対談:PUNPEE × カレー屋まーくん ~夏とカレーと加山雄三~

by Mastered編集部

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普遍的なものを作りたかったんですよ。言うならば、坂本九の”明日があるさ”みたいな。(PUNPEE)

— 加山さん自身は、今回のリミックスについてどんな感想を持っていらっしゃるんですかね?

カレー屋まーくん:すごく気に入ってくれていますよ。喜んでくれていて、会うといつも褒めてくれます。

PUNPEE:僕にも直接、「良かったよ」って電話をかけて来てくれました。どうやって話したら良いのか、全然分からなかったですけど(笑)。やっぱり、加山さんは永遠のスターだから。ちょっと圧倒される部分はあります。

以前のインタビューでPUNPEE君の音楽遍歴についての話を伺いましたが、邦楽に関してはどんなものを聴いて育ってきたんですか?

PUNPEE:洋楽と同じく、親父が聴いてきたものが軸にはありますね。でも、例えばグループサウンズとか、そういう分野に踏み込んだことはなかった。どちらかと言うと、今回の話をもらってから、改めて掘り返した感じですね。昔の加山さんの音源を聴くと、サイケロックっぽい曲とか、インストの曲も沢山あって、”サライ”みたいな感じの曲は、本当に最近のモノなんだな、と思いました。

カレー屋まーくん:根本的に音楽が好きな人なんですよね。隙あらば、どんどん新しいことや好きなことをやりたいみたいです。加山さんって、ほとんど同世代の人と話をしないらしいんですよ。頭の回転が速すぎて、同世代とは話が合わないんだそうです(笑)。同じ頭の回転数で、同じような発想を持って話が出来る人としか話さない傾向があるってマネージャーが話してました。まぁ、なんていうか化け物なんですよ。基本的に自分たちと同じだと思わない方が良い(笑)。

Lady Gagaのアルバム『Born This Way』

Lady Gagaのアルバム『Born This Way』

— 加山さんのミュージシャンとしての魅力はどんな部分にあると思いますか?

カレー屋まーくん:あくまで作品を聴いた感想ですけど、ドープなことが出来るポップセンスのある人。その時、その時で、格好良いものをやる、やりたいと思っている人ですね。最近はLady Gagaとか聴いてるらしいですよ。

PUNPEE:洋楽の入りはシナトラ、巡り巡ってLady Gagaだそうです。

一同笑

PUNPEE:単純にイケてるものが好きなんですよね。

カレー屋まーくん:あの人を年寄りだと思っちゃいけないんだよね。年寄りの皮を被った、強烈なインテリ。僕らの世代は、どうしても”加山雄三 = サライ”ってイメージを抱きがちだけど、加山雄三という人は今でも一番前を走れますから。

PUNPEE:実際に話してみると、やっぱり尖ったところありますもんね。加山さんってどこの出身でしたっけ?

カレー屋まーくん:茅ヶ崎じゃなかったっけ。日本で最初のサーファーだよ。朝日新聞に書いてあったもん。

PUNPEE:あっ、あとは多重録音機を最初に日本に持ち込んだ人で、日本初のシンガーソングライターなんですよね。

カレー屋まーくん:もう、そういう話をしてると切りがないね。78年間ずっとあの調子でいると、3ヶ月に1回ペースでそういう伝説が量産されちゃうから(笑)。

— まーくんは先ほど「なんとなく音の大枠みたいなものは頭の中にあった」と話していましたが、結果として出来上がった音は想像通りのものになりましたか?

カレー屋まーくん:それどころか、理想のちょっと上でした。でも、大変だったと思います。普通、リミックスを頼む時って、その人のアーティスト性とかを全て理解した上で話を振るじゃないですか。だけど、今回はPUNPEEのこの部分が欲しい。こういう曲を作りたいから、君のこの部分を掻い摘んで貸してくれという、ちょっと失礼な感じの頼み方をしたので。しかも、細かい修正をお互いでやり取りし合って音を作り上げていった。例えば「スクラッチのパターンが難しくて、これだと曲のポップさが無くなっちゃうから、もう1回プレミアを聴いてスクラッチやり直して。」とか本当に細かい部分を気にしながら、作業を進めていきました。

PUNPEE:リリックも難しかったですね。”結婚”をテーマにしたリリックなんて書いたことがなかったので。実際に周りにいる奴を色々と参考にはしたんですけど、まだ自分に起こっていない出来事だっただけに、かなり考えちゃいました。

— 公開になったばかりのPVにも結構苦労はあったんですか?

PUNPEE:PVはPSGの”サマーシンフォニー“とかを撮ってくれたGhetto Hollywoodさんにお願いしたんですけど、やっぱり一番の焦点は、加山さん本人が出てくれるのかどうかってところでしたね。

カレー屋まーくん:最初はPVを作る予定も無かったんですけどね。作るとなったら、加山さん本人に出てもらいたかったので、直談判して、なんとかOKをもらいました。

PUNPEE:でも、加山さんの出演シーンの撮影は一瞬で終わりましたよ。完全にスターの仕事でした。演技をするのは17年ぶりって話していましたけど、とてもそうは思えない感じで。目線、演技、完璧でしたね。

— しかし、改めて思いますが、冷静に考えると、カレー屋まーくんとPUNPEEによる、加山雄三のリミックスプロジェクト。しかも加山雄三公認で、そのPVにご本人が出演されているっていうのは、普通の人には全く訳が分からない事態ですよね。

カレー屋まーくん:そりゃそうですね。みんなバグるでしょ(笑)。

PUNPEE:だけど、普遍的なものを作りたかったんですよ。言うならば、坂本九の”明日があるさ”みたいな。古き良き日本の良さというか、”お嫁においで”ってそういう曲だと思ったので。

カレー屋まーくん:今回のリミックスで、今の結婚の形を上手く表現出来たかなとは思うよね。僕らの世代って、丁度バブルが終わった時期に生まれた世代で、誰も金なんて無いし、毎日キツキツだし、上の世代から見たら全員ダメ男みたいに見えると思うんですよ。けど、「ダメ男だけど、気持ちだけは………」みたいな今の空気感がすごく上手に描写出来ているんじゃないかな。PUNPEEに頼むって決めた時から、「この曲はちゃんとヒットさせよう」、「今後10年間で、若い子達が結婚式の二次会で歌いたくなる曲ナンバーワンにしよう」って考えていて、結果、そういう曲になったと僕は思っています。

PUNPEE:ちゃんとヒップホップとリンクさせることも出来たし、インピーチを使いたかったんですよね。ラップとアカペラで、インピーチだけでも良いかなって思ったくらい。

— 加山さんの原曲を知らない世代が聴いても、普通に良い曲ですもんね。iTunesでの配信のほか、アナログリリースも予定されているんですよね?

カレー屋まーくん:そうですね。僕、もう20年ぐらいDJをやっているんですけど、レコード以外かけたことが無いんですよ。だから、どうしてもアナログは出したくて。アナログにはインストも入ってるんですけど、あれはインストでかける用じゃなくて、自分の結婚式で歌う時の為に入れたものです。完全に余談ですが(笑)。だから、みんなで歌ってくださいね。

— 話は少し変わりますが、PUNPEEくんは前回のインタビューから何か変わったことはありますか? この4年間でかなり色々なシーンで名前を見かけるようにはなりましたが。

PUNPEE:こういう面白い企画に誘われる機会が増えたっていうのが一番ですかね。自分のやってきたことが板についてきて、少しは評価されてきてるのかなと、僅かながらに思います(笑)。

カレー屋まーくん:PUNPEEってすごく特殊な捉えられ方をしているアーティストですからね。ディープにビートと音楽のことを考えているのに、ポップな人たちにも興味を持ってもらえる。それこそ『大三元』の時の話ですけど、PUNPEEを見る女の子のお客さんの目が、みんなハートになってるんですよ。20年間パーティーをやってるけど、そんなの、初めての現象で。「今、PUNPEEさんに話しかけてもいいですか?」とか聞かれちゃって。「そんなの知らねぇよ!」って話ですよね(笑)。あとは、よっぽどデカいパーティーじゃないと電話で問い合わせとかって来ないんだけど、「PUNPEEさんのCD販売するんですか?」とか、「PUNPEEさんは何時に来るんですか?」とか問い合わせが凄くて。でも、ただの人気者じゃなくて、ポップなのにドープ。だからこそ、今回の曲にもマッチしたんだと思います。まぁ、現物は超ダメ男なんですけど(笑)。

PUNPEE:たしかに。それがこの曲にも出ちゃってるんですよ。この曲のリリックは、今までの曲のリリックよりも、かなり自分の等身大に近いですね。

カレー屋まーくん:冗談とかじゃなくて、本当にダメ男(笑)。この1年は本当に2人で飲みに行く機会が多かったんですけど、飲みに行く度にダメな部分が見えて来る感じで………。モテるけどさ、ほんとダメだよね。

PUNPEE:かなりダメな部類かもしれない………。Ghetto Hollywoodさんにも言ったんですけど、今回の仕事を請けたのは、もちろん加山さんのファンってこともあったんですけど、俺のダメ男な部分を成仏させるためっていう意味合いもかなり大きいんですよ。

カレー屋まーくん:なんかさ、ダラしなさが、変なダラしなさなんだよね。モテてるピンプなダラしなさだったら良いんだけど、モテない男のダラしなさなんだよ。実際は人気者でモテてるのに。クソ男じゃなくて、本当にダメ男って感じ。

PUNPEE:たぶん、自分がいざ結婚するとなった時には、この曲と全く同じ現象が起こりますね。本当にそのまま。でも、今の音楽やってる奴らには、こういう人多いと思うんです。

カレー屋まーくん:いや、それは絶対にお前の周りだけだよ(笑)。

PUNPEE:いやいや、多いですって。今は音楽がなかなかお金にならないし、華やかに見えても実はヒットしているのは無料配信曲で、お金が全然無いって奴、多いと思いますよ。だから、それを代弁するというか、なんか今の音楽やってる奴らの雰囲気を少しは出せたのかなと個人的には思ってるんですけど。

— たしかに。やけにリアリティはありますね。

カレー屋まーくん:超リアルだよ。でもそれはいらないリアル(笑)。曲の表現としてはすごく良かったと思うけどね。

PUNPEE:すらすらと言葉は出てきて、本当はもっとキツいワードとかもあったんですけどね。あえてそれは出さなかったです(笑)。

— 結果として、PUNPEEくんのダメ男は成仏出来たんですか?

カレー屋まーくん:いや、出来てないでしょ。というか、ずっと出来ないと思うよ(笑)。

PUNPEE:でも、共感する人は多いと思うんだけどなー。

カレー屋まーくん:作ってる時も聴いてる時もだけど、何とも言えない気持ちにはなるよね。「死なない………けど、生きてない。このままじゃあかん!」みたいな(笑)。

PUNPEE:そういうのを落とし込めた自信はすごくあります(笑)。

PSGのアルバム『David』

PSGのアルバム『David』

— この間の『Weeken’』の時にPSGの話を少ししていましたが、次回作の予定は?

PUNPEE:まずは自分のソロの方が先ですかね。ソロは来年の誕生日までには出したいなと思っていま………。

— 最後に今2人が注目しているシーンがあれば教えてください。

PUNPEE:今の日本のヒップホップは色々なカルチャーがリンクしてきていて、面白いと思いますよ。ラップ自体の需要は良くも悪くも増えてきているし、若い世代の抵抗がなくなってきている気はします。ヒップホップの中だけじゃ無く、もっともっと他の部分に広がって行って欲しいなと思っていますね。

カレー屋まーくん:20代前半が最近ちょっと面白そうな雰囲気出してますかね。僕は今年40歳なんですけど、10歳下ぐらいまでの世代ってやっぱりちょっと元気が無いというか、こじんまりとしてる感じで。そこと比較すると最近の20代前半のくるくるぱーみたいな世代が良い感じでガツガツしてるんですよ。僕らの上の世代とはまたちょっと違う、ガツガツした感じ。

PUNPEE:僕らの世代はガツガツするのは逆に格好悪いと思っていた世代ですからね。

カレー屋まーくん:あれも一種のカウンターカルチャーなのかもね。上の世代と形は違うけど「良いじゃん、やっちゃえ!」みたいな空気があるような気がして、久々に一緒に遊びたいなって思った。PUNPEEの世代との遊び方はなんとなく分かって来たけど、20代前半はまだ得体が知れないから。一緒に遊んだら楽しそうだなと思っています。

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【加山雄三 feat. PUNPEE “お嫁においで 2015″】
2015年10月中旬発売予定(配信はiTunes Storeにて既にスタート
フォーマット:12inch
価格:1,922円(税込)

SIDE A
01. お嫁においで 2015 feat. PUNPEE (Original)
02. お嫁においで 2015 feat. PUNPEE (Inst)

SIDE B
01. BLACK SAND BEACH ALTZ Jungle Version