—- すごく柔軟な感覚ですね。この柔軟さのルーツというか、小木さんのスタイルの原点に興味があるんですが、元々はヒップホップスタイルではなかったんですよね?
小木:25歳でニューヨークに行って、はじめてクラブで聞いたらガーンときて。『ヒップホップって渋いんだ』って。
その後サマソニ(編集部注:2005年開催のSUMMER SONIC 05)でパブリック・エネミー(Public Enemy)を見たら涙が止まらなくなっちゃって。歌詞とか知らないのに、格好良すぎて。 それからハマっちゃいました。
—- なるほど。ここまでのお話でも「本当に洋服の好きな人だなぁ」と思うのですが、小木さんがここまで無類の服好きになっていったきっかけというのは何かあるのでしょうか?
小木:コンプレックスだと思うんですよ。
高校生のときって、音楽やってる人とかスノボをやってる人がモテてたり。
そういう人たちに勝てる何かを、つねに探してた(笑)
喧嘩に自信がある訳では無いし、音楽やスポーツでは挫折して、気づいたら自分には洋服しか選択肢が残されていなかった。
今はこの仕事に就けた事が幸せですが、当時は本当にただそれだけの理由でしたね。
—- その頃はどんなファッションだったのですか?
小木:意識して初めて洋服を買ったのが、リーバイス(Levis)の510っていうジーンズで。501じゃない(笑)脚長ジーンズみたいな。本当に脚を長く見せたくって買いました。今だとかなりダサい感じです(笑)
—- その後、ユナイテッドアローズに入ったきっかけは?
小木:高校時代一緒だった友達の紹介ですね。
その頃は服飾系の専門学校を卒業してたんですけど、就職も何もしないでナンパばっかりしてて(笑)
ステーキ屋でアルバイトをしながらその日暮らし、みたいな日々が続いてて。
周りに口では『あそこの面接行ってきた』みたいに言いながら、実際は何もやってない。ホントどうしようもなくて。
それで、気持ちを入れ替えて東京に来て面接受けて入ったんです。
—- リーバイスの510で?(笑)
小木:いや、その頃はいわゆる裏原系の服を通販して買ってました。地元の札幌で自分の周りにはそれほどおしゃれな人がいなかったので、『通販して買ってれば、オシャレだ』みたいなムードが自分の中にあって(笑)。
それが東京出てきてみて、すぐ打ちのめされて(笑)
周りはおしゃれな人ばっかりで、悔しさのあまり借金生活が始まるという…。
—- いろいろ買いすぎちゃったんですね(笑)
小木:やっぱり何かしらコンプレックスが無い人って、そこまで服に興味を持たないと思うんですよね。
コンプレックスがない人は、人をおしゃれには出来ない。
多分、お客様にも何かしらのコンプレックスがあって、それを改善なり克服なりしたいから洋服屋に来ていただけるわけじゃないですか? 自分もそうでしたし。
だから、そういう部分に気づきたい、というのは常に意識してます。
—- では最後に。今後Liquor,woman&tearsはどうなっていくのでしょうか?
小木:今まではLWTの中で他人に認められたいとか、お客様の気持ちに応えたいっていう気持ちが強すぎて、結果考えすぎてグチャグチャな感覚になっちゃってて。
正直ただ評価されたいがために無理して買い付けてたブランドとかもあったんですけど、そういった部分はうまく消化できるようになってきました。
これからは、お客様が欲しいと思ってる物を買い付けつつ、自分なりの「毒」を迷いは少なく注入して、新しいミックスも提案しながら『お客様のために』を心掛けるセレクトショップで。
あと、半期ごとに展開するブランドをコロコロと変えていく、っていうのは結果的にお店にとってもブランドにとっても良くないし長く続かないと思うんで、長期計画できちんと買い付けてブランドと一緒に成長していきたい。
でも、常に新鮮に見せていく、これを目標に掲げて行きます。
—- お店がブランドと一緒に成長していく、というのはすごく魅力的で、そうあるべきだと思うんですが、セレクトショップというのはある種無節操に「その時その時の旬なモノ」が並んでる、という面白さもあると思うんです。
正直どちらがいいのかな、という疑問があるのですが、そのあたりはどうお考えですか?
小木:自分的にはどちらもやりたいです(笑)
—- 欲張りですね(笑)
でも、すごく期待してるんで、これからも面白くて新しいミックス感覚を提案しつづけてください。
ありがとうございました。
取材前に、なんとなく想像していたアイテムとは全然異なった感じのアイテムが出てきて少し戸惑いましたが、話を聞いてみると納得。実に小木氏らしい感覚を全面に押し出したセレクトでした。
みなさんも固定概念に捕われず、どんどんミックスしたスタイリングをしてみてはいかがですか?
ファッションが、もっと楽しくなるかもしれませんから。