1995年からスタートした[Paul Smith(ポール・スミス)]のウォッチライン[Paul Smith WATCH(ポール・スミス ウォッチ)]がこの2015年でめでたく20周年を迎える。
タイムレスで上質なデザインでこれまで幾多の人の時を刻んできた[Paul Smith WATCH]。今回EYESCREAM.JPではその本質に迫るべくデザイナーであるSir Paul Smith、その人に単独インタビューを敢行。20周年を祝って特別にプレスルームにディスプレイされた[Paul Smith WATCH]の時計たちの横で、じっくりと話を聞いた。
私の仕事は「人々が欲しがるような時計を作ること」に変わりありません。他のブランドとは違う視点を見つけ、そういう時計を作りだすことが私の使命だと思っています。
— [Paul Smith WATCH]の話に入る前に、まずは少しパーソナルなお話を伺えればと思います。ポールさんが人生で初めて買った時計はどんなものだったのでしょう?
Paul Smith:私が11歳の時に父が買ってくれたゴールドカラーの[Timex(タイメックス)]が初めての時計になるかと思います。すごく気に入っていましたよ。現代では携帯電話で時間を見る事が多くなり、時計離れなんて言葉も生まれているそうですが、当時11歳の私にとっては時計を持っていること自体がある種のステータスでした。
— 自分のお金で初めて買った時計はどんなものだったのでしょう?
Paul Smith:たしか18歳の時にフリーマーケットで買ったのですが、あまりちゃんと動いてくれない時計だったと記憶しています(笑)。1970年代に入ってからは、時計が簡素化され、値段も安く、カジュアルにつけられるファッション要素の高い腕時計が出て来たので、色々な時計を買いましたね。私が日本に初めて来たのは1982年なのですが、当時の日本にも色々な種類の時計があって、100個ぐらい買って帰ったのを良く覚えています。ロンドンに戻る時、税関で「何か申告するものはありますか?」と聞かれたので、「時計を100個ぐらい持っているんだけど、これは申告する必要がある?」と答えて、職員に呆れられました(笑)。記入するのに2時間以上かかって、「税関って大変なんだな~」と良い勉強になりましたね。
— 今でも面白い時計を見つけたら買ってしまう?
Paul Smith:そうですね、ユニークなデザインの時計を付けることは今ではほとんど無いですが、趣味として購入しています。
— 先ほどポールさんもお話していたように、現代では携帯電話の登場により、時計を付けない人も増えてきていると思うのですが、そういう時代における時計の役割についてはどのように考えていますか?
Paul Smith:[Paul Smith WATCH]のアイテムは現在、世界73ヶ国で販売されているのですが、国によってはまだまだ時計を付けること自体がステータスになっている国もありますし、時計がジュエリーのような役割を果たしている国もあります。国によって色々と状況や役割は異なりますが、私の仕事は「人々が欲しがるような時計を作ること」に変わりありません。他のブランドとは違う視点を見つけ、そういう時計を作りだすことが私の使命だと思っています。
— [Paul Smith]ブランドとして、時計を作りはじめたのはいつ頃からですか?
Paul Smith:今年でちょうど20周年になりますね。
— 時計を作ろうと思ったきっかけは何かあったのでしょうか?
Paul Smith:ご存じのとおり、私は洋服以外にも自転車やカメラをデザインしたりするんですが、常にデザイナーとしての幅をもっと広げたいと思っています。例えば、洋服の生地は基本的にソフトな素材なので、30分もあれば新しい形を作りだせますが、時計はもっと生産のプロセスが長く、素材や作り方を熟知していないと新しいデザインのものは生み出せない。それが面白いんですよね。時計作りというのは、自分にとって、すごくチャレンジングなことでしたが、純粋にやりたいと思ったんです。
— 今のお話にあったようにポールさんは[Paul Smith]ブランドで時計以外にも様々なものをデザインしているので、時々頭がパンクしちゃうんじゃないかなと見てる側としては勝手に心配になったりもするんですが(笑)、その辺りは如何でしょうか?
Paul Smith:やっている内に自然とトレーニングされてきたんでしょうね。日々私が観察したものが、どんどん頭に入って来て、自然とデザインが浮かんでくるようなプロセスが出来上がっているんです。もちろん、デザインのことを全く考えていない訳では無いんですが、既に毎日の習慣になってしまっているので、苦にはなりません。
— とすると、ポールさんの頭の中には常に次に作りたい物の存在があると。
Paul Smith:その通り。アイディアは常にあるんです。が、僕の場合はアイディアがありすぎて、どれを止めるかということが問題(笑)。スタッフにはいつも止められています。
— コレクションラインから始まり、[Paul Smith]にはいくつものラインがありますが、デザインする順番は決まっているのでしょうか?
Paul Smith:ここまでライン数が多いと、最も重要なのはタイムマネジメントになってきます。優秀なスタッフがスケジュールを管理してくれているので、私は言われるがままですね(笑)。大変なのは、まるで職業を変えるように、一日の中でライン毎に頭を使い分けなければいけないことです。
— 今日はこの会場に20年分の[Paul Smith WATCH]のアーカイヴが展示されていますが、個人的にはアーカイヴをご覧になって、どんな思いを抱きましたか?
Paul Smith:20年分も時計を並べると、まるで日記のように感じますね。見ていて思ったのは、時計がシンプルなシーズンは洋服のコレクションもシンプルだし、逆に時計がデコラティブなデザインのシーズンは洋服もデコラティブ。意識していないようでも、しっかりとリンクしているんだなってことでしょうか。
— ただ、洋服と比較すると、時計はより長い期間使用するものになりますよね。
Paul Smith:おっしゃる通り、そういうことも含めて、[Paul Smith WATCH]では、どの時計においてもタイムレスなデザインを心がけています。もちろん、中には一見すると特殊に見えるようなものもありますが、ワンシーズンの中で色々なバリエーションを差し込みながらデザインをすることが、長い期間使用してもらえる時計を作りだす為には重要なことだと思っています。
— ポールさん自身の「好きな時計のデザイン」にこの20年で変化はありましたか?
Paul Smith:それは変わらないですね。比較的シンプルな時計が好きで、ボタンやリューズがたくさん付いているものは、今でもあまり好みではありません。
— ポールさんはこれまで実に様々なもののデザインを行い、毎シーズン僕らを楽しませてくれていますが、今後の夢は?
Paul Smith:たしかに「もうやりたいことなんて無いだろう」と思われるぐらい、色々なことをやって来たのですが、実はそれらは、ラッキーなことに色々な分野の方が私の仕事に興味を持ち、話を持ちかけてきてくれたからこそ実現出来たことがほとんどなんです。自分にとって一番楽しいのは、自らの考えたアイディアがモノとして世の中に出て、それが売れるというプロセスなので、まだまだやりたいことはたくさんありますよ。