がクリエイティブの担当で、Romainはプロダクトのマネージメントや会社の運営を手掛けています。
— [sansnom.]の洋服のアイディアはYoannが1人で考えているのでしょうか?
Yoann:いえ、役割分担ははっきりしているのですが、ずっと2人でやってきたブランドなので、一概には言えません。自分にこういう考えがあって、こういう物を作りたいと思っているということは日々、Romainにシェアして、アドバイスももらっています。
— ファッション的な意味で、2人の好きなものというのは似ていますか?
Romain:基本的には似ていますね。パーソナリティは違うけれど、ことファッションに関してはかなり近しい感覚です。
— [sansnom.]のコレクションを見ていると、一貫してスポーツがテーマになっていると思うのですが、それはどういった理由から?
Yoann:僕らが生まれ育ったリヨンという土地では、ファッションはそこまで身近なものでは無く、周りにもファッション業界で働いている人はいませんでした。そういったこともあり、自分たちでブランドをやっていこうと決めて、僕らのアイデンティティを探った時に出て来たのが”スポーツ”というキーワードだったんです。スポーツでは、常に自らのモチベーションを上げ、トレーニングを続けていくことが、高い水準に達するために必要不可欠な要素です。[sansnom.]もブランドとしてそうありたいなと思い、スポーツを1つのテーマとして掲げています。
— [PIGALLE]のステファンとの親交も深く、[sansnom.]の洋服は[PIGALLE]の直営店でも取り扱われていますよね。
Yoann:一番最初はFacebookで知り合ったんですよ。それから、ステファンの主催するクラブイベントに遊びに行ったりしているうちに意気投合して、[PIGALLE]のお店でも商品を取り扱ってもらうようになりました。
— スポーツというテーマを掲げるとなると、例えば[NIKE]や[adidas]のようなスポーツブランドもある意味では競合となる訳ですが、そういった大企業との差別化についてはどのように考えていますか?
Romain:もちろん僕らがそういった大きな企業にテクニカルな部分で敵う訳はないので、[sansnom.]としては、「ファッションとスポーツの間のバランス」ということを最重要視しています。
— 今後の展望については?
Romain:直近の目標としてはより商品のクオリティを追求していきたいですね。具体的な案がある訳では無いですが、2016年は大きな話題になるようなコラボレーションも何か実現出来ればと考えています。大きなビジョンを見据えるのではなく、毎シーズンのコレクションにフォーカスしながら、より良いものを作り、着実に販路を拡大していきたいなと。
— [PIGALLE]のようにランウェイやインスタレーションを行うことに興味はありますか?
Yoann:ショーは世界観や自分たちの考えを表現する為にすごく有効な手段だと思いますが、関係性が無いと成り立たないものだとも考えていて、今の[sansnom.]の製品や僕自身のアイディアとは、少しかけ離れているのかもしれませんね。現段階では、ルックブックやムービーで世界観を表現する方が自分たちにフィットしているように思います。
— たしかに[sansnom.]は毎シーズン、ムービーに力を注いでいる印象がありますね。
Yoann:音楽も含めてその時々の自分たちの気分やムーブメントを一度に全部表現出来るのがムービーだと考えています。運良く、自分たちの周りに良いフィルムディレクターがいることもあり、毎シーズン注力しています。
— 最近、日本では若い世代向けのファッション誌が売れないなんて話もありますが、フランスはどんな状況ですか?
Romain:そもそも、フランスでは雑誌を読んで洋服を買うという文化がほとんど存在していないように思います。若い女の子は流行を気にしたりもしますが、メンズにおいては洋服が好きな人は自ら情報を取りに行って、よりクオリティの高いプロダクトを求めていますね。日本のブランド、例えば[visvim]や[sacai]といったブランドは、ファブリックから縫製まで非常にクオリティが高く、フランスでも人気がありますよ。
— 最後にこのインタビューを読んでいる読者に向けて、何かメッセージを頂けますか。
Yoann:僕たちはまだ22歳だけど、そんな奴らが作った洋服を見る事で、「よし、自分も何かを始めよう」という気になってくれたら一番嬉しいですね。[sansnom.]をスタートさせた時の”Start something”という気持ち。僕たちの洋服を買わなくても良いので、何かを感じて欲しい。インターネットのお陰で、若い世代でも何かを始めやすい世の中になったと思うので、なんでも挑戦してみて欲しいし、自分たちも”Start something”のマインドはずっと忘れずにいたいと思っています。