「気づいたら、そこにNEIがいた」。C.O.S.A.やJJJらを魅了する20歳の新星ラッパーNEIの正体に迫る

by Yu Onoda and Keita Miki

KID FRESINOをフィーチャーした新曲”FAST CAR”のミュージックビデオを公開し、一躍、時の人となった名古屋のラッパーNEI。COVANやRyo Kobayakawa、DJ RISEらを擁する名古屋市南区のクルー、D.R.C.によるバックアップのもと、今年5月にリリースしたNEI & Ryo Kobayakawa名義のミニアルバム『Words For Stars』がC.O.S.A.やJJJらから絶賛された20歳のセンセーショナルな才能の正体やいかに。ラッパーのNEIとプロデューサーのRyo Kobayakawaの2人に話を訊いた。

Photo:Shin Hamada | Interview&Text : Yu Onoda | Edit:Keita Miki

「南区では自転車とヒップホップが近かったり、街にはストリートカルチャーが転がっているんです。(NEI)」

— 5月に出たミニアルバム『Words For Stars』を聴かせてもらって、初めてNEIくんの存在を知ったんですけど、名古屋の人たちに話を聞いたら、「気づいたら、そこにNEIがいた」って言ってたんですね。今、20歳ということですけど、ラップを始めたのは?

NEI:1年くらい前ですかね。それ以前、俺はクラブに行ってなかったし、今でもあまり行かないんですけど、Young Moneyを入り口に、ヒップホップは聴いていて。あの、俺、自転車というか、BMXをやっていたんですけど、2年前に行きつけの自転車屋で顔見知りだったRYO(KOBAYAKAWA)くんたちがやってるヒップホップのイベントに行って、そこで人がライブをやってるところを初めて観たんですよ。

RYO KOBAYAKAWA:そのイベントはBMXを絡めてて、グラフィティだったり、C.O.S.A.、Campanellaもライブで出たりした入場無料の野外イベントだったんですけど、そのイベントにNEIとその仲間たちが遊びに来て。後日、俺のところにNEIから連絡があって、「ラップやりたいです」って言うから、「じゃあ、ビートあげるよ」って。そこから2人で一緒に作っていったのが、今年5月にリリースしたミニアルバム『Words For Stars』なんです。

— そんな出会い方ってあるんですね。

RYO KOBAYAKAWA:NEIは地元の同じ中学校の後輩だったり、(同じ名古屋南区のクルー、D.R.C.のラッパー)COVANのCDを買ってたりして、僕らの存在は知っていたらしくて、僕もその地元の自転車屋さんや仲間のグラフィティライターの個展でNEIのことはちょこちょこ見かけていて。今、若い子にはクールな子が多いんですけど、そのなかでもNEIは特に落ち着いていて、雰囲気があるというか、自分というものがあるんだろうなって思っていたんです。だから、「ラップやりたいです」って言われた時も「いいよ」って即答でした。

NEI & Ryo Kobayakawa『Words For Stars』
C.O.S.A.『知立Babylon Child』ほかを手がけるRyo Kobayakaによるプロデュースのもと、今年5月にリリースしたNEIのデビュー作となるミニアルバム。シンプルな言葉を用いた描写や比喩の独創性とオリジナルなフロウの中毒性の高さにNEIの豊かな才能の片鱗がうかがえる。

— ラップのスキル云々ではなく、NEIくんの持つ存在感がプロデュースを引き受けた理由だった、と。NEIくんはそれ以前にラップをやってたんですか?

NEI:いや、全然(笑)。

RYO KOBAYAKAWA:それヤバいよね。

NEI:だから、YouTubeとかに落ちてるビートでラップするっていう発想もなく、どうすればいいか分からなかったから、音を作ってるRYOくんに連絡して、ビートをもらってからリリックを書こうと思ったんです。

RYO KOBAYAKAWA:僕から見た当時のNEIには、何かやりたいんだけど……っていうもどかしさがあるように感じたんです。

NEI:その頃、ずっとやってた自転車を乗らなくなって、スケボーやったり、テキトーな感じだったんで、何か新しいことがやりたかったんだと思いますね。

— 名古屋の南区において、自転車とヒップホップは同じストリートカルチャーという繋がりがあるんですか?

NEI:あると思います。

RYO KOBAYAKAWA:その地元の自転車屋さん、マツイサイクルは日本で最初のBMX専門店なんですけど、そのお店の三代目のオーナーは栄のヒップホップの現場に昔からいる人で、僕も一緒に遊んでもらったり、ずっとお世話になっていて。今でも小学生、中学生でBMXが好きな子、暇な子はみんなそのお店に集まるんですよ。

NEI:俺がCOVANくんのCDを買ったのもその店でしたからね。

RYO KOBAYAKAWA:そう。僕らがやってる(南区のクルー)D.R.C.のステッカーを貼らせてもらったり、CDやフライヤーを置かせてもらったり。そんな感じで、南区では自転車とヒップホップが近かったり、街にはストリートカルチャーが転がっているんです。

— レコード屋や服屋、スケートボードショップだったり、どの街にも重要なカルチャー・スポットはあると思うんですけど、そのマツイサイクルがNEIくん、RYOくんを繋いだと。そして、ラップビギナーのNEIくんはビートをもらった後はどうしたんですか?

NEI:家でラップを書いて、RYOくんに「録ってみたい」って電話して。一緒に遊んでもらいながら録音したんですけど、最初に録ったのは、自分をサナギ、憧れている人を花に例えて、俺はいつか蝶になって、その花より高いところに行くぜっていう曲で。それに合わせて、腕に蝶のタトゥーも入れましたね。

RYO KOBAYAKAWA:レコーディングでは、クオリティを求めず、NEIがやりたいことをやりたいようにやって欲しかったんですよね。実際、録った曲から感情が伝わってきたし、綺麗な例え方をしていて、面白いなと思いました。

— NEIくんのラップはシンプルで分かりやすい言葉が深みに繋がっているし、つんのめり気味になったり、伸びたりする変則的なフロウが中毒性高いですよね。

RYO KOBAYAKAWA:僕とCOVANも上がった曲を聴いて、「NEIがかましてきたな」って(笑)。あのやり方は誰もやってないNEIの個性として捉えましたね。

NEI:リリックを紙に書いて、ラップを止めるところに点を打ったり(笑)、そういう作業が楽しかったですね。

RYO KOBAYAKAWA:よく、MC KHAZZとかCOVAN、あと、ATOSONEなんかがよく僕の家に遊びに来て、その後、(JET CITY PEOPLE主宰の)鷹の目くんのスタジオでRECしたりするんですけど、普通の子だったら、そういうラッパーの真似をしちゃうと思うんですけど、NEIにはそういうところが全くなくて、自分から出てきたものを大事にしてるんですよ。NEIはいま20歳なんですけど、この歳でそれが出来ているのはすごいことだなって。

— 今の若いラッパーは海外のラップのフロウを器用に取り入れることに長けてますし、まして、ラップをやったことがなければ、普通は手近なお手本を真似すると思うんですけど、このミニ・アルバムを聴いて、NEIくんが最初から自分なりに編み出したフロウでラップしているところが衝撃的でした。

NEI:憧れてるラッパーに近づきたいなと思って、似せて書いたこともあるんですけど、全然楽しくなかったんです。だから、自分の感覚で書いているんですけど、その方がすらすら書けるし、やってて楽しいですね。

RYO KOBAYAKAWA:ムダにキザなことを言ってないし、立ち振る舞いも背伸びしてないし、自分のやりたいことをやってるNEIのスタンスはこれから音楽をやっていくうえで大事だと思いますね。

— 『Words For Stars』の制作を通じて、どんな発見がありましたか?

NEI:ミニ・アルバムだと、”self control”と”soda”はレコーディングの後半に考えて書いた曲で、その2曲はみんな気に入ってくれてるし、考えて書くのも大事だとは思うんですけど、何も考えず、感覚のままに書いた初期の曲、”奪魂”と”月光”がめっちゃ好きなんですよね。だから、ミニ・アルバムの制作を通じて、自分の感覚を信じることがなにより大切なんだなと思いました。

— そうやって書いたリリックがユニークなものになっているということは、NEIくんのものの見方、捉え方がユニークなんでしょうね。

RYO KOBAYAKAWA:多分そうっすね。地面を見て、「この模様いい!」って、写真を撮ったり(笑)、NEIは変わってますよ。

NEI:写真といえば、昨日、仕事終わって、家に帰る時、夕日がめっちゃ綺麗で、100枚くらい撮りましたもん(笑)。

RYO KOBAYAKAWA:この作品を聴けば、そういう感覚を大事にリリックを書いていることがよく分かるんじゃないかなって。

— リリックビデオが公開されている”soda”にしても、基本的には下から泡が上がってくるソーダの描写ですもんね。

NEI:その泡を避けて、泳ぐぜっていう。泳ぐからどうしたっていうことでもなく(笑)。でも、上がってくる泡は色んなことに例えられると思うし、そうやって好きに聴いてもらえばいいかなって。

RYO KOBAYAKAWA:10年くらい前だったら、僕らはリリックの奥にどういう意図があるのかを読み取ろうとしたけど、NEIのように意味がないことでも楽しんでやれるのは、今のヒップホップならではなんじゃないかなって思いますし、MC KHAZZやCOVANのようなハードなリリックを歌うラッパーとは異なるニュータイプだと思いますね。

— そして、『Words For Stars』に続いて完成した”FAST CAR ft. KID FRESINO”でビートを手がけているJ ALONもまたビートを作り始めて間もないとか?

NEI:そうっすね。やつも南区なんですよ。

RYO KOBAYAKAWA:それこそ、J ALONもNEIがラップを始めてから半年後くらいからビートを作り始めて。そいつもラップしていて、NEIと一緒にライブに出たりしているんですけど、”FAST CAR”はJ ALONが作ったビートにNEIがラップを乗せたものをC.O.S.A.が反応して、それにKID FRESINO、JJJが反応したんです。

— どういう経緯でこの曲でフレシノくんをフィーチャーすることになったんですか?

NEI:いや、勝手にラップを入れてきたんですよ(笑)。

— ん、どういうこと?

NEI:俺はそこまで気に入ってなかったんですけど、C.O.S.A.くんに聴かせたら、気に入ってくれて、「そのデータを送って」って言うから送ったら、C.O.S.A.くんが佐々木くん(KID FRESINO)に聴かせたみたいで、ある朝起きたら、佐々木くんからのデータが届いてて。音を良くしてくれたのかなって思って、寝ぼけながら聴いたら、佐々木くんがかまして来てて。「おお、おはようございます!」って感じ(笑)。佐々木くんが入ってくれたことで、めっちゃ好きな曲になりましたし、最終的にはJJJさんがミックスをやってくれて、すごい幸せ者だなって。

— じゃあ、フレシノくんとは直接のやり取りはなかったんですね?

NEI:そうですね。佐々木くんは南区に遊びに来たこともあるんですけど、その時も全然喋ったことはなくて。もちろん、作品は俺がラップを始める以前から好きで聴いてはいたんですけど、まぁ、でも、その程度の認識だったので、すごい嬉しかったです。

RYO KOBAYAKAWA:話が早いというか、そういうやり取りは今の時代に合ってると思いますね。でも、どこかで認め合わないとそういうことにはならないし、そういう感性のぶつかり合いが最高だなって。

— NEIくんに刺激を受けたからこそ、フレシノくんのラップも新境地を開拓出来たと思いますし、2018年らしいコラボレーションだと思います。最後にNEIくんの今後の活動について一言お願いします。

NEI:今日仕事をしながら考えてたんですけど、”FAST CAR”をシングルで出した後、またミニアルバム的な作品を秋くらいに出せたらいいなって。また気が変わるかもしれないけど、その時に面白いと思ったことをやろうと思います。